水産黒書

驚きました。平成28年5月17日に「平成27年度水産白書」が公表されましたが、なんとこのブログで「正気の沙汰ではない」と酷評した、マダラへのTAC導入について「TAC制度による管理を視野に入れて検討していくこととしています」と堂々と書かれているではありませんか。

 

白書とは「政治社会経済の実態及び政府の施策の現状について国民に周知させることを主眼とするもの」です。閣議決定を経て公表され、水産庁が我が国の水産業の現状と課題を国民に向かって発表する文書の中でも、最も格式の高いものといってもよいでしょう。

 

正直、OBである私が水産庁に対して、こんなことは言いたくないのですが、TAC導入ありきの意図が見え見えの客観性を欠いた記述(あえて、嘘と言っても良いでしょう)を白書に書いて水産庁は「恥ずかしくないのか」と。

 

では、まず「平成27年度水産白書」でのその部分を以下に抜粋し、そのどこに嘘があるかを指摘していきたいと思います。

 

 第1節 水産資源及び漁場環境をめぐる動き

(4)我が国における水産資源管理制度

(TAC制度)

我が国周辺水域における水産資源の管理に関する課題を検討するため、水産庁が平成26 (2014)年に開催した「資源管理のあり方検討会」の取りまとめでは、TAC制度の対象となる魚種の追加について検討を継続すべきとの提言がなされました嘘1)。これを受け、国民生活上 重要な魚種についてTAC制度の対象魚種への追加に関する検討が行われており、特にマダラについては、漁獲量が多く我が国において重要な魚種であり、資源状況など科学的知見が蓄積されつつあること嘘2)、米国等の主要生産国においてもTAC管理が実施されていること嘘3)等から、TAC制度による管理を視野に入れて検討していくこととしています。

 

嘘1 「資源管理のあり方検討会」の提言内容が、書き換えられている

 

白書では、

「資源管理のあり方検討会」の取りまとめでは、TAC制度の対象となる魚種の追加について検討を継続すべきとの提言がなされました。

と記述されています。

 

「資源管理のあり方検討会」取りまとめにおける該当部分は以下の通りです。(引用を容易にするために、原文に番号を振っています)

 

 資源管理のあり方検討会 取りまとめ(平成26年7月)

3.公的管理の高度化

(1)TAC制度

エ)TAC対象魚種

①TAC制度の対象魚種に関しては、平成10年のスルメイカ以降、追加されていない。

②この点について本検討会は十分な議論を行っていないが、水産政策審議会や広域漁業調整委員会等を通じた検討を継続することが必要である。

③その際の議論は、TAC導入の是非にとどまらず、漁業の実際を踏まえながら、当該資源を適切に管理するための枠組みや手法を考えることにより、管理効果の実質的な改善を期すべきと考える。

④特に、将来的に資源状況が悪化した場合に有効な手立てを迅速に講じることのできるような体制の構築が望まれる。

 

よく読んでみましょう。

 

①は、TACが追加されていない事実のみを述べています。

②は、①の(なにゆえ追加されてこなかったのかの)事実について「十分な議論を行っていないので検討を継続することが必要」と言っているだけです。「追加について検討するべき」と書いていません。

③においても、議論の対象を明確に「TAC導入の是非」としており、「追加について検討すべき」とは書かれていません。白書には、意図的に「是非」という言葉を隠したうえ、「することが必要」を「すべき」と改変し強めており、悪質性がうかがえます

さらに、③においての最も重要なポイントは、「漁業の実際を踏まえながら、当該資源を適切に管理するための枠組みや手法を考える」としており、この枠組みや手法には当然ながら「インプットコントロール」「テクニカル コントロール」も含むものであり、決して「TAC追加について検討すべき」と書いていません

④においても、一般論を言っているだけで、例えば有効な手立てとしてTACよりも機動性の高い「休漁期間を拡大する」でF値(漁獲率)を下げてもよいわけであり、「TAC」でなければならないと解釈することはできません。

 

以上、この「資源管理のあり方検討会」の提言を、白書で「魚種の追加について検討を継続すべきとの提言がなされました」と記載するのは、明らかに「TAC魚種追加ありきの」曲解であり、『嘘』と言っても良いでしょう。

 (透けて見える役所の巧妙な手口)

なぜ、役所はこのようなことをするでしょう。それは、先に役所内部で結論を出しおいて、あたかも外部専門家の意見を聞いてそうなったかのごとくに装う、役人の得意とする巧妙な手口だからです。

 

そもそも、「資源管理のあり方検討会」の提言にも問題がありました。それは「(TAC追加について)十分な議論を行っていないが、水産政策審議会や広域漁業調整委員会等を通じた検討を継続することが必要」の部分です。十分な議論が行われていないのに、「検討継続が必要」と結論付けるのはおかしくないですか。

 

つまり、TAC追加の議論を本格的にやると、規制改革会議からのごり押しに対し、委員から異論が噴出しそうなので、あえてそれをやらず、最後のとりまとめ段階になり、さらりと「検討継続」の言葉を滑り込ませたのです。文章中に「是非」や「漁業実態を踏まえて枠組みや手法を考える」などの表現を使ったのは、出席した委員の警戒感を弱める工夫をしたということではないでしょうか。これでTAC追加について議論せずとも、まずは「検討継続」を既成事実化できたわけです。

 

その第一弾に続き、第2弾が今回の白書であり、「是非を含めた検討継続」を、いつのまにか「TAC制度の対象となる魚種の追加について検討を継続すべき」と勝手に限定することで、さらに既成事実を積み上げたという訳です。

 

嘘2 「資源状況など科学的知見が蓄積されつつあること」がTAC管理には結びつかない

 

資源状況に係る科学的知見が蓄積されたからこそ、すでに指摘したとおり、マダラには親と子の再生産関係は認められていないことが明らかになってきました。つまり、科学的知見が蓄積されつつあるからこそ、TAC管理には不適切であることが明らかになっており、白書の記述は明らかに嘘です。

 

嘘3 「物まね」では適切な資源管理はできない

 

例えば、大西洋サバと日本周辺のサバとは、同じサバでもその生態や資源構造が大きく異なります。加えて、それを漁獲する漁業や漁村などの特性も国によって大きく異なります。よって、その国々において資源管理手法が異なる方が自然であり、同じ手法でなければならない必要性は全くありません

 

日本はTACによらずとも日本型資源管理手法でマダラ資源をしっかり管理しています。米国などの外国の事例をあげて、だから日本も必要とするのは、何の根拠にもなりません。単に欧米礼賛的「物まね」主義は、一部の日本人にみられる精神構造上の問題(白人コンプレックス)であり、TAC追加の必要性とは関係のないことです。

 

以上、公表されたばかりの水産白書をチョット見ただけでも、3つの客観性を欠いた記述(嘘)が書いてあります。繰り返しになりますが、議論がほとんど行われておらず、結論も出ていない物事を、さもそう決まったかの如く白書に記載すること自体が、白書の権威にかけて通常ではありえません。

 

なぜ、そんなものが堂々と白書に書かれたのでしょうか。

 

その背景は容易に察しがつきます。規制改革会議の意向を受けた与党議員が、水産庁に命じて書き込ませた昨年の水産白書の「新潟県におけるアマエビの事例」と同じでしょう。いったん白書に書きこませたならば、それを最大限に活用するのが彼らの手口です。NHKの「クローズアップ現代」の「資源管理番組」の嘘を追及した時に、公表もされていない白書の内容を番組が引用したことを、ついNHKがポロリと白状してしまったことからもわかります。

 

もう一点、水産白書の記載について、重大な問題があることに、触れておかなければならないことがあります。それは以下のコラムです。

 

コラム 北部太平洋まき網におけるサバの試験的IQ方式導入 

水産庁は、平成26(2014)年7月の「資源管理のあり方検討会」取りまとめを受け、我が国におけるIQ方式導入の効果等を検証するため、北部太平洋海区で操業する大中型まき網漁船の一部(5隻)を 対象に、平成26(2014)年10月から平成27(2015)年6月まで試験的なIQ方式を実施しました。しかしながら、平成25(2013)年にサバが大発生しており、漁場を小型のサバの大群が占めていたため、漁業者が中・大型魚を選択して漁獲することが難しい状況であったこと等により、IQ方式により期待される効果は確認できませんでした。これらの結果を考慮し、2年目の平成27(2015)年度においては、サバの主漁期である10月から平 成28(2016)年3月までの6か月間、対象漁船を全船に拡大して試験的なIQ方式を実施しました。IQ枠 は10〜12月は月別に、1〜3月は一括で配分し、IQ方式実施の効果等を検証することとしています。

 

これは、まき網業界による機動的な運用が可能な自主的IQ管理を、水産庁による硬直的なIQ管理に強制的に移行させるという明らかに間違った施策として、私が従来から指摘してきたものです。この試みは必ず失敗します。

 

このコラムを読んで、水産庁は支離滅裂な状況に陥り始めたのではないかと思わざるを得ませんでした。「小型のサバが多かったため、IQ方式の効果が確認できなかった」とは何事か! まさに、小型魚が多い時にこそ「先獲り競争の防止で、大きな魚を選択漁獲できる」のがIQ方式のメリットと強調していたではないか! そのIQ方式の効果が一番発揮できる状況下において「役に立ちませんでした」とはふざけるな!と

 

実は、こんな結果になることは、はじめからわかっていたのです。

 

昨年4月のNHKの「クローズアップ現代」の「資源管理番組」で、言ってもいないこと、かつ事実と異なることを勝手に挿入され、しかも名前と顔の映像を全国にさらされ名誉毀損(刑法第230条)された漁師Aさんは、なんといっていたでしょう。

 (漁師Aさんの発言)

「どこでやっても小さいサバしかいない。 他に取るものがなければ、まさか『水揚げゼロ』というわけにはいかない。」

 

ところが、NHKが勝手に挿入した言葉は、以下の通りです

 

(NHKが勝手に挿入した言葉)

たとえ自分が取らなくても、ほかの船に取られてしまいます。

規制がない現状では、収入を得るためにやむをえないといいます。

 

さらに、ゲストとして出演した勝川俊雄氏と国谷弘子キャスターとのやりとりは、以下のようになっています。

 (国谷弘子キャスター)

「小さいサバも取らざるをないという話もあったが、漁獲量の減少を止める方法は?」

 

(勝川俊雄氏)

「漁業者のモラルの問題ではなくて、取り残す制度がない、きちんとした規制がないということ、漁業者は被害者なんですよね」

 

(国谷弘子キャスター)

「海を回復させるには待つことが大事?」

 

(勝川俊雄氏)

「アマエビの場合はきちんとした規制ができたおかげで、取らなかったものはあとで自分たちが取れる、だから漁業者は取り組めるんですけれども、サバの場合はそういう制度がないので、自分たちが取らなかったら誰か取っちゃう、これじゃできないんですよね」

 

NHKも勝川俊雄氏も、個別割当(IQ)を自主的管理のもとにおこなっている巻き網漁業の実態に全く触れず、しかも、勝川俊雄氏は「サバの場合はそういう制度がない」と虚偽の発言をしております。確かにこれは、漁業者のモラルの問題ではなくて、勝川俊雄氏のモラルの問題ですね。

つまり、NHKと勝川俊雄氏は結託して、国による硬直的なIQ方式に移行すれば、小さなサバはとらなくても良いと国民に向かって大ウソをついたのです。

 

この嘘に、水産庁も乗っかって、国による硬直的なIQ方式を昨年の秋から、まき網業界の全船に強制したのです。これではインパール作戦の無謀さを批判した佐藤幸徳中将ではありませんが、『嘘の3乗』のようなものです。自業自得とはいえ、こんな言い訳がましい、みっともない嘘を水産白書に書かざるを得ない水産庁のご苦労をお察し申し上げます。

 

さて、このままいくとなると来年の白書の記述がどうなるか容易に想像できますね。黙っていても、魚は大きくなります。よって、それをIQの効果と強弁するでしょう。もう見え見えです。

 

そもそも、自主的管理が発達し、操業時間などを細かく仲間内で決める日本においては、外国で見られるような「先獲り競争」は存在しません。そのうえ、マサバを漁獲するまき網業界はすでに自主的IQ管理を行っています。水産庁は、一刻も早くこの馬鹿げた施策の誤りを認め、もとに戻すべきでしょう。

 

そうしないと、犯人が嘘をついてその矛盾を取調官に追及され、また新たな嘘をつき、さらに矛盾を追及され、最後にはしどろもどろになる、あの様子と同じになります。

 

規制改革会議の提言をそのまま実行させようとする官邸に、だれもが「右向け右」の状態にある今の日本では、JA全中改革の例のようにおかしなことでも堂々とまかり通ります。そうすれば、間違ったことも正しいように、成果が出なくとも出たように、水産白書の内容もより嘘に満ちたものになるでしょう。

 

もうその時には、水産白書と呼ばす「水産黒書」と言った方がふさわしい気がします。

2 comments for “水産黒書

  1. T.O
    2016年5月24日 at 4:16 PM

    こんにちは。先日、こちらのブログにコメントさせていただいたものです。
    http://shigenkanri.jp/?p=1058#comments

    その際
    「再生産関係が不明だからといって、TACが必要ないという理由にはならない」
    「従来の資源管理で過剰漁獲が起きていた」

    ことを指摘させていただいたのですが、その点についてはいかがお考えでしょうか?

    嘘だ、恥だ、と誰かを誹謗中傷していても、誰も幸せにはならないと思います。
    前向きに議論が深められれば幸いにございます。

  2. うんこ
    2016年7月29日 at 11:35 AM

    あんた頭おかしいよ。

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