輸出のし過ぎが日本を不幸にした(前編)

「月刊アクアネット」(湊文社)の2016年2月号に、「政府による水産物輸出促進策への疑問」を寄稿しました。そこで私が言いたかったことは、おおよそ以下のとおりです。

・政府が取り組んでいる水産物輸出促進策は、「輸入」促進のための『罠』

・なぜなら、輸出促進基本戦略を打ち出した当時の小泉純一郎首相は、目的を「輸入を阻止するより輸出が楽しい」「輸出はするが輸入はさせないは合理的でない」と言ったから。

・現に、過去5年間では、輸出増加の7倍も輸入が増えている

・国内マーケットの半分以上も輸入に占められながら、輸出に力を入れるのは、アメリカ車を日本やドイツに輸出拡大するようなもので、攻めるべき市場を間違っている。

日本漁業の最大の問題は、国内での魚食文化が失われつつあること。外国で和食がブームだ、輸出のチャンスだ、と浮かれている場合ではない。 

 

私がなぜ水産物輸出に否定的感情を持っているのか。それは、バリバリの新自由主義者である小泉元首相に騙され、輸出に熱心にされる代わりに輸入自由化に反対できなくされてしまう『罠』にはまるな!という単純なものではありません。

 

子供が一人もいない熊野の漁村に住んだ時に、高度経済成長を遂げた日本において、どうしてここまで第一次産業が衰退してしまったのかを、自分なりに考え抜いた結果「輸出のし過ぎが日本を不幸にしたのではないか」という疑問が湧いてきたからです。それは、小さな国土に多くの人口を抱えた日本は、貿易(輸出)で生きていかなければならないと学校で教えられていたことと全く逆の結論でした。

 

もちろん私は、経済や貿易の専門家ではありませんので、私自身も絶対そうだと確信を持っているわけでもありません。しかし、「輸入より輸出が悪い」という結論に至らざるを得なかったのはなぜか。その常識への種々の疑問点を以下に述べてみたいと思います。

 

 

疑問1:輸出すれば何か良いことがあるのか

 

「今年の日本の貿易収支は黒字でした」とマスコミで報道されると、おそらく多くの国民は「それはよかった」と受け止めるでしょう。でも、なぜ輸出が輸入を上回り黒字になると良いのでしょうか。

 

当たり前のことですが、輸出とは日本からモノやサービス(お金)が国外に出ていくことです。よって、仮に、日本が輸出はするが輸入はしない国であったとすれば、貿易黒字が増えるほど、実際の日本人の生活は貧しくなります。なぜなら、モノが外国に出ていくばかりでは、かつての植民地となんら変わりないのですから。逆に、モノが入ってくるばかりであれば、貿易収支は赤字でしょうが、宗主国のように繁栄を築けるでしょう。

 

それでも、貿易黒字を喜ぶのはどうしてでしょう。それは、輸出の見返りとして外国から得たお金で、なにか欲しいものを輸入できるからです。子供でも分かることですが、はそれが目的ではなく、あくまで輸入のための外貨獲得の手段にすぎないといえると思います。

 

では、日本の漁業者は水産物の輸出を増大させて、一体そのお金で外国から何を輸入したいのでしょうか。「外国の○○が欲しいから輸出を増やすのだ」と言っている漁業者の声など聞いたこともありません。そもそも政府の「我が国農林水産物等の輸出促進基本戦略」においてもそのことについては全く触れられていません。

 

まさか、原発事故の影響で液化天然ガスなどの輸入が増え、貿易収支がここ数年赤字になっているので、ぜひ農林水産業に頑張ってもらいたいということなのでしょうか。それはないでしょう。なぜなら、所得収支を含めた経常収支は引き続き黒字であり、あとで触れる「対外純資産」は世界一で相変わらず増えているのが実情ですから。

 

何を輸入したいのか考えもせず、特段輸入したいものもないのに、工業製品に加え自給率が先進諸国で最低の農林水産物まで輸出すれば日本はどうなるのでしょうか。今以上に貧しくなるのではないかという疑問が湧いてきます。貿易黒字を増やすだけの国とは、自分から植民地になるようなものですから。

 

 

疑問2 内需不振を輸出でカバーしようとするのは根本的に矛盾していなか

 

内需不振の我が国は、経済新興国の成長を取り込んでいかなければならないとよく聞きます。確かに国内の経済成長が鈍化し、需要が減ったから新たな売り先を見つけて輸出するのは一見正しいように思えます。しかし、そもそも輸出とは輸入のための手段です。では、その目的である輸入を必要とする国内の需要はあるのでしょうか。今後日本の人口は減り続け、しかもTPPへの参加による更なる国際競争の激化で、多くの国内産業は一層厳しい状況となり、給与も削減されるのにどうして輸入が増えるのでしょうか。

 

そもそもの不振な国では輸入が増えるはずがないのです。とすれば、内需不振を輸出でカバーしようとすること自体に貿易の原点に立てば根本的矛盾があるのではないかと思えます。

 

疑問3:貿易黒字は未収金(売掛金)と同じではないのか

 

仮に物々交換での貿易が義務付けられたとしたら、どうなるでしょう。おそらく、日本の漁業者は、ほとんど欲しいものは国内にあるので「うーん」と腕組みし、輸出はしないかもしれません。でも実際には、輸出で獲得した外貨で何を輸入するかなど考える必要はありません。なぜなら、その外貨を国内の銀行に持っていけば日本円に替えてくれるからです。

 

例えば、ホタテ1万円分をアメリカに輸出すれば(1ドル=100円として)100ドル札が手に入ります。その100ドル札は日本ではただの紙切れです。アメリカで何かを買って日本に持って帰った時に、はじめて価値のある100ドル札となるはずです。しかし、それをしなくても、日本の銀行に持っていけば、単なる紙切れにしか過ぎない100ドル札を、価値ある1万円札に替えてもらえるのです。なんともありがたいことです。

 

でもどうしてでしょう。素人の私が最も理解できないのがここなのです。

 

政府の輸出戦略でも「輸出で所得が増大する」といっており、輸出した漁業者個人も1万円札が手に入ることで「儲けた」と思うことは間違いありません。でも、それは日本国内における個人ベースのことであり、国と国との関係では日本がアメリカに100ドルの未収金(売掛金)を増やしただけのことではないでしょうか。

 

今私は漁協の監事をしていますが、監査で厳しく指摘するのは「未収金(売掛金)」の増加です。にもかかわらず、国と国との関係では未収金(貿易黒字)が増えるほど「良いこと」かの如く受け止めてしまうのはどうしてでしょうか。

 

疑問4:「対外純資産367兆円、3年連続で過去最高、24年連続で世界1位」は良いことなのか

 

実際のお金(資本)の動きに着目すれば、貿易(経常)収支の黒字とは、日本から外国に出て行ったお金より、入ってきたお金が少ないのですから、資本収支は赤字となり、その分は対外資産となって外国に残ります。大まかに言えば、貿易(経常)収支黒字の累積が対外純資産残高になります。

 

2015年5月22日に財務省は、「日本の企業や政府、個人が海外に持つ資産から負債を引いた対外純資産残高が2014年(平成26年)末時点で366兆8560億円だった」と発表しました。13年末と比べ12.6 %増え、3年連続で過去最高となったそうです。その保有内訳は、公的部門70兆円(19%)、民間(銀行)部門60兆円(17%)、民間(銀行以外)部門236兆円(64%)とのこと。

 

しかも以下のグラフのように世界1位、それも24年連続で。これに農林水産物までもが、輸出拡大に参入して対外純資産残高を増やしてどうするのでしょうか

対外純資産

(ネット:ガベージニュースより引用)

 

もちろん、その戻ってきていないお金は外国の倉庫に積み上げているわけでなく、外国における「直接投資」「証券投資」「金融派生商品」「その他投資」に使われ、残りは国内の通貨当局の管理下にある「外貨準備」となっています。

 

よって外国における投資からの収益が生じ「所得収支」の黒字を生み出すわけですが、これも紙切れが紙切れを生み出すだけで、それがモノやサービスになって日本に戻らないと、未収金(売掛金)を増やすだけです。

 

それにしても、国内では政府が1000兆円の借金を抱えながら、世界一外国にお金を貸しているとは、いったい日本は貧乏なのか、金持なのか。さっぱりわかりませんが、他人にやさしく自分に厳しいご立派な国のようです。

 

日本人労働者が懸命に働き作り上げた製品の代金の一部が、素人にはよくわからない過程を経て、投資家のものになり、しかも、国内では使われず外国人のために使われ、その外国からの利益は、これまた投資家だけがちゃっかり独り占めしているように受け止められます。これでは、経済の基本である国内でのお金の循環が切れているのではないでしょうか。

 

繰り返しになりますが、外国人のための工場建設や雇用などに貢献している対外純資産とは、もともと日本国民が汗水たらして働いた果実なのですから、国内で使うべきものと考えます。よって、素人の考えですが、それを国際市場で売り払わせ、その外貨で日本国債を購入させて、日本政府が国内で使うべきでしょう。どうしてそうさせないのかよくわかりません。

 

なお、ダントツの赤字国アメリカはこれが気にならないのでしょうか。どうも世界の貿易の基軸通貨が米ドルなので、いざとなったら、印刷機をフル回転すればよく、デフォルトは起こらないようです。インク代と紙代は必要でしょうが「無から有(お金)を生む」ことができる基軸通貨国とは、全くもって羨ましい限りです。

 

 

疑問5 貿易黒字がどうしてGDPを増加させるのか

 

また、輸出で儲けた漁業者個人は、その1万円札で日本国内にある何かを買います。でも日本からモノが外国に出ていく方が多いのであれば、買うモノは確実に減っています。紙(札束)が増えても実際に買えるモノが減れば、実際には輸出の恩恵がないと思うのですが、一方で、貿易黒字はGDPの拡大要因となります。

 

例えば、政府が四半期ごとに発表するGDPの増減において、「GDPが増大した、それは輸出が貢献したから」と聞くと、「それは良かった、輸出のおかげだ」と思いたくなりますが、日本からモノが出ていく方が多いのに、なんでそれが「良かった」となるのでしょうか。

 

これはGDPがあくまで生産側の視点からのものだからです。逆に需要側から見れば、海外から入ってくる方が出ていく方より多い貿易赤字の方が「良かった」となります。そういう観点からは、まさにアメリカは消費者天国といえるでしょう。モノやサービスが国から失われる方が多い「輸出貧乏」になればなるほど、豊かさの指標であるGDPが増大するという計算式は、素人の私には何か「詐欺」のような気がします

 

疑問6 対外純資産は増えたのに、どうして給与は減ったのか

 

下のグラフは、対外純資産とサラリーマン平均年収の推移です。

対外純資産2(ネット:HighCharts FreQuent より引用)

 

給与推移

上の二つのグラフを見比べると、日本という国は「未収金(売掛金)を増やし、従業員の給与を減らす馬鹿な経営者」に見えます。

 

例えば、国税庁の統計によると、平成11年の給与総額は217兆4867億円で、平成26年は203兆809億円ですので、この15年間に年間の給与総額は、14兆4000億円減少しています。一方、財務省公表の対外純資産は、平成11年末の85兆円から平成26年末の367兆円と15年間で282兆円増加しています。つまり、毎年19兆円づつ増やしてきた計算になります。

 

ザックリ言えば、

 

この15年間で、輸出先にはやさしく毎年19兆円づつ未収金を増やし、国内従業員には厳しく給与を14兆円減らした。

 

に見えます。今度、小学生時代の先生に会ったら聞いてみたい

 

先生は私に「輸出は国を豊かにする」と教えましたが、それは嘘だったのですか

と。

 

こんな賃金アップすなわち国内需要増加に何ら貢献しない輸出を、さらに拡大することに加担すれば、農林水産業が自分の首を絞めるだけではないかと危惧されます。

 

なお、不思議に思うことがあります。幕末には、急激な輸出増加によって国内のモノが減り、インフレを招いたことがあったようですが、日本はこの20年余デフレでした。なぜそうなのか、よくわかりません。派遣業法などの規制緩和で、給与を削減した影響が大きく需要を減少させたのか、それとも余りあるほどの過剰生産力が国内に存在しているのかもしれません。いずれにせよ、新自由主義者に煽られて農林水産物の輸出金額を増やしても、それ以上に国内の需要が減るとすれば「元も子もない」と思います。

 

疑問7 輸出が増えても、もうかるとは限らないのではないか

 

 輸出が増えれば漁業者は必ずもうかるのでしょうか。そう一概にはいえません。例えば、GDPに占める輸出依存度が37.2%と高い韓国(日本は14.8%、2006年:IMFデータより)では、輸出企業の収益構造について、以下のような問題があるようです。

 

                     韓国輸出企業の収益構造の問題点

韓国輸出企業の輸出額自体は毎年増加しており 2006年は 3000億ドルを超えた。しかし問題は純輸出、つまり貿易収支の黒字の減少にある。売上は伸びているが利益が減少していることを意味するからだ。

サムスン電子の収益構造の例 (単位:ウォン/連結を対象)

   売上金額  売上の割合  営業利益額 営業利益の割合   営業利益率
 国内市場  18 兆 2800 億  22.3%   10 兆 2600 億   87.2%  56.1%
 海外市場   63 兆 6800 億  77.7%  1 兆 5000 億   12.8%   2.4%

(注:海外市場の営業利益額=連結営業利益-国内部門の営業利益)

(韓国経済の実態と現状について 中村 友映より引用)

 

今、日本の漁業者は、政府からの補助金などを活用し「儲ける」ために、海外での日本見本市などにでかけ商談を活発化させています。確かに「日本の魚は良い」と評価を受け、輸出量も拡大するかもしれません。

でも韓国企業の例ではないですが、輸出で本当に儲けが出るのでしょうか。いったん契約したら、為替変動があったとしても継続的に輸出しなければならないかもしれません。また、他国からの輸入品との競争もあり、値引きを迫られるかもしれません。市場で仲買人に売ればおしまいの国内販売と違い、相手国にあった衛生管理設備費、輸送コスト、煩雑な手続きなどのための人件費なども膨らんできます。

韓国企業と同じように「輸出額自体は毎年増加しているが、ちっとも儲けにならない」もあり得ることから「輸出が増えれば儲ける」と考えるのは甘いでしょう。サムスン電子の収益構造のように「輸出は労多くして益少なし」を見ると、大きな国内市場の半分以上を輸入に占められている日本の漁業者の目指すべき市場は、海外ではなく国内ではないかと、思わざるを得ません。

 

疑問8 対米貿易黒字こそが日本経済を苦境に陥らせた要因ではなかったか

 

 最近聞きませんが、かつて「日米貿易摩擦」という言葉がマスコミに頻繁に流れ、日本車をアメリカ人がハンマーでたたき壊していた映像が鮮明に記憶に残っています。以下のグラフにもありますが、その元をたどれば、1965年に日米間の貿易収支が逆転してアメリカの対日貿易が恒常的に赤字(日本から見ると黒字)になり、問題が一気に噴出したものです。

対米輸出

(日米貿易関係の推移と現状 向山巌 より引用)

もともと日本から見た対米貿易黒字は、アメリカが基軸通貨国であることを良いことに輸入のし過ぎであることと、日本が輸入したいような魅力のあるモノが作れないという、その原因はアメリカ側にあるような気がします。例えれば「蟻とキリギリス」のキリギリスがアメリカです。ところが、このキリギリスは、アメリカ側から見た貿易赤字は、蟻にその原因があるとし、日米構造協議等を通じ徹底的に難癖をつけてきました。未だアメリカの占領下にある国が如く、日本がそれに従い行った政策を列記すると、以下の通りです。

・内需拡大のため未曾有の金融緩和政策(これが「バブル」を生む)

・系列取引や建設業界の入札などの閉鎖的な市場の開放

・規制緩和(これが「格差拡大」を生む)

・大規模小売店舗法の廃止( これが「シャッター街」を生む)

・海外直接投資による産業構造の転換( これが「空洞化」を起こす)

・コメの部分開放(これが、コメ以外も含め「輸入農産物・水産物の増加」をもたらす)

・10年間で430兆円の公共投資を決定(これが「多額の国債発行」へつながる)

・独占禁止法の運用強化

・談合の禁止 など

 

 

これらにより発生した損失や、必要となった財政支出は、

 

 ・超低金利になった1990年代から2005年までの国民が本来手にするはずの利息収入の減少による家計の損失331兆円(日銀が2007年に推計)

・バブル崩壊での損失、家計623兆円、企業(非金融機関)466兆円、金融機関89兆円、政府189兆円で合計1367兆円(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調べ)

・国と地方の借金残高約1000兆円

です。

 

 今日の日本の経済・財政の苦境の出発点が、すべてここにあるといっても過言ではないでしょう。このように、貿易黒字は恐ろしい結果をもたらし、日本経済(特に地方経済や第一次産業)を苦境に陥らせたのではないでしょうか。にもかかわらず、まったく反省もなく、また調子にのって今度は農林水産業までそそのかして、「輸出のし過ぎ」に狂奔しようとするのでしょうか。

 

 (ネットにあった笑い話)

デトロイトのアメリカ人が本気で日本車をボコボコにしました。ところが、現場のレポーターが何気なくキーをひねると普通にエンジンがかかり、その映像は全米に流れました。結果として、皮肉なことに日本車のすごさアピールしてしまったわけです。おかげで、それ以後、日本車バッシングはなりを潜めたとか。

 

 

疑問9 架空のX国への輸出をでっち上げたほうが良いのではないか

 

国内の需要が低迷している、それを打破するために輸出しよう。ここまではだれでも考えそうなことです。しかし、世界中で、自由貿易と規制緩和が進む一方の新自由主義経済下では、どこの国も内需に陰りが見えています。そのけん引役であった中国の成長にも限界が見えています。そもそも、今後世界における貿易は拡大するのでしょうか。現に、2014年の世界貿易(商品貿易、名目輸出ベース)は、前年比0.8%増の18兆7,461億ドル(ジェトロ推計)となり、小幅な伸びにとどまっており、その傾向は3年続いています。

 

仮に、水産物の輸出増大に成功しても、その見返りとして日本国内に入ってくるモノを買う需要が減る一方なので、対外純資産が増えるだけで、日本は豊かにならないような気がします。しかし、輸入がどうであれ輸出で手に入れた100ドル札を銀行が1万円札に替えてくれる有難さは、今の日本の漁業者にとって否定できない事実です。そこで、思いついたのがどうせ未収金になるのであれば、日本人だけに見える架空のX国を政府の中に作り、そこに輸出したことにしてはどうかです。

 

例えば、漁業者がホタテ1万円分を(日本の中にある)X国の事務所にその時の国際相場の価格で売りに行きます。そしてX国100ドル札を手に入れ、銀行で1万円札と交換してもらいます。そうしたら、X国事務所は、そのホタテを日本国内の業者を相手に入札にかけ売るのです。モノとしては国から出て行ったものがそのまますぐに入ってくるので輸出貧乏になりません。

 

しかし、もともと漁業者が輸出しようとするのは国内に売るより高いからですので、それを国内業者は5千円でしか買わないでしょう。そうすると、X国には5千円の貿易赤字が生じます。これでは、実質的に日本国政府に5千円の赤字を生じさせるだけであり、そんなものはダメだとなりそうです。

 

でも、考えてみてください。ホタテの現物は日本国内にとどまり、巡り巡って加工・流通業者や小売業者を潤わせ(正しい意味でのGDPを押し上げ)、なんといっても国民が高くて買えなかったホタテが食べられるようになり、ノルウエーのサーモンや成長ホルモンや抗生剤がてんこ盛りのアメリカの豚肉を食べなくても済むのです。

 

一方、本物の輸出であれば、モノは日本から出ていく、しかも代金として受け取った100ドル札で、輸入したいものがないので実質未収金(対外純資産)が増えるだけ、下手をすると為替の変動で資産価値が半減するかもしれない。

 

とすれば、架空X国への輸出方式では、日本国政府が5千円の赤字を補てんさえすれば、モノは国内にとどまり、国内のGDPを増加させ、国民の食生活を豊かにできるのです。一方本物の輸出では、モノはなくなり、その流通加工にかかわっていた関連業者は職を失い、その代金も実質5千円未収金化するとすればどちらが得でしょうか。誰でもわかると思います。まさに、これこそEUで行われている農業への所得補償制度そのものなのです。

 

「一体その財源はどうするのか。ふざけるな!」という質問と罵声が飛んでくるでしょう。それこそ、それにふさわしい財源があるではありませんか。第一次産業を犠牲にして輸出産業が手に入れ外国に置いてきている367兆円の対外純資産です。それを毎年3兆円使ったところで100年分以上もあります。

 

私が何を言いたいのか。そろそろまとめに入ります。

 

高度経済成長期なら国民には買いたいものが多くあったでしょうが、経済が安定期に入り、さらに一部の富裕層の利益を増大させるだけの規制改革会議の主導する経済政策の失敗で内需が低迷しているときに、輸入が増えるはずがありません。輸入が増えない時の輸出増大は、海に行ってその製品を捨ててくるのとです。ましてや、国内市場のシェヤーを掌握した上の余剰分ならいざ知らず、国内の水産物市場の半分以上が輸入物で占められている時に、ますます輸入水産物を増やすことにつながりかねない国内向け水産物の供給を減らす加担するのは、「自殺行為」であるということです。

 

後編では、日本の漁業者が輸出に力を入れ、それがうまくいけばいくほど、国内で生じかねない問題やしっぺ返しという、もっと現実的な問題について触れていきたいと思います。

 

1 comment for “輸出のし過ぎが日本を不幸にした(前編)

  1. 2017年11月6日 at 5:20 AM

    輸出すると、必ずそれと同じくらい輸入しないといけない話になぜなるのか??

    資源の限られた商品なら、確かに国内からモノが消えるばかりだが、

    無形の商品・サービスにお金を使って国内経済を回せばいいのに、なぜそのことをすっぽり度外視してるのか??

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