もう黙っておれないクロマグロ資源管理 その③

欠陥その3 共済方式による支援措置のインセンティブのなさ

資源管理を担当していた頃に一番腹が立ったのは、自分が目立ちたいばかりで、嘘もへっちゃら言いたい放題の痛みなき学者からの「乱獲けしからん」コールでした。これがまた事情を知らないマスコミや素人に大受けするのです。そんなこと外野から言われなくても、資源が減って一番困るのは自分自身であることは漁業者が一番知っています。むしろ「またあの自己愛性人格障害野郎が偉そうに言うのなら意地でもやらん」と漁業者の反発をあおるだけでした。

例えば、資源量を10倍に増やしたマサバ太平洋系群資源回復計画に対する当時の批判は、もうほとんど罵詈雑言(ばりぞうごん:きたない言葉で、悪口を並べ立ててののしること)のオンパレードでした。その一部を改めて以下に引用します。

・こういう漁業に「資源回復計画」とかいって、税金をばらまいて、乱獲資金を与えているのだから、つける薬がない。
・銚子の乱獲船団は、今年も絶好調です!
・うわっ、安っ。サバ漁業の未来を、絶賛投げ売り中ですね!
・水産庁は余計なことをして、サバ資源の回復を妨害するばかりでなく、漁業そのものも破壊しつつある。
・国民に対する背信行為である。
・マサバの大乱獲が進行中
・もう、涙が止まりません
・いきなりマサバ回復計画が成功例として紹介されてたのはビックリだね。 サワラ回復計画が賞味期限切れで、他の回復計画も軒並み失敗しているから、出す事例が無いのはわかるんだが、よりによって、マサバ太平洋系群ときたもんだ。
・資源回復計画が失敗することはまず確実であろう。
・欧米の資源管理も、日本の資源回復計画も、漁獲量を抑制しようという方向性は同じであるが、その中身は全く違う。欧米の資源管理の基本は取り締まりであり、日本の資源回復計画の基本は補助金ばらまきである。

三重大学(当時:現在は東京海洋大学)勝川俊雄准教授のブログより

先般、テレビ番組「そこまで言って委員会」にご出演され、たまたま番組を見ていた漁業者から「あいつはいったい何者か、あんな嘘ばかり言って委員会」と激憤された同じ頭文字のK氏が、私が資源管理の担当だった頃、指導が甘いとよく批判していたので、「では一度漁業者協議会で、直接説明しては」と誘いました。そばでじっとそのやり取りを見ていましたが、とうとう最後に漁業者がブチ切れて、言った言葉が「獲るな、獲るなと、そんなこと言われなくてもわかっている。それでも獲らざるを得ない。もう放といてくれ。資源が悪化し死ぬのは私だ。あなたではない。」でした。

全国各地で資源回復計画を説明して回っていた頃、漁業者から「わかっちゃいるけどやめられない」は漁師も役人も同じ。あれだけ批判されている役人の天下りがなくならないのも同じこと。漁師に乱獲やめよというならば、役人が天下りをなくして見本を見せろと言われました。さしずめ今であれば、「なんだあの総理は、夫人もそうだが、その地位を利用し自分のお友達だけに特別な利益供与をやって、それがばれると役人に嘘までつかせ、自殺者まで出しても平然としらを切る」「総理たるもの“権力の私物化は厳に慎む”“李下に冠を正さず”をわかっちゃいるけど、(お友達だけ特別扱いは)やめられない」それとおなじだと言い返されたと思います。

今回の漁業権改革も「知事による漁業権の私物化」、TAC拡大・強制IQ導入も「大臣による資源の私物化」ですから、今後とも漁業者に偉そうなことは言えません。すぐに「何を偉そうに、お友達企業だけを優遇しやがって」と言い返されますから。

私は、獲り過ぎが悪いことを知らない漁業者に出会ったことはありません。だから、一番重要なことは、漁獲量削減による漁業経営への悪影響をいかに緩和するかです。経営さえ維持できれば漁業者は漁獲量削減も受け入れます。安達祐実のセリフ「同情するなら金をくれ」と同じく「規制をするなら金を出せ」につきます。それがないと、漁業者は今を生きていくために獲らざるを得ないのです。

資源管理は「あなたのためよ、我慢しなさい」の口先だけではできません。まして力による取締りではダメです力で海の上の漁業の世界をコントロールできると思うのはみな素人です。全船違反していたかつての北洋漁業が国内漁業で再現されるだけです。ぜひ、白村江の戦い(663年)から明治維新まで、なぜ1000年間も日本には中央権力者直属の官製水軍がなかったのかを、しっかり勉強して欲しいものです。

 

1 共済方式の限界
 
 マグロの資源管理では、漁獲量を削減されたことにより減収が起こり、それを補填するための共済制度を活用した支援制度があります。

クロマグロ資源管理促進対策(太平洋クロマグロ小型魚の漁獲に係る全ての沿岸漁業者に対する操業自粛要請の発出について:平成30年1月23日 水産庁 より)

上の図は制度の仕組みであり、基本となる漁業共済に積み立てプラスを上乗せし、さらに基準漁獲金額が直近年の5中3(5年間の収入のうち一番高い年と低い年を除く中間3年間の平均値)で決まるところ、それでは規制による減収で年々その基準漁獲金額が減少することから、それを平成24年から28年で計算した金額に固定するというようにして、一般的な共済制度よりは手厚い補填となっています。

 
しかしこれでは漁業者は満足しないことがあるのです。なぜなら、共済制度であればTAC(漁獲量の上限)設定のために生じた水揚金額の減少分として補填するのは、あくまで過去の平均水揚金額との差だからです。しかし、漁業者はTACによる漁獲量規制がない場合に得られたであろう水揚げ金額との差を補填すべきと考えるからです。

 なぜそうなのか、わかりやすい例えで説明します。地方旅館の年間客室稼働率は、低いところは20%台であり、簡易宿泊所(民宿、ペンションなど)に至っては10%台まで低下します。だからといって、連休中や夏休みに予約を入れようとすると「あいにく満室です」と断られることがあります。どうしてかわかりますよね。そうです大都市のビジネスホテル(客室稼働率80%以上)と違い、地方の旅館の宿泊客はマグロと同じく限られた観光シーズンだけに来る卓越季節群?に支えられている商売だからです。

私の住む答志島の旅館も正月が終わると3月末の春休みまでの2か月半は、宿泊客がほとんどなく閑古鳥が鳴いている状態にあります。マグロでいえばちょうど卓越年級群が加入する前の3年間ほとんどヨコワが獲れなかった時期に相当します。そこで、お客回復計画なるものが観光庁で出来上がり、春休み中のお客の受入人数を制限するとその減収分が補填されることになり、その補填基準がその直近の2か月間の平均収入になっていました。さて、そこで質問です。このお客回復計画に参加する旅館があると思いますか? 答え、誰も参加しないですね。なぜなら、その基準となる期間が最もお客が少なくそもそも大幅な赤字であり、そんなレベルの収入を補填されても経営していけないからです。

国が資源回復措置に取り組む時の一般的状況は、相当の期間資源の悪化した状況が続いた後に開始されることが多く、既に漁業経営も悪化していることから、それを基準にした共済制度で補填されても、赤字であることにはかわりはないのです。よって、その支援策に魅力を感じ、TAC削減を受入れようとはならず、それよりも待ちに待った卓越年級群を獲らせてもらう方が経営にはずっと良いのです。これが共済方式の限界(インセンティブのなさ)です。

つまり、春休みという観光シーズン(卓越年級群が加入してきたとき)に受入を削減せよというのなら、その時に得られたであろう収入を基準に減収分を補填する「逸失利益補填方式」にしないと魅力ある資源管理の支援策とはならないのです。

 

2 マサバ回復計画での支援措置について

 

(1)逸失利益補填方式に近い休漁支援
 

まず、以下のグラフをご覧ください。

       マサバ太平洋系群水揚金額(単位:10億円)

これは、過去にこのブログ「資源回復計画に対する批判と嘲笑」において、表で示した回復計画開始前後での水揚げ金額の推移を、より分かりやすくグラフ化したものです。マサバ回復計画は2003年に開始され翌年に卓越年級群が加入してきたことから、断続的休漁による漁獲係数F値の削減に取り組んでいながらも、その後5年間にわたり水揚金額が増加・安定した様子がわかります。漁業経営と資源回復の双方に配慮した「獲りながら資源を増やす」の典型的事例です。

では、上記1の共済方式ではどの程度の支援ができるでしょうか。回復計画開始以前の1998~2002年の5中3で計算(8+10+5÷3)すると基準漁獲金額は77億円となりますが、2004年以降の水揚金額は遥かにそれを超えていますので、共済方式では1円足りとも支払われないことになります。

一方、このマサバ回復計画に対しては2003年から2011年までの間で、国から合計34億円が支援されました。資源管理に取り組めば水揚金額が減少するはずなのに逆にそれが増加しており、しかも支援金までが支払われています。共済方式では水揚実績が基準漁獲金額を上回った場合、補填などあり得ないことですが、マサバ回復計画ではどうしてこんなことができたのでしょう

それは休漁一日当たりに対しあらかじめ決められた支援金額に、休漁日数を掛け合わせ支援する方式であったことから、過去と比較した水揚金額がいくらになろうがそれは関係がなかったからです。しかもその休漁は卓越年級群に恵まれたときにしか実施しないことにしていたので、水揚金額が増え、加えて支援金がもらえ、結果的に現実の漁獲実態を反映した「逸失利益補填方式」に近いものとなったのです。この方法では、漁業者の経営改善を保証し休漁に取り組む余裕を与え、さらにその休漁に金銭的メリットも与えたことから、計画通りに確実に休漁が実行されたのでした。

 

(2)補助金方式による休漁支援

資源回復計画を開始するまでの支援策と言えば、そのものずばり「減船支援事業」でした。しかし、撤退一方の国際漁業であればそれでよいかもしれませんが、国内資源を回復させた先のことを考えれば、漁船を減らすだけでは支援策として不十分であることから、一時的漁獲圧の削減のための休漁への支援制度を新たに設けることになりました。予算要求に当たっては、紆余曲折がありましたが、最終的に休漁による減収への支援額の算定方法は漁獲共済の考え方に従うが、支援そのものは減船事業と同じく補助金方式で行くこととなりました。

なお、補助金方式のメリットとしては、共済方式ではまず漁業者に漁獲共済に加入していただかないと対象にならない壁がありますが、漁獲共済に加入していないことが多い零細な沿岸漁業者への支援方法としては補助金方式が適しているといえるでしょう。

①休漁一日当たりの支援額の算定方法
休漁実施漁船ごとの過去5年間のマサバ狙いの操業期間中の操業一日当たり水揚金額を5中3で標準化し、その64%の額を国1/3、都道府県1/3、自己負担1/3の補助金方式で交付する方式でした。なお一日当たりの水揚金額は、当然のことながらマサバ以外の同時に漁獲される魚種(混獲魚)も含むものでした。

話が少し横にそれますが、ここで定置網漁業の混獲魚の取り扱いについての私の疑問について触れておきたいと思います。

まき網漁法は意外と選択制が高かったことから、マサバ以外の魚種のウエイトはそれほど大きくなかったのですが、水産庁がマグロTAC対象漁業に、選択漁獲が非常に困難な定置網を加えたことは、正しい判断だったのかという点です。極端に言えば1尾のマグロのために1000尾のサケマスの漁獲を犠牲にするような不経済なことを行うことが、いくら資源管理とはいえ、定置網漁業全体から見てそれだけの産業的価値がマグロにあるのかです。

意味のない高い回復目標と現実離れした低加入量を前提とされてしまっては、今後どんどん資源が増えても少ないままのTACが続きます。このようなWCPFCの資源管理計画の下では、常にマグロの大漁入網の可能性が避けられず、下手をすると、マグロTACのために混獲防止や再放流といった操業上の支障(余計な手間や時間)を長年にわたり被ることになり、定置網漁業の経営にとってマグロはメリットよりもデメリットが勝る本当に「害魚」になりかねないのではないかという心配です。

かっての北洋サケマス漁業にとどめを刺したのは、サケマス流し網に混獲された、たった3尾のオットセイでした。マグロの資源管理には、米国の海産哺乳動物保護法に通じた危険性(定置殺すに刃物はいらぬマグロのTACさえあればよい)を感じざるを得ません。。

これは、定置網漁業に対する支援措置の側面からしても同じです。おそらくマグロの水揚金額をはるかに上回る混獲魚(むしろマグロの方こそが定置網漁業の主対象とする魚種の水揚金額と比較すれば混獲魚)を含めた減収に支援しなければならないことに予算的投資効果があるのかです。定置網漁業をTAC管理の対象にしたことにおいて、この2点の疑問がどうしても私にはぬぐい切れないのです。おそらくなーんも考えず、机の上で定置網にもそういう資源管理の時代が来たなどど口先でカッコつけて、無謀にもTACの対象にしただけではないかと思われてなりません。

これからの定置網漁業者は、朝起きたら「TACオーバーで逮捕する!」の目にいつ合うあうのかと、ビクビクしながら未来永劫生きていかねばならないのですから本当に大変ですね。垣網のところに「マグロ勝手に入るべからず。網主」と看板を立てておけば大丈夫かも。

②休漁日数の推定
予算要求時に、あらかじめどの程度の日数休漁するかを決める必要がありました。そこで大いに役に立ったのが、まき網業界が持っていた過去の卓越年級群が発生した時の詳細な操業データでした。驚いたことにその年々のマサバ資源量とマサバ狙いの操業日数の間に高い相関がありました。この場合の資源量とは、各年級群の複数年間にわたる実際の漁獲データを踏まえ研究者が何度も修正した結果のもので精度が高く(気象予報士が言う昨日の天気のようなもの)、操業日数は実体値ですので、その相関の信用性は高いものでした。

よって、まず水産研究所が公表する次年度の予測資源量をもとに、操業日数を推定します。次に休漁率(休漁日/操業日数)を、資源量に応じ設定(予測資源量が多い場合には30%、中間では20%、少ない場合には10%)し、推定操業日数に休漁率を掛けて予算要求する休漁日数を算出したのでした。

この休漁率の考え方は、漁業経営維持のための水揚を一定量確保できれば、あとは可能な限り卓越年級群を獲り残すための休漁日を増やすという、予測資源量に応じて漁業経営と資源回復のウエイト付けを変える「獲りながら増やす方程式」ともいえるものでした。

 

3 今後のマグロ資源管理支援措置の改善について

自民党から民主党への政権交代に伴い、あらたな政策として打ち出された「経営所得安定対策制度(旧:農業者戸別所得補償制度)」の水産版「資源管理・漁業所得補償対策大綱(平成23年1月)」が制定されました。それに基づき、計画的に資源管理や漁場改善に取り組む漁業者・養殖業者を対象とする、漁業共済と積立ぷらすの仕組みを活用した新たな「資源管理・収入安定対策」が打ち出されました。それは漁業全般の経営安定策として、一つの前進と受け止めました。

しかし、その反面でそれまでの資源回復計画制度にあった補助金による休漁などへの支援制度が廃止され、共済方式になったことを知り、もし、私が資源回復計画を推進しているときに、共済方式しか支援制度がなければ、とても休漁を漁業者に受け入れてもらえなかったと思いました。

なぜかというと、減収を伴う休漁を求めるのに、その支援はその年の水揚全体が過去の平均より減少した時にのみ支払われることで、確実な支援を約束できないからです。例えば、同じ日数休漁してもA漁業者はその年の漁業収入が少なかったので支援できるが、B漁業者は他の漁期にその分頑張ったので前年より収入が減らず支援ができない。そんなことでは、B漁業者はバカらしくて来年は休漁などしたくないというに決まっています。

なぜ一日休漁したらその一日の減収分を支援しないのでしょうか。一年間の水揚金額が過去と比較しどうだったかなどは、その同じ行為を行った者に対する支援に差をつける合理的な理由にはなりません。ましてその行為は国により法的に強制されたものであり、個人が自主的に行ったものではないからです。

今のままのマグロ資源管理では、TACを守っているような報告が上がってくるが、実際は過少申告が蔓延しているという事態になる可能性が高いことから、マサバ回復計画のような経営改善につながるTACの増大と支援策への見直しが必要不可欠と考えます。

 

 

 

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