魚を少なくとる方法

●漁獲圧力を半分にする方法とは

 

(質問)あなたは一人の漁師です。最近魚が減ってきて困っています。そこで漁師の仲間が集まって、研究者に相談した結果「魚をとるのを半分にしよう」となりました。では、どうやるか、そのやり方が議論され、以下が提案されました。あなたはどの方法が一番よいと思いますか。

①操業期間を半分にする(漁期制限)

②操業隻数を半分にする(隻数制限)

③操業海域を半分にする(漁場制限)

④漁具の数を半分にする(漁具制限)

⑤漁獲量を半分にする(漁獲量制限)

 

 

6年半資源管理を担当し、2年間漁業現場を経験した私がいうのも変ですが、この質問への答えは「一言ではいえない」です。そこで、4人の方を登場させ、想定される答えのパターンをあげてみたいとおもいます。

 (1)一般の方

漁業に全く知識のない一般の方であれば、おそらくこの答えは、「どの方法でも同じではないだろうか」でしょう。

なぜかというと、一般の方には日々変動する漁況・海況への体験がなく、身近にある畑の大根が、毎年同じ畑に均等に作付され、足が生えて逃げていくこともないので、それと同じように、魚もいつでもどこにでも均等に分布しているとのイメージを持たれていると想定したためです。

 

 (2)熊野の伊勢エビ漁師

 私が124回出漁した熊野でのイセエビ漁の体験からすると、おそらく「④次に①」と答えると思います。その理由を消去法で説明します。

 ②の方法では、出漁できる日の順番をあらかじめ決める(輪番制)ことになりますが、自分の番の日にたまたまシケ気味になったりすると無理してでも出漁しようとしかねず、また順延するにしても、次は自分の番と思って準備した人との間で調整が必要となります。特に盛漁期なのに低気圧続きで出漁できない日が続いているときには、相当の不満感が生じてくるからです。

 ③の方法では、漁場には良く獲れる場所とそうでない場所があり、また季節によっても違ってきます。そうすると、漁場を半分にするといってもそのやり方次第ではどうしても偏りが出てきてしまいます。また、操業隻数は同じで漁場を半分にすると込み合って操業しづらくなるからです。

 ⑤の方法は、全く頭にすら浮かばないでしょう。なぜなら、毎年同じように操業していてもその年々で大きく漁獲量が変動しており、どれだけ獲れるかわからないものにその半分など、いかにも現場を知らない机上の空論資源学者が考えそうなこととして、全く相手にされないからです。 

しかし、どうしてもそれでやれというなら、いつどの漁場に網を入れればどれだけのエビがとれるか、正確に予想してもらえるなら、それに応じた操業計画を立てることができるので賛成するかもしれません。もちろんそのような予測ができる研究者はこの世にいないでしょうが。

なお、仲買人も獲れ方次第で漁期終了がいつになるか予想が付かないのでは、お得意先への出荷が漁期を通じてできず大変困りますので反対でしょう。

 

 (3)一般的な資源研究者

おそらく、専門家は「それぞれの方法にはメリット・デメリットがあり、対象となる資源と漁業の特性に合わせて正解が決まる」と答えるでしょう。上記の①から④までは日本型漁業の特性である漁獲努力量の調整による手法であり、その手法の簡便さから漁業者によって取り組みやすいメリットがある一方、魚の分布が時間と場所で変動することから、結果的に漁獲圧力が半分にならないデメリットがあり得ます。

⑤については、正確な資源変動予測ができれば理論上は厳格な管理が可能となるメリットがある一方で、資源変動予測より実際の加入が少ない場合には獲り過ぎて、漁獲圧力が半分にならないデメリットがあり得ます。

てな感じでしょう。

 

(4)「TAC真理教」の学者

「⑤のみが何が何でも正解」でしょう。その理由は上記(3)に挙げた理由のほか、漁獲努力量調整では、技術進歩で漁獲圧力が強まってしまうというでしょう。

たしかに、漁獲技術の進歩は漁業の生産性の向上のため必要なことで、同時に漁獲圧力の増加につながる恐れも否定できません。しかし、それは船の建造時などにおいて進歩するもので、短期間に進歩するものではありません。とりわけ、ここ20年来、規制(構造)改革路線によるデフレ不況で魚の値段が低迷し続け、漁業経営の悪化で漁船の更新が進まず、船齢は高まるばかりであり、最新鋭の機器を次々と導入するような余裕もありません。

それから、この話のおかしいのは、一旦漁獲努力量による規制を行なったら、その後何年間もホッタラカシにするような前提となってります。彼らの好きな外国ではそうでしょう。しかし、日本は違います。例えば、資源回復計画における実際の漁獲努力量の調整は、研究者と漁業者が会って毎年の資源評価と前年の漁獲実態(漁船の漁獲能力の変化も含む)を踏まえ検討されるのですから、漁獲努力量による管理を否定する理由にはなりません。

たしかに、漁獲数量だけで資源管理ができると思っている机上のTAC真理教学者では、つい「ボケー」として現場で起こっている漁獲能力の変化を見逃すでしょうが。

 

  • 「思い込み」という騙しのテクニック

「改革なくして成長なし」とは、小泉純一郎元首相のスローガンでした。当時国民は熱狂的にこれを支持しましたが、その結果は「改革で一部の者だけ成長した」で、まんまと騙されたわけです。いまから思えば、一部の強欲者が弱者を蹴散らし好き勝手にできる規制緩和という改革では、国民が成長するわけがなかったのです。

わたしが、なぜ上で資源管理の入門書のようなことをくどくど述べてきたかというと、このようなスローガンを何の疑いもなく信じてしまう、国民のその漫然とした「思い込み」こそが、規制改革会議の騙しのテクニックであり、その入り口の大前提におけるインチキを正していかなければならないと痛感したためです。人の言うことをそのまま真に受けるのではなく、一つ一つ現実に照らして自分の頭で考えてみようという例示として挙げたのです。

 

  • 漁獲量規制が一番という思い込み

ここで指摘したい資源管理における思い込みとは、TAC真理教学者がいう「資源保護には、漁獲量の総量規制(TAC)が一番」というものです。これを根拠として、日本ではTAC対象魚が少ない、もっと増やせ、と主張してます。例えば、

・漁業の先進国では・・・総量規制が、もっとも明確で、管理しやすく、効果があることが判明

・漁獲努力量で規制しても、漁業者は必ず別の方法で多くとる努力をするので、漁獲量の総量規制以外は意味がないことが諸外国では科学的・歴史的に証明されている

などです。

 

「漁獲量制限以外は意味がない」という主張は、素人の方でも少し調べればすぐわかる真っ赤な嘘です。もしその主張が正しいのなら、以下の3点が説明できないからです。

①日本でTAC制度が始まったのは平成8年ですが、それ以前に日本の資源は枯渇していない。

②それどころか、今もってTACの対象になっていない主要魚種についての水産庁の資源評価が、以下のように大変良い状況にある。

 

 

 魚種・系群

 

高位

中位

低位

カタクチイワシ

     

・太平洋系群

   

・瀬戸内海系群

   
・対馬暖流系    

マダラ

     

・北海道

   

・太平洋北部系群

   
・日本海系群    
ブリ    

③資源回復計画ではTAC対象魚種か、そうでない魚種かにかかわらず、漁獲圧力の削減は休漁などの漁獲努力量の調整のみで行い、資源を回復させた例が多くある。(資源回復計画の成果の詳細は後日詳しく説明します)

 

さらに、「漁獲量の総量規制以外は意味がないことが諸外国では科学的・歴史的に証明されている」も真っ赤な嘘です。

なぜなら、「本音で語る資源回復計画:p42」で触れておりますが、TAC制度発祥の地EUでは、40年以上にわたり110系群についてTACによる資源管理を実施してきましたが、4つの要因(①小型魚の乱獲②海中投棄③混獲④違反の発生)で資源管理に失敗し、新たな施策として日本と同じような資源回復計画を開始したからです。なんと底魚類の親魚は、1970年代の1/10まで減少したとしています。

 

  • 漁獲量規制(TAC)は目標であり手段ではない

 秋田県はハタハタの資源回復において3年間の禁漁を実施しました。それは決してTACをゼロにしたわけではありません。出漁しない又はハタハタを狙った操業はしない、という漁獲努力量の規制で達成したのです。もしその会議に、TAC真理教の学者がいたら、以下の小話のような面白いことになったことでしょう。

秋田県「それでは合意に達しましたので、来年から3年間の禁漁とすることにします。」

真理教学者「それはTACをゼロにするということですね。」

秋田県「いや違います。3年間ハタハタの操業を認めないということです。」

真理教学者「それではダメです。漁獲努力量で規制しても、漁業者は必ず別の方法で多くとる努力をするので・・・」

秋田県「おっしゃられていることが、理解できないのですが・・・」

真理教学者「漁獲量の総量規制以外は意味がないことが諸外国では科学的・歴史的に証明されています。皆さんそんなことも知らないのですか!」

会議出席者一同「???」

(「とっとと帰れ」という傍聴者からの声あり)

 

この珍問答がどうして起こるのかは、漁獲量規制とは、あくまで資源管理のための目標値であり、その目標値そのものがそれを達成するための漁獲圧力の削減手段を具体的に規定するのもではない、ということがわかっていない人が紛れ込んだからです。

TACゼロを達成するためには、漁期中船を港につないでおく、ハタハタのいる海域を全面禁漁区にする、漁具の搭載を禁止する、などが必要です。TACをゼロにしたら、自然に漁獲量がゼロになるわけではないのです。しかし、漁期中船を港にしばりつけておけば絶対に漁獲量はゼロになります。

 

これは多くの人が勘違いしていることです。繰り返しになりますが、TACを定めれば自動的に資源管理ができるのではありません。船が魚を獲るのであり、TACが魚を獲るのではない」からです。船の動かし方を調整しないと、TACは実際には管理できないのです。

だから、TACを定めればそれでこと足りると思っているTAC真理教の好きな外国では、いわゆるオリンピック制と言われるような操業になるのです。それを是正するために、IQを導入している国もありますが、これもただ目標を細分化しただけで、IQが魚を獲るわけでもないので、決して漁獲努力量の合理的な調整につながりません。

 

一方日本の漁業者は、仲間うちで協定を結ぶなどしてTACの計画的な消化のために、船の動かし方を細かく協議し、魚価の変動も見ながら水揚げ量の調整をしているのです。TAC真理教学者は、「総量規制が、もっとも明確で、管理しやすく・・・」と言っていますが、まさに「どこがじゃ!!」です。

TACという目標値を定めれば、それが自動的に実行につながり資源管理ができると思っている学者は、経済成長率をさだめたら、実際にもそのとおり経済が成長すると思って、企業ごとの生産事業計画に関心を持たない教科書経済学者のようなものといえましょう。

 

  • 勘違いは間違った3区分からか?

実はこの勘違いは、良く見かける資源管理の手法を3区分することから、きているようにも思えます。以下の図は、水産庁のホームページで紹介されているものです。資源管理手法として3つ挙げ、左の2つ(インプットコントロール、テクニカルコントロール)は、漁獲努力量の調整、右のひとつ(アウトプットコントロール)は、漁獲量(ここでは産出量)の調整でありますが、これは資源管理の目標と手段という質の異なるものを「ごちゃまぜ」にした図のように思えます。

              テスト

(上記の図は、水産庁のホームページから当該部分のみを抜粋)

そこで、以下のような「目標、手段、結果」に分けた図にすると、TACとは、資源管理の目標である漁獲率(F値)を推定資源量にかけあわせ、漁獲量として換算したものにすぎない、ことがわかります。資源管理の最終目標とは、TACではなく、F値を達成することです。わざわざTACがなくても、むしろ不確実性の高い資源量推定という過程を経へTACを定めなくても、ダイレクトに漁獲努力量の調整で資源管理が可能であり、むしろその方が「もっとも明確で、管理しやすく・・・」といえましょう。

 無題

  ただし、漁獲努力量の調整(船の動かし方)によらずTACを守る手段が一つだけあります。それは、獲った魚をいったん「いけす」で生かしておき、魚価を見ながら計画的に出荷し、TACの上限に達したら、網を開いて残った魚を再び海に戻すことです。これなら、「漁獲量制限以外は意味がない」という迷言も、現実味を帯びてくるかもしれません。もちろんそんな大きな「いけす」はありませんので、冗談ですから本気にしないでください。

 

  • タック・タック詐欺にご注意を

相変わらず続いている「オレ・オレ詐欺」も、電話の声をいわれるままに、自分の息子や孫と「思い込む」ことから被害にあうのです。規制改革会議の得意とするマスコミを通じた「改革なくして成長なし」などの「思い込み」の国民への刷り込みに対抗するためには、人の言うことを簡単に信じないこと、自分の頭でよく考えることが、詐欺にあわないコツではないかと思います。もちろん私の主張も同じです。どちらが正しいかよく比較し自分の頭で考えてください。

 

なお、誤解されないように念のため申し上げますが、私も資源評価そのものは、対象魚種を増やし、その質も向上させるべきと思っています。それがないと漁獲努力量の調整目標が立てられませんから。

しかし、不確実性の高い資源変動予測を確定的にとらえ、そこから導かれた漁獲量制限をもって、それがあたかも科学的な資源管理措置と主張するインチキ学者に対しては、断固反対しているわけです。私の主張は彼らとは全く逆で「不確実性のある資源管理には、漁獲努力量の調整が一番」ですから。

 

それにしてもIQ・ITQ真理教のある意味ご立派なところは、目的のためには「漁獲量の総量規制以外は意味がない」という嘘をも平気でいう、その厚顔無恥さです。

その目的とは、もちろん日本周辺の資源を強欲者がカネ次第で独り占めにできるITQ制度の導入であり、その前段にはIQが必要であり、さらにそのおおもとにはTACがあってはじめて目的成就となります。

だから、何が何でも日本型資源管理手法である漁獲努力量規制による資源管理に難癖をつけ、TACの対象魚種を増やしたいのです。みなさん、日本の周辺資源を新たなマネーゲームの投資先にしたい強欲者の手先と化した、TAC真理教学者によるタック・タック詐欺に注意しましょう。

 

 

 

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