今起こっている「組み換え」 シャープ亀山工場

平成29年3月15日付朝日新聞デジタル配信で、「シャープ、液晶TV国内生産撤退へ 『世界の亀山』に幕」という記事が掲載されました。亀山と言えば三重県の中央部にある市で、最近その工場を見てきたばかりなので、私には他人事とは思えない報道でした。

 

亀山市に行った目的は、「漁村と都市高齢者の結(ゆい)づくり事業」への参加を募るためでした。昨年の試験的漁業体験に参加された方が、亀山市役所との関係が深く、その方の紹介で副市長さんや社会福祉協議会の理事長さんにあいさつに出かけたのでした。その時に、あの有名な「シャープ亀山工場」を一目見ようと、その姿が見えるところまで案内していただき、あれがそうかと見てきたばかりだったからです。

             シャープ亀山工場(三重県庁HPより転載)

前回のブログのテーマが、「先進国と新興国との間での組み換え」だっただけに、まさにそのものスバリが今起こりつつあることに触れざるを得ない気持ちになりました。記事によれば、以下のようでした。

・亀山工場でつくったテレビは「世界の亀山ブランド」として一時代を築いたが、近年は採算が悪化していた。

・ライバルメーカーが海外にテレビの生産拠点を移すなか、高品質の国産テレビを売りにしてきたが、最近は生産設備の老朽化が進み、中国など海外工場に比べて効率的に生産できなくなっていた。

・戴正呉(たいせいご)社長は「国内では無理。海外生産しないと、シャープの液晶テレビが売れなくなってしまう」と話した。

今後シャープのテレビの製造は、親会社の鴻海(ホンハイ)精密工業(台湾)に任せる。

 

なんともさみしい限りです。私が「亀山」という地名を知ったのは吉永小百合さんのCMからでした。私の買った液晶テレビにも画面の横に「世界の亀山モデル」というロゴが入っています。また、意識的に見ていたのですが、三重県内の公共施設などに置かれているテレビはほぼ亀山モデルで、もちろん鳥羽の定期船ターミナルにあるものもそうです。

 

テレビといえばかつてはSONY、松下なども含め日本のメーカーの独壇場で、まさか日本人が、外国製造のものを買わなければならなくなる日がくるとは思いもしませんでした。なにか、アメリカの消費者の気持ちがわかってきたような気がします。「いつでも、どこでも、だれとでも」の自由貿易の世界とはなんとも恐ろしい世界です。

 

1 亀山市の栄枯盛衰

 

このような記事に接し、ヒト、モノ、カネが自由に国境を超える経済施策を継続していては、今後とも決して国民に安定した生活を保障することはできないと改めて確信しました。というのは、亀山工場進出以降の亀山市の栄枯盛衰を知るとそう思わざるを得ないからです。例えば、毎日新聞2016年8月7日付の「輝き失った『世界の亀山』 集合住宅乱立、目立つ空室」という記事では、概要以下のような状況です。

 

・従業員向けに、地主が建てた集合住宅は02年度から6年間で13倍に膨らんだ。しかし、大半の部屋は表札もなく雨戸が閉じられている。地元男性は「ピーク時の3分の1。雇用を支えるはずだったのに」「シャープの恩恵は4年だけ。今は利益も上がらない」とうつむいた。

・シャープ誘致で地元は多大な恩恵を受けた。操業開始後、シャープ以外の企業立地も相次ぎ、70億円台だった市の税収も146億円へと倍増。05年度から6年間、地方交付税の不交付団体になった。1軒だったビジネスホテルは7軒になった。

・最盛期に約3000人が働いた亀山工場の社員数は、今年3月末時点で1983人。シャープの取引先が長蛇の列をなした亀山駅前の今は昼間からシャッター通りだ。記者が乗ったタクシーの運転手は収入が4割ほど減ったという。

・「以前は世界の亀山で働いている誇りがあったのに」と男性社員(26)は振り返った。地元の高校を卒業後に入社。全国に知られる工場で働く希望が実現した。親戚や家族からも「亀山工場で勤めれば、将来は大丈夫」と喜ばれた。しかし、経営危機で働く部署そのものがなくなり、異動になった。「将来が見えないと辞めた人もいる」という。

 

この記事は昨年のものですが、今回の撤退発表でさらに衰退が避けられないでしょう。私がこの記事を読んで一番心が痛んだのは「地元の高校を卒業後に入社。亀山工場で勤めれば、将来は大丈夫と喜ばれた」の部分です。まさか、世界の工場がかくもはやく・・・とは誰もが思いもしなかったでしょう。

 

しかし、実は2004年に亀山(第1)工場が稼働し、その2年後の2006年に第2工場が稼働したのですが、驚くべきことにそのわずか3年後の 2009年初頭より亀山第1工場は操業を停止し、生産施設をすべて中国企業に売却し、建屋のみが残った状態となったのです。県や市が莫大な補助金を投入した工場が、わずか6年で操業停止して設備を売却と言う事態に、シャープは県からの返還を求められた(ウィキペディア)とのことです。

 

その背景として、スマホ時代の到来とともにシャープの液晶テレビ用大型ディスプレイは競争力を失ったなどがあるようですが、前回のブログで言った「いつでも、どこでも、だれとでも」の世界では、それを作っていた工場が一夜にして奈落の底に突き落とされる、を地で行ったのでした。

 

これはシャープという会社にたまたま重大な瑕疵があったのではなく、自由貿易体制下では避けることができない悲劇の一例に過ぎないのではないかと思います。非対称性を喪失させる今の自由貿易体制が続く限り、どの国でも国民が安心して働けるお家芸とか特産品は存在しなくなるということです。「まさかそんなことは」という常識が通用しない世界なのです。

 

いつ「世界のトヨタ」でさえ同じことが起こるかもしれません。やがて日本人は、家電製品も自動車も外国工場で製造したものしか買えなくなる時代が来ることも覚悟していなければならないのかもしれません。もちろん買う金があればの話です。雇用の場がなくなるのですから買う金もなく、どうでもよいことかもしれませんが。

 

2 人間のことなどかまっておれない資本の本質

 

繰り返しになりますが、シャープが悪い(韓国企業に安易に技術を提供したという批判もありますが)ということではなく、むしろ冒頭にありましたようにシャープは、「ライバルメーカーが海外にテレビの生産拠点を移すなか、高品質の国産テレビを売りにしてきた」という立派な企業と思います。

 

しかし、自由貿易の世界で企業が競争に勝ち残るためには、地域の雇用すなわち人間のことなどかまってはおれないのです。戴正呉(たいせいご)社長が言った「国内では無理。海外生産しないと、シャープの液晶テレビが売れなくなってしまう」が現実なのです。

 

しかし、現実だからといって「あーそーですか」と受け入れるわけにはいきません。資本は儲けなくなれば儲けるところに移転すればよいでしょうが、移転できない地域の人間の雇用は一体だれが責任を持つのでしょうか。簡単に言えば、「資本には逃げ道があるが、逃げ道のない人間はどうすればよいのか」という「経済とは、資本とは、一体誰のためにあるのか」というきわめて本質的な観点が欠落していると言わざるを得ません。

 

地域の雇用に責任を持つのは現在の大名ともいえる自治体の首長でしょう。選挙で「企業を誘致し雇用を増やします」と訴え、当選後補助金まで出して懸命に企業誘致を行い、それに成功したとしてもそれは一時的なものでしかない。かつての松下幸之助氏のように苦しい時にでも絶対に雇用を守り抜き、再び経営を立て直す経営者が存在できなくなった今、首長はどうすればよいのでしょうか。

 

それには、「逃げない企業、逃げられない企業」言い換えればその土地において永続性・持続性を持ち得る企業を探すしかないと思います。地域を簡単に見捨てる「世界の〇〇」的なグローバル企業より「逃げない企業」こそが地域にとって大切な企業といえると思います。

 

3 久保利英明弁護士の講演と水産特区

 

偶然にも、今回のテーマに関連の深い記事が水産経済新聞(平成29年3月8日)に載っていました。それは、同年3月3日に札幌で開催された、北海道漁連と北海道信漁連主催の平成28年度全道漁協トップセミナーでの久保利英明弁護士の講演でした。

 

久保利弁護士は、暴力団に強い弁護士として私もマスコミを通じて知っていました。その業績は、規制改革推進会議の委員など足元にも及ばない超一流の方です。正直に言ってよく水産業界の講演に来ていただけたなーと思うと同時に、さすが北海道水産団体は目のつけどころが違うと思いました。ウィキペディアによればその業績は、以下のようです。

スモン訴訟や労働事件などの社会的事件を手がける一方で、いわゆるビジネス弁護士の草分けとして、「適法経営(コンプライアンス)」「企業統治(コーポレート・ガバナンス)」といった考え方を早くから提唱、大型倒産事件、総会屋対策などで活動。株主総会における一括上程・一括審議方式は「久保利方式」とも言われ、従来の「しゃんしゃん総会」と一線を画しながら、総会屋を排除し株主総会を進行させる方法を実践した。

講演テーマは、まさにコンプライアンス問題の権威としての久保利英明弁護士にふさわしい「やるきのでるコンプライアンスを学ぶ」でありました。記事によると、株式会社と協同組合におけるコンプライアンスの重要性を説いた後以下のような発言があったとのこと。

ただし、会社と組合には大きな違いがある点を指摘。「会社は危ないと思ったら逃げることができるが、協同組合は組合員の生存や地域の存続に関わるから逃げるわけにはいかないとてつもない組織。そういう意味では、コンプライアンスやガバナンスも株式会社より一生懸命にやらなければならない」と述べた。

 

そうです、協同組合は逃げることができないとてつもない組織なのです。ビジネス弁護士の草分けで会社経営を知り尽くした弁護士に、協同組合の持つ意義とその責任をズバリと言い当てていただいたのです。有難いことです。企業が協同組合より優れているかのごとくにいう水産特区を導入した規制改革会議の連中や宮城県知事とは、頭の中も人間性も違うのです。

 

さらに、以下のような発言があったのには、僭越にも私が最近このブログで主張してきた「江戸に学べ」と同じ考え方だと、うれしくて仕方がありませんでした。

さらに、最近問題となった企業不祥事の事例や300年続いた徳川幕府の組織防衛体制や、近江商人の格言、武家社会の掟、財閥の家訓を紹介し、「日本では昔からガバナンスやコンプライアンスを取り入れていたが、利益優先主義に奔走した結果、日本的倫理が崩壊してしまった。それを復活させることをコンプライアンスといっているだけ。」と説明した。

 

この説明に従えば、漁業者の猛反対を排除して、協同組合より外部の民間企業を優先した宮城県の水産特区では、利益優先の企業経営であることからコンプライアンスが崩壊しかねませんがどうなったのでしょう。

 

「コラー、持って回った言い方をするな、知っているくせに、早く言え!」というご批判が聞こえてきそうなので、以下に、平成29年3月17日及び18付の河北新報の一部(見出し)を引用します。

3月17日 見出し(1面トップ)

石巻・桃浦 特区カキ他地区流用か 社員証言 親会社否定

3月18日 見出し

特区カキ 他地区産流用疑惑 県事実関係の確認開始

特区会社 共販カキ出荷 県漁協「制度の趣旨逸脱」

 

開いた口がふさがりませんね。

 

そもそも、特区は「復興に際し民間資本等の活用を推進する」はずであった。ところが実際には、逆に宮城県知事は特区の関連費用として、6億5千万円、このうちカキむき機などの購入費に2億3千万円、養殖用いかだの購入費に1億6千万円など5億5千万円を合同会社の支援にあてたとのこと(平成24年10月12日付朝日新聞)。

 

特区に猛反対した漁民でさえ、あんなにお金がもらえるなら俺たちも特区にしてもらえばよかったという笑えない話があったという。いったい、5億5千万円も支援してもらわないとやっていけない合同会社のどこが「民間資本の活用」なのか。宮城県知事さん、これではまるで詐欺ですよ!

 

それに加えて今度はこれ。特区制度の趣旨「技術・ノウハウや資本を有する民間企業の活用」にある技術とは「産地が書かれたラベルをはがしてカキをたるから出して出荷する(河北新報)」技術であり、ノウハウとは「コンプライアンスより利益を優先するノウハウ」のことであったようです。

 

政治臭プンプンの特区参入企業によくある話です。こんな規制改革会議ご推薦の民間企業では信用を失い経営難に陥り、かつての女川のギンザケ養殖に参入していた企業と同じように、地元漁民を見捨てて逃げていくことにならないかと心配です。

 

話しをもとに戻します。

 

久保利英明弁護士の講演を聞いた漁業関係者の感想が、後日水産経済新聞(平成29年3月15日)に以下のように掲載されていました。講演者の思いは聴衆者の心に強く伝わったようです。

・協同組合は逃げることのできない組織―という先生の所見に感銘した。気の引き締まる格言であり、座右の銘にしたい。

東京では、漁業権のあり方が問題となっているが、系統人として浜の漁業権をどう守っていくのか、効率重視の株式会社とはどこが違うのか、しっかりと見定めながら対応していかなければならない、と共鳴の弁。

この感想でも触れられていますが、いよいよ規制改革推進会議が、JA潰しの後はJF潰しだと画策していると聞きます。そのメインターゲットが漁業権で、なんとしてでも組合管理下の海を取り上げ強欲資本の餌食にしようとするものです。

 

これこそが、このブログで何度も触れてきた資本主義におけるあくなき中心による周辺の蒐集そのものです。「私」が「官」の力を利用し、経済の効率性と富の公平分配を両立させる海に残された江戸時代からの伝統の「公」を崩壊させようとする典型的事例です。規制改革の名のもとに、ありとあらゆる分野を侵食し、その栄養を吸い尽くし、また次のターゲットに向かう「がん化資本」の化身が規制改革推進会議といえるでしょう。

 

ガン細胞などに負けてたまるか!

 

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