目指すべきは「成長産業」ではなく「永続産業」

漁協と漁業権つぶしを「絶対にやる」と意気込む、官邸主導人事によって就任した農水省事務次官の期待を受けて、規制改革推進会議の水産ワーキング・グループ(以下「WG」)が、いよいよ平成29年9月20日の第1回を皮切りに開始されました。これまで規制改革の議論を行う場の名称はいろいろ変わってきていますが、一貫しているのは「素人の、素人による、強欲企業のための議論の場」であることです。

 

WGの委員に漁業の専門家が一人もいない(いると議論が正しい方向に行くので困る、どういう選定基準で選ばれたのかわからない専門委員はいるが、正委員の主張の弁護役にすぎない)この会議において、何か建設的結論が出るわけもなく、農協改革や加計学園特区の審議経緯を見てもわかるように「結論ありきの通過儀礼」にすぎません。ヒアリングと称して呼び出される方々にとっては、まことに腹立たしい限りでしょうが、何を言おうとも結論はすでに決まっていると思った方がよいでしょう。

 

被告人も弁護人も不在で、裁判官と検察官のみで審議が行われる法廷のようなWGの場でいくらあがこうが無駄です。決戦場は別にあります。それは、一方的な結論をもとにした制度改正のための国会への法案提出に先立ち行われる与党の部会等の場です。それを阻止できる唯一の頼みの綱は、良識ある水産系議員の頑張りだけです。漁業関係者は、一人でも多くの与党議員がそれに異を唱えるように要請して回る。そこに力を入れた方がよいのではないかと思います。

 

ということで、最下位で落選してしまった豊田真由子前議員のように「違うだろー」とブログで金切り声をあげても徒労に終わることは十分承知の上ですが、黙っているとWG委員の言い分が正しいものと、漁業の知識に乏しい一般の人々が思いかねません。よって

よくみてください、背広(一見立派な理屈)を着ていますが、後に大きなしっぽ(真の狙い)が見えるでしょう、あれは狸(強欲資本の手先)です

というように、今後このブログにおいて、「WGよ、それは違うだろー」シリーズを開始したいと思います。

 

1 「漁業の成長産業化」てなに?

 

WG立ち上げに先立つ規制改革推進会議(本体)以降の議論や資料をHPで読んで、一番気になる言葉があります。それは「漁業の成長産業化」です。その部分を以下に引用します。

平成29年5月16日 規制改革推進会議(第17回)終了後記者会見 議事概要 より

○大田議長 前回のワーキングは私が出られませんでしたので、事務局に補足してもらいましたが、キーワードは成長産業化です。林業も今、伐採できる状況にある木材がたくさんありますし、水産業も非常に豊富な資源に恵まれているわけですね。これを生かして、より成長産業にしていく。

平成29 年5月23 日 規制改革推進会議 規制改革推進に関する第1次答申 より

漁業の成長産業化等の推進と水産資源の管理の充実

(略)したがって、数量管理等による水産資源管理の充実や漁業の成長産業化等を強力に進めるために必要な施策について、関係法律の見直しを含め、検討を開始し、早急に結論を得る。

平成29年9月11日 規制改革推進会議(第20回)終了後記者会見 議事概要 より

○金丸議長代理

(略)国際的な競争性や国際的なルールのあり方なども研究しながら、水産業の成長産業化をゼロベースで検討してまいりたいと思っています。

 

平成29年9月20日 規制改革推進会議第1回水産ワーキング・グループ 議事次第 水産ワーキング・グループにおける今期の主な審議事項 より

1 漁業の成長産業化に向けた水産資源管理の点検 世界第6位の排他的経済水域(EEZ)を有効に活用し持続可能で成長力ある漁業を実現するために、(以下略)

3 漁業の成長産業化と漁業者の所得向上に向けた担い手の確保や投資の充実のための環境整備(略)このような観点から、海外の成功例や、特区等の先行事例の教訓を参考にしつつ、関連する諸制度の現状の分析、評価、検証に着手する。

 

 

これは、ほんの一部であり「漁業の成長産業化」は、水産庁の水産基本計画や全漁連がWGに提出した資料などにも広く使用されています。もちろん「漁業の衰退産業化」といわれるよりましで、そういわれて悪い気分を持つ漁業者はいないと思います。しかし、日々天候や資源の変動にさらされている現場の漁業者感覚からすると「なにそれ?」「そんなことできるわけがない!」というのがというのが率直な受け止め方ではないかと思います。

 

例えば、今私がいる鳥羽磯部漁協の答志支所は、以下のグラフのように平成15年度から平成28年度までの13年間で生産金額が165%に増加しています。

                                          単位:百万円

 

これは日本全体の海面漁業・養殖業の生産金額100.2%(平成15年:1兆4847億円→平成27年:1兆4875億円)や、この間の日本の名目GDPの成長率103%(平成15年:521兆円→平成27年:537兆円)と比較してもダントツですので、日本経済に20年以上にわたる低成長をもたらした規制改革派としても、称賛せざるを得ない「漁業の成長産業化」を実現した支所といえるでしょう。

 

そこで、この実現に大きな指導力を発揮した答志支所の運営委員長に「『漁業の成長産業化』という言葉がありますが、どう思いますか」と尋ねたところ、「何それ? うちの成績はたまたま海の環境が大きく悪化せず、系統事業利用の徹底など組合員の努力の結果である、しかし明日から全くどうなるかわからない、そんなこと漁業で言えるわけがない」との一言で、プイっとあっちに行ってしまいました。

 

当然です。生産環境をコントロールできる工場の中での計画的生産が可能な陸上産業と違い、例えばマイワシの漁獲量が1万トンから450万トンの間で変動するように、また大型低気圧により大被害を被った北海道のホタテのように、資源変動や自然災害に翻弄されながらもそれに耐え、生きていくしかないのが漁業の宿命です。漁業とは、あらゆる産業の中で最も「成長産業化」とかけ離れた位置にいる産業ではないでしょうか。

 

さらに今北海道で起こっていること、イカ、サンマ、サケマスなど多くの資源がなにゆえか同時に減少して深刻な状況にある事例を見ても「今は良くても明日からどうなるか全くわからない」のが漁業の現実です。資源変動や自然災害をコントロールできる神様にでもならなければ「漁業の成長産業化」などの言葉は、畏れ多くて言えるものではないと思います。

 

にもかかわらず、どうしていろいろなところで「漁業の成長産業化」がよく使われるのでしょうか。わたしは、それを3つのタイプに分けました。

①漁業に無知で、単純に「そうなるとよいな」で使う素朴な人

②表に出せないある意図が裏にあり、それを覆い隠すために使う人

③そんなこと無理は十分承知であるが、お上が使うので面従腹背で仕方なく使う人

 

 WGがどのタイプに当たるかは、言わずもがなですが、「成長産業化」に隠されたその意図を探っていきたいと思います。

 

2 外国と日本を比較した成長論議に何の意味があるのか

 

 規制改革派の主張の中には、当事者はうまく隠しているつもりでも、あからさまに「狸のしっぽ」が丸見えのものがあります。例えばよく聞く詐欺師的3段論法として、

・資源は漁業者のものではない⇒国民みんなのものだ⇒(だから)ITQ(譲渡性個別割当)で強欲企業のものに

・漁場は漁業者のものでない⇒国民みんなのものだ⇒(だから)特区制度で強欲企業のものに

などがその典型です。

 

これと同じく、「外国漁業は成長産業、日本漁業は衰退産業」も「狸のしっぽ」です。

「規制改革推進に関する第1次答申」には、以下のような記述があります。

平成29 年5月23 日 規制改革推進に関する第1次答申~明日への扉を開く~規制改革推進会議  より

② 漁業の成長産業化等の推進と水産資源の管理の充実

【平成29 年検討開始、平成30 年結論。結論を得次第速やかに措置】

水産を巡る情勢については、資源管理の問題が指摘されるとともに、漁業所得が低迷し、新規就業者も少ないなどの問題がある。この結果、世界的に漁業生産量が増大

する中、我が国は漁業生産量が減少しており、世界第6位の排他的経済水域(EEZ)を有効に活用できていない状況にある。さらに、世界では養殖生産量が大幅に増加し漁業生産量の5割に達している一方で、日本は2割にとどまっている。(以下略)

 

また、規制改革の応援団としての経済界御用達の「日経ビジネス」でも以下のように、センセーショナルな言葉で「成長する外国漁業」と「衰退する日本漁業」を対比強調しています。

 

2017年8月28日 日経ビジネス「ここまで朽ちた 独り負けニッポン漁業」より

漁業は世界の成長産業、日本は宝の持ち腐れ

・どんどん魚が減って漁業が縮小しているような印象も受けますが、実は世界的に見ると漁業は成長産業なのです

日本の漁業は右肩下がりが続きますが、世界的に見れば漁業は成長産業なのです

 

そこで、私から「日経ビジネス」にお返しの言葉を一言。

何を偉そうに! 自分たちこそ経済先進国で唯一のデフレ経済下にあり「独り負けニッポン経済」の状態にある。自分の頭の上のハエを追う方が先だ!

 

この「外国漁業成長・日本漁業衰退」論を水産庁が忖度したのか、それともWG事務局から「こういう資料を作って出せ」と命令されたのかわかりませんが、第1回WG会議に水産庁から以下のような資料が提出されたのをみて驚きました。

これは、水産庁の作成資料です。これではまるで「私はダメな衰退する日本漁業です。ご主人様、どうぞ鞭で打ってください」と言わんばかりです。「水産庁はマゾか!」。特にわざわざ「世界は2倍に、日本は1/2」と赤字で強調しているところには、悪質性すら感じます。このようなグラフを見ればその変化の背景を知らない一般国民はどう思うでしょうか。まさに国民に日本漁業に対する誤った印象を与えるための資料です。この資料に対し漁業関係者は、安倍総理のように「印象操作はやめていただきたい」と言うべきでしょう。

 

使用している数値は事実としても、それを単純に比較することで「嘘」を言うことができます。例えば、過去10年間のA(子供)の身長の伸びと、B(成人)の身長の伸びを、年齢を伏してグラフに表し、Aは成長人間でBは停滞人間というようなものです。私は日々漁業者が懸命に働く姿を目の前で見ているだけに、日本漁業者を愚弄するようなこの資料には強い憤りを覚えます

 

仮に私が漁業のことに詳しくない一般国民だったとしましょう。当然「これはひどい、日本の漁業政策は間違っている。WGの言うように変えるべきだ!」と思います。そこで、日本漁業を再び成長産業にできるというWGの主張を素直に信じて、次のような質問をするでしょう。

 

・WGの言うとおりにすれば、再び日本漁船は外国のEEZで自由に操業できますよね。

・WGの言うとおりにすれば、またマイワシが450万トン獲れるようになりますよね。

・WGの言うとおりにすれば、広い日本のEEZの全面が養殖場適地になりますよね。

・WGの言うとおりにすれば、狭い国土でも中国のように内水面養殖が増大しますよね。

・WGの言うとおりにすれば、海のブロイラーともいえるノルウェー・サーモンのレベルに日本の養殖魚の増肉係数も低下しますよね。

・WGの言うとおりにすれば、養殖業に打撃を与える台風も大型低気圧も赤潮もノルウェーのように心配する必要がなくなりますよね。

・WGの言うとおりにすれば、以前のように輸入水産物が少なくなりますよね。

・WGの言うとおりにすれば、福島第一原子力発電所事故による漁業への悪影響も直ちに解消しますよね。

・WGの言うとおりにすれば、年々悪化する伊勢湾内の夏場の無酸素層も改善しますよね。

・WGの言うとおりにすれば、減少する藻場も復活しますよね。

・WGの言うとおりにすれば、・・・・・・・・・・よね。

 

もうやめます。WGの主張は、単に強欲企業に海と資源をよこせだけですので、日本漁業の現状をもたらした要因の改善についての回答はすべて「NO」だからです。

 

WGの言うとおりにしても、日本漁業は成長産業化などしません。

 

それでもWGがやたら「成長産業化」を使うのは、上で述べたパターン②「表に出せないある意図が裏にあり、それを覆い隠すために使う人」に該当するからでしょう。もちろんその表に出せない意図とは、「企業が儲けたい」だけであり、それには多くの漁業者に撤退してもらう必要がある。しかし、それを正直に言うわけにはいかない。よって、「みんな成長産業化しますよ」という背広を着ていると思います。「衰退で脅し、成長で釣る」戦術ですね。

 

 成長に必要な議論の視点が欠けているのではないか

 

過去の日本漁業にも見事な成長の時期があったように「成長」そのものを私は否定しません。しかし、今の経済情勢下においての「成長産業化」には極めて懐疑的です。WGが掲げた以下の審議事項においては「成長産業化」を前面に出しながら、そのために必要な本質的議論の視点が欠けているからです。

水産ワーキング・グループにおける今期の主な審議事項

平成 29 年9月 20 日 水産ワーキング・グループ 座長 野坂 美穂

 

1.漁業の成長産業化に向けた水産資源管理の点検

世界第6位の排他的経済水域(EEZ)を有効に活用し持続可能で成長力ある漁業を実現するために、現在の水産資源管理手法等について評価・検証し、産出量規制や個別割当の積極的活用を含め、必要な見直しを行う。その際、長年にわたる栽培漁業の効果について事実に基づき検証し、水産資源の将来見通しや管理手 法の検討に当たり考慮する。

 

2.水産物の流通構造の点検

漁業者から消費者までの長いサプライチェーンの中で、漁業者が生み出す価値が消費者に適切に伝達・評価されていない可能性がある。漁業の成長産業化と漁業者の所得向上に向け、市場や流通業者の在り方や関連する制度・慣行を点検し、必要な見直しを行う。その際、消費者にとってのサプライチェーンに関するトレーサビリティの充実など、水産物の付加価値向上に寄与する仕組みの在り方についても検討する。

 

3.漁業の成長産業化と漁業者の所得向上に向けた担い手の確保や投資の充実のための環境整備

漁業就労者の高齢化や減少、漁船等の高齢化、潜在力を活かしきれない養殖場の小規模・老朽化等、遠洋・沖合・沿岸の漁場ごとの課題を克服するためには、意欲、経営力、資金力、新たな技術力など、多様な能力を有する担い手が漁業にチャレンジしやすい環境を整備することが必要である。また、縮小する国内市場と拡大する国際市場を見据え、輸出を促進する環境整備も必要となる。このような観点から、海外の成功例や、特区等の先行事例の教訓を参考にしつつ、関連する諸制度の現状の分析、評価、検証に着手する。

 

この審議事項に何が欠けているのか、それは以下の「成長産業」という言葉の定義を見ればわかります。

(成長産業とは)

成長率の高い産業。時代および国によって,また土地,労働,資本,技術などの生産要素と需要構造の組合せによって,最も需要が伸び供給体制が整った成長性のある産業はそれぞれ異なる。(ブリタニカ国際大百科事典より)

 

重要なことは、成長産業とは「生産要素と需要構造の組合せ」により達成され、生産サイドのみに着目してその供給体制を整えても、需要が伸びなければその産業は成長しないということです。WGの審議事項にはこの「需要」の点が欠けています。

 

実は、成長産業化という言葉は、最近使われ始めたものではありません。私が調べた範囲では、民主党政権時代に決定された「新成長戦略」(平成22年6月18日)において「農林水産分野の成長産業化」という言葉が始めて項目として大きく掲げられています。その内容は「6次産業化(生産・加工・流通の一体化等)や農商工連携、縦割り型規制の見直し等により、農林水産業の川下に広がる潜在需要を発掘し、新たな産業を創出していく」でした。その後、東日本大震災後に決定された「日本再生戦略」(平成2 4 年7月3 1 日)においては、「再生」という言葉が前面に出てきて「成長産業化」という言葉は、「6次産業化・成長産業化」とセットで使われているだけで、それが単独で使用される個所はありませんでした。

 

そもそも産業の付加価値とは、量、質(価格)、コストの3つの要素の組み合わせから成り立っています。農業も漁業もその量的拡大のための産業基盤は、土地、漁場、資源など有限で増やそうにも限界があります。よって、漁業を成長産業化させようとすれば、質(需要面での価格向上)に着目するのは当然といえます。6次産業化はそれに寄与するものであり、そのための企業参入には反対しません。にもかかわらず、なぜWGはその有限の生産基盤である漁場や資源への企業参入に狙いをつけるのか。

 

それは資本主義の宿痾(しゅくあ:持病)からきていると思います。常にフロンティアを拡大して成長し続けないと死に至るのが資本主義で、その先兵がWGです。加工、流通分野はすでに食い尽くしており、漁場や資源こそが、彼らにとって手が付けられていなかったニュー・フロンティアなのです。ここに「自分だけ成長産業化」という狸のしっぽが丸見えだから、私はWGの改革に反対するのです。

 

そういう観点からすれば、漁業とは、漁協と漁業権をつぶし、IQ・ITQを導入させ、漁場や資源を企業に渡せば、成長するような産業ではありません。まだ民主党政権時代の方が「農林水産業の川下に広がる潜在需要を発掘」という「成長産業化」に欠かせない需要面への視点があったように受け止められます。

 

これまでわが国では、「競争なきところに成長なし」という規制改革の方針のもとで新規参入を図り、事業者間の競争を激化させてきました。しかし、以下の経済成長率の国際比較のグラフのように、ほとんどの年次において見事に最下位をキープしており「独り負けニッポン経済」となっています。

さらに、この経済成長率が実際の賃金上昇率に与えた影響を、以下のILOのG20国との比較データから見ると多くの国が上昇している中、日本の賃金は低下しました。

日本漁業が成長過程にあったころは、高度経済成長下における賃金の上昇により水産物への需要が増大し、魚価の上昇が漁業の成長を支えました。近年の外国漁業が成長したのも同じような良好な経済情勢下にあったからでしょう。大きく賃金が伸びる外国と減少する日本、この大きな差こそが「外国漁業は成長しているのに日本漁業は衰退」の大きな要因して指摘せざるを得ません。それぞれの国の経済や漁業の発展過程はもともと異なるのです。子供と成人の身長の伸びを並べて比較しても意味がないのです。

 

繰り返しますが、成長産業とは「生産要素と需要構造の組合せ」により達成されます。水産物の購入層である圧倒的多数の日本国民が、規制改革路線下で貧しくなるばかりであり、人口減少も進む中では、需要は増えません。加計問題があろうが、全くそれを改めようとせず、ますます需要を減退させる政策を続ける現行政権下では、日本漁業の成長産業化など望めないということです。

 

 もう一点細かい点ですが、ある見解について指摘しておきたいことがあります。その見解とは、日本の海面漁業漁獲量の推移に関するもので、遠洋漁業からの撤退やマイワシ資源の減少という二つの要因を取り除いても、次第に減少してきており、それはおよそ100万トン程度と推定され、資源の減少が要因というものです。

 

確かに、海面漁業漁獲量が、二つの要因が関係していない直近の10年間でも100万トン弱(平成16年447万トンから平成27年355万トン)まで約20%の減少となっています。もちろん、資源の減少もその要因の一つであるかもしれません。しかし、漁業現場にいる私の感覚、特に熊野にいたころの経験からすれば、それは漁業者が「魚を獲りにいかなくなった」という要因も大きいと考えられます。

 

魚価は安い、燃油は高い、となれば漁業者は当然出漁日数を制限するようになります。その傾向は近年の水産研究所の資源評価にも表れており、CPUE(単位努力量当たり漁獲量)が増加しているのに、漁獲量は減少するという以前では考えられない傾向も散見されます。

 

もし、日本が規制改革路線による経済施策の失敗(デフレ、賃金の低下など)を起こしていなかったならばどうなったでしょう。仮に10%の魚価アップでも大いに漁業経営の改善につながり、出漁日数が増え漁獲量も維持されていたのではないかと思います。

 

「日本漁業が衰退産業というのなら、それはお前のせいだ!」と、世界の中心で規制改革推進会議に向かって叫びたい気分になります。

 

4 「成長産業化」ではなく「永続産業化」を目指そう

 

 「成長」という言葉には快い響きがあります。「成長を目指さないものは衰退するしかない」も一見説得力があります。しかし、これはすべての状況において正しいことでしょうか。子供がどんどん成長する様子を見て、親は「大きくなったね」と喜びます。しかしいつまでも成長が止まらなかったら、これは病気ではないかと逆に心配します。正常細胞とがん細胞の違いは、前者は周辺環境に合わせ増殖したりそれをやめたりコントロールされているが、後者は増殖を無限に続ける、そこが違うのです。何事にも成長して良い時と悪い時があるといえます。

 

マルクスやシュンペーターが言った資本主義はいずれ崩壊する運命にあるとは、際限なくフロンティアを求め富の蒐集をつづける資本主義の宿痾を指していると思われます。それは、がん細胞が最終的に宿主の命を奪い、自らも死に至る過程に極めて似ています。もちろん、精神面や知識・技能などの能力の側面において人間は成長を続けますが、それと物質的な成長とは異なる問題です。

 

トマ・ピケティも「たった年1%の成長率でも、30年で35%、100年で27倍となり、(常に成長を追い求めることは)歴史的にも、論理的にも幻想」と言っています。まして有限の漁場や資源を相手にする漁業においては、かならず成長できない時が来るということ。それは今は成長下にある外国漁業にも避けられない宿命と言えます。

 

 では外国に先駆けてその成長の限界に達した日本漁業は、今後何を目標として生きていけばよいのでしょうか。あえて言えば「漁業とは、持続しない成長と持続しない衰退の間で持続(永続)していく産業」ではないでしょうか。目指すべきは「漁業の成長産業化」ではなく「漁業の永続産業化」です。これは、江戸時代260年間の安定経済を支えてきた商人の家訓「家業の永続を第一とする」とおなじです。

 

 では「永続化」のために何をするのか「成長産業化」とどこが違うのか。そのための施策を一つだけ挙げておきます。「永続化」のためには、多様な漁業を維持すること、それに尽きると思います。それは多様な資源を多様な商品形態として供給できる漁業形態、これこそが漁業の永続のために必要な需要の永続性の確保にもつながるからです。

 

日本には外国漁業とは比較にならない多様な漁業種類があります。しかし、その対象とする資源や需要の変動で漁業種類間での盛衰は避けられません。今は元気が良い漁業でも資源と需要のいずれかがおかしくなると衰退を始めます。その一方で、今は非効率とされている漁業も逆に復活する状況が生じてきます。

 

例えば、青のり養殖では、その価格はこの数年で3倍にも上昇し、後継者も帰村し始めましたが、それも厳しかった時代を乗り越えて維持されてきたからでしょう。一本釣りは各地で高齢者が細々と営む漁業になりつつあり、そのうちなくなるのではないかと心配されます。しかし、その品質においては網漁業のものとは違います。その高品質魚を求める高級料亭や寿司屋の需要を失ってはなりません。若い人にその漁業を引き継いでいく必要があります。

 

漁業の永続性には自信があります。今隆盛している自動車業界が1万年後にもあるかどうかは神様にも言えないでしょうが、漁業は確実にあると私でも言えます。なぜなら、すでに漁業には縄文時代からの1万年以上の歴史があるからです。

 

このような観点からすると、水産基本計画にある「効率的かつ安定的な漁業経営体となるべく育成し、今後の漁業生産を担っていく主体として位置付け(略)これらの経営体に経営施策を重点化」という「今が良い漁業」への施策の集中では、その対象となる漁業種類以外の「今が非効率な漁業」は切り捨てられ、「今が良い漁業」もいずれ減っていき、最後は施策を集中する「今が良い漁業」がなくなるというように「漁業の永続性」の維持ができなくなるのではないかと思います。

 

それでは、最後にとっておきの「日本漁業の成長産業化」が達成できる秘策を披露しましょう。それは、規制改革推進会議の金丸議長代理が、平成29年9月11日の規制改革推進会議(第20回)終了後記者会見においておっしゃられた「水産業の成長産業化をゼロベースで検討してまいりたいと思っています」という規制改革推進会議における聖域なき議論という大英断に従った提案「輸入水産物の全面禁止」です。

簡単なことです。たったそれだけで目的は達成できます。どなたかこれをWGの委員にそっと教えていただけないでしょうか。そんな良いアイデアがあったのかと大喜びすると思います。

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です