EU問題から地域格差を考える(前編)

子供が一人もいなくなった高齢者ばかりの熊野の漁村に住んで、高度経済成長を遂げたはずの日本において、この地方の衰退はいったいどういうことか。都市と地方の経済格差の拡大は必然だったのか、それとも経済政策の失敗だったのか。地域格差は今後是正に向かうのか、それとも固定化もしくは一層拡大するのか。これらはそれ以来私の中にずっとある命題です。

 

私は、かつて拙著「コモンズの悲劇から脱皮せよ」でこのことを漠然とした思いですが以下のように触れました。

「コモンズの悲劇から脱皮せよ」(p58-59)より

 

EUを一つの国と見れば、ドイツが都市で、ギリシャが地方であり、日本と同じように都市は発展しても地方は衰退し、EU内での地域間格差がどんどん広がるばかりではないか。ヒト・モノ・カネが自由に行き来する経済単位を大きくすること自体に、なにか、地域間格差を拡大する根本的な欠陥があるような気がする

まったくの思いつきであるが、地域の経済状況に応じた為替レートをきめ細かく設定すればどうなるのだろうか。北海道、東北、関東などの単位で為替レートが決まる仕組みにすれば、地域の経済はよくなるのだろうか。「地方の時代」ということで、道州制推進を公約にする政党が増えたようだが、その際はぜひこれも検討課題にしてもらいたい。

 

ここで私は二つの疑問を提示しています。

疑問1 経済単位を大きくすることには地域間格差を拡大する欠陥があるのではないか。

疑問2 日本を分割してそれを独立的経済単位にすれば地域経済は良くなるのだろうか。

 

先般の、イギリスEU離脱のニュースに接してから、ヒト、モノ、カネ、サービスが自由に国境を超えるグローバル化の象徴であるEUの混乱の中に、なにか地域格差を考えるヒントがあるのではないかと興味が湧いてきました。そうしてEU関連の本を図書館で借りて色々と読んでみました。しかし、結論を先に言えば「EUとは複雑怪奇で読めば読むほどわからなくなる」でした。

 

わかりやすい例えで感想をいえば、太った人、やせた人、背の高い人、低い人に同じ服を着せて、着心地を聞いて回り「ここは良いがあそこは悪い」をまとめたような記述のオンパレードでした。たしかにその服は、試行錯誤を繰り返し、できる限り参加国に着やすいように考え抜いた苦労の跡はうかがえるのですが、「こうするとみんながうまくいく」というわかりやすい結論が見えてこなかったからです。例えば以下のような記述です。

・・通貨統合の利益は損失を上回っており、EU通貨統合は実施する価値があった・・・

しかし、EUの経験があるからといって通貨統合を安易に推奨するのは、誤りだと考える。通貨統合の是非はそれぞれのケースに即して慎重に判断しなければならない。

 

同じヨーロッパとはいえ、もともと歴史、文化、言語、経済力が異なる国が、一つのルールに従い連合体を作るのは決して容易ではないことは誰にでもわかります。特にEUは一般の国際機関とは違い、スープラナショナリズム(超国家主義)を基本としており、国家より上位にある次元の主体に権限を譲渡し、たとえその参加国すべてが同意していなくとも拘束力を持つ決議を行うことができるという国家主権を放棄するものですからなおさらでしょう。

 

イギリスのEU離脱を受け、フランスやオランダでもEUからの離脱の是非を問う国民投票の実施を求める動きが一部に生じてきたそうです。しかし、今起きている混乱には、EUを巡る国家間の意見の対立というだけではなく、EU離脱に係るイギリス国内での地域対立もあるということです。イギリス全体としては、離脱52%残留48%という僅差で離脱が上回りましたが、スコットランドでは残留62%、北アイルランドでは残留56%ということで地域によっては残留の方が多かったことです。

 

EU離脱決定を受けて、スコットランドではEU残留のために、2014年に行われたイギリスからの独立を問う住民投票(この時は賛成46%、反対54%で否決された)につづき、再びスコットランドの独立を問う2度目の住民投票を、早ければ来年前半に行う考えが自治政府にあるとのことです。

 

さらに、北アイルランドでは、離脱となれば、EUに属するアイルランドとの関係が疎遠になるため(南北)アイルランド統一に向けた住民投票を今こそ実施すべきだと、野党が英国からの離脱を呼び掛けたとのことです。

 

これらは、日本に置き換えるとTPP参加を巡り北海道や九州が独立運動を起こすようなもので大変ことです。その独立運動の背景には、経済問題にとどまらない複雑な歴史的問題もあるようですが、そもそもEUという国家を超えた連合体への統合を進める大きな流れの中で、既存の国家の枠組が分裂に向かいかねないという全く逆の動きが出てきたのを見ると、なにか「グチャグチャ」でどうとらえてよいのか理解に苦しみます。

 

そこで、今回はEUを題材として、地域格差に関する私の二つの疑問に関しいろいろと考えてみたいと思います。

 

1 EUの経済統合とは

 

まず、大まかにEUの経済統合とは何なのかを見てみましょう。最もわかりやすかったのが、EUの経済統合の内容とその強さとひずみを簡潔にあらわした以下の表でした。

 

飛躍 統合の内容 強さ ひずみ
第1の飛躍 域内市場

単一市場(3億2000万人)

汎西欧生産ネットワーク

域外企業の流入

地域格差

第2の飛躍

ユーロ

域内為替レート排除

物価安定

地域的国際通貨

最適金利不可(一部参加国)

金融政策ダイナミズムの喪失

実質為替相場の乖離

第3の飛躍

東方拡大

巨大単一市場(4億9000万人)

低賃金生産基地の確保

汎欧州生産ネットワーク

東欧成長地域の確保

ユーロ圏の拡大

経済発展水準格差

労働者自由移動への反発

税競争

福祉国家の危機(コア諸国)

労使関係のねじれ

経済社会モデルの乖離

 

この表は「拡大するユーロ経済圏 ―その強さとひずみを検証する―」(田中素香 2007年4月20日 日本経済新聞出版社)からの引用で、以下のEUの現状についての記述も基本的にこの本をベースにしています。

 

この表では、EUの経済統合の歴史的な流れを、質的な深化と地理的拡大の「3段階の飛躍」として区分し、そのことにより生じる強さとひずみを示しています。

 

EU統合の狙いは、

 

①「域内市場統合」は、域内の経済障壁を全廃することによって、国際寡占競争を引き起こし経済を活性化すること。

②「通貨統合」は、参加国の実質金利を引き下げ投資、建設、消費を活性化させ、高い成長をもたらすこと。

③「東方拡大」は、中・東欧という成長の極をEUにもたらすこと。

 

であり、その強さゆえに経済成長の狙いは当たったとしています。

 

2 市場統合による地域格差の拡大

 

一方、域内市場統合のひずみとして「地域格差」が挙げられており、私の疑問1への答えがここにありそうです。それでは疑問1「経済規模が拡大するほど地域間格差は拡大するのか」について考えてみます。

 

「域内市場統合」とは、一般的にみられる品目別の自由貿易協定を深化させ、基本的に同じ国として扱うことです。こうなると当然その狙い通り、あらゆる品目で「寡占競争」が引き起こされ、競争力のある企業の地域は成長し、そうでない企業の地域は衰退します。本来これは企業間格差と呼ぶべきものでしょうが、競争力を有する企業が特定地域に偏在しているのが実態なので、結果的にそれが地域格差を拡大させるといえるのではないでしょうか。

 

さらに、競争力を有する企業だけをみても地域格差を生じさせます。それは、市場統合以前には、各国ごとに子会社を作らなければならなかったのが、市場統合後には、最も効率的な地域で市場全体をカバーすることができるようになり、その結果子会社が閉鎖れ、これも地域格差の拡大の要因になるからです。

 

簡単に言えば市場統合は「一人勝ち」の社会を生むといえるでしょう。ポンチ絵的に言えば以下の図のようなものでしょうか。

 

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3 ユーロ統合で格差が拡大する

 

共通通貨ユーロに参加することで、その国においては二つの経済対策手段を手放すことになると言われています。それは、為替変動と金利設定です。

 

国際的競争力の乏しい国や国内景気が悪化し始めた国にとっては、自国通貨が外国に対し安い方が、輸出がしやすく、同時に輸入が制限されるので、国内産業にとって都合が良いと言えます。しかし、ユーロに参加すれば参加国の経済力を平均した為替レートとなるので、競争力の乏しい国には厳しく、競争力のある国には甘いという「大貧民ゲーム(勝者をより有利にするゲーム)」のように国の間の格差を一層拡大させる方向に作用するようです。

 

また、国内景気が悪化し始めれば、景気刺激を目的として政策金利を低下(金融緩和)させますが、本当はもっと下げたい国であっても欧州中央銀行(ECB)が決定する金利に従わざるを得ません。仮に、金利を中間値をとったとしても、高成長の国にはインフレを助長し、低成長の国には不況を招くことになります。

このように金利は、国によって受け止め方が異なり、もともと高い金利であった経済力の弱い国にとっては金利が下がり、かつ国債もユーロ建てで発行できるので、それまでの自国通貨より信用力が高まり安い金利で調達できるというメリットが大きいようです。それをいいことに借金し過ぎた(嘘もついていた)のが、ギリシャ問題の発端と言われています。

 

なお、為替、金利という道具が使えないEU参加国に残る手段としては、政府による景気刺激策ですが、これにも財政赤字が対GDP 比3%以内および政府債務が対GDP 比60%以内という厳しい縛りがあり、それに反したら罰金までが科せられるようです。日本はこの点で到底EUの加盟国になれないということです。

 

それにしても国際競争力の弱い周辺国が、あれやこれやの厳しい規制があるEUになぜ参加したのでしょうか。それは上で述べた借金しやすくなるというメリットのほかに、安い労働力を求めた競争力ある西欧(コア国)の企業や、拡大する統合市場を狙ったEU域外の外国企業の進出というFDI(外国からの直接投資)による経済成長のメリットの方が上回るということのようです。

 

 

 4 東方拡大による「雇用なき経済成長」がもたらす格差の拡大

 

今私が問題にしているのは、EUの経済成長そのものではなく、EUが地域格差を拡大しているのかどうかです。EU加盟後の中・東欧国(周辺国)はFDIにより確かに経済成長しましたが、市場経済化は国民間の経済格差を拡大したようで、勝ち組エリートはEU支持ですが、貧困層や失業率の高い若者の間に、反EUムードが高まっているとのことです。

 

なぜそうなったのか。その理由の一つが「雇用なき経済成長」というものです。簡単に言えば、新たな産業が必要とする労働力が、EU加盟によって生じた大量の雇用機会の喪失を上回ることがなかったことです。それは、本来労働力過剰型にある周辺国において、技術優先労働節約型の最先端の工業国(コア国)の技術をそのまま導入したことで「雇用なき経済成長」が生じたということです。

 

これを日本における経済成長と比較した説明がありました。日本が経済成長の過程で比較的格差が拡大せずうまくいったのは、農民が低所得労働者から工業労働者へと移行し、それが内需を拡大させ国内に市場を創出し、国民所得の増大につながったからです。しかし、EU周辺国は急激に工業化を進めたため、国内市場が小さく、やむなく外国に頼らざるを得ない輸出志向型工業化をめざし、これが結果的に大量の失業者を生んだとのことです。

 

これはEUに限ったことでなく、世界中で格差を拡大させている共通の原因ではないかと思います。日本でも長引く経済の停滞を、再び成長軌道に乗せるには「イノベーション」が必要とか言われていますが、その内容はそれまで人間がやっていた作業を機械に代替させたり、より少人数でできるような「人減らし」技術開発の側面が強くあります。

 

「イノベーション」で、より良い製品がより安くできるようになるかもしれませんが、同時に起こる雇用の喪失による消費の減退で、経済成長の達成は難しいと思います。仮に経済成長したとしてもそれは、まさに「雇用なき経済成長」となるでしょう。

 

例えば、酒飲みの私にとって飲酒運転がなくなるという、まことに有難い自動運転車の開発が盛んに行われ、その実用化が現実味を帯びてきていますが、これは間違いなく格差を拡大させるでしょう。運送会社の社長は「これで給料を払わなくてすむ」と喜びます。しかし、日本にいる80万人のトラック運転手はどうなるのでしょう。失業する運転手の新たな就労先を責任をもって創出できる人などいないことは、世界で起こっている現実を見れば明らかです。

 

イノベーション⇒失業者増⇒需要減退⇒経済低迷の悪循環に入るのです。儲かる社長と職を失い貧しくなった運転手との間の格差が広がれば、「所得格差が拡大すると、経済成長は低下する」(OECD 雇用労働社会政策局 2014 年12 月)からして、いずれ経済悪化で運送量も減少し、経済は成長せず残ったのは格差の拡大だけというチャップリンの「モダンタイムス」の現代版になります。

海女さんがなぜイノベーションの賜物である潜水器を使わないかの理由はここにあるような気がします。「雇用なき成長は衰退に通じる」を海女さんは、地域共同体の中で体感的に会得しているのかもしれません。だから海女漁は、縄文時代から続いており、機械を使わない限り1万年後でも存続するでしょう。酒飲みがよかれと思って自動運転車を買うと、酒そのものが飲めなくなるという理屈です。「飲むなら乗るな(タクシーや代行を使え)、乗るなら飲むな」これは1万年後も標語として残さないといけませんね。

 

5 西欧(コア国)における企業家と労働者の間の格差拡大

 

 EUの東方拡大により、西欧(コア国)においても企業家と労働者の間の格差が拡大したようです。フランスを例に挙げますと、国内企業の中・東欧国流出による国内経済の空洞化だけでなく、さらにその中・東欧国からの労働者流入によってフランス人の職が奪われる「二重の雇用空洞化」がもたらす賃金の低下による格差拡大です。

 

これは企業家にとってはありがたくても、労働者にとって受入られるものではありません。EU統合は参加国の国民の福祉を増進するものであってこそ支持を得られる、いったい誰のための統合なのか、このようなフランス国民の不満がEU憲法批准を否決した理由といわれています。

 

これでは、EUのコア国でも周辺国でも企業家や一部の労働者は豊かになっても、多くの労働者は貧しくなり、格差を拡大しているといっても良いのではないかと思います。

 

なお、この経済先進国の労働者が貧しくなる現象は、一般的な自由貿易によっても生じることであり、「グローバリゼーションと貧富の格差の関係を 経済理論で考えると? 大和総研 経済調査部 主席研究員 金子実 2016 年 7 月 19 日」では、以下のように記述しています。

一般に先進国では発展途上国に比べて資本蓄積が進んでいるので、先進国と発展途上国との間で貿易が行われていない状況においては、先進国では労働が比較的希少で、賃金の投資収益に対する比率が発展途上国に比べて高くなっている。ところが、貿易が自由化されると、労働集約的な財・サービスが発展途上国から先進国に輸出され、先進国において労働の希少性が低下し、賃金の投資収益に対する比率が低下する。先進国と発展途上国との間で貿易が始まると、国全体としてはどちらも豊かになるが、所得分配の面からみると、先進国では労働者への所得分配率が下がり、先進国の労働者が絶対的に豊かになるか否かについては、絶対的にも豊かにならない可能性があることになる。

 

これは「国全体として豊かになる=多くの国民は貧しくなる」を意味することから、国全体としての豊かさをあらわすGDPの成長率は、本当の意味の国民の豊かさの指標とはならないと言い切っても良いのかもしれません。今後は政府に対し、GDPの成長率と所得分配率とを必ずセットで発表させるべきでしょう。

 

 

6 疑問1についての答え

 

そろそろ疑問1「経済単位を大きくすることには地域間格差を拡大する欠陥があるのではないか」についてまとめてみます。その答えはその通り「欠陥がある」と思います。さらに付け加えれば、より豊かになる都市部においてさえも、そこに住む国民間の格差を拡大させる欠陥があるといえます。

 

しかし、新自由主義者は、それは頑張るものが報われた当然の結果であり「欠陥ではない」とし、また「地域格差が拡大するから」「多くの労働者が貧しくなるから」といって、全体が豊かになる経済単位を大きくする道を放棄しても良いのか」という反論もあるでしょう。

 

たしかに、この「大きいことはいいことだ」は一般的に捨てがたい感覚です。

EUも元をたどれば、アメリカをモデルに経済統合を進めてきたそうです。それはアメリカが19世紀末以降一貫してヨーロッパより高い経済成長を遂げてきた理由は、アメリカの巨大な単一市場・単一通貨にあるとみてきたからです。EUが進めてきた域内市場統合とは、ヒト、モノ、カネ、サービスの自由移動が達成されている領域であり、これでアメリカを上回る経済単位の「ヨーロッパ国」を作り上げたことになります。とすれば、EU構成国は、これまではアメリカに比較すると所得格差が大きくありませんが、今後はアメリカ以上に拡大していくことが避けられないことになります。

 

7 疑問2について

 

疑問2「日本を分割してそれを独立的経済単位にすれば地域経済は良くなるのだろうか」と類似した視点での記述が、「拡大するユーロ経済圏 ―その強さとひずみを検証する―」にありました。それは、アメリカの各州ごとの立場からその時の政策金利を評価したものです。

04年では、実質成長率9.3%のネバダ州と1.2%のミシガン州があったところ、当時のFRBが実質金利を00年のピーク6.5%から03年にはマイナスまで引き下げた。ミシガン州はもっと下げて欲しかったかもしれないし、ネバダ州はもっと高い方が望ましいと思ったかもしれない。共通通貨の持つジレンマはアメリカにもあったと思われる。

 

これは日本にも当てはまることです。EUとは、ヒト、モノ、カネ、サービスの自由移動が達成されている領域であり、実質的に一つの国です。その構成国は経済の側面から言えば都道府県のような単位でしよう。日本は単一民族、単一国家で円という共通通貨のもと、為替、政策金利が一つであることが当然と思われていますが、都道府県をEU構成国とみなせば、それぞれが自県に最もふさわしい為替レートや政策金利を政府に要求することがあっても何ら不思議なことではないと思います。

 

この点で私が最も問題であったと思うことは為替です。この為替こそが、地方と第一次産業を最も衰退させ、都会と地方の格差を生じさせた原因と思います。かつては固定相場制で360円(ドル/円相場)が1971年まで続きました。その後ニクソン・ショックなどを経て変動相場制に移行し円高へと推移しましたが、なんといっても1985年の「プラザ合意」により、わずか1年で240円台から150円台と急激な円高へと進んだことは致命的でした。同じ100円だった輸入製品が、たった1年で60円で売られ始めれば、勝負になりません。輸入水産物もこのころから急増し始めました。

 

その後1995年にはピークの79円まで進み、固定相場制時代には100円で売られていた外国商品が、わずか24年間で22円で売られるようになったのですから、国内の農業・林業・水産業が衰退しないはずがありません。

 

こんな馬鹿げた円高はどうしてもたらされたのでしょう。すべて世界一の対外純資産を積み上げ今も増やし続けている過剰輸出産業のせいだと思います。もし、第一次産業や中小企業(国内市場が販売主対象)を主要産業とする地域が、輸出産業主体の地域から分離した経済単位であったならば、ここまで為替レートが円高にならなかったと思います。

 

仮に、今、プラザ合意直前の240円に戻るだけでも、輸入品価格が一気に2倍以上にもなるのですから、第一次産業と地方の中小企業は劇的に復活するでしょう。身近な例として、直近の漁期のワカメの価格は前年の1.5倍近くに上昇しましたが、その要因を探ってみると、中国のワカメが大不作で少なかったとのことでした。

 

このように、輸入水産物は国内漁業者にとって極めて大きな影響を与えています。輸出産業はすでに海外に生産拠点を移転し、国内工場での生産と合わせて、為替レートがどうなろうがリスクヘッジできるのですから、地方経済の分離独立に反対しないと思います。

 

そろそろ疑問2に対する(自問自答的な)答えですが、「日本を分割してそれを独立的経済単位にすれば、地域経済は良くなる」と思います。道州制への移行を公約に掲げる政党には、外交・安全保障は従来通り一本でも、以下の県民所得図を踏まえ、偏差値の低い地域が経済分野で分離独立するくらいの思い切った政策を打ち出してもらいたいと思います。

そんなことをすると、都市部からの税金で生きている地方はますます貧しくなるぞ!と、EU残留派からのと同じような脅しがあると思います。では、その人に聞きたい。増田寛也元総務大臣がまとめた「896の自治体が消滅しかねない」という報告書はいったい何だと。地方の衰退に万策尽きた感のある現状では、「身を捨てて浮かぶ瀬もあれ」で地方分離独立しか生き残る道はないのではないかと。

 

                 人口1人あたりの県民所得の偏差値分布

  (「都道府県別統計とランキングで見る県民性」より引用)

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なお、中・後編では資本主義とは「中心」と「周辺」から構成され、「周辺」つまりいわゆるフロンティアを広げることによって「中心」が利潤率を高め、資本の自己増殖を推進していくシステムであるという考え方と、江戸時代の幕藩体制が意外と地方を豊かにしていたのではないかという観点から、地域・所得格差の問題を考えてみたいと思います。

 

1 comment for “EU問題から地域格差を考える(前編)

  1. はっけよい
    2016年9月14日 at 4:09 PM

    いつも更新を楽しみにして、読んでいます。

    EUのイギリス離脱は、さながら江戸時代の幕藩体制を(長州藩だろうが会津藩だろうが)無理やり『大日本』としてひとくくりにした結果、薩摩藩が一足先に離脱したイメージを持っておりました。

    一つ疑問がございます。

    「日本を分割してそれを独立的経済単位にすれば、地域経済は良くなる」と書かれておりますが、もしそれを実践したとしたら、レートの安い地域で買って、高い地域で売る、といったような商売が多発して、経済格差から物量格差問題(物がない地域と余っている地域が出たり、売り惜しみしたり)を引き起こすのではないかと考えました。
    佐藤さんはどのようにお考えでしょうか。

    後編を楽しみにしています。

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