もう黙っておれないクロマグロ資源管理 その⑥(最終回)

欠陥その6 マグロ資源管理制度を巡る強引なやり方(法律違反)への疑義

 今から振り返ると、今日の太平洋クロマグロの資源管理を巡る混乱の原点は、2010年のワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約:CITES)の第15回締約国会議で、大西洋クロマグロをワシントン条約の附属書1に掲載し、国際間の貿易について、「一時的な禁輸措置」を取ることを求める提案をモナコ公国がしたことにあるように思えます。

私の記憶では国内メディアはこぞって提案が可決される可能性が高いと想定し「マグロが食べられなくなる」と誇張して報道していただけに、予想が外れ否決されたことでバツが悪く、ともに危機感をあおっていた水産庁も含め昨日まで言っていたことと違うことを言い始めた(実は私は前から否決されると思っていたというような手の平返し)ことが可笑しかった記憶があります。

この会議がきっかけでマグロ資源管理に社会的関心が大きく注がれたためでしょうか、水産庁は会議が終了したその日に「今後の資源管理の取組みについて (農林水産大臣談話)平成22年3月25日」を発表するという手回しの良さ(というか過剰反応というか)でした。その一部を以下に抜粋します。

しかしながら、相当数の国が附属書への掲載を支持したのも事実であり、その背景には、これまでの地域漁業管理機関の資源管理が十分な効果をあげていないのではないかという問題意識があるものと考えられます。
こうした状況を放置すれば、今後、大西洋クロマグロに限らず他の魚種もワシントン条約による規制の対象として提案される懸念もあります。
こうした懸念を払拭していくためには、各種の地域漁業管理機関及び各国の資源管理を十分な効果のあるものとしていくことが不可欠と考えます。
このため、我が国としては、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)をはじめ各種の地域漁業管理機関において科学的資源評価を踏まえた的確な資源管理措置を決定し、各国がこれを確実に遵守する体制の確立に向けて、従来にもまして積極的なリーダーシップを発揮し、開発途上国との連携・協力も強化しつつ、乱獲防止の先頭に立ちたいと考えております。

つまり、太平洋クロマグロが同じような目に合わないようにWCPFCで、リーダーシップを発揮し、乱獲防止の先頭に立ちたいということになったわけです。水産庁がCITESにビビって危機感を持ち、その後の太平洋クロマグロへの対応に当たったという点は評価すべきと思いますが、問題は中身です。

危機感を持っていますよーというのは良いのですが、実際にやっていることはとても科学的とは言えない「エセMSY管理」です。別名ICCATの物まね資源管理と言ってもよいかと思います。しかし、それもやむを得ないかも。なぜなら、以下のように2010年のCITESをきっかけとして、ICCATが強化した資源管理措置がたまたま資源の増加につながったからです。

2010~2014年のTACを約1.3万トンとし、管理措置の強化に取り組んだ。そのため漁獲量は約1万~1.3万トンで推移し、2011年には過去最低水準(9,774トン)を記録した(ICCAT 2017a)。2015年以降はSCRSにおいて本資源の資源回復が確認されたため、TACを増加させた結果、2015および2016年の公式報告漁獲量は16,201トンおよび20,098トンであった(ICCAT 2017a)。(水産庁HP:国際資源の現況 大西洋クロマグロ 東大西洋より)

しかし、本当にTACの削減が資源の増加につながったのかは、証拠が示されておらず、確かに、上の説明文もそうだとは断定していません。私には、以下のグラフからしてCITESの2年前の2008年ころからすでに資源が増加に転じているように見えます。

(水産庁HP:国際資源の現況 大西洋クロマグロ 東大西洋より)

また、過去において親魚資源量が一番多かった1975年ごろに至るまでの漁獲量を以下のグラフで見ると1973年ごろが一番低い状態にあったことがわかります。

 

(水産庁HP:国際資源の現況 大西洋クロマグロ 東大西洋より)

不思議です。過去において漁獲量が一番低かった1973年ころから、わずか2-3年後に親魚資源量がピークとなっていますがこんなことがあり得るのでしょうか。成熟年齢が5歳とされていることから1970年代前半の漁獲量の減少が意図的な規制措置としても、そう急激に親魚資源量が増えるはずはないと思われます(ていうか、そもそも親と子の関係は逆相関)。まして、1970年代前半の漁獲量の減少が特段の規制強化によるものでないとすれば、この資源回復は環境要因が引き起こした自然増加によるものではないかと思われます。

となると最大の関心事は、今回の2010年以降のTAC削減と資源増加については、因果関係があるのか、それとも1970年代前半と同様に環境要因が引き起こした自然増加によるものかです。単純にグラフのみを見ると「漁獲量が1万トン近くに下がると、資源は増加し始める、ただそれだけ」といっても嘘ではないように思います。問題は漁獲量を1万トンに下げたのか、下がったのか。その違いです。その点を科学者はなんといっているのでしょうか。

2017年9月の資源評価では「水準は高位で、資源の動向は増加傾向」とありますので、科学者は「これぞTAC削減による効果だ」と胸を張っているかと思いきや、

一般に管理目標値の推定は、自然死亡係数などの生物学的パラメータに加え、将来の長期的な加入量の設定が必要である。将来の加入量には多くの場合、理論的な再生産関係式が使用される。しかし2017年の本種の資源評価では、推定された再生産関係が逆相関であったり、年代別に加入レベルが異なったり、資源手法間で関係式が大きく異なった。2017年の資源評価ではデータやパラメータなどを大きく改善したが、再生産関係から将来の加入量を仮定すると、管理目標値の推定範囲が非常に広くなった。最終的にSCRSは、将来の長期的な加入量を選択することは適切でないと判断し、管理目標値を推定しなかった。そのため、管理目標値に対する資源状態を示すKobeプロット及びKobeマトリックスは作成せずに、漁獲死亡係数Fのみに基づくKobeマトリックスを作成した上で管理勧告を作成した(ICCAT 2017a)。なお両系群とも、管理目標にはFMSYの代替値として再生産関係を必要としないF0.1を使用することとした。(水産庁HP:国際資源の現況 大西洋クロマグロ 東大西洋より)

とのことです。

要するに科学者は「なんで増えたのかよくわかりません⇒TAC削減の効果が立証できない⇒環境要因による増加の可能性が高い」と理解してもよいのではないでしょうか。

仮にこの私の理解がそう間違っていないとすれば
①TAC規制と資源回復の因果関係を明確にできない大西洋クロマグロと同様に、太平洋クロマグロのTAC管理も、根拠不明確なMSY理論に基づいた罰則付きのTAC規制を漁業者に対し課しているのではないか。
②過激な環境保護思想に強く影響されたCITESという国際機関において、大西洋クロマグロの貿易の禁止措置が可決されていたら、とんでもない「濡れ衣」による経済的制裁を漁業者はもちろん消費者にも課していたことになったのではないか。

ということになります。これを例えれば、「魔女狩り」であり、資源変動に対する無知による社会不安から発生した集団ヒステリー現象で、漁業者に過剰な制裁を課しその違反を罰するのは違法ではないでしょうか。

今回私は、水産庁が優良事例として称賛する大西洋クロマグロ管理の背景において、なにか中世ヨーロッパにおける教会と国家の関係に通じるものがあるような気がしてきました。MSY真理教という教義を尊ぶエセ科学宗教家と、環境保護世論になびきやすい国家(各国政府)とが結託し、現実の資源変動よりもその教義を優先し、漁業者に少ないTACを権力を盾に強制する。極論すれば感情丸出しのへ理屈を掲げ、力で押し切る反捕鯨国、に近い構図です。

日本は反捕鯨には「クジラが増えている事実を見よ、一方的な倫理観を押し付けるな」と毅然とした対応をしておりますが、なにか太平洋クロマグロ管理においては「乱獲防止の先頭に立ちたい」といった手前か、マスコミを通じた世論向けの感情的資源管理論が先行し、乱獲で資源が減ったという証拠はないのに乱獲と決めつけ、TACを削減すれば資源が増えるという確証もないのにTACを削減する。以下に述べるような行政庁としてかなり強引な、違法性さえ問われかねないことを行ってきたのではないかと思います。以下私が抱く違法性への疑義について説明してまいります。

1 委員会指示による届出制及び承認制漁業の導入への疑義

水産庁は、それまで自由漁業であった曳き縄漁業等を、平成23年から24年にかけ届出制漁業に、また平成26年から承認制漁業に、漁業法第68条第1項に基づく「広域漁業調整員会の委員会指示」に基づき移行させました。

当時、私はマグロ曳き縄漁業を広域漁業調整員会(以下「広調委」)の委員会指示で届出制にすることを水産系の新聞を読んで知り、「えー、なんでそんなことができるの?」と疑問を感じました。広調委は私が資源管理の担当室長の時にその設置のための法律改正に係わった経緯もあり、担当課に直接電話して、以下のような趣旨のことを言った記憶があります。

そもそも我が国の漁業管理は、公的管理と自主管理から成り立っているのが大きな特徴。それは、漁業法第1条「この法律は、漁業生産に関する基本的制度を定め、漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調整機構の運用によつて水面を総合的に利用し、もつて漁業生産力を発展させ、あわせて漁業の民主化を図ることを目的とする。」において示されている。

広調委は、このうちの「漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調整機構」に該当する。よって基本的及び恒常的な漁業調整の枠組みは国又は都道府県という公的機関がこれを定め、その枠組下において、漁業現場における地域特性や時々の資源の変動などに合わせ、より適切かつ機動的な漁業調整を図るために、漁業者の代表で構成された委員会に与えられた権限が「委員会指示制度」と理解される。それゆえに委員会指示は、有効期限が1年と定められており、毎年見直しされるものとなっている。

一方、今回の委員会指示の内容は、太平洋クロマグロという国連海洋法条約第64条の高度回遊性魚種に係る規制に関連し、そこには「排他的経済水域の内外を問わず当該地域全体において当該魚種の保存を確保しかつ最適利用を促進するため、直接に又は適当な国際機関を通じて協力する」となっている。

よって、届出制は日本国政府が国際的な義務を果たすための基本的かつ恒常的な枠組みとなる。そのために「委員会指示制度」を用いることはその制度が設けられた立法趣旨から明らかに逸脱しており、届出制(後年の承認漁業も)の導入は、国又は都道府県が漁業法等に基づく省令又は漁業調整規則などにおいて措置しなければならない

しかし、残念ですが私のこの見解が考慮されることがありませんでした。

 

2 高度回遊性魚類をTAC制度の対象にしたことに対する違法性への疑義

日本が国連海洋法条約を批准するにあたり、私は内閣外政審議室内に臨時的に設置された「海洋法制担当室」に平成7年から8年まで出向しました。私が担当したのは「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」で、排他的経済水域と大陸棚を定義し、天然資源の探査、開発、保存及び管理などの経済的な目的で行われる探査及び開発のための活動などについて規定しているものでした。

一方、関係省庁では国連海洋法条約に定められた沿岸国の義務を担保するための法律の整備が進められ、その一つが「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律」であり、通称「TAC法」と呼ばれている法律でした。ではなぜこの法律を新たに整備する必要があったのでしょうか

EEZ内の外国漁船に割り当てを与えたり、漁船をつかまえるためでしょうか。そうではありません、韓国・中国船には適用除外されていましたが、それができる法律はあり、ソ連(当時)船がその対象となっていました。それでは、新たな沿岸国の義務であるEEZ内の資源管理を国内漁船に守らせるために必要だったのでしょうか。いやこれも既に漁業法などにより、国内漁船に対する総漁獲量(横文字で言うとTAC)や個別漁獲割り当て(横文字で言うとIQ)を課し守らせることができる仕組みがありました。

ではなぜわざわざ「TAC法」が必要となったのでしょうか。それは以下の国連海洋法条約での沿岸国の義務を果たすために必要だったのです。つまりMSYに基づく(実現する)漁獲可能量:TACを決定する法律がなかったためです。

第61条 生物資源の保存
1 沿岸国は、自国の排他的経済水域における生物資源の漁獲可能量を決定する
2 沿岸国は、自国が入手することのできる最良の科学的証拠を考慮して、排他的経済水域における生物資源の維持が過度の開発によって脅かされないことを適当な保存措置及び管理措置を通じて確保する。このため、適当な場合には、沿岸国及び権限のある国際機関(小地域的なもの、地域的なもの又は世界的なもののいずれであるかを問わない。)は、協力する。
3 2に規定する措置は、また、環境上及び経済上の関連要因(沿岸漁業社会の経済上のニーズ及び開発途上国の特別の要請を含む。)を勘案し、かつ、漁獲の態様、資源間の相互依存関係及び一般的に勧告された国際的な最低限度の基準(小地域的なもの、地域的なもの又は世界的なもののいずれであるかを問わない。)を考慮して、最大持続生産量を実現することのできる水準に漁獲される種の資源量を維持し又は回復することのできるようなものとする

しかし、それだけのことなら既存の漁業法や水産資源保護法に、この義務を担保する規定を追加すればよいのであり新法は不要だったはずです。実は国際的にみると漁業管理法とTAC管理法とが日本のように別の法律に分かれている方が珍しいのです。私はTAC法の整備に関わっていなかったので詳しいことはわかりませんが、おそらく既存の法律に組み込むより独立法の方が立法技術として簡単だったのではないかと推測しています。

前置きはこのくらいにして、「高度回遊性魚類をTAC制度の対象にしたことに対する違法性への疑義」について私の見解を以下に述べます。

そもそも沿岸国がEEZ内の資源管理においてTACを定めなければならない理由は、その対象資源に関する沿岸国に与えられた主権的権利に対応した義務だからです。しかし、その主権的権利が認められる対象資源にEEZ内のすべての魚種が含まれるわけではありません。例えばロシアの河川で生まれたサケ・マスは、日本のEEZ内で日本漁船が漁獲していますが、日本がTACを定めることはできません。だからロシア系サケ・マスの日本EEZ内での日本漁船による漁獲量の規制はTAC法ではなく漁業法により行われているのです。

では、EEZ内の高度回遊性魚類に対して沿岸国はTACを定められるのでしょうか。国連海洋法条約第66条では、サケ・マスについては母川国がそれを漁獲する国との協議の後に自国の河川で生まれたサケ・マスのTACを定めることができるとしていますが、高度回遊性魚類については明確な規定はありません。しかし、太平洋クロマグロに関して日本はTACを定めることは現実的にできないと思われます。なぜなら、そのTACはWCPFCで決めることになっているからです。

おかしいと思いませんか。TAC法とは沿岸国の主権のもとにある魚種についての沿岸国の義務を果たすための制度です。にもかかわらず、国連海洋法条約第64条で「排他的経済水域の内外を問わず当該地域全体において当該魚種の保存を確保しかつ最適利用を促進するため、直接に又は適当な国際機関を通じて協力する」と別に位置づけられた高度回遊性魚種に係る規定ための義務を、なぜTAC法で行うのでしょうか。それが可能ならロシア系サケ・マスもTAC法で国内漁船に規制できることになります。

言いたいことは、クロマグロのTACは漁業法及び水産資源保護法に基づく省令又は漁業調整規則などにより行われることが法律上の正しい手続きではないかということです。マグロに(海洋生物資源保管理法による)TACはあり得ないのであって、あくまで(漁業法又は水産資源保護法に基づく)総漁獲量とすべきものということです。現に、過去に多くの国際約束で日本の漁船に漁獲割り当ての規制が課せられましたが、それは全て漁業法などで担保されており、TAC法で担保するのは今回が初めてです。どう考えてもおかしいです。

クロマグロをTACの対象にするためには、政令指定(閣議了解)が必要ですので、内閣法制局の厳しい審査をクリアーすることが必要となりますが、それがなぜ認められたのでしょうか。私は法制局の参事官に聞きたい。まさか法の番人である法制局までが官邸忖度病に罹ったのではないでしょうねと。

さらに、クロマグロをTACに追加するに当たっては、水産政策審議会に諮問されることからその時に少なくとも議論されたであろうと思われる
①マグロをTACの対象にできるのか。
②TAC法の枠組みにおいて、国際機関が決めた日本への割り当て数量をTACとして位置づけることができるのか。
の2点について、平成29年12月12日に開催された水政審で配布された資料や議事録でチェックしてみました。しかしこの疑問への回答となる資料も議論も見当たりませんでした。

しかし、提出された以下の資料の赤字部分について最も疑義を抱かざるを得ませんでした。

海洋生物資源の保存及び管理に関する基本計画 変更新旧対照表

第3 第1種特定海洋生物資源ごとの漁獲可能量に関する事項

1 漁獲可能量の設定は、当面の間(平成29年度以降5年間程度)2の漁獲可能量の設定に係る第1種特定海洋生物資源の中期管理方針に沿って行うものとする。ただし、くろまぐろはWCPFCで決定された保存管理措置に基づき漁獲可能量を定めるために除くものとする

簡単に「くろまぐろは除く」と書いていますが、そんなことが許されるのでしょうか。なぜなら、下記の法律の規定では「大臣は基本計画を定める」「基本計画には漁獲可能量に関する事項を定める」となっており、それを勝手に「WCPFCで決定された保存管理措置に基づき漁獲可能量を定めるために除く」とできるのでしょうか。

海洋生物資源の保存及び管理に関する法律
(基本計画)
第三条 農林水産大臣は、排他的経済水域等において海洋生物資源の保存及び管理を行うため、海洋生物資源の保存及び管理に関する基本計画(以下「基本計画」という。)を定めるものとする。
2 基本計画においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 海洋生物資源の保存及び管理に関する基本方針
二 特定海洋生物資源ごとの動向に関する事項
三 第一種特定海洋生物資源ごとの漁獲可能量に関する事項
(以下略)

私としては、クロマグロのTACは日本ではなく国際機関が決める権限を持ち、日本はその一部の割り当てを受けるだけですので、クロマグロについては沿岸国の主権として法律で定めるべき事項(要件)を満たせないこととなり、そのような魚種をTAC法の対象にしたのは違法であるとしか言えません。おそらくTAC魚種を増やせという圧力に屈し、規制改革のご命令とあらばどこの省庁でもやっているからと違法なことをやったのではないでしょうか。

 

3 MSY達成との因果関係が立証できないTACの違法性への疑義

 これまでTAC法の採捕停止命令や漁獲報告義務を守らなかったことで、検挙・送検され裁判で争われた例を知らないので、誰もそこまで考えたことがないかもしれませんが、今回のクロマグロTACでは十分それがあり得ると思われます。そこで裁判で「TACを守らないことで何か悪いことをしたのか」と被告人に開き直られたら、本当にちゃんと裁判官を納得させられる説明ができるのでしょうか。

TAC法で漁業者を罰するのは、TACを守らない行為が資源に悪影響を及ぼし公益に反するからです。ところが、多くの漁業者がTAC違反をしているのに資源がどんどん増えており、被告の漁業者がそのことを裁判の途中で知ったら、素直に判決を受け入れるでしょうか。弁護士は「資源増加に因果関係のないTACのためになんで被告人が罰を受けなければならないのか」と無罪を主張し、逆に根拠なきことで人を犯罪人に仕立て上げた行政庁と、いい加減な予測をした研究者を訴えることもありうるかもしれません。

幸いにも、私は北洋漁業でソ連の漁獲割当量違反で処分した漁業者からは、そのような反論は一度も言われたことはありません。なぜなら、その割当量は資源を増加させるとかの理屈で決まったのではなく、単純にソ連が認めた漁獲量の上限という国際漁業秩序の維持という目的であったからです。

しかしTAC法は違います。その法律はMSYの達成という目的により行われるのであり、TACとMSY達成の因果関係が立証できない魚種に対するTACの導入そのものが違法と言えると思います。そこが漁業法に基づく漁業調整のための漁獲量規制との大きな違いです。

たとえ話でTACをガンの特効薬としましょう。

「ガンの特効薬といわれる高い薬を飲んだら、ガンが治った。後日その薬を詳しく調べたらただの小麦粉で、たまたま自然治癒しただけだった」。さて、患者は医者に金返せといえるでしょうか。私は当然返すべきだと思います。なぜなら、小麦粉だったからではなく、どんな薬であっても、その病気と薬効との因果関係が立証できていないものを、投薬した段階で詐欺だと思うからです。

では次に

「クロマグロ資源回復の特効薬だとして、少ないTACを強制され我慢していたら資源が増えた。後日その資源解析を詳しく見たら、単に環境変化にともなう自然増加であったことが分かった」。さて、漁業者は少ないTACで被った損失を行政庁に請求できるでしょうか。私は当然請求できると考えます。なぜなら、そもそも資源変動には環境要因が大きく影響しているにもかかわらず、TAC削減によりそれが回復できると信じ込ませ、損失を与えた段階で詐欺だからです。簡単に言えば、密度効果・親子関係による資源変動理論があてはまらないほとんどの魚種に対してのMSY達成のためのTAC導入は、その結果にかかわらず全て詐欺であり違法と言えると思います。

<最後に、水産庁による強引なやり方の背景を探る>

 上記に掲げた違法性への疑義の3点について、なぜそのような強引なやり方を水産庁がしたのかを考えてみました。

逆の順番となりますが、3番目のエセMSY理論に基づくTACの違法性は、我が国の今後の資源管理のあり方に係わる根本的な大問題でありますが、そのおおもとが国連海洋法条約の義務であることから、例えMSY理論がインチキでもそう簡単に違法性が認定されることはないかもしれません。

しかし、国連海洋法条約では、すべての魚種をTACの対象にせよとは沿岸国に義務付けていないのですから、MSY理論に合致しない資源変動特性を有する魚種をTACの対象にすることの違法性についてなら、漁業者が問うことができるような気がします。規制改革の圧力に屈し、TAC魚種を総漁獲量の8割まで増やすという愚行を阻止するためにも、ぜひ最高裁まで争ってみたい気がします。

1,2番目の疑義である「委員会指示」と「マグロのTAC指定」について、水産庁がこのような無理をした背景には、地方分権改革による「沿岸漁業管理の自治事務化」があったのではないかと推察されます。というのは、それまでの多くの国際機関での約束事は、ほとんどが遠洋や沖合漁業などの大臣管理漁業で履行できたのですが、今回のクロマグロのように知事管理漁業である定置網や沿岸小型漁船漁業までもが直接的な規制の対象になった例はほとんどなかったと思うからです。

本来なら、知事管理漁業については都道府県の漁業調整規則などで担保措置を講じることになるのですが、いちいち理解を求めそれを措置していくことの煩雑さから、一気呵成に国から命令できる枠組みである、広調委の委員会指示とTAC制度を悪用したのではないかと思われます。

全国統一的に行わなければならない資源管理であれば、多少の法律的な疑義はあっても、そのような枠組みを利用することも一つの考え方ではないかという指摘もあるかと思います。確かに、政府が信頼できるのであればそこまでは言いません。しかし、地方の少量漁獲漁業を撲滅せんとする規制改革の言うがままに水産庁が進める資源管理方策に、地方分権の立場からの異議を唱えることができなくなるというリスクも考えなければなりません。

クロマグロの国際的な管理の枠組みへの参加は地方もその必要性を認めるにしても、その規制の中身については、今回のように勝手なことを国が一方的に押し付けることができないよう、地方の事前了解が前提となる漁業調整規則で知事管理漁業の漁獲量を定めるべきでしょう。資源回復計画ではすべて地方の了解を得てやったのですからそれができない理由はありません。

資源管理の基本は漁業者の納得です。資源回復計画ではそれに忠実に従ったから混乱なく、決まったことは必ず守られたので、それなりの成果を上げることができたと思います。そういう点からすれば、水産庁がクロマグロのTACの導入に当たっての必要性の説明文のなかに、それまでの試行的TACが守られなかったのは、それが罰則の伴う正式なTACではなかったからという趣旨のことが書いてあるのを見て「これは完全に方向性を間違っている」と思いました。(でもある意味正しいかもしれません、なぜなら罰則を伴うTAC違反を正直に申し出る漁業者はいませんので・・・)

これではまるで漁業者が意図的に違反しているとしか受け止められません。守れもしない国際約束を勝手に約束してきた当事者の反省など全くありません。罰則がかかれば怖がってTACは守るだろうという力による脅迫です。力で海がコントロールできるなら苦労はありません。

さらに言えば、委員会指示で導入した届出制なども徹底していなかったようで、無登録漁船による漁獲問題も指摘されていました。これなど、明らかにおかしなことです。そもそも委員会指示とは漁業者が自らその必要性を感じ下から積み上げたルールであり、それが守られないなど通常ではありえません。まさに、形だけの委員会指示でその実は国からの一方的強制であったことが明らかです。

安倍1強独裁体制下にある現在の中央省庁の役人は、森友・加計学園問題に象徴されるように、嘘、隠蔽、違法を厭(いと)いません。9月3日付の水産経済新聞に掲載されていましたが、東京大学鈴木宣弘教授によれば、森林経営管理法第19条に盛り込まれた「経営意欲の低い経営者」から強制的にその経営権を取り上げ、「意欲と能力のある経営者」に渡すという無謀極まりない規定において、法制局が憲法・民法に抵触すると疑義を呈したが、政治判断で押し切られた経緯があるとのことです。なんでもありなのです。

中選挙区制のころの自民党であれば、これだけの不祥事を起こした総理は、激しい派閥闘争により、退陣させられていたことは間違いありません。今から思えば田中角栄元総理が辞職するきっかけとなった「田中金脈問題」などは「モリ・カケスキャンダル」の違法性に比較すればまだかわいいものです。それでも安倍総裁の3選は確実なのですから、何をやっても許される戦後において最凶かつ最強の内閣と言えます。村社会民主主義の日本に合わない小選挙区制が完全に日本の政治を劣化させてしまいました。

このように、物言わぬ立法と行政の2つの権力をその手中に収めた安倍1強独裁体制に対しては、残された司法の場において、憲法や法律の規定に照らし、その運用の誤りを訴えていくここと、安倍1強におびえ役に立たない国会議員ではなく、安倍1強の直接的な支配下にない地方議員が中央からの一方的な押し付けに地方分権の立場から反対していくことが重要になってきているような気がします。

以上6回にわたり連載したクロマグロ資源管理問題は今回で最終回です。ちょうど今、WCPFCの北小委員会が福岡で開催中とのことで、それが終わる前に終えることができました。この連載のきっかけとなったマグロ一本釣り漁業者の方からのメールでの問い合わせに対し、何らかのご参考になったとすれば幸いです。

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