水産WGの議論を検証する(漁業権編)その②

その①に引き続き、これまで公表された政府・WGの方針を時系列に追って、漁業権に関する部分を抽出し、その問題点を検証していきます。水産ワーキング・グループにおける今期の主な審議事項を以下に再掲します。

水産ワーキング・グループにおける今期の主な審議事項

平成 29 年9月 20 日 水産ワーキング・グループ 座長 野坂 美穂

 

1.漁業の成長産業化に向けた水産資源管理の点検 世界第6位の排他的経済水域(EEZ)を有効に活用し持続可能で成長力ある漁 業を実現するために(中略)

 

3.漁業の成長産業化と漁業者の所得向上に向けた担い手の確保や投資 の充実のための環境整備 漁業就労者の高齢化や減少、漁船等の高齢化、潜在力を活かしきれない養殖場 の小規模・老朽化等、遠洋・沖合・沿岸の漁場ごとの課題を克服するために は、意欲、経営力、資金力、新たな技術力など、多様な能力を有する担い手が漁業にチャレンジしやすい環境を整備することが必要である。また、縮小する 国内市場と拡大する国際市場を見据え、輸出を促進する環境整備も必要となる。このような観点から、海外の成功例や、特区等の先行事例の教訓を参考にしつつ、関連する諸制度の現状の分析、評価、検証に着手する。

 

④ 海外の成功例とやらに何の教訓があるのか

 

「教訓を参考にしつつ」とはどういうことでしょう。教訓とは「教えさとすこと。また,その教え。」を意味します。海外の成功事例に学ぶことは良いことです。それは否定しません。しかし「学ぶ」ではなく「教訓」とくると、これはもう立派な「ではのかみ」を患っているといえます。

 

今、私は県漁連や各漁協が出資してつくったマグロ養殖会社の取締役をしています。そこでは市場評価の大変高い赤身を売りにする高品質なマグロを出荷しています。そこで、ある時増設した大型生簀がなんと外国製だったのを知っておどろきました。なぜなら、日本には大きな製網会社が二社あります。てっきり、そこの製品かと思っていたら違ったからです。理由を聞いたら、耐波性と価格などでそちらの製品の方が優れているとのこと。海外における養殖業の技術進歩に驚いた次第です。

 

しかし、大切なことは自分の置かれている養殖環境条件を踏まえたうえで、外国における養殖技術の日本への適応性を個々に判断することです。外国と日本の養殖環境条件の違いを踏まえず、「海外の成功例を教訓」とするのでは、「欧米の事例を環境条件に関係なく善であると見做し、日本にも強要しようとする知恵なき者」を意味する「ではのかみ」そのものです。

 

実は、すでにこのWGの「知恵なき者」の方々こそが、教訓(この場合の教訓は、成功事例の教えに学ぶのではなく、失敗事例から得られた教えに学ぶ意味での教訓)とすべき事例が日本の中で起こっているのです。それは、新潮新書「日本人が知らない漁業の大問題」(鹿児島大学水産学部教授 佐野雅昭 2015年3月20日 株式会社新潮社)に詳しく書かれていますので、以下に引用します。下線は私が引きました。

養殖業には知識や経験が重要です。企業が資金力を生かして大々的に養殖業に参入しても、長い経験にもとづく技能や正しい判断力、周辺業者や地元住民との協力関係などが不可欠です。短期的な儲けを目的として新規参入した場合、長期的な経営展望を欠いた、場当たり的で不安定な養殖にもつながりかねません。

例えば、2003年、大分県と高知県でハマチ養殖に参入したM社の事例が象徴的です。M社は海外に本社を置く世界最大のサーモン養殖企業の日本法人で、外資系企業として初めて日本の養殖業に参入しました。

地元漁協が異例の参入を受入れたのは、元気がなくなってきた地元の養殖業を活性化させるだろうと期待したからです。そこで地元養殖業者との競合や市場の混乱を避けるために生産物はすべて輸出すること、地元に輸出用の養殖魚加工工場を建設し雇用機会を創出すること、を条件に参入を認めたのでした。

しかし、参入から5年間一度も黒字を計上できず、そのうちに海外の株主が騒ぎ出し、2008年に突如撤退。近隣の零細な個人経営体が同じ条件下で何とか経営を維持しているのとは対照的でした。また、この間、一度も海外市場に輸出せず、すべて国内市場に販売して相場を下落したことで近隣の養殖業者から不評を買いました。加工工場も建設せず、約束は何も守られなかったのに、だれも責任をとりませんでした

まったくもってひどい話です。約束を平気で反故にする。CSR(企業の社会的責任)のかけらもないほとんど詐欺です。これがWG委員のご推薦する「海外の成功事例」である世界最大のサーモン養殖企業M社がやったことです。これは何かに似ていませんか。そうです、宮城県村井知事が「特区でできた会社で全国から注目を浴びており、次の日本の水産業のモデルとなる」と絶賛した宮城県水産特区会社の現実に酷似しています。これをどう教訓とせよというのでしょうか。規制改革派の「ではのかみ」ぶりや、不都合な真実は無視するこのデタラメさには、あきれてものが言えません。

 

⑤宮城県水産特区の分析、評価、検証にご期待申し上げます

 

私はWGが設置されてからずーと待ち望んでいることがあります。それこそ、今期の主な審議事項にある「特区等の先行事例の教訓を参考にしつつ、関連する諸制度の現状の分析、評価、検証に着手する」です。宮城県水産特区についてWGがどのような評価をするか、聞くところによれば宮城海区漁業調整員会への県庁からの検証データ提出が遅れているようですが、日本の水産業のモデルとなるはずだった水産特区会社の惨状について、どんな分析、評価、検証結果が出てくるのかワクワクしながら待っています。宮城県庁よ、がんばれ! 何を?

 

(2)WGにおける議論の整理(平成29年11月17日)の検証

 

WGの第1回から5回までの議論の整理のうち、養殖業に関連するところのみを以下に抜粋します。

規制改革推進会議水産ワーキング・グループにおける議論の整理 

<現状認識>

-世界的な魚食需要の増大と人口増に伴う消費総量の増大

高齢化する漁業就労者、若い担い手が不足する水産業の生産現場

-高齢化する漁船、小規模・老朽化する養殖場等の設備

1.漁業の成長産業化に向けた水産資源管理の点検

(略)

2.水産物の流通構造の点検

(略)

3.漁業の成長産業化と漁業者の所得向上に向けた担い手の確保や投資の充実のための

環境整備 (一部のみ抜粋)

世界の養殖業と比較した場合の日本養殖業の制度的課題

-養殖技術の戦略的開発と魚病への対応

漁協の事業、組織体制、機能、役割、ガバナンスの見直し。経営の透明性の確保

 

この議論の整理の記述だけでは、抽象過ぎてWGが何を狙っているのかよくわかりません。そこで、5回までの議論を議事録から拾って、検証していきたいと思います。

検証の4視点をあらためて以下に再掲します。

A:前提となる事実認識とその評価視点

B:現状を規定する様々な要因の分析

C:政策手段などによるその操作可能性、それに伴う社会的リフレクションとその評価

D:政策選択の制約条件

 

①いったい漁業・養殖業は何のために存在するのかについて議論していない

 

これは検証視点のB、Cに係るものです。簡単に言えば、「国によって異なる漁業・養殖業の存在意義」をどう評価するのかです。

 例えば、2014年3月に東京で開催された「海の恵みと食糧安全保障を考える国際シンポジュウム」に、世界的に著名な資源学者であるレイ・ヒルボーン教授が、来日し講演されました。そこで、教授は、2011年に科学雑誌「ネイチャー」で発表した共同研究の成果などを基に、漁業の目的を以下の5つに分類しました。

・食糧供給

・雇用

・利益

・地域共同体

・生態系・環境

そうして、例えばアラスカなどでは、徹底的に「雇用」と「地域共同体」を重視するため、少数でできる漁業であっても、一人でも多くの漁業者が従事し、地域共同体を維持するための漁業管理を善とする。その一方で、ノルウエーやNZなど漁獲物のほとんどが輸出される国では、「利益」を最も重視し徹底的な効率化により少数で金儲け漁業を善とする。そのことによる社会的リフレクションで「企業栄えて漁村滅ぶ」でも全然構わないと。

 

「国によって異なる漁業の存在意義」は日本の漁業・養殖業のあり方を議論するにあたって最重要な視点ですが、WGでは全く議論しないのです。それは規制改革の根本思想が「強者は善、弱者は悪」「競争は善、公平は悪」「企業は善、漁協は悪」が当然のこととしており「漁民・漁村など知ったことか」からなっているから議論しないのかもしれません。

 

この点において、前回のブログその①で紹介した「漁業科学とレジームシフト 川崎健の研究史」(東北大出版会、平成29年12月)に掲載された「日本漁業の『ショック・ドクトリン』考」(大海原宏)にNZの漁業改革の類似事例があげられており、大変参考になるので要約して引用させていただきます。

・NZのITQ制導入は国家の財政破綻を克服する構造改革施策の一環として強権的に実施。

・NZでは福祉国家を目指す国家運営をしてきたが、1984年以降一方的な抜本的構造改革の動きがあった。

・その政策の設計・実施は経済官庁があたり、その政治的なリーダーシップが与えられたのは、「神風特攻型」政治家たちであった。政治的なコストがどんなものであっても、とにかく改革・変化を実行する人達であった。

・ここで主眼となっていたのは、経済的な目的オンリーで社会的な問題であるとか社会的な懸念であるとか、そういったものが政治的に代替案としてあがってくることは許されなかった。

・当時のITQ導入の漁業省の仕掛け人スタン・クロサー氏は、次のように言った。

漁業管理の目的は、通常、経済目的、環境目的、社会目的の3つをバランスよく組み合わせることが重要とOECD水産委員会でなされているが、NZでは社会的目的はあえて排除している。社会面を満足させるような漁業管理を行えば、経済と環境を妥協させる必要があるため何もできない可能性がある。したがって、漁業がもたらす社会的貢献への配慮はあえて切り捨て、社会保障という別の枠組みでバランスさせることにしている。社会的背景が異なる別の国で、NZと同じ政策を導入することが適当かどうかは、その国の国内で議論を尽くし判断すべき問題であろう。

 

NZのようにここまで開き直るなら、善悪は別にしてそれはそれで一つのやり方でしょう。漁業者の皆さんは、この改革で生活の糧である海と資源を失いますが、生活保護で面倒見ますと、堂々と言えばよいのですから。しかし、WGの議論は「漁業の成長産業化」など定義すらない美辞麗句を並べ立て、自分たちの強欲は後ろに隠すのですから、よりたちが悪いといえます。

 

ITQ導入のNZ漁業省の仕掛け人でさえ、「その国の国内で議論を尽くし判断すべき問題」としているのですから、「海や資源は企業のもの、地域のことなどどうでもよい」と地方を蒐集し尽そうとする終焉を迎えつつある資本主義の本音を包み隠さずに公にして、社会的リフレクションについての議論を尽くして、法案を審議する国会議員に示してほしいものです。

 

②「不透明」という言葉は正しく使おう

 

 WGの議論では、以下のように養殖業に参入した企業の地元漁協への行使料等の負担における「不透明性」を指摘する意見が多く出ています。

第1回会議議事録より抜粋

○大田議長

漁協の収支の内訳、収入の名目ですとか資金の使途は組合員には完全に開示されているのか、水産庁はその情報を把握しておられるのかというのをお聞かせください。

○大田議長

漁協は県が監督しているということですが、情報開示は完全になされているのかどうか。

○大田議長 例えば行使料がどうなっているかとか、そういうことは開示されているのですか。

○大田議長 しつこくてすみません。先ほどの資料に、民間企業が参入したときの苦情として、行使料が不透明であるとか、場所によってばらつきがあるといった不満があったと思いますが、そういうことについての開示はどこかでチェックできるのですか。

○野坂座長 2017年3月に行使料のガイドラインを作成されたのですが、その前に全国実態調査というのは行われたのかどうかということと、あと、ガイドラインを作成した後に事後調査は行われる予定があるのかどうかについて、お伺いしたいと思います。

○野坂座長 漁協に対して指導を実施しているというのはわかるのですけれども、その後にきちんと、それで行使料が地域ごとのばらつきがなくなったり、ちゃんと算定根拠に基づいた計算がなされているかどうかというところの調査が必要であると思うのですが、この点について、どのようにお考えでしょうか。

○有路専門委員 今、区画漁業権の話が行われていますけれども、漁場行使料について問題となるところは、いわゆるルールが曖昧というよりは、漁協の総会のみで決められ、行政的関与が曖昧な部分です。企業なのか個人の漁業者なのかとか、そういうところで公平でない線引きがされていることのほうが問題であって、同じ漁場であってもある対象に関しては1平米当たり500円、ある 企業に関しては1平米当たり何千円とか、このような差をつけるとか、あるいは漁場を使う以上は、購買と販売に関しては実際に使っていなくても手数料、口銭を払わないといけないというルールが実際に存在しているというところをどう管理するかというところかと思うのです。

〇泉澤専門委員

漁協の漁場行使料の設定とその使途について、透明性を確保することが必要ではないか。また、一つの経営体として見た場合、健全な運営と言える漁協は全体の何%くらいなのか。

〇中島専門委員

養殖場の新設に際しては、県ごとに対応の差があり、新規参入が認められるまで何年もかかる場合がある。また、地元関係者との利害関係の調整が不可欠であるが、その役割は進出企業自身ではなく、行政または漁協が担うべきであり、漁業権特区制度設置など積極的かつ迅速な対応が期待される

 

私にはここでいう「不透明」とは何が不透明なのかさっぱりわかりません。参入企業は自分の支払う行使料などは分かっており、完全に透明です。そもそも「不透明」という言葉は以下のような事例において使用するものではないでしょうか。

 

事例1 野坂委員が水産WGの座長に選任された理由が「不透明」

事例2 水産WGの専門委員がどのような基準で選定されたのか「不透明」

事例3 過去の規制改革においてそれに参加した委員が、後日その改革でいくら私腹を肥やしたのかが「不透明」

事例4 参入企業の経営内容、とりわけ株主配当、役員報酬と、売り上げに対する行使料などの比率(地元漁業者は平均5パーセント)が「不透明」

 

WGの委員の言いたいことは「不透明」ではなく、「漁協にぼられている」「漁協にたかられている」の方でしょう。それならそうと「俺たちは強欲でもっと儲けたいから、安くしろ」と素直に言えばよいことではないでしょうか。そこをごまかし「不透明」などという言葉を使うから何が言いたいのか「不透明」になるのです。

 

それから、地域ごとに行使料が違うのかも、トヨタのレクサスとカローラの価格が違うのと同じです。その漁場の養殖業にとっての価値が違うからです。一般的に養殖場の適性としては「静穏性が高い」「水替わりが良い」「一定の水深が確保されている」「河川の影響が少ない」などです。そもそも養殖業に参入しようという企業は養殖のプロでなければなりません。こんなことは参入企業が一番わかっています。だから全国を歩き回りめぼしいところに目をつけて、忽然と現れるのです。

 

当然のことながら、そのような適性を備えた漁場は、地元の共同漁業権漁業にとっても最も重要な漁場であることから、まずは漁船漁業者の「絶対反対」から始まり、そうはいっても漁協全体の収益増加の観点からと、時間をかけて漁協役員が説得する。このような形が一般的でしょう。私自身も5年前の区画漁業権の免許更新の際、参入企業からのマグロ養殖場の拡張要望について反対した地域の漁業者の説得にあたった経験があるので、よくわかります。

 

私は漁協が「企業さん、うちにはこんないい漁場がありますよ、参入しませんか」などと言って回った事例を聞いたことがありません。もともと「よーし、マグロで一発儲けるか」を目的とした企業の方から参入したいと持ち掛けた話です。そこでの協議の結果合意した内容を「不透明」だなどとよく言えたものです。条件が合わなければ別の漁場を探せばよいだけです。レクサスを買ったお客が、あとでカローラよりも高かったから「不透明だ、まけろ」と言っているようなものです。私が店員なら「だったらお客さん、初めからカローラにしておけば良かったじゃないですか」で終わりです。

 

漁協の経営が悪化したりしているところでは、お安く参入を受入れます。もともと民間同士(この場合企業と漁協間の話し合いだけでなく、複数企業間の参入競争もある)の話し合いで決めることを、「高すぎる」と規制改革推進会議が取り上げること自体が、企業の利益代弁者としての狸のしっぽ丸出しで話になりません

 

ましてや、「利害関係の調整が不可欠であるが、その役割は進出企業自身ではなく、行政または漁協が担うべき」とまでなれば、不動産屋がめぼしい土地に目をつけ、直接地主と交渉するのではなく市役所に仲介させるようなもので、いったいあなたは「何様か」という怒りすら覚えます。

 

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