もう黙っておれないクロマグロ資源管理 その②

欠陥その2 全く意味のない「親魚量の歴史的中間値」という回復目標

 

1 相関関係が見られない親魚量がなぜ目標になるのか

 

減った資源を増やすためには何をすればよいのでしょうか。それはその資源が減った原因が「乱獲」にあればそれをやめればよいとなります。乱獲には加入乱獲(親魚を獲り過ぎたため子が少ない)と成長乱獲(小さいうちに獲るため漁獲量が少ない、その結果として子を産む親魚が少ないことにつながる場合もある)の2種類があり、きれいに区分できるというわけではありませんが、比較的理解しやすい概念です。マグロの資源管理ではその加入乱獲を抑止するため、小型魚半減と大型魚の漁獲を増やさないことで、以下の資料11ように「親魚資源量の歴史的中間値」を回復目標としています。

太平洋クロマグロの資源状況と管理の方向性について(平成29年8月 水産庁)より

 

もちろん、親が全くいないのは論外で、極端に少ないのも良くないことは誰にでもわかります。それは否定しません。しかし、水産庁は自ら以下の資料4で親を増やしても子が増えるとは限らないと言っています。ではなぜ親を増やすことを管理目標に掲げるのでしょうか。理解できません。むしろ、「このレベル以下には親の量を減らさないでおこう」こそが目標になるのではないでしょうか。

太平洋クロマグロの資源状況と管理の方向性について(平成29年8月 水産庁)より

なぜなら、上の資料11と資料4をよく見比べると歴史的中間値41,000トン以下であった1970、1980年代においても2000万尾近い0歳魚の加入が3回程度起こっています。しかも、歴史的最低値(約11.000トン:1984年)から、特段の規制をせずに回復した事実もあるからです。それでも回復目標を「歴史的中間値」にするとどういう良いことがあるのでしょうか。

 

例えば、資料4の右側の図(産卵親魚量と加入量の関係)のX軸を投資金額(漁獲量を削減することで得られる産卵親魚量)とし、Y軸をそれに対するリターン(加入量)としましょう。よくよくこの図をご覧ください。どんな投資家でもこの図を見て投資金額を増やそうなどとバカげたことは絶対に考えないと思います。感覚的に言えば、産卵親魚量を2万トン程度に維持しておけば、最も効率的に加入(リターン)が得られるように思われます。にもかかわらず、その投資金額を、暫定目標が4.1万トン、最終目的13万トンに増やすことを勧めする証券マンが家に来たら、「バカかお前は、とっとと帰りやがれ!」となるはずです。だから私には、なぜそんな目標が掲げられたのかが理解できません。

 

(現場から見たマグロの今後)

三重県沖だけのことで全国の話ではないので、そーと小さな声で言いますが、現場にいる私にはマグロが勝手に増えているのがよくわかります。平成25年夏に熊野でヨコワ(養殖用のクロマグロの幼魚)引き縄釣り漁船に乗りましたが、暑い中1日かけてたったの2尾だけでした。平成26年も全然ダメ。そうして平成27年夏に私はマグロ養殖会社の取締役になりました。稚魚が手に入らず経営が苦しい状態にあった中、取締役会で「心配ない、過去のデータを見ると4年連続で加入が悪かったときはない、必ず来年は来る。」と元気づけのための発言をしました。それが偶然にもあたり、翌平成28年夏以降3年連続で三重県沖には一日40~50尾獲れる船もいるほどの大量のヨコワが来遊してきました。これは何ら不思議なことではなく、1980年代の資源低迷期からの回復と同じことが起こっただけです。「クロマグロ」といえばマスコミが飛びつき大騒ぎするので水産庁も調子を合わせ「大変だー、規制しないと大変なことになる」と騒ぎたて、結果今のような大混乱を引き起こしてしまいましたが、冷静に過去を見ると正直騒ぎすぎだったような気がします。

 

私が資源管理を担当していた頃にも、似たようなことがありました。マイワシ資源が急激に減少してきた時に一部の学者は、マイワシが減ったのは乱獲のせい、ここまで低レベルになったのに禁漁にしないのは信じられない、これでは絶滅させるようなもの、などと言っておりましたが、放っておいてもマイワシ狙いの操業は水揚げ金額に対する経費との関係で割に合わないので漁獲圧が下がります。絶滅などしません。よって「マイワシ狙いの操業は極力抑止」という指導以外は、具体的に何もしませんでした。それでも今やそれが中位・増加の資源評価となっています。

 

私は現場に来て漁業者の長い経験則から得た資源管理というものを学びました。それは定着性資源と回遊性資源とを明確に区分していることです。磯のアワビやサザエなど定着性の資源には徹底した操業規制による管理を行います。それから注意しなければならないのは、回遊性の資源でも産卵期などに特定水域に集中する特性を持った、ニシンやハタハタなどです。これらは獲り過ぎが起こりやすい魚だと思います。一方、一般的な回遊性魚類については「資源管理」よりも、まず生息環境の維持「環境管理」を漁業者が最も重視しているように伺えます。私が、答志島に来て4回目の夏ですが、伊勢湾の貧酸素水塊による影響は年を追うごとにひどくなってきています。正直もう近い将来、伊勢湾の夏には魚がいなくなるのではないかとも思います。イカナゴの3年禁漁も世界的経済成長がもたらした温暖化による夏眠期の高水温による影響と言っています。

(現場から言いたいことをまとめると)

経済界よ! なにが水産政策改革だ! 海を汚した加害者が被害者に能書きを垂れる資格はない! まずは自分たちが垂れ流した伊勢湾内のヘドロを回収してから出直してこい!

 

 

2 大西洋クロマグロ(東系群)を知るとますます目標に対する疑問が深まる

 

いきなり冒頭から、随分横道にそれてしまいしたが「産卵親魚量と加入量の相関関係」の話に戻ります。以下の大西洋クロマグロ(東資源)のグラフをご覧ください。

大西洋クロマグロ(東系群)の親魚資源量の経年変化 資源評価モデルで推定した親魚資源量(ICCAT2017a)(水産庁HP 平成29年度 国際漁業資源の現況より)

大西洋クロマグロ(東系群)の加入尾数(1歳魚)の経年変化 資源評価モデルで推定した親魚資源量(ICCAT2017a)(水産庁HP 平成29年度 国際漁業資源の現況より)

 

親と子の相関関係がないというよりか、むしろ逆相関「親が少ない方が子が多い」という常識外れの資源が大西洋クロマグロ(東資源)だと知って驚きました。一体この資源はどうやって管理するのでしょうか。まさか「子を増やしたいならもっと親を獲れ!」「TACオーバーしなかったら違反にするぞ!」になるのでしょうか。MSY理論など成り立たないではありませんか。

 

この点を解説されていたのが、東京海洋大学名誉教授桜本和美氏の著書「マグロ類の資源管理の解決に向けて -MSYに代わるべき新しい資源変動理論-」(水産振興605号 平成30年5月1日 東京水産振興会)にあった以下の記述でした。

 

ところで、2017年になって、大西洋マグロ類保存国際委員会(ICCAT)は大西洋クロマグロに対して、「再生産関係が不明であり、MSYの推定や長期の加入量変動の予測ができないため」との理由で神戸チャートを使うことを中止した。残念ながら、神戸チャートの使用を取りやめたのはクロマグログループだけであって、他のマグロ類グループは依然として使用しているが・・・。「再生産関係が不明である」のは今に始まったことではないが、新しい知見が得られたわけではないのに、なぜ長年使い続けてきた神戸チャートの使用を2017年になって突然やめたことに対して、鈴木治郎氏は神戸チャートの使用をやめた理由を明らかにしないICCATの姿勢を批判している。しかし、私はICCATが神戸チャートの使用を取りやめた明確な理由を説明することはないだろうと考えている。なぜなら、神戸チャートの使用を取りやめた明確な理由を説明しようとすると、それは今まで科学的根拠がないままに神戸チャートを使用してきた過ちを自ら告白してしまうことになってしまうからである。いずれにしろ不明なものを不明として使用をやめたICCAT(クロマグログループ)の対応は、太平洋クロマグロの管理を実施している中西部太平洋マグロ類委員会(WCPFC)など他のRFMO(地域漁業管理機関)よりもはるかに賢明であり、かつ科学的な対応であるという点では私はその決断を支持したいと思う。

(注)「神戸チャート」とは、「田」の字のように4つの区画で区切られており、MSYを実現するための資源の水準(Bmsy)と現在の資源の水準(B)との比(Bmsy/B)をX軸にとり、MSYを実現する漁獲係数(Fmsy)と現在の漁獲係数(F)の比(F/Fmsy)をY軸にとって、現在の資源の状況と漁獲の強度を評価しようとするもので、左上の区画にあると赤(資源が悪い上に漁獲強度も高い)、右下の区画にあると緑(資源が良くまた漁獲強度も低い)というものです。

桜本先生の論文を読んで驚いたことは、なんと2017年まであの親と子の逆相関の事実がありながら、それでもMSYが成り立つということで資源管理を行っていたということです。もうこうなると資源管理の成り立つ根拠は科学ではなくMSY真理教という宗教ですね。

しかし、やっと真実に目を開いたという点では、「太平洋クロマグロの管理を実施している中西部太平洋マグロ類委員会(WCPFC)など他のRFMO(地域漁業管理機関)よりもはるかに賢明であり、かつ科学的な対応である」とのことです。ということは、現在の混乱を起こしているWCPFCが決めた太平洋クロマグロ資源回復計画に対する私たちの不信感がますます高まってくるばかりですね。

 

そこで、真実に目を開いたICCATは今どのような管理をしているのか、この点が気になるところですが、それについて「水産庁HP 平成29年度 国際漁業資源の現況」の中に以下のような記述がありました。

 

2017年のSCRS (ICCATの科学委員会)による勧告は以下の通りであった(ICCAT 2017a)。回復目標の設定年である2022年まで60%以上の確率でFをF0.1以下に維持することのできる漁獲量として3.6万トンを勧告した。またTACを現行の23,655トンから増加させる際は、2020年までに3.6万トンへ段階的な増加とすることを勧告した。

 

私が特に注目したのは、「2022年まで60%以上の確率でFをF0.1以下に維持することのできる漁獲量として3.6万トンを勧告」です。私の直感として思ったのは、これは私が前回のブログで繰り返し述べた「資源管理とは本来漁獲係数F値の調整であって漁獲量の調整ではない」に近づいてきたのではないかと。つまり、ここにある3.6万トンの漁獲量は、「何が起ころうが絶対不変の漁獲量規制値」ではなく、まず初めにF0.1が基本にあり、時々において変動する資源量に掛け合わせて算出された単なる参考値と解釈せよといっているのではないかです。つまり架空のMSYを実現するなどという非科学的なTACでの資源管理はやめにして、資源に対する漁獲係数F値(わかりやすく言い換えれば間引き率)を一定にしておこうということではないでしょうか。

 

ただし、F0.1が本当に正しい値なのかどうかはわかりません。非常に低すぎる感じがしますが、実際の漁業者が経験則に基づき行ってきている資源管理手法としては「今年は魚が少ないので早めに漁期を切り上げよう」というように、F値も資源の状況に応じ調整すべきであるということは間違いないでしょう。なお、桜本先生は上記の論文で「モデル非依存型フィードバック管理方式」として、MSYや再生産モデル等のモデルを一切仮定する必要のない管理方式を紹介されていますが、これこそ漁業者が長年の経験則から身に着けた日本型資源管理方式に近いものではないかと思われます。

 

太平洋クロマグロと大西洋クロマグロ(東系群)の生物特性は全く同じではありませんが、早急に太平洋クロマグロも、F値規制にして、こんな混乱を起こすことがないようにしてもらいたい限りです。

 

3 さらに理解不能な「初期資源の20%」という回復目標

 

多くの人は、資源管理のための国際機関の科学者会合といえば、さぞ偉い科学者ばかりで立派なことを決めていると思い込んでいる(最近までの私もその一人)かもしれませんが、どうもそうでないところもあることがわかってきました。そういう疑いをもって、2034年の回復目標である「初期資源の20%(産卵親魚量130千トン)」について考えると、さらに理解不能になります。その初期資源とは「資源評価上の仮定を用いて、漁業がない場合に資源がどこまで増えるかを推定した数字。かつてそれだけの資源があったということを意味するものではない」としています。正直何のことか私にはさっぱりわかりません。

 

この件について桜本先生は上で引用した論文で「初期資源量という概念はMSY理論から導かれた架空の概念であり、生物的な根拠があるわけではない。MSY理論が正しくなければ、初期資源量は架空の概念というよりは誤った概念にすぎない。」と一刀両断で切り捨てられておられます。むしろ素人には漁業がないときにマグロ資源がどのように変動するのかという以下のグラフを見る方が、それがいかに「ナンセンス」であることが一目瞭然です。

なんと300年にわたる地中海の定置網で漁獲された大西洋クロマグロ(東資源)の漁獲量の記録が残っているのですね。そこで、このグラフを作成した著者らはその資源はほぼ100年周期の大きな変動と20年周期ぐらいの短期の変動を繰り返しているとも述べているそうです。今と比較すればほとんど漁獲がないに等しい頃でもこんなに大変動するのですね。

 

この「初期資源」という言葉は非常に良くない資源用語です。というのは、「初期資源」という言葉は、人間が住んでいなかった頃の〇〇平野とか○○山地といった何か自然が豊かで動植物が満ち溢れていた理想の平衡状態を思い起こさせます。だから、魚も同じで、人間が漁獲しなかった頃の海にはマグロが満ち溢れていたに違いないと。逆にいえば、その状態に戻すことが資源管理の目標であるだろうと。

 

しかし、それは全然違っていて、もともと漁業がなくても大変動を繰り返すのが、自然の状態にある資源というのがわかります。もしかしたら、この「初期資源」という定義を言い始めた者は、その人間の思い込みを悪用した、だましを目的にしていたとさえ疑いたくなります。さらに、マグロではありませんが、先般このブログに桜本先生が投稿していただいた論文中にあったのが、以下のマイワシの「漁獲がないと仮定したときのマイワシの産卵親魚量」です。

漁獲がなくてもこんなに大変動するのがマイワシなのですね。では、初期資源とは上のグラフのどこを指すのでしょうか。マグロでいう初期資源とは、相当高いレベルにあるようなので、それと同様にマイワシの初期資源を1500万トンにされてしまえば、資源が低迷期にあるときには何十年間も漁獲禁止となるかもしれません。この初期資源とは環境保護団体が泣いて喜び、漁業にとって危険極まりない「カルト的教義」であるような気がします。

 

本当に人間の力で資源が管理できるものなら、やるべきでしょう。しかし、マイワシが減ったのは「1988年から数年間連続して1歳までの生残率が極端に悪化したためであり,乱獲により親魚が減少したためではない」(中央水産研究所)の見解も考え合わせると、減るのも、増えるのも、自然のおぼしめしが大きく関与しているということを認めざるを得ないと思います。人間ができる究極の資源管理とは、長期間にわたる漁獲ゼロですが、それは漁業を崩壊させることを意味します。しかし、そこまでしても、なお加入が好調な時期にしか達成しえない回復目標を漁業者に押し付けることの意味はどこにあるのでしょうか。

 

解釈次第で恣意的に決められる「初期資源」とは、漁業権改革での優先順位の廃止に代わる「水域を有効かつ適切に活用」と全く同じです。TAC管理者の胸先三寸でマグロ漁業者をどうにでもできる独裁制を合法化する「悪魔の基準」と考えてもよいでしょう。

 

さらに、初期資源などは全く頭の中で作り上げた架空のものだとより強烈に感じさせてくれる以下のグラフがあります。

この図は、カリフォルニア湾で海底地層のマイワシ(上の図)、カタクチイワシ(下の図)の鱗の堆積状況を調べて、紀元300年から2000年ぐらいまでの1700年間の資源量を推定したものです。この水域で漁業が開始されたのは、どう長く見ても最後の200年間でしょう。ということは、それ以前の1500年間は、漁業が存在しない初期資源の状態にあったことになります。

 

でもその1500年間において、資源は大変動しています。とすればそれは宇宙人が漁業をしており、乱獲していたに違いありません。時々絶滅寸前まで減っているのはそのためです。その時に宇宙人も「歴史的最低値だ! 大変だ! TACだ、IQだ、ITQだ」と大騒ぎして資源を見事に回復させたのだと思います。

 

それでなくても暑い中、冗談はこのくらいにしますが、私はこのグラフは、水産資源管理学の教科書の1ページ目に必ず掲載すべきだと思います。漁業が存在しなかった時代においても資源の大変動が起こっていたのに、身の程知らずにも「資源管理学」なる学問で、その資源変動を思うようにコントロールしようなど、人間の傲慢不遜さをこのグラフから感じ取るべきだと思うからです。

 

たぶん最初に「資源管理学」と命名した学者はこのグラフを知らなかったと思います。もし知っていれば「資源管理学」などおこがましい、せめて「資源利用学」程度にしていたに違いありません。人間にできることは、その変動に合わせていかにうまくその資源を利用し、漁業という産業を永続させていくかではないかと思います。より視野を広げると、資源と人間が同じ生態系の中でいかに共生していくか「資源・人間共生学」でもよいかとも。そういった視点からみれば、水産政策改革が掲げる「資源管理を通じた漁業の成長産業化」などは、投資詐欺のパンフレットの宣伝文句のようなものです。

 

ちょっと背伸びして文化論的な話になりますが、MSYや初期資源という発想は、いかにも西洋の「一神教」をベースにした神(人間)が自然を支配できるという上から目線の数学的アプローチがもとになっているように感じられます。一方「八百万神(やおろずのかみ)」の日本的な思想では、自然にある万物も神々であり人間がその上に立ちそれを管理できるものではないと認識し、そのうえで荒ぶる資源と人間との共生を図っていく生態学的アプローチのような気がします。どこの漁村にもある大漁祈願のお祭りなどは、逆らえない自然に対する畏敬の念が背景にあり、また磯の資源の豊富な小島に祠(ほこら)をまつり、そこを周年禁漁区にするなどは、日本が世界に誇る「資源管理型漁業」の智慧の原点ではないかと思います。

 

日本漁業の得意とする漁業者による自主的資源管理を、外国かぶれの出羽守は漁業者をバカ扱いにして「自主管理は非科学的、TACこそが科学的」などと批判しますが、MSYという架空の世界に入り込み現実の世界から目を背けるTAC管理、それこそが「非科学的」の骨頂ではないでしょうか。人知の及ばない不確実な変動をする資源にどう対応するか、その現実を見据えた積み重ねが、地域に引き継がれた漁区、漁期、漁具などに係る様々な規制、つまり漁獲係数F値の調整による資源管理だと思います。

 

マグロ資源管理における根本的な欠陥は、そのもとになっているMSYや初期資源が、人間が作り上げた架空の世界での資源管理であり、その理論と結果が一致していない現実に目を向けようとしていないからです。今回の水産政策改革ではこのMSYという架空の世界での出鱈目な資源管理手法の対象種を拡大しようとするものです。漁業者は今回のマグロ漁業者と同じ目にあいたくないのであれば、水産政策改革を推し進める現政権が下野するまで、徹底的にその導入に反対するしかないと思います。

 

理論にあわない現実から目をそらすことで、架空の世界で長年生きてきた自称・科学的資源管理の世界に、ようやく現実を直視する資源学者が現れました。そうして、その変動要因を見出し、ついにMSY理論では説明できなかった資源変動を、科学的に説明(再現)したのが、桜本先生の以下の二つの図です(上で引用した論文より)。これは例えれば、資源管理分野における天動説から地動説への転換、ニュートン力学から量子力学への転換に匹敵すると言ってもよいほどの大事件ではないかと思います。どうしたらこの複雑怪奇な資源変動を再現できたのか、それは「資源変動の主因は密度ではなく、環境変動である」という考え方に基づいたからでありますが、これでもうMSYをめぐる論争に実質上決着がついたのではないかと思います。

桜本先生は「MSY理論に固執している限り、資源管理に成功することは決してない。一刻も早くMSY理論が誤りであることを謙虚に認め、資源変動に対する新しい考え方に基づいた資源管理を実施する必要がある。」としています。これはマグロの資源管理が今のままでは混乱だけで成果が上がらないこと意味するものであり、困ったものです。

 

しかし、私個人の意見を言わせてもらえば、今の好調なマグロの加入状況を見ていると、たとえ出来の悪い資源管理であっても、過去がそうだったように資源は自然に増えるのではないかと思います。問題は、今回のマグロ資源管理で、意味のない高めの目標を立て、同時に現実離れした低めの加入見通しで、漁業者に必要以上の漁獲量削減を課しながら、あたかもそれゆえに資源が増えたかのごとく、今回の誤った資源管理計画を正当化することです。それに騙されないように漁業者は十分注意する必要があると思います。

 

<マサバ資源回復計画と比較する>

 

それでは、マグロ管理計画とマサバ回復計画の違いを具体的に比較しながら、マグロ管理計画の欠陥とその改善点を説明していきたいと思います。

 

(1)マサバでは漁獲量の削減を資源回復の手段として用いなかった

根本的な考え方の違いはTACではなく漁獲係数F値を用いたことです。もちろん、マサバ回復計画を立てるときにも、研究者は現在の漁獲量を〇〇%削減すると何年後にここまで増えるというシュミレーションを提示していました。しかし、以下の諸点を考慮し、あくまで休漁方式で行くことにしたのです。

 

①TAC削減を受入れられる経営状況ではなかった

当時のまき網業界は、マイワシが減少し、それに代わるマサバの卓越年級群に2度恵まれはしたものの、本格的な回復につながらなかったことから、経営が悪化し計画的な漁獲量の削減に対応できる余裕がありませんでした。より具体的言うと融資を受けるために金融機関に提出する操業計画において、大幅なTACの削減が公的計画で正式に決まってしまうと赤字の操業計画になってしまい、融資が受けられなくなるという事情もあったのです。よって、TACはそのままにしておいて、休漁でF値を削減すれば、それが漁獲量に及ぼす影響を明確することが回避できたからです。なお、今回のマグロ管理では、それを主たる漁業収入にしている沿岸一本釣り漁業者においては、長期に及ぶTAC削減は隠しようのない事実であり、かなり厳しい状況にあるかと思えます。

 

②漁獲量の削減方式では支援措置の対象になりにくかった

何度も繰り返しますが、TACの根本的欠陥として、計画通りに加入量は来ないということです。例えば、昨年の漁獲量100を今年は70まで削減するとしましょう。ではその削減分30を支援対象にそのままできるかということです。しかし、そういう簡単な話ではありません。なぜなら、それは獲り控えをしたのではなく、たまたま加入が悪かった結果であるかもしれないからです。そんな意味のないことにお金を出すのは無駄です。

 

また全体としては30削減できたとしても個々の漁船ごとの削減率がバラバラだったらどう支援するのでしょうか。IQにすればよいなどとは素人の考えです。そのIQが明らかに操業の支障になる少ない数量(例えば今年のマグロのTACのように)であれば、間違いなく漁獲量の過少報告が生じ、場合にあっては違反者に支援金を出すという事態を招きかねないからでした。よって、ごまかしがきかず魚が確実に漁場にいるときに休漁させる方式を支援対象にしたのです

 

(2)卓越年級群を活用した段階的回復計画(スイングバイ)を立てたこと

 

 マグロ管理計画を見て一番疑問に思ったことは、資料11にある2014年から2034年まで20年間も低加入がなぜ続くとしたのかです。以下の0歳魚の加入のグラフを見てもそんなことはありません。必ず加入の良い年次(以下「卓越年級群」)が現れています。

太平洋クロマグロの資源状況と管理の方向性について(平成29年8月 水産庁)より

おそらく、低加入を前提としたのは「万一高加入がなかった場合でも」資源の回復の確実性を高めたいということでしょう。しかし、低加入を前提としてかつ意味のない高い歴史的中間値という回復目標を掲げたらどうなるでしょう。当然、そのシワ寄せは漁獲量の大幅な削減へと行きつきます。それに耐えられる経済的余裕が関係業界にあるのであれば、それも一つの方法でしょう。しかし、マサバ回復計画作成時のまき網業界は、上で言ったようにそうではなかったのです。

 

 「経営を維持しながら資源を増やす」この相反する課題を同時に解決できる方法が一つだけありました。それがおよそ4年に一度の確率で発生していたマサバの卓越年級群を狙ったF値の削減で段階的に資源を回復させる方法でした。つまり、通常の低加入時には特段の漁獲制限をしない、しかし卓越年級群が発生した時にだけ断続的休漁を行いF値の削減を行う、そうすれば漁獲量を削減しなくても、卓越年級群に対する取り残しにより資源が増加に向かう、それを何度か繰り返すというやり方でした。

 

これには「加入が悪いときにこそ漁獲量削減をやるのが王道、加入が悪いときに削減せず、良いときにだけ削減するのは資源管理とは言えない」という批判が寄せられました。しかし、経営の持続性に照らせばそういうやり方が現実的であったのです。

 

実は「スイングバイ」という宇宙探査機を遠くに飛行させる時のいわば省エネ航法があり、たまたまそのやり方が卓越年級群を利用した段階的資源回復手法に似ているような気がしていましたので、以下で類似性を説明します。

 

        「スイングバイ」になぞらえて

スイングバイ(英: swing-by)とは、「天体の運動と万有引力(重力)を利用して宇宙機の運動ベクトルを変更する技術」と定義(ウィキペディア)されています。定義は難しいのですが、わかりやすく言えば(例えにしては品がなさすぎますが)「人のふんどしで相撲を取る」⇒「天体の引力を利用し探査機を加速する」⇒「卓越年級群を利用し資源を増加させる」という類似性です。この航法を初めて使ったのは水星探査機マリナー10号で、金星の周りを2回加速スイングバイしたうえでスピードを上げそれから水星に向かったのです。仮にまっすぐに水星に向かうこととし、それに必要なスピードを自分のエンジンでつけるとすれば、大量の燃料が必要となります。そうです、今のマグロ資源管理は、極めて遠い目標(歴史的中間値)に自力(漁獲量削減)で到達しようとする強引なやり方なので、探査機(漁業者)は途中で燃料切れ(経営悪化)を起こして目標(資源と漁業の持続)には到達しません。

 

しかし、マサバ回復計画では、通常時には探査機に負担をかけない遅いスピード(低い資源量のままで可)で航行しますが、近くにA天体(1回目卓越年級群)が現れたら、その時だけはそれに近づいて加速し(F値を下げ)、その引力を利用しスピードを上げる(資源量を増やす)やり方です。しかし、その後A天体が離れる(通常の低加入に戻る)ことで、再び探査機(漁業者)に負担をかけない通常航行(操業)に戻ることから、スピード(資源量)が落ちてきますが、以前の遅いスピードに戻る前に次のB天体(2回目卓越年級群)が現れたら、また同じことを繰り返す「増えて⇒少し減って⇒増えて⇒少し減って⇒増えて⇒目標に到達」です。このイメージによく合うスイングバイの説明画像(ウィキペディア)がありましたので以下に引用しました。右下の図はX軸が時間でY軸が速度(資源量)ですので、「増えて少し減る」のイメージにピッタリですね。

 

 

(3)無理をしない現実的な回復目標を設定したこと

 

 マサバ回復計画だけでなく、すべての回復計画には目標とする資源量とその達成年次が決められていました。そんなこと誰一人として保証できるはずがないのは「嘘でも言って委員会」にピッタリの「自己愛性人格障害」を患ったごとき人物を除き、周知のことですが、やはり支援事業の対象にする以上目標は必要だったので、それを回復計画に書き込みました。しかし、回復目標はほとんど気にしませんでした。真の目標とは、F値を確実に削減することであり、回復目標は加入次第で大きく変わるからでした。ということで、マサバ回復計画には以下のような目標を立てました。

 

3.資源回復の目標

 本資源の高水準での持続的利用を可能とするためには、安定的な再生産(新規加入)の維持に必要な産卵親魚量45万トン以上の確保が必要とされている。一方、現在の資源水準(産卵親魚量約8万トン:平成15年度推定値)及び資源回復措置の漁業経営に及ぼす影響を考慮した場合、必要な親魚量を短期間で確保することは困難となっており、複数回の卓越年級群の発生を利用し、段階的に資源回復を図っていくことが必要となっている。このため、平成23年度までの取組により、本計画終了時の産卵親魚量を18万トン水準以上とすることを本計画の目標とする。

 なお、資源状況により更に産卵親魚量を回復することが可能な場合は、45万トンにできるだけ近づく水準までに回復を図ることとする。

 

なお、この最終目標45万トンはあくまで加入を安定させるために維持すべき目標値であり、マグロのような意味不明の「歴史的中間値」でも、さらに訳の分からない「初期資源20%」でもありません。

 

この結果どうなったかは、平成29(2017)年資源評価を見ると以下の通りです。

平成29(2017)年度マサバ太平洋系群の資源評価(水産庁HP)より

 

平成15(2003)年に回復計画が開始されたちょうど翌平成16年(2004)に、運よく卓越年級群が加入してきました。その時に断続的休漁でF値を下げたためでしょうか、平成18(2006)年、平成19(2007)年にかけて親魚量が増加しています。これはその前の平成8(1996)年の卓越年級群の発生後に親魚量が増加しなかったのとは明らかに違います。

 

その後再び親魚量は減少に向かいますが、平成19(2007)年と平成21(2009)年におけるプチ卓越年級群?を大切にして、それ以前ほどには親魚量が減少せずにいたところに、平成25(2013)年の卓越年級群により一気に増加し、ついに最終目標である45万トンを平成27(2015)年に超えたのです。

 

これこそ、マグロ資源管理のような強引な力ずくではない、人間が自然に寄り添いその力を利用した「スイングバイ」資源管理の成功事例と言えると思います。

 

以下次回に続きます。

 

1 comment for “もう黙っておれないクロマグロ資源管理 その②

  1. Macbethmerci
    2018年8月8日 at 5:32 PM

    素人の私にもわかりやすく、魚業資源管理の難しさと根拠のない理論の無意味さが漁業者を混乱させていることがよくわかりました。これからも各方面でのご活躍を期待いたします。

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