熱烈歓迎・米中貿易戦争

以前から私は、自由貿易は消費者にとって絶対的に、普遍的に好ましいなどという主張は、間違っていると思っていました。なぜなら、その消費者は国内産業で働き所得を得たうえで、初めて輸入のメリットを被ることができるわけであり、その国内産業が輸入品によりつぶれては意味がないからです。だから、TPPなどでいう関税ゼロの原則は、貿易のデメリットをコントロールする手段を完全に放棄するものであって、むしろ互いに不足するものを補てんしあう本来の貿易の崩壊につながると考えられるからです。

 ということで、今起こっているアメリカの中国への制裁関税とそれに対する中国からアメリカへの報復関税については、「もっとじゃんじゃんやれ」という気分です。というのは、地方に住んでいると実感することは、貿易の自由化で、一部の輸出産業や都市部だけが豊かになって、輸入品に国内市場を奪われた第一次産業や中小企業が衰退しているまぎれもないその現実です。

 貿易の不均衡を是正する方法は、黒字相手国への輸出拡大(押し売り)か、黒字相手国からの輸入制限ですが、これまでは前者の押し売りの方が多かったと思います。過去の日米貿易協議では、最後まで問題になるのは牛肉などの第一次産業分野の品目が多く、結局輸出産業の犠牲になるのはいつも地方でした。もういい加減にしてほしいものです。

なぜ、アメリカは日本への押し売りではなく、もっと簡単な日本からの輸入制限(関税引き上げ)をしないのだろうか。そうすれば、お互いの国内において輸出産業への富の偏在が是正され、また輸入品に国内市場を奪われ衰退してきた国内産業が復活できるのに、と思っていました。そこでついに、自由貿易真理教に洗脳された今までの大統領と違い、トランプ大統領は輸入制限というもう一つの手法を使い始めたのです。

実は、私はこれに期待していました。というのは2年前のトランプ大統領の就任演説において以下のような部分があったからです

・私たちは2つの素朴なルールに従います。アメリカのものを買い、アメリカ人を雇うのです。
・私たちは世界の国々との間に友情、そして友好を求めます。しかしその前提には、すべての国は自国の利益を優先する権利があるという認識があります。
・私たちは自分たちの生き方をほかの誰にも押し付けようとはしませんが、むしろお手本として輝くように、私たちは輝きますから、ほかの人たちが見習うべきお手本として輝くようにします。

今行われている日米貿易協議において、日本側からの見方では米国は「自動車関税の引き上げをちらつかせながら、牛肉などの農畜産物の市場開放を迫ってくる見通し」とのことですが、トランプ大統領は就任演説を忘れずに、牛肉を日本に押し付けることなく、中国に対して行ったように、輸入品への関税引き上げで日本に迫って欲しいと祈るばかりです。

最後に皆さんにご紹介したいこの件に関連した論調があります。昨日(9月19日)偶然ネットで見つけた「ニューズウイーク日本版」からのものです。「輸出主導の経済発展がしにくくなると、なかなかいいことを書いているなー」と思いその著者を見たら、なんと私がモスクワ大使館勤務時代に同じ経済班におられた河東哲夫氏(その後、外務省東欧課長やウズベキスタン・タジキスタン大使などを歴任)でした。

まさに今回のテーマに関連した内容だったので、特に印象を受けたところだけを抜粋し以下に引用させていただきます。

トランプバブル崩壊は近い 「貪欲」が資本主義の終焉を招く?
ニューズウイーク日本版 9/19(水) 16:27配信

低成長と高物価時代の再来
リーマン危機後に言われた「資本主義の終焉」が今度こそやって来たのだろうか。いや、競争と市場メカニズムに基づいた資本主義が最も効率的で、活力をもたらす経済であることは変わらない。金融テクニックと投機で膨らんだ「仮想」の富がはげ落ちるだけだ。まともな生活水準を持つ多数の人口、蓄積した資本と貯蓄、そして技術がある限り、経済は回り続ける。

ただ、次の危機後に現れる世界経済は、今とは随分違った姿になるだろう。トランプの「製造業は本国に帰れ」の掛け声で「地産地消」の比重が増え、グローバルなサプライチェーンは大幅に変わる。中国で輸出用製品を組み立てる企業は減るとともに、外国から中国への部品や機械の輸出は減少する。輸出主導の経済発展がしにくくなるため、途上国の経済は停滞する。世界全体の成長率は低下する半面、工業製品の価格は上昇傾向を示すだろう。

中国経済が空前の成長を遂げ、世界に安価なモノを提供した時代は終わる。そうなれば、低成長と高物価(70年代のスタグフレーションの再発)を前提にした経済・社会運営が必要になってくる。低成長でも回る経済、低成長でも満足する社会の到来となる。

こうした危機の当初、日本はひどい目に遭うだろう。輸出が急減して景気は急落し、就職氷河期が再来。資産の半分を株で運用している年金運用は莫大な含み損を抱え、支給への不安が高まる。「政府の指令で経済を運営せよ」「金持ちの資産を分配せよ」などの声が満ち、ポピュリストの野党が政権を取るかもしれない。

90年、筆者はソ連の計画経済が音を立てて崩壊していく様を、外交官として現地で見ていた。だから、言う。指令経済や国家資本主義への幼稚な期待はやめてほしい。人間という予測不能な生物が集まってつくる経済を、計画や指令で動かせるはずがない、と。

むしろ危機後に日本政府がやるべきことは債務危機に陥った企業に対する公的資金注入だ。同時に、危機に伴う円買いで法外な円高が再現しないよう、機敏なドル買い介入をすることだ。
河東哲夫

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