農水大臣は大丈夫か? 水産議員に期待!

あけましておめでとうございます。

いよいよ強欲企業の儲けのために、漁業者からその生存基盤である海と資源を奪おうとする規制改革推進会議との決戦の年を迎えました。今年は漁業者にとって、戦後最大の人災が起こりかねない厄年ともいえます。

 

1 農水大臣の年頭所感の問題点

 

水産経済新聞の年明けの元旦号では、カラー刷り満載の新年の特集が組まれ、農林水産大臣の「年頭所感」が掲載されます。私は早速それを読み、正直愕然としました。それは水産政策という項にあった以下の文章です。(なお、年頭所感の全文は農林水産省のHPhttp://www.maff.go.jp/j/kunzi/h300101.htmlからもご覧になれます。)

水産政策

 

この三十年間で、世界では水産物の需要が増大し、漁業生産量も二倍に拡大したのに対し、我が国の漁業生産量は半減しました。

このような中、今後の水産政策においては、我が国周辺に広がる世界有数の広大な漁場の潜在力を十分に活用し、水産資源の適切な管理と水産業の成長産業化を両立させ、漁業者の所得向上と年齢バランスのとれた漁業就労構造を確立させなければなりません。

このため、国際的にみて遜色のない科学的、効果的な水産資源の評価・管理方法を確立し、水産資源を維持・回復させるとともに、漁業に関する制度を、漁業の生産性の向上を促進し、新規参入がしやすくなる公正なシステムにしていくことが重要です。現場の実態をしっかりと踏まえながら検討を深め、本年夏を目途に、具体的な改革案を取りまとめます。

 

愕然としたのは特に下線を引いた3か所です。規制改革を忖度した役人が書いた原案を農水大臣がザーとみて了承したものでしょうが、これは酷すぎます。これでは、あの「ド素人の上から目線の無責任言い放題」規制改革推進会議の委員のレベルと全く同じです。

 

(1)「世界では水産物の需要が増大し、漁業生産量も二倍に拡大したのに対し、我が国の漁業生産量は半減」について

 

この記述については、すでに私がこのブログ「目指すべきは「成長産業」ではなく「永続産業」」において以下のように指摘しました。

特にわざわざ「世界は2倍に、日本は1/2」と赤字で強調しているところには、悪質性すら感じます。このようなグラフを見ればその変化の背景を知らない一般国民はどう思うでしょうか。まさに国民に日本漁業に対する誤った印象を与えるための資料です。この資料に対し漁業関係者は、安倍総理のように「印象操作はやめていただきたい」と言うべきでしょう。

使用している数値は事実としても、それを単純に比較することで「嘘」を言うことができます。例えば、過去10年間のA(子供)の身長の伸びと、B(成人)の身長の伸びを、年齢を伏してグラフに表し、Aは成長人間でBは停滞人間というようなものです。私は日々漁業者が懸命に働く姿を目の前で見ているだけに、日本漁業者を愚弄するようなこの資料には強い憤りを覚えます。

 

わずか336文字に凝縮された農水大臣の年頭所感の水産政策の部分の冒頭が、国民に日本漁業に対する誤った印象を与え、日本の漁業者を愚弄する記述から始まっているのです。規制改革推進会議の委員は、規制改革の結果参入した企業の役員に自らが就任して私腹を肥やしても許されているようですので、この程度の嘘もおかまいなしかもしれませんが、農水大臣が同じようなことを言って許されるのかと大いに疑問を感じます

 

(2)「国際的にみて遜色のない科学的、効果的な水産資源の評価・管理方法を確立」について

 

「国際的にみて遜色のない」とはどういうことでしょうか。日本の資源管理が国際的に劣っているということでしょうか。まさか、あのあてずっぽうのRPS(再生産成功率)やMSYをもとにした数量管理を科学的というのでは詐欺です。現に採捕量がABC(生物学的許容漁獲量)以下でも資源が減り、逆の場合でも資源が増加する数量管理の現実を見れば、どこが科学的で効果的な評価・管理方法なのでしょうか。

 

水産資源はコモンズ(共有資源)です。ノーベル経済学賞を受賞した故エリノア・オストロム氏により利害関係者による自主的管理が最もコモンズの管理において有効と立証されています。この点からしても日本の漁業者による自主的資源管理が「国際的にみて劣る」など言えるはずがありません。むしろ逆です。

 

誰がどこで、何を根拠にそのようなことを言ったのでしょうか。そんな学術論文は見たことがありません。あるというのなら見せてみよ!と言いたい。平気で嘘を書きたい放題の学者(?)の本にあるではだめです。具体的証拠もないことを農水大臣が言うことに大いに疑問を感じます

 

(3)「新規参入がしやすくなる公正なシステム」について

 

「公正」とは何を基準にだれが判断するのでしょうか。新規参入企業に求められるCSR(corporate social responsibility:企業の社会的責任)の基準でもあるのでしょうか。

 

すでに全国の津々浦々で、外部企業の参入事例は数多くあります。しかし、規制改革推進会議は、それでは足りぬ、地元漁業者の意向に関係なく、海を好き勝手に使わせよ、地元に負担金など払わん、という企業が参入しやすくなるようにせよと言わんばかりです。

 

すでに参入し地元漁業者と共存共栄している企業と、規制改革推進会議がこれから参入させようとしている企業にはどこに違いがあるのでしょうか。それは前者がCSRに富んだ企業であり、後者が自分だけが儲ければよいという強欲企業であることの違いと思います。

 

その強欲企業が参入しやすくすることが「公正」とでもいうのでしょうか。規制改革推進会の立場からの「公正」とは、「弱者を排除し強者を富ませること」としても、それをそのまま同じ立場で農水大臣が言うことに大いに疑問を感じます

 

農水大臣とは、その職務の遂行にあたって特定の政治的利益の実現をはかってはならないとされ、公正中立であるべき行政機関の長です。それが規制改革推進会議の結論も出ていない段階なのに、ましてや国民から選挙による信託を受け国のあり方を決める権限を持つ立法府の議論も未だなのに、その意向を先取りしたような年頭所感を述べてもよいのか、農水大臣は公務員の中立性などお構いなしの忖度役人の言いなりになって大丈夫か、と思わずにはおれません

 

 

2 いったい水産基本計画はどこに行ってしまったのか

 

 国の水産行政のあり方を5年ごとに定める水産基本計画が昨年の4月に公表されました。私としてはいろいろ異論もありますが、少なくとも漁業者の代表も出席した水産政策審議会において議論が行われ、さらに与党である自民党の水産基本政策委員会でも審議された結果出来上がったものです。どこかのド素人が上から目線で無責任に押し付けたものではありません。

 

 よって、まだ公表から8か月しかたっていない水産基本計画こそが、農水大臣が始めて年頭所感で述べるべき政策の中身ではないでしょうか。ところが、上記1で指摘した(1)の記述、及び(2)「遜色のない」と(3)「公正なシステム」の言葉は、水産基本計画のどこを見ても見当たりません。水産基本計画に従い忠実にその執行に当たるべき行政庁が、水産基本計画を否定的に受け止めさせるこんなサブリミナル効果を狙ったような脚色を勝手にしてもよいのでしょうか。いったい何のために、時間をかけて一言一句を精査して5年先を見通す水産基本計画を審議し、公表したのでしょうか

 

仮に、私が水産基本計画の作成にかかわってきたとすれば、今の規制改革推進会議の審議そのものが「ふざけるな! 公表から未だ1年も経過していないこの5年計画に、もう見直しが必要というのか。俺たちを無能とでもいうのか。バカにするな! このド素人野郎」と言いたくなります。また、浜の漁業者からは「よくもまー、水産政策の根本がコロコロと変わりますねー。どうせまた変わるのでしょうから真面目に対応するのはもっと様子を見てからにしよう」ということになりかねません。

 

一体この国はどうなっているのでしょうか。規制改革推進会議こそが国の最高決定機関になったのでしょうか。そういえば、ある与党国会議員が自分たちの意見など無視されてどんどん政策が決められていく状況を嘆き、「本間様には及びもせぬが、せめて成りたや殿様に」になぞらえ「規制改革委員様には及びもせぬが、せめて成りたや国会議員に」と自虐したとか。

 

これは「自民党をぶっ壊す」といって総理になった小泉純一郎氏が始めた党の反対意見を小選挙区非公認の脅しを背景に、官邸主導の民間委員会議で政策を決定し、それでもって問答無用で中央突破する方式です。非常に巧妙にできた民主主義体制下における独裁制です。これを安倍総理も踏襲しているわけですが、さすがに与党の国会議員に不満が高まってきているとか。

 

「おい、国会議員よ、俺たちド素人が水産基本計画を修正してやるから、黙って有難くこの通り法律を改正せよ」という規制改革推進会議からの上から目線での押し付けを今回こそは国会議員が跳ね返し、本来の正常な国政のあり方に戻していただきたいと思わざるを得ません。

 

3 良識ある水産議員の頑張りに期待したい

 

 農水大臣の年頭所感に愕然としたあと、水産経済新聞の1月5日付の記事を見て少し希望が湧いてきました。それは、浜田靖一自民党水産総合調査会会長、石破茂自民党水産基本政策委員会委員長、大日本水産会会長、全漁連会長、水産庁長官による新春座談会での発言です。

 

私が少し希望を見出した発言を以下に引用します。

浜田会長発言の要旨

(規制改革の必要性について)

・われわれが(規制を)変えてほしいのは水産の世界ではあまりない。船の居住性を改善するうえで国土交通省の長さ規制とか外してもらった方がいい。規制改革は必要だが、水産の規制だけにとらわれず、関わるものの規制を前に進めてもらえばいちばんいい。

・団体の意見のみではなく、現場の漁師の意見から上がってきたものを政策に転換していくことが重要。でないと現場で「何を言っているんだ」と言われてしまう可能性もある。

民間(企業)の参入については、昨日今日出てきた話ではなく、企業が漁協と話し合いのもと参入し、漁協・組合員と一体となって県内の養殖振興に取り組み、地元に貢献している事例がある。企業は儲かるところには来るが、漁師は儲からないかといって、生業(なりわい)である漁業をやめるわけにはいかない。

門戸を開いていないわけではないし、開ければよいというわけでもない。漁師とうまくやっている企業もあれば、そうでないところもある。今もマッチングをどうしようかとしているところ。

・今年はオール水産で日本の水産復活を目指す年になればよい。水産基本計画もできたし、景気よくドーンといける年になればよい

 

石破委員長発言の要旨

(水産基本計画の作成に主導的に当たってきたことを踏まえ)

・日本の漁業を存続させるためには、資源・船・人の3点を持続可能にしなければならない

・資源管理のあり方については、ノルウエーのようにしたらよいという話もあるが、浜や漁村がきちんと存続することが極めて重要ですから、ノルウエー方式にすればよいという単純な話でもない。実際に水産現場をみて、外国の状況をみて、一致点を見出さなければならない。

・漁業者が「豊かになったね」「安全になったね」と実感が得られるようにしていきたい。

・漁業者から「現場のことわかってくれているね」と思ってもらえるところまで目指したい。

 

以上の二人の政治家の発言内容に共通するのは、欧米崇拝の政策を観念的、原理主義的にとらえるのではなく、現場の状況や漁業者の意見を重視し、メリット・デメリットを日本漁業の現場に当てはめて政策として積み上げていく姿勢です。

 

それから驚いたことは、二人の政治家の発言において「漁業の成長産業化」なる言葉が一度も出てこず、むしろ「持続性」を重視していることです。政治家であれば「成長産業化」という聞きよい言葉に惹かれるのではないかと思いましたが、良い意味で予想が外れました。やはり現場を歩いているだけに漁業の本質を分かっておられます。

 

本来「国民全体の奉仕者」である役人こそが、強欲企業の利益追求に偏向した規制改革推進会議の誤りを指摘し、このような意見を真っ先に農水大臣に進言する義務があると思います。ところが、逆に規制改革推進会議のお先棒を担ぎ、大臣にあのような年頭所感を述べさせるとは、誠に残念でなりません。

 

行政が規制改革推進会議と官邸の方にしか目が向いていない中では、もう漁業者は良識ある水産議員の頑張りに期待するしかありません。機会あるごとに地元国会議員に「当事者である現場の漁業者の意見も聞かず、国政の最高機関である立法府の権限を軽んじ、一方的に政策を押し付ける官邸と規制改革推進会議からの提言を絶対に容認しないでいただきたい」と要請して回る。それしか戦う手段は残っていないような気がします。

 

いよいよ決戦の年です。これは民主主義を守る戦いでもあります。頑張りましょう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です