この方だーれ?(前編)

この世において、見知らぬ素人に自分の運命を決められるほど不幸なことはない」(by読み人知らず)

 

規制改革推進会議の水産ワーキング・グループ(WG)の4人の委員の顔ぶれは以下の通りです。

【水産WG】 平成29年7月20日 規制改革推進会議決定

○座長=野坂美穂委員(多摩大学経営情報学部専任講師)

○座長代理=原英史委員(政策工房代表取締役社長)

○委員=長谷川幸洋委員(東京新聞・中日新聞論説委員)

〇委員=林いずみ(弁護士)

これほど水産業界にとって不安な人選はないのではないかと思います。なぜなら、この人たちに水産というものがわかっているとは到底思えないからです。例えれば医学部を出ておらず、医師免許がない者に病気の診断・手術をされる患者のようなもので、不安で仕方がありません。「なるほど、水産のことを十分知り尽くしたこの人が言うのならそうかもしれない」などと、このメンバーに対しては絶対思わないからです。

 

それにしても、規制改革の議論とはどうしてその対象分野の専門家が不在の委員構成によって行われるのでしょうか。これは規制改革推進会議の農業WG委員も同じで、私と同じ疑問が平成28年10月26日付けの「農業協同組合新聞(電子版)」で以下のように掲載されています。

     農業WG委員「農業のことは素人」と発言

規制改革会議の後継組織として9月に発足した「規制改革推進会議」。農業WG(ワーキング・グループ)も9月13日に第1回会合を開きこのほど議事録も公開された。それによると委員は自己紹介のなかで次々に「本当に農業のことは素人でございます」、「これから勉強させていただきたい」とあいさつしていたことが分かった。

・弁護士の林いずみ委員は3年前の規制改革会議から引き続き農業WGの委員となった。農協改革を提起したメンバーの一人でもある。それでも「本当に農業のことは全く素人でございまして」と挨拶。一方で、「昭和20年代の占領下でつくられた農業委員会法、農地法、農業協同組合法、この3つを基にした、いろいろな慣行も含めた非常に絡み合った制度の問題を解決しないことには次世代への農業の継続ができないことを痛感しました」と3年前の改革議論を振り返っている。

・東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏も再任された委員。しかし「農業にはまったく素人」と挨拶

・今回、新たに委員になった野坂美穂・中央大学ビジネススクール大学院戦略経営研究科助教は水産が専門。「農業についてはこれから勉強させていただきます」

また、ド素人は委員だけでなく、規制改革推進会議の事務局の役人も同じであり、「協同組合」と書くべきところを「共同組合」と書いた名札を用意したとかで、その無知ぶりをちゃかした記事もネットにありました。

 

こんなド素人の方々でよいのならば、今度「自動車産業規制改革WG」が発足するときには、ぜひド素人の私を推薦していただければと思います。そこで私も「自動車産業のことは全くのド素人ですが、〇〇や△△の問題を解決しないことには次世代への自動車産業の継続ができないことを痛感しています」とシャーシャーとあいさつしたいと思います。

 

ド素人に痛感されては、どんな業界もたまらないと思いますが、それが現在の独裁者規制改革というものであきらめるしかないのでしょうか。その産業の生死にかかわる重要事項が、何ら国民の信任を得たわけでもないド素人に決められるのです。こんなことがこの主権在民の民主主義の下で堂々とまかり通ってよいのでしょうか。

 

もちろん素人がすべてダメというわけではありません。水産政策審議会にもマスコミ出身者など水産には素人の異分野の方が委員として参画し、それぞれの社会的視点から施策のあり方に意見を述べています。それが水産の専門家にない新たな視点から建設的な議論を生むこともあるでしょう。しかし、そこには水産関係の委員もおり、少なくとも事実に基づかない偏向した議論がなされることへの抑制が効くバランスが保たれた委員構成となっていることが必要です。

 

いや、WGには、水産分野に詳しい専門委員がいるじゃないかという反論があるでしょう。しかし、その専門委員とはどういう基準で選任されたのかが明らかにされていません。その選任基準が公開されていない以上、あらかじめ決めた結論に賛成の専門家を集めて「ちゃんと専門家の意見を聞いていますよ」と言われても「ハイ、わかりました」とはなりません。さらに、専門委員は、規制改革推進会議令第2条第3項において「当該専門の事項に関する調査が終了したときは、解任される」となっており、その結果を取りまとめる規制改革推進会議の議決権もありません。

 

 また「野坂美穂委員は水産の専門家である、だから水産WG座長として適任」との反論もあると思います。確かに、上にあげた農業協同組合新聞にもそう書いています。また、そのことについてはご本人も、平成28年9月12日に開催された第1回 規制改革推進会議の議事録をみるとそのような趣旨のことを、発言されています。

第1回 規制改革推進会議 議事録 より

日時:平成28年9月12日(月)16:27~17:24

○野坂委員 中央大学ビジネススクールの野坂と申します。

私自身、ここ数年、1次産業の6次産業化、また被災地域の水産業のイノベーションに関心を持って研究をしてきました。その中でも、水産特区の事例は、民間企業の参入により、生産性を向上させ、雇用の増加をもたらし、また、それらが結果的に村落の再生、地域の再生のつながったという点で、イノベーションのインパクト、特区の意義は非常に大きいものであったと感じております。

また、そうした内容につきましては、慶應大学の川本先生、淑徳大学の矢尾板先生とともに議論をさせていただきながら、本年3月に上梓しました本の1章分に「地方創生と規制改革」としてまとめさせていただきました規制改革をテーマにして、現在も勉強中でございますが、また先生方に御指導いただきながら、会議に貢献できるように、意見を述べさせていただきたいと思います。

若輩者ではございますが、何とぞよろしくお願い申し上げます。

しかし後で述べるご本人のこれまでの学会等における活動から言わせていただければ、野坂委員は「新自由主義的地域経済改革」の専門家であり、その研究フィールドとして被災地域の漁村の現地調査を数回行っただけで、「水産分野の専門家」とはいえないと思います。私が思うに、野坂委員が水産に関わることになった動機は、ご本人及びお仲間の研究者の業績等からして、被災地漁業への新自由主義的改革の導入やその評価が目的ではなかったかと思わざるを得ません。

 

このように受け止めるのは私だけではないと思います。野坂委員は平成28年9月に「規制改革推進会議」の委員に就任されましたが、私の知る限り水産関係者で、水産の専門家が就任したと認識していた人はいなかったと思います。その後、平成29年7月20日に開催された第19回規制改革推進会議で水産WGが設置され、その座長に野坂委員が就任したことが報道され、始めて水産関係者は「この方だーれ」と、その経歴などを調べ始めたのが実態でした。それにしても大学入学年次(平成12年4月慶應義塾大学商学部入学)から推測しますと、座長に就任されたときは36歳という若さであったのには驚きます。どのような能力や業績が高く評価されたのでしょうか。興味がわくところです。

 

そこで、現在、野坂美穂委員がお勤めの多摩大学のHPでその経歴や業績等を拝見すると概要以下のようです。

 

<職名>専任講師

<所 属>経営情報学部 経営情報学科

<主な職歴>淑徳大学(サービスラーニングセンター助手、兼任講師)、中央大学ビジネススクール助教

<プロフィール>慶應義塾大学商学部卒業、慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程修了(経営学専攻)、慶應義塾大学大学院商学研究科後期博士課程単位取得退学(経営学専攻)。淑徳大学サービスラーニングセンター助手を経て兼任講師、中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)助教を経て、2017年より現職。

 

さらに、関心のあるその活動等については以下のようになっています。

学 会 及 び 社 会 に お け る 活 動 等

現在所属している学会   経営学史学会、異文化経営学会、国際戦略経営研究学会、地域活性学会 

2006年9月

国際プロダクト・プログラムマネジメント学会 運営委員会事務局スタッフ(2009年3月まで)

2014年7月

千葉市中央区地域活性化事業助成金(2014年度・単年度)事業名「未来の商店街を創造するフューチャービジョンワークショップ」(代表者:野坂美穂)(2015年3月まで)

2014年8月 千葉県高齢者福祉課「元気な高齢者の地域活動等促進事業」(2014年度・単年度)を受託(代表者:矢尾板俊平)(2015年3月まで)
2015年4月

日本経済政策学会第14回国際会議プログラム委員会事務局スタッフ(2015年11月)

2015年6月 静岡県川根本町総合計画策定委員会オブザーバー(アドバイザー)※静岡県川根本町「まち・ひと・しごと」総合戦略有識者会議も兼ねる。(2017年6月まで)
2015年7月 千葉市中央区地域活性化事業助成金(2015年度・単年度)事業名「世代間交流と協働を通じた白旗未来創造事業」(代表者:野坂美穂)(2016年3月まで)
2016年5月

茨城県笠間市、事業名「「学び」と「就労」の仕組み構築事業」研究会委員(2017年3月まで)

2016 年9 月 内閣府規制改革推進会議委員

このHPを見る限りにおいては、水産系の学会には所属しておらず、「被災地域の水産業のイノベーションに関心を持って研究をしてきました」とご本人が発言された内容はここでは見当たりません。

 

野坂委員が「水産の専門家」であるかどうかは、客観的基準があるわけでもないので、もうこれくらいにしておきます。しかし、規制改革推進会議が行おうとしている区画漁業権の見直しなどは、その審議結果次第では、漁業者の職を奪い、漁村を崩壊させかねない大問題です。よってその審議を仕切る公的責任を負った立場にあるWG座長に就任された野坂委員とは、いったいいかなる経歴を持ち、どのような考え方を持った方なのか、について否が応でも水産関係者は強い関心を抱かざるを得ません。よって、あくまで私が調べることができた範囲内ですが、その投稿文や著書などを読んで私なりに感じたことを述べていきたいと思います。

 

1 雑誌「選択」への投稿文を読んで

 

野坂委員が水産WGの座長に就任されたあと、「この方だーれ」と関心を持って探し始めて最初に入手したのが、雑誌「選択」平成28年7月号「日本漁業を成長産業化に転換するために改革を進めよ-資源管理制度の課題と方向性-」中央大学大学院戦略経営研究科助教(当時)という肩書での4ページにわたる投稿でした。

 

私は、それをあっという間にスラスラと読んでしまいました。なぜかというと、書かれている内容がすでに耳だけではなく、目にもタコができるくらい聞かされ読まされてきたKが頭文字につく学者(?)の資源管理論に全く同じだったからです。もちろんそれは、日本漁業はダメ、ノルウエー漁業は素晴らしい、日本はオリンピック方式で早獲り競争だ、IQ・ITQを導入せよ・・・です。しかもまるで句読点まで一緒じゃないかと思うくらい。

 

そこで、私の抱いた疑問を以下に掲げたいと思います。

 

(1)専門外のことを学者の肩書で投稿してもよいのか

 

 私がまず驚いたのは、書かれている内容が「資源管理制度」であり、具体的にはIQ・ITQの導入です。IQ・ITQとは一般の国民には(というか漁業者ですら一部の沖合漁業者を除き)ほとんどなじみのない専門用語です。中央大学大学院戦略経営研究科には、資源管理講座がありその授業でも担当しているのでしょうか。そんなはずはありません。また、野坂委員の過去の業績にもそのような知見を有していると思われる論文も見当たりません。

 

仮にこの投稿の主題が「被災地における漁村・漁業問題」であれば、この投稿にはご自身の専門性もあり社会的価値があるでしょう。しかし、その分野の専門家でもない者が語る「資源管理」とはいったい何の意味があるのでしょう。これでは、夏休みの宿題「日本の資源管理について考えてみよう」に対し生徒が先生に提出したレポートです。

 

そのような専門外のことの読書感想文を、あたかもそれが自分の意見であるかのごとくに、学者の肩書で雑誌に投稿するのは社会的常識として、読者に失礼ではないでしょうか。普通であれば雑誌社からの依頼に「その内容であれば、私ではなく専門家の方に依頼されてはどうですか」となるとおもいます。なにか、その専門家の名前を出せない裏事情でもあったのでしょうか。

 

(2)他人の主張の丸写しでは、剽窃(ひょうせつ)にあたるのではないか

 剽窃(ひょうせつ)とは

他人の著作から,部分的に文章,語句,筋,思想などを盗み,自作の中に自分のものとして用いること。(ブリタニカ国際大百科事典より)

野坂委員が、資源管理の本を読んで知識を得ることは問題ではありません。しかし、その知識はあくまで他人の書いた著作などから得たものです。であれば、雑誌に投稿する際に、一市民ではなく、研究者としての自分の肩書を明示しているのですから、そこに誤解が生じないように、だれがそういっているのか出典を明確にすることが、研究者としてのマナーではないでしょうか。ところが、この投稿ではあたかも自分自身の考え方であるかのように断定的に書かれています。その一つを以下に引用します。

我が国では、オリンピック方式が長年採用されてきた。この方式では、漁業者間の早獲り競争となり、少しでも早く多くの漁獲量を確保しようとする漁業者らによって乱獲招き、資源の枯渇をもたらす。(雑誌44ページ3段目中ごろよりそのまま転記)

こんなことを言っている学者を私は二人しか知りません。圧倒的多数の資源研究者がそう言っており、これが広く世に認められた定説であれば、あえて引用しなくてもよいでしょう。しかし、この希少性に富んだ主張をする学者からすれば「俺が言っていることをそのまま自分の考え方のように書くな」と抗議したい気分でしょう。

 

 野坂委員はどうしてこのような剽窃に該当しかねないことをしたのでしょうか。これから先は私の想像ですが、この投稿はゴーストライターとの共作であり、むしろ野坂委員の方が自分の名前と肩書を剽窃されたと考えた方がすんなり理解できます。これは「逆剽窃」です。定義すると以下になりますか。

 

「他人の著作に,部分的に自分の文章,語句,筋,思想などを挿入し、あたかも他人自身がそう主張しているように世に広めること」

 

(3)その主張に整合性がとれていない気がする

 

 この投稿の冒頭に以下のような記述がありました。少し長いですがそのまま引用します。なお、A,B,Cは文章を区切るために私が付けました。

A 2011年3月の東日本大震災における震災ショックは、これまで看過されてきた我が国の根本的な水産業における問題を露呈させ、水産業従事者および関係者らが、現行の制度や水産業のあり方について見直す大きな機会となった。

 

B 筆者はここ1年程、数回にわたり、被災地沿岸地域の漁業者、漁業協同組合、をはじめとする漁業関係者らにヒアリング調査を行い、一部の現場の声を聴いてきた。震災から四年が経過した今、被災地の漁業者らは明るく、そして前向きな姿勢で、生業である漁業を行っているように感じている。また、被災地では新しい取り組みもちらほら見られ、若手漁業者のグループによる六次産業化や、全国へ向けた水産物のPRが積極的に行われている。

 

C その反面、漁業における根本的な問題は、まだ解決されていないままであり、これらは日本が直面する問題の縮図とも言えるのではないかと思われる。

 

以下、これを読んで疑問に感じたこと述べます。

 

 正直にいってこの冒頭文は、理解できませんでした。AとBとCの間のつながりがちぐはぐなのです。「木に竹を接ぐ」の典型的な文章です。より正確に言えば「A木にB竹を接ぎ、またC木を接ぐ」といった、木で竹をサンドイッチにした文章構成となっています。

 

 まず、Aでは「大震災が水産のあり方を見直す機会となった」と言っています。次にBで「被災地の漁業者は頑張って新たな取り組みもみられる」と言っています。ところが、Cで「その反面、根本的問題が解決されていない」としています

 

だから、AとBとCはどういう因果関係にあるというのでしょうか。特に、Cの「その反面」とは何の反面でしょうか。素直に解釈すれば、現場は頑張って復興しているが、根本問題が解決していないということでしょうか。根本問題が解決できていないのならBの現実がなぜ起こるのでしょうか。

 

私の率直な受け止め方を言います。野坂委員はこの冒頭の文章で、同氏の建前と本音の乖離を図らずも露見してしまったのではないかということです。同氏の建前とは、市場原理(競争)を導入して改革を推進すべき立場でしょう。一方、本音とは、現場は協業化(協調)を通じうまくやっているという個人的見解です。AとCが建前で、Bが本音です。

 

市場原理と協業とは、「競争」と「協調」という全く対立する概念です。産業の効率化を図るため「排除」の手法を用いるのが前者で、「共生」の手法を用いるのが後者です。なお、この具体的例としての私のイメージは以下の通りです。

    市場原理(競争)と協業(共生)のイメージ 

 

ある地域に三人の漁業者がいたとする。それぞれの経営を「所得:I=生産量:Q×価格:P コスト:C」の式に当てはめると、三人の間で所得に大、中、小の差が生じている。市場原理による効率化の方法は、一番所得の少ない効率の悪い漁業者の漁獲量を、一番所得の高い競争力のある漁業者が買い取り、生産性を上げる。ただし、一番所得の少ない漁業者は漁業から退場となり、あとは自己責任でどこかに行ってくれとなる。

一方、協業は地域全体の漁獲量を前提とし、付加価値を上げ、コストを下げて所得を増やし、一人でも多くの漁業者が浜で生きていけるように目指すことである。その最もっとも典型的なやり方は、儲けの一番少ない漁船を一隻削減し、余剰人員をそれまで外部に発注していた仕事や魚の付加価値向上の作業に従事させ、全体としての魚価の向上とコストの削減を行おうとするもの。

     所得    生産量  魚価  コスト

A漁業者 I1:大 = Q1 × P1 - C1

C漁業者 I3:小 = Q3 × P3 - C3

B漁業者 I2:中 = Q2 × P2 - C2

 

市場原理では排除と富の集中の論理

・A漁業者がC漁業者の生産量(漁獲枠)Q3を買い取り、Q1の増大で所得I1を増大

・C漁業者は漁業から撤退。後の生活は自己責任(場合によっては国民負担→財政悪化)

協業では共生と富の均衡の論理

・C漁業者の漁業生産手段(漁船、定置網等)を削減しコストCを減少

・Q3をA、B漁業者に移転し、生産性を向上させ所得I1、I2を増大

・C漁業者は、Q1、Q2の販売に従事し、P1、P2の魚価向上

・過去の実績などを基準とし、全体所得IをA、B、C漁業者の間で分配

本来、野坂委員は市場原理の立場と思うのですが、不思議なことにこの投稿では「協業」も評価しており、その部分の記述は自ら現場で取材したためか、それがうまくいく場合といかない場合も含め具体的に論じられており、説得力が感じられます。また、野坂委員は、「岩手県被災沿岸地域の水産振興に向けた持続可能な協業化の成立要件に関する検討」などの論文も発表されており、新自由主義者の信奉する「今だけ、金だけ、自分だけ」主義の対極にある「持続可能な協業化」を説いているようにも伺えます。

 

その一方で、この投稿文には、ご自身の研究成果と全く脈絡のない「ノルウエー漁業素晴らしい」「IQ・ITQ制度を導入すべき」という借り物のような無味乾燥な言葉も挿入されています。つまり野坂委員は、「災害現場に市場原理を導入せよ」という使命を帯びて現場に出たら、「協業化」で復興している漁業者を見て評価せざるを得ず「ミイラ取りがミイラになりつつある」のではないでしょうか。だから冒頭の文章の整合性がとれておらず、理解しにくかったのかと私は勝手に推測しました。

 

(4)嘘はよくない

 

私には、いくら借り物の建前とはいえ、AとCの記述には明らかな嘘が書かれていると思います。

A 2011年3月の東日本大震災における震災ショックは、これまで看過されてきた我が国の根本的な水産業における問題を露呈させ、水産業従事者および関係者らが、現行の制度や水産業のあり方について見直す大きな機会となった

よくもまー、こんな加害者と被害者が逆転したような嘘を書けたものだと思います。

 

「水産業における問題」とはいったい何でしょうか。岩手県下の漁村の復興において水産業のあり方に関する問題など何もありません。復興において漁協や漁業権が妨げにでもなったのでしょうか。全く逆です。常に現場に密着し、全組合員の名前と顔が頭に入っていた漁協職員こそが、災害直後の被害の確認やその後の復興に最も貢献したと聞きました。これは「漁協を核にした漁業・養殖業の構築」を水産業の復興方針に掲げた達増拓也岩手県知事の後押しもあったからとも思います。漁協を排除し、外部企業に復興を委ねたどこかの県知事と違います。

 

もうみなさんお分かりですね。この露呈した問題とは、宮城県水産特区のことです。規制改革会議(当時)と村井嘉浩宮城県知事が結託し、被災からの復興に苦しむ漁業者の猛反対を押し切って企業の区画漁業権への参入を強行したことです。ハリケーン「カトリーナ」の災害後にニューオリンズで行われた新自由主義的経済改革実験、いわゆる悪名高き「ショック・ドクトリン(惨事便乗型資本主義)」がついに日本でも行われてしまった、そのことが問題なのです。 

 

問題を露呈させた主語は、天災でも漁業者でもありません。「火事場泥棒」という人災が主語なのです。被害者と加害者を逆転させてはいけません。

 

さらに、「水産業従事者および関係者らが、現行の制度や水産業のあり方について見直す大きな機会となった」の嘘には、もう笑うしかありません。水産業従事者および関係者らは、水産特区会社の強行とその後会社が利益優先主義により起こした社会的不祥事を目の当たりにし、現行の協同組合や漁業権制度の重要性を一層強く認識したからです。この部分を事実に基づき主語を正しくすれば、以下のようになると思います。

 

「規制改革推進会議と宮城県知事ら新自由主義者が、(水産特区の惨状を経験し)これまでの規制改革のありかたについて見直す大きな機会となった」と。

 

以上から、

C その反面、漁業における根本的な問題は、まだ解決されていないままであり、これらは日本が直面する問題の縮図とも言えるのではないかと思われる。

についても、以下のように修正すべきでしょう。

C その反面、我が国の経済を低迷させ格差を拡大させてきた規制改革という根本的な問題は、まだ解決されていないままであり、日本が直面する問題の縮図とも言えるのではないかと思われる。

 

どうですか、このように修正すれば、A,B,Cがすんなりと筋の通った文章になりますよね。

 

以上が、雑誌「選択」への野坂委員の投稿文への私の感想でした。

 

後編では、野坂委員の自己紹介にあった「平成28年3月に上梓しました本の1章分に『地方創生と規制改革』としてまとめさせていただきました」の著書「世の中の見え方がガラッと変わる経済学入門 PHP出版社 平成28年3月25日」を読んだ感想を述べていきたいと思います。

 

1 comment for “この方だーれ?(前編)

  1. メラー
    2018年2月28日 at 2:06 PM

    はじめまして。
    野坂美穂からこのサイトにたどり着きました。
    『経済学入門』の第8章「地方創生と規制改革」を読み、呆れ果てているところです。
    貴殿のブログで、私の感覚の正常さが分かりました。
    これからも読まさせていただきます。
    私は真珠産業の研究をしているものです。

    メールを頂ければ、細部について語りたいと思います。

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