TAC効果の嘘八百

9月20日に行われた自民党総裁選挙の結果は、予想以上に石破氏が善戦したとのことですが、553票対254票と安倍総裁の圧勝となりました。それにしても戦後の歴代内閣と比較してみた場合の安倍政権の特徴は、行政による嘘・隠蔽・ねつ造が多発してもその政権基盤はびくともしないという、これまでの政治倫理の常識からは理解できない不思議な強靭性を持っていることです。なにをしようが許される天下無敵の安定政権が、今後3年間も継続するのですから、役人の方々も、じっくりと腰を据えて従来以上に嘘・隠蔽・ねつ造に励み、「美しい国づくり」に邁進できると思います。

さて、6月1日に水産政策改革が「農林水産業・地域の活力創造プラン」に正式に盛り込まれて4カ月が経過しようとしております。このプランを決定したのは、「農林水産業・地域の活力創造本部」というところです。これは内閣総理大臣を本部長とし、関係閣僚のすべてが本部員となった組織であり、この決定は閣議決定と同じ効力を有するものです。

これは何を意味するのでしょうか。先般の説明会で水産庁の課長さんがついポロリと言ってしまいましたが、すでに閣議で決定したことなのでいまさら何を言っても変わらないということです。水産政策改革とは、漁業者の意見を聞かないまま最終決定されたものであり、漁業者がそれを知ったときには、もう後の祭りだったのです。

裁判に例えるなら、被告人が一度も出廷させてもらえず、もちろん文書による意見陳述もなしで、いきなり最終審である最高裁判決「適切かつ有効に人生を過ごしていないあなたは死刑」が下されたのと同じです。これは不利益を被る当事者には弁明の機会を与えなければならないという近代国家における大原則を明らかに無視したもので、常識的にはその決定そのものが手続きを踏んでいないので、法的に無効のはずです。しかし、それを全く意に介さないところが、まさに安倍1強独裁という時代錯誤の無法政権の面目躍如と言ったところです。

ということで、私も勘違いしていました。これまで開催されたのは水産政策改革の「説明会」であり、「意見を聞く会」でも「意見交換会」でもなかったのです。「ここがおかしい」という質問には「おかしくありません」、「ここはこう変えるべきだ」という意見には「変えません」としか水産庁は答えられないのです。だから、何を聞いても何一つまともな回答が得られていないのに、早くも秋の臨時国会に提出する法案の説明会が9月20日を皮切りに開催されていると聞きました。

今から振り返ると6月1日の農水大臣の記者会見での発言「関係団体等に丁寧に説明を行い、理解を得ながら進めていきたい」をまともに受けた自分がバカでした。これだけ信用できない政府は初めてです。水産庁は完全に漁師の敵になってしまいました。本当にこの世の中どうなってしまったのでしょうか。

今回の改革のさきがけともいえる宮城県水産特区がそうであったように、水産のど素人が机上で考えた今回の改革も、漁業現場に混乱を起こすだけで失敗に終わるのは目に見えています。かといって放っておくと反省という言葉を知らない政府ですので、調子に乗ってまた何かを付け加えてくるかわかりません。よって聞く耳を持たない政府だからといって「何を言っても無駄」と黙り込むことはできません。間違いは間違いと指摘し続けなければなりません。 

ということで、今回は漁業権とならぶ2大改悪の一つである「新たな資源管理システムの構築」のTAC対象魚種の拡大などの間違いを指摘したいと思います。その方法は、水産庁のHPで水産政策改革の必要性などについて説明した資料において、安倍内閣の得意技「嘘・隠蔽・ねつ造」が隠されていないかチェックしていくやり方です。すでにこのブログ「水産政策改革案に物申す(その①)-言語道断! 愚の骨頂!-」で質問項目を整理しておりますので、それにも照らし水産庁の資料がそれにどう答えているのかについても検証してみたいと思います。

 

1 「適切な資源管理をおこなっていれば(漁獲量)減少を防止・緩和できた」は嘘

(質問1―1)
水産資源は、漁獲の有無にかかわらず大きく変動するという特性がある。とりわけ浮き魚を中心とする我が国周辺資源には、その傾向が大きい。ではこのような資源をどのような手法をもって管理すれば、その変動を抑制し、資源を増やすことができるかという、例えば10年後を見据えた資源動向について具体的見通しを示していただきたい。

この質問への直接的な回答は見当たりませんが、過去において「こうすればこうなった」に触れた記述が以下の資料にあります。

(水産庁HP 水産改革関連資料 水産業の現状と課題 より)

上の黄色のカッコ内の下の記述において「減少には様々な要因が考えられるが、適切な資源管理を行っていれば減少を防止・緩和できたと考えられる種が多い」とあります。まさに私が知りたいのはここです。上の図は漁獲量であり資源量ではありません。よって中には資源が増えたにもかかわらず黒潮の蛇行などで漁場が形成されなかったり、魚価安と燃油高により経費節減のために濃厚な魚群が来た時にのみしか出漁せず、操業日数が減少したことなどにより漁獲量が減少したこともあるでしょう。

しかし、水産庁の資料では「適切な資源管理を行っていれば(漁獲量の)減少を防止・緩和できた」と強調しています。「(そのようになった)と考えられる種が多い」としているのですから、一つや二つではないでしょう。では、操業日数の減少などの要因ではなく、資源の減少が漁獲量の減った主要因と特定した魚種をぜひ公表していただきたいと思います。またその魚種について「適切な資源管理を行っておれば」とありますので、どこが適切でなかったのかもぜひ公表していただきたいと思います。

この誰もが関心をもつ基本中の基本の具体的資料がどこにも見当たらないのです。前からの疑問ですが、現在の漁獲量を〇割削減すると〇年後にどこまで増加するというグラフはよく見かけます。しかし、過去にさかのぼりあの時に漁獲量を〇割削減しておれば今こうなったというグラフは見たためしがないのです。だから水産庁のいう「あの時にああしておけば今日こうなった」というシュミレーションをぜひ見せて欲しいのです。

 わたしは「適切な資源管理で漁獲量減少を防げた」のすべてを否定するわけではありませんが、本当にそうなのかという点において水産庁は何の裏付けも取らず資源悪化を強調したいがためについた嘘ではないかと思わざるを得ないのです。なぜそういう疑いを持つかの理由は、水産庁の資料にあるTAC対象種に関する以下の図からです。

(水産庁HP 水産改革関連資料 水産業の現状と課題 より)

TAC対象7魚種はどちらかというと「適切な資源管理を行っていた」はずの魚種でしょう。赤色の正方形で結ばれた線が採捕量(以下「漁獲量」)ですので、それが減少傾向にある魚種を一つづつチェックしていきましょう。

①サンマ
過去一貫して漁獲量がABCを下回まわって来た魚種であり、特に平成20年から25年ごろにかけて3回ほどABCが急増し、漁獲量はその半分以下というようにサンマは「適切な資源管理を行っていた」代表的魚種にもかかわらず漁獲量が減少しています。水産庁はこの漁獲量の減少をどうすれば「防止・緩和できた」というのでしょうか。

②スケトウダラ
これは近年漁獲量が減少している魚種です。しかし、平成17年頃から平成24年頃まで漁獲量がABCを上回っている「適切な資源管理が行われていない」ときには不思議なことに漁獲量が安定しています。ところが、その後は漁獲量がABCを下回り「適切な資源管理が行われている」にもかかわらず漁獲量が減少しています。水産庁はこの漁獲量の減少をどうすれば「防止・緩和できた」というのでしょうか。

③マアジ
この魚種もおかしなことに、平成17年ごろから一貫して漁獲量がABCを下回り「適切な資源管理が行われている」にもかかわらず漁獲量がなだらかに減少し続けています。水産庁はこの漁獲量の減少をどうすれば「防止・緩和できた」というのでしょうか。

④スルメイカ
 グラフを見る限りずっと漁獲量がABCを下回り「適切な資源管理が行われている」にもかかわらず一貫して漁獲量が減少してきています。水産庁はこの漁獲量の減少をどうすれば「防止・緩和できた」というのでしょうか。

⑤ズワイガニ
 平成17年ごろから一貫して漁獲量がABCを下回り「適切な資源管理が行われている」にもかかわらず漁獲量も一貫して減少しています。水産庁はこの漁獲量の減少をどうすれば「防止・緩和できた」というのでしょうか。

以上、漁獲量が減少しているTAC5魚種については、「適切な資源管理を行っていれば減少を防止・緩和できたと考えられる種」にすべて該当しません。ということは水産庁のいう「・・・と考えられる種が多い」とはどの種を指すのでしょうか。これは明らかに嘘と言わざるを得ません。

なお、水産庁が「これまでのABCレベルが高過ぎた、ゼロにすべきだった」として「適切な資源管理を行っていなかった」ということがあるかもしれません。が、そうであれば冒頭の記述は「適切な資源管理を行っていれば、漁獲量の減少を防止・緩和することはできなかったが、資源量は増大することができた」という表現に修正すべきでしょう。そうすれば、水産庁が新たに導入を目指す「常に少ない漁獲量で常に多くの資源を」という「新たな資源管理システム(別名「獲らせない資源管理」)」との整合性もとれますので。

 

2 これを「TAC導入の効果」というのは嘘ではないか

(水産庁HP 水産改革関連資料 水産業の現状と課題 より)

すでに20年にも及びTACを運用してきて、この程度のもの(しかもそれが本当にTACの効果と言えるかは疑問)しかないのかと、水産庁のご苦労をお察し申し上げます。ではこれが本当にTACの効果であるのかについて、いくつか私の疑問をあげていきます。

(1)TACの導入効果を低位にある魚種の比率のみで比較するのは意味がない

 ここにある高・中・低位の資源水準の3区分は、その対象種ごとに絶対的な基準があるわけではなく、過去の変動幅を3区分し現在の資源がどの水準に位置づけられるかを表したものです。よって、対象資源の変動特性を踏まえなければ、その対象種が現在どの区分にあるかだけで資源管理の成功・失敗を表すものとは言えません。

例えば30年に一度のタイミングで卓越年級群が現れその10年間は資源が高位・中位にあるが、それ以外の20年間は常に低位の状態にある資源では、高・中・低位に位置づけられる確率が1/6・1/6・4/6になるのが正常といえます。よって、個々の資源変動特性を分析せずに現在低位にあるTAC対象種の比率(32%)とTAC未対象魚種(以下「非TAC魚種」)の比率(54%)と比較するだけで、それがTAC導入効果とは言えないと思います。その証拠に、高位の比率ではTAC対象種10%、非TAC対象種18%であり、同じ理屈を適応すれば資源を高位にするにはTACを導入しない方が良いという結論が導かれますが、このような比較方法の科学的根拠のなさは、ここに現れているといえます。

 

(2)TAC対象種の低位比率が減少した要因をTAC効果というのは嘘ではないか

上のTAC対象種と非TAC魚種の比率の推移のグラフを丁寧に比較すると、平成20年(2008年)ごろには、いずれの低位の比率もほぼ同じく約50%程度でありました。逆に言えば平成20年以前は、TAC対象種、非対象種にかかわらず低位の比率に差はなかったと言えます。しかし、その後平成28年(2016年)までの8年間にTAC対象種の低位の比率が減少しこれがTACの導入効果であるとしています。ではこの期間中に起こった変化(上位区分との間の出入り)が「TAC導入の効果」と言えるのかどうかを個別に検証してみましょう。

①低位から上位区分に移動した魚種 

平成20年には低位であったが、平成28年までに中位となった魚種は、マイワシ太平洋系群、マイワシ対馬暖流系群、マサバ太平洋系群、ズワイガニ・オホーツク海系群の4系魚種でありそれがTACによる効果であるかどうかを検証します。

<マイワシ太平洋系群>

(水産庁HP:「わが国周辺の水産資源の現状を知るために」より)

平成20年(2008年)から平成28年(2016年)にかけ見事に親魚量が増加し、低位から中位に移動しています。しかし、これはどう見ても極めて高い再生産成功率が3回にわたり起こったことにより生じたものであり、TACの導入効果として高い再生産成功率が生じたとは言えません

なお、私が注目するのは上のグラフにある「漁獲割合」(漁獲量/資源量)が、資源が増加に転じた後は、ほぼ一律で推移していることです。もちろんこの資源量は漁獲実績をもとに事後に補正を重ねた精度の高いものですが、巻き網漁船は操業中はその年の加入量を事前に知ることはでません。にもかかわらず、結果として加入に対する漁獲割合を一律にすることができる。(これはTAC制限によるものではなく、漁獲量はTACの半分程度に収まっています。)これは見事だと思います。「漁獲割合」とはまさにF値コントロールそのものです。この資源は、建前上はアウトプットコントロール(TAC)規制されていますが、実際には予想不可能な加入変動をする資源に対して漁獲割合を一定に保つ日本漁船の得意とするインプットコントロール(F値)で管理されているのではないかと思わざるを得ません。TAC制度などなくてもしっかり日本漁船はF値による資源管理ができるのです。

<マイワシ対馬暖流系群>

(水産庁HP:「わが国周辺の水産資源の現状を知るために」より)

このマイワシ対馬暖流系群においても太平洋系群ほどではありませんが、高い再生産成功率が複数年発生したことにより、絶滅寸前!?まで減少していた資源が回復し低位から中位に移動してきたものですが、もちろんTACの導入効果として高い再生産成功率が生じたとは言えません

<マサバ太平洋系群>

(水産庁HP:「わが国周辺の水産資源の現状を知るために」より)

これは資源回復計画の成功事例です。断続的な休漁を繰り返す手法を用いてF値を削減しましたが、それもやはり卓越年級群そのものが発生しなければ、回復できなかったものです。もちろんTACの導入効果として高い再生産成功率が生じたとは言えません。

 

<ズワイガニ・オホーツク海系群>

(水産庁HP:「わが国周辺の水産資源の現状を知るために」より)

 この魚種はもともとロシア水域を分布の主体にしており、その一部が日本水域で漁獲されているものであり、ロシア水域での漁獲状況のデータもほとんど入手できていないので、低位から中位に移動したのを「TAC制度による効果」とは到底言えません

<結論>
 以上からしてTAC対象種の低位の比率が平成20年以降低下したことをもって、TAC導入の効果というのは何ら根拠がなく、真っ赤な嘘であると思います。

 

②上位区分から低位に移動した魚種

一方平成20年には中位又は高位でしたが、平成28年までに低位に移動してきた魚種についてもその要因を見てみましょう。

<マアジ太平洋系群>

(水産庁HP:「わが国周辺の水産資源の現状を知るために」より)

この魚種は中位から低位に移動してきた魚種ですが、これもよく見れば上の①の魚種で起こったことの逆パターンであり、再生産成功率が悪化してきたことが、中位から低位に移動してきた要因です。おそらくTACをゼロにして漁獲禁止したところで、資源量の減少は止められなかったろうと思われます。なお、漁獲禁止すれば今より資源を少しは高いレベルで維持できたでしょうが、漁業にとっては何の意味もないことは自明です。

<スルメイカ冬季系群>

(水産庁HP:「わが国周辺の水産資源の現状を知るために」より)

この魚種は、高位から低位に短期間で移動しました。これも明らかに近年における再生産成功率が低下してきていることが要因としか考えられません。仮に、TACをゼロにしたところで減少を止めることはできなかったと思います。

<上記2魚種について共通に言えること>

ここにおいても「漁獲割合」が非常に注目されます。マアジ太平洋系群の資源量は、約4倍の間で変動しているにもかかわらずほぼ40%で一定なのです。また、スルメイカ冬季系群では資源量が7倍の間で変動しているにもかかわらず、20-40%の間で振れますが、ほぼ30%前後で一定です。繰り返しますが、漁業者にはその年に来る資源の予想はつかないのです。漁期を終了してから今年はこの程度漁獲できたとわかるのに、なぜか後日研究者が推定したその年の資源量に対する比率がほぼ一定になるのです。しかもTAC制度が始まる以前からそうなのです。どのような操業をするとこのようにF値を一定に保てるのか、ぜひ研究を進めてもらいたいと思います。ここにこそインチキMSY理論に代わる新たな資源管理理論(というより日本こそが最先端を行っていた)の秘訣が隠されているような気がします。

(あらためて思うこと)
TAC管理であろうが、F値管理であろうが、再生産成功率の変動が資源に及ぼす圧倒的な影響力に比較すれば、人間のできることはわずかなもの。MSYは親子関係が成り立つことを前提にした理論で、これを基にした各種の管理モデルがあるが、現実はそれに適応することなく大変動する。にもかかわらず、水産政策改革の「新たな資源管理システム」はこの現実から目をそらし、相変わらずのMSY理論に基づくものであるところ、今のTAC制度と同様に使い物にならない。現に昨年から一転した今年のサンマの漁模様を、新たな資源管理システムであれば予測できたとでもいうのであろうか。

 

 

1 comment for “TAC効果の嘘八百

  1. 田舎者より
    2018年9月29日 at 10:57 AM

    今回の水産庁の改訂案では、データを誰かから(漁業者か漁協?)から集めて科学的資源管理をするとのことですが、魚種、量などの分類に手間隙がかかると思います。鮮度勝負の魚の流通に影響ないのでしょうか。また、データ作成のための負担は誰がするのでしょうか。さらに集めたデータは公表され、多くの科学者が自由に資源管理法の検証ができるのでしょうか。データに手心を加えていくらでも情報を操作できることは、厚労省が証明しています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です