鳥羽磯部漁業協同組合答志支所を支える海賊協同精神(寄稿)のご案内

この度、協同組合研究誌(季刊)「にじ」の平成29年冬号(N0.661)に「鳥羽磯部漁業協同組合答志支所を支える海賊協同精神」を寄稿しました。

 

この雑誌は、農協・生協・漁協・森林組合等の各種協同組合に関する調査研究を行う総合研究所である一般社団法人「JC総研」が出版しているものです。私が寄稿したきっかけは、農協や漁協を巡る一連の規制改革の流れの中で、今一度協同組合とは何かを振り返る「歴史・ルール再確認と今日的事業者と組合の関係」をテーマに特集が組まれたことによるものです。

 

私の寄稿文の中身は、今いる鳥羽磯部漁協答志支所が、この13年間で生産金額を165%に増加することができた要因のうち、特に組合と組合員との関係に焦点を当てたものです

 

その内容を要約すれば

・個々の漁業者は非常に弱い立場にあり、団結してこそ企業に対抗できる

・組合の事業を自己の利益の観点からしか見ない自分勝手な漁業者が何人集まっても組合はできない

全体の利益を高めることを通じ個人の利益も高めることができるという地域共同体の精神に基づく組合の掟を厳格に守ったことが、答志支所の好成績につながった

というものです。

 

それでは、寄稿文のエッセンスといえる部分を以下に掲げます。この全文にご関心のある方は、このブログの左上にある「過去の論文」コーナーからもご覧いただけます。

 

答志支所の生産金額が増加した要因

 

要因1 地元市場への水揚げの増加

 

・漁協の最も重要な収入源である販売事業を、かつて組合員は他市場の魚価が高かったことから、あまり利用していなかった。そこで組合員が自分の組合の市場に水揚げしたくなるように、種々の改善を着実に実行し、答志産の魚がブランド化されるまでになり、ほとんどの組合員が答志の市場に水揚げするようになった。

・これにより、他市場水揚げの「無申告」又は「過少申告」による自分の漁協への手数料を免れる「脱税」「抜け荷」行為が改善された。

・漁協の販売事業を利用しなければ「水揚げ手数料」を払う必要がないとの考え方がある。この問題の本質は「水揚げ手数料」を税金としてみるか、利用料としてみるかである。どこの組合でも施設利用料はそれを使用した場合のみ支払う方式が一般的。しかし、漁協経営維持のための主要収入が販売事業に依存している中では、水揚げ手数料は、組合員の組合事業の利用に応じた対価というよりも、組合全体の維持のために水揚げ金額に応じて課せられる税金的性格がある

・農協に公正取引委員会が入り「系統利用を強制してはならない」と警告していると聞く。零細な事業者が大手企業に対抗するために団結することが組合の本質なのに、その事業利用を自由意思に任せろということは、根本的に矛盾。

 

要因2:避難漁港の新設、特に黒ノリ加工委託施設の設置

 

・避難漁港の新設は、生産金額の増加において極めて大きく貢献。生産活動に直結する漁港や製氷施設などへの積極的な投資が、生産金額の拡大につながった。それを可能にしたのは答志支所の黒字収支である。系統利用という掟を厳守したことが好循環を生んだ

・特に、黒ノリ加工委託施設の設置は生産金額の増加に大きく貢献したが、それを可能にしたのは、個々の組合員の利害を乗り越えその設置に合意することができたから。九鬼水軍以来の長い歴史を通じて地域に引き継がれた「地域全体の利益を高めることにより、自分の利益も高めることができる」という「村の教え」によるもの。規制改革推進論者の信奉する「3だけ主義(今だけ、金だけ、自分だけ)」と真逆の精神。

・それまでのノリ1漁家のあたりの生産額は、2000万円から3000万円の間であったところ、平均で3500万円までに増加したことは、協同組合の原点ともいえる協業化のメリットを非常に明確に示したもの。

 

要因3:掟を厳守させる指導者の存在

 

・答志支所の好成績は、中村幸平支所運営委員会委員長(漁協理事)のリーダーシップによるところが大。常に現場に立ち組合員一人一人と日々接していることもあるが、なにより組合が決めたルールを組合員の反発を厭わず徹底して組合員に守らせたこと。

・組合員はみんな横並び。自分たちで決めたルールを破ったからといって、会社のように社長が「君は首!」とはいかず、警察もそれを解決してはくれない。結局、組合のルールは自分たちが自ら守らせるしかない「掟」といえる。「掟破り」を放置しておいては、資源管理もできず、事業収益も減り、あっという間に組合は存続の危機を迎える。

・中村委員長は、組合員から「組合員あっての組合ではないのか」と言われたのに対し、「全く逆。組合があるからこそ組合員はやっていける。それを忘れるな!」と答えた

・この言葉の意味は、「組合」のところを「団結」に置き換えると非常によくわかる。個々の漁業者であれば、魚も安く買いたたかれ、燃油も言い値で高く買わされる。個々の漁業者はそれほど弱い立場。

「自分勝手な漁業者」がいくら集まっても「組合」にはならない。私欲を抑え互いに助け合い団結できる漁業者が「組合員」となる資格があり、そこで始めて「組合」ができる

 

要因4:地域共同体が極めて堅固

 

協同組合の成立基盤として地域共同体は極めて重要な要素と思う。特に答志支所ではこれを強調せざるを得ない。

・地縁・血縁関係を始め「寝屋子制度」による人間関係等もふくめ、極めて多様な地域社会集団が存在し、その集積体のトップにあるのが答志支所。そのため答志支所は、組合員のための経済事業体にとどまらず、非組合員をも含めた地域住民全体の生活、安全、防災、教育さらに、歴史文化の保存・伝承までのシームレスな責務を負った地域共同体の中核的存在となっている。

・日本において協同組合法制度が導入されたのは、明治33年の産業組合法からという。しかし、その同組合の助け合い精神は、江戸時代からあった地域自治組織の精神に同じであり、むしろ協同組合がその上に乗っかったといえる

・400年の歴史を持ち3日間行われる答志島最大のお祭りの主催者は昔から漁協であり、漁協の持つ資金力と組合員の動員力がなければ、そのお祭りが維持できない。圧倒的黒字支所だからこそ、その支出(550万円)ができるが、一部には無駄だとか簡素化せよという意見もある。しかし、多数はこの支出こそが、答志支所の好成績の源となっているとしている。これはアドラー心理学でいう人間が幸せに生きていくために必要な「共同体感覚」の育成にも貢献。

1 comment for “鳥羽磯部漁業協同組合答志支所を支える海賊協同精神(寄稿)のご案内

  1. 職員
    2018年1月16日 at 10:12 AM

    いつも更新を楽しみにしています。
    読んでいてとても心が温かくなるような、素敵な事例だと思いました。
    このような事例を広めるために、自分は何ができるのかを考えていきたいです。

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