「マダラにTAC導入」は資源管理の名を借りた漁業つぶし

すこし前の報道になりますが「平成27年11月4日に兵庫・神戸市で開かれた瀬戸内海広域漁業調整委員会で水産庁は、新たなTAC魚種にマダラを加える検討に入ることを報告した。都道府県や関係漁業者などとの意見交換を踏まえ、対象魚種とするかどうかの可否も含め、検討を開始する(平成27年11月9日水産経済新聞)」とのことです。

 

役所が「可否を含めて検討する」という表現を使うときには「絶対やる」を意味し、「結局やらないことにしました」などという結論に達したためしはありません。当たり前です。そんなやらない方が良いものを役所が、うやうやしく検討しますと世に広報したのでは、自分の無能さをさらけだすようなものですから。

 

そこで、年末年始に千葉の留守宅に帰省した機会をとらえ、東京で関係漁業団体の職員の方の考え方を聞いてみました。意外にも予想に反し全く危機感がなかったのには驚きました。というのは、北海道庁幹部や北海道の底引き漁業関係者が「マダラにTAC導入はくれぐれも慎重に・・・」という見解をすでに表明していたからです。なお、この場合の「・・・」の部分には間違っても「導入してもらいたい」は入りません。お上の御威光に面と向かっては逆らわないという日本の輝かしい伝統に基づく文学的表現の「慎重に」は「反対」と同意語ですから。

 

それにしても、同じ業種別の系統団体といえども、いつも水産庁に出入りしている中央の漁業団体の感覚と、現場に近い地方の漁業団体とでは、こんなに意識が違うのかと驚いたところです。これではまずいと思います。関係漁業団体は、格差拡大の元凶である市場原理主義を漁業の分野にも導入しようとする規制改革会議の意向に添ったTAC魚種の拡大という水産庁の方針に、一致結束して明確に反対の意思を表明するべきと思います。

 

というのは、以下に掲げた理由から、水産庁のマダラにTAC導入の方針は、高位にある資源状況及びこれまでの資源管理措置の優秀性などを無視した「TAC導入ありき」の暴挙と言わざるを得ないからです。

 

1 マダラをTACの対象とする理由は結果ありきの「こじつけ」に過ぎない

 

 水産庁は、マダラをTACの対象とする方針の理由として

①マダラ資源は現在は比較的良好だが、将来の変動に備え安定的な供給を目指すため。

②マダラは知事管理が4割と少なく、管理しやすい。

をあげているようです。(平成27年11月9日水産経済新聞)

 

しかし、これについては以下の諸点からして、TAC導入ありきの「こじつけ」と批判されてもやむを得ないものと考えます。

 

(1)なぜTACが必要なのかの説明がない

資源管理手法には、大きく分けて3種類の方法(投入量規制、技術的規制、産出量規制)があり、TACは産出量規制に該当する資源管理手法の一つに過ぎません。よって、マダラ資源やその漁業の特性を踏まえて3つの手法を比較し、TAC導入の必要性が検討されるべきですが、この点について全く説明がありません

 

(2)これまでの資源管理手法への評価がない

 我が国周辺のマダラ資源には、北海道、太平洋北部系群、日本海系群の3系群がありますが、いずれの資源評価も高位にあります。そして、これらの資源は当然ですが、TACの対象になっていません。ではなぜ優良な資源状況にあるのか、それをもたらした現行の資源管理手法(投入量規制、技術的規制)の優秀性に対する評価・分析が全くされていません

 

(3)「将来の変動に備え」とTACとの関係の説明がない

 「将来の変動に備え」とは、「将来資源が悪化した時に備え」と解釈されますが、太平洋北部系群(以下資源状況に関しては同系群をもって代表する)を例に挙げますと、1975年以降40年間のデータを見ると、資源変動を繰り返しながらも漁獲量はほぼ一貫して増加してきています。

また最近では2007年の発生量が極めて少なかった(翌年の1歳魚の加入尾数は前年の3%弱)ものの、資源の低下もわずかで回復も早く、その後も安定して増加してきています。

 

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 よって過去40年間の実績から想定される「将来の変動」においても、現行の資源管理手法で十分対応できると判断するのが妥当ですが、にもかかわらず、なぜその時に備えTACが必要となるのか、全く説明がされていません。

 

(4)「管理のしやすさ」は本末転倒の議論

 新たな資源管理措置の導入は、漁業者に従来以上の負担を課すことから、そのメリット・デメリットを踏まえ慎重に判断されるべきものです。例えばクロマグロでは、その資源管理の必要性ゆえに、定置網というきわめて漁獲量管理が困難な知事管理漁業でさえも、その対象としています。

 

にもかかわらず、同じ水産庁が、資源が極めて良好なマダラを管理がしやすいから、TACの対象にするのでは意味不明です。これでは、資源管理のためではなく「TACありき」のために特定の漁業者のみに無用な負担を課すというほかなく、目的と手段が逆転した本末転倒の議論といわざるを得ません。

 

2 マダラをTACの対象とすることは、逆に資源管理や漁業経営に悪影響を及ぼす

 

ABC(生物学的許容漁獲量)に基づく漁獲量管理というTACの手法では、マダラの資源特性を踏まえると、到底適切な資源管理は望みがたく、むしろ資源や漁業に大きな悪影響をもたらす可能性が高いといわざるを得ません。

 

(1)マダラはTAC管理の対象種として最も不適切である

 

ABCの算定に当たっては、新規加入群の推定が極めて大きな影響を及ぼしますが、以下の図ようにマダラには「過去16年間では明瞭な再生産関係は認められていない」(水研センター資源評価)となっています。

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よって、親子(再生産)関係が認められない魚種についてのABCの算定は、困難を極めることから、マダラはTACの対象種として最も不適切であるといわざるを得ません

 

 

(2)資源管理や漁業経営に悪影響が生じる

 

マダラでTACを導入しようとすれば、ABCの算定においての加入予測は、過去のデータからの仮定値を用いるしかありませんが、マダラの再生産成功率(加入尾数/孕卵数)は「過去16年では最大100倍以上の差が生じている(水研センター資源評価)」とのことですので予測困難であり、いかなる仮定値を置こうとも、そのABCは極めて非科学的な「あてずっぽ」となります。

 

 この結果生じることは、資源の加入が仮定値より多い時には資源の過少漁獲となり、仮定値より少ない時には過剰漁獲するという、合理的な資源管理・利用の趣旨と全く逆の結果をことになります。

 

 さらに、このような結果が年々明らかになると、水産庁や水研センターは「資源が良いのになぜ獲らせないのか」の批判よりも「資源が悪いのになぜ多く割り当てた」との批判を避けようとして、ABCの算定においてより安全と称する低い仮定値を用いることになります。この結果それ以前の資源管理手法と比較し、資源は悪くないのに、なぜか漁獲量が抑えられ、TACを導入したゆえに漁業経営に悪影響が生じるとの結果となることはけがたいのではないでしょうか。これでは、「資源管理の名を借りた漁業つぶし」としかいえません。

 

 以上、私には「マダラにTACを導入しよう」などは正気の沙汰とは思えません。おそらく水産庁の資源管理担当者も本心でそう思ってはいないでしょう。私も水産庁のOBですから、その辺の事情は察しできます。しかし、いくら上司からの命令とはいえ、これは明らかに「やってよいこと」の限度を超えたものと思います。

 

1 comment for “「マダラにTAC導入」は資源管理の名を借りた漁業つぶし

  1. T
    2016年5月14日 at 4:02 PM

    こんにちは。いつも勉強になる情報をありがとうございます。

    佐藤様はよく「魚の資源変動は過剰漁獲よりも環境変動による」とおっしゃっていますね。その通りだと思います。例えば、マイワシ太平洋系群は1990年前後の環境変動で再生産ができなくなり減少しましたね。

    しかし・・・
    ・マイワシの加入に関わる環境条件は92年以降回復していた。ただ、環境要因ですり減った資源に対しても漁獲規制がかからず、漁獲圧は上昇。乱獲状態になり、その後も減少が続いた
    ‐というのも、東大・渡邊良朗教授ら多くの研究者が認めているところです。

    環境変動で魚が減った際に乱獲が追い打ちをかけぬよう、漁獲をコントロールすることは、必要なはずです。
    再生産関係が不明だからといって、TACが必要ないという理由にはならないのではないでしょうか。

    たしかにABCは正確な数値とは限りません。しかし、資源が多いか少ないかの目安にはなるはずです。
    「資源が少ない時には獲らず、他の魚種を狙う」ことで、資源回復も早まりより持続的な漁業につながるでしょう。

    また
    ・マダラ太平洋北部系群は未成魚への過剰漁獲で減っていた
    ・東日本震災の影響で福島沖での漁業が止まり、資源が4倍水準まで増えた

    以上の2点は、水研機構の研究者が認めていたはずです。
    震災以前の自主的な資源管理が十分でなかったとの証拠にはなりませんでしょうか。

    沖合底引き網漁のような選択性も漁獲能力も高い漁法に対し、国が主導でTACなどの資源管理をすることは、持続的に漁獲量を確保するために必要ではないでしょうか。
    確かに、目先の漁獲は制限されるでしょうが、漁業潰しというのは適当ではないと思います。

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