全漁連、浜を犠牲に焼け太り?

次にアップする予定の漁業法改正案への修正意見その②を書いていた途中に、平成30年11月8日付の中日新聞に掲載された、漁業法改正についての特集をみて、どうしてもこれを先に書いておかなければという気分になってしまいました。特集の内容は、水産庁の説明をそのまま掲載するのではなく、それに対する漁業者の懸念・反対にも踏み込んだもので、官邸に牛耳られてしまった最近の大手マスコミにおいては、頑張って公平な観点からの内容でした。

そこでは、水産庁の二人の室長さんが、IQ制度導入と漁業権開放がこんなにすばらしいものだと説明している一方で、「小規模漁業者でつくる全国沿岸漁民連絡協議会」二平章事務局長と東京大学鈴木宣弘教授が、企業参入により地元漁師が壊滅する恐れや、漁協の役割を否定することの誤りなどを指摘する内容でした。

ところが、そこにあった以下の全漁連のコメントには本当にがっかりしました。

(記事から抜粋)
漁業関係者はどう見るか。全国の漁協などでつくる全国漁業協同組合連合会の広報担当者は「コメントは差し控える」と口を閉ざす

「コメントは差し控える」とはいったいどういうことでしょう。この「フレーズ」は自分に都合の悪い質問を受けたとき時によく使います。なにか全漁連は悪いことでもしたのでしょうか。全国の浜の漁業者の立場を代表する全漁連としてはマスコミの取材をチャンスとばかり、国民に対し漁業法改正に対する浜の漁業者の懸念を強く訴えるべきではなったでしょうか。「コメントするな」などあり得ない指示は誰がしたのしょうか。またその理由は何でしょうか。コメントすると何かまずいことでもあるのでしょうか。

それでは私が代わってお答えしましょう。それは以下の2点から全漁連が浜の漁業者に悪いことをしたので、コメントできなかったのだと思います。

1 全漁連は定款に定められた権限を越え、手続きも踏まず、水産政策改革に賛成してまったから

(たとえ話) 
漁民A「おい、うちの海に企業が進出するらしいぞ。漁業権が取り上げられるかもしれない。うちの組合長は組合員よりも企業に良い顔をしたがるから、心配だ」
漁民B「たしかに、その話を聞いた時にはもう早々と組合長が、苦渋の決断だとか言って勝手に受けいれてしまったらしい」
漁民C「それはない。漁業権の得喪変更などの組合員の生死に係わる重大な影響を及ぼす重要議案は、総会で組合員の2/3以上の議決がなければ組合長が勝手に受け入れることできない」
漁民B「いやー、理事会で自分に一任されたから、自分にはその権限があると言って受け入れたらしいぞ、企業は喜んだそうだ」
漁民C「それは、あきらかに越権行為で違法だー」

つまり、私が言いたいことは、今回の全漁連会長のいきなりの受入発言は全漁連に与えられた権限を逸脱し、またその手続きにおいて違法であるということです。

全漁連には当然ながら、海の埋め立てを受入れるかどうかと同じくらい漁業者の生死にかかわる最重要な漁業権の得喪変更と実質的に同じ意味をもつ、「優先順位や組合管理漁業権の廃止」を内容とする漁業法の改正案について、定款においてそれを容認できる権限はありません。しかし、全国を代表する組織の指導事業の一環として国とその法案の調整に当たる窓口として会員の了承を受けてその折衝業務にあたることはできます。

しかし、それは折衝に当たる権限を得ただけであり、その改革案への対応方針を会長が勝手に決める権限までは含まれません。その権限を得るためには、当然ながら会員にその改革内容と対応方針案を臨時総会に提案し、そこでの正式な決定をもって全漁連の対応方針として国との折衝に当たる、それが最低限必要な手続きでしょう。改革の内容が会員に示されない段階で「会長に一任」など絶対にあり得ません。仮にその「一任」に賛成した理事は、会員に損害を与えかねない重要議案についての判断責任を放棄したことになり、理事に課せられた善管注意義務を怠ったと言えるでしょう。

では、JA改革の時の全漁連に相当する全国農業協同組合中央会(JA全中)は、その際にどのように国に対し臨んだのでしょうか。当時の新聞の一部を以下に掲げます。

農協60年ぶり改革 JA全中、指導権廃止を受諾(日本経済新聞2015/2/9付)

政府・自民党と全国農業協同組合中央会(JA全中)の農協改革をめぐる協議が9日決着した。全中の監査・指導権をなくし、2019年3月末までに一般社団法人に転換する。1954年の発足以来60年ぶりの大改革で、農村票を武器に発言力を持つ全中の権限を縮小する。農産物流通の半分を握る約700の地域農協の競争と創意工夫を促し、農業再生を成長戦略の目玉とする考えだ。農協改革は岩盤規制改革の象徴の一つとされ、JA全中はこれまで反対してきたが、9日の全中理事会で政府案の受け入れに転じると正式に決めた。JA全中の万歳章会長は記者団に「農家の所得の増大に向けて改革に臨んでいきたい」と語った。自民党も9日、農林部会などの合同会議で農協改革を大筋了承した。

下線を引いた部分がそれに該当します。JA全中はぎりぎりまで国の改革案に反対してきましたが、理事会で正式に機関決定をして、やむを得ず妥結に臨んだのです。これこそが本来あるべき正式な手続きを踏んだ中央団体の姿勢ではないでしょうか。

全漁連がコメントできなかったのは、一番最初に腰砕けして勝手に受け入れてしまった立場として、いまさら反対と言えず、かといって、地方説明会で多くの組合長から厳しい批判を浴びた全漁連としては、会長のように「(漁業者から漁場と資源を取り上げ企業に渡す)革新的改革、まことにありがとうございました」ともいえず。だからコメントできなかったというのが、私の理解です。

 

2 浜を犠牲にして、自分だけ焼け太りしたから

 私は、水産業協同組合法の改正にあった以下の案文を見て驚きました。
(案文)

5-3 事業の種類
(1) 漁業協同組合連合会(以下「連合会」という。)は、次の事業の全部又は一部を行うことができる。
ー~十(略)
十一 会員の組織、事業及び経営に関する調査、相談及び助言
十二 会員の意見の代表及び会員相互間の総合調整
十三~十八 (略)
( 2) (1)第十一号の事業を行う連合会であって全国の区域を地区とするもの(以下「全国連合会」という。)は、同号に規定する事業のほか、当該全国連合会を間接に構成する組合連合会の組織、事業及び経営に関する調査、相談及び助言の事業を行うことができる。
(3) 全国連合会は、(1)第十一号及び前項の事業を行うに当てた必要な場合には、当該全国連合会を直接又は間接に構成する組合又は連合会(以下「組合等」という。)に対し、当該組合等の有する団体漁業権に係る漁場の利用に関する業務及び当該組合等が行う漁場の管理に関する業務の適正化を図るために、必要な取組を行うことを求めることができる。

なんと全漁連が県漁連を飛び越して、直接漁協まで乗り込んで全国に7000もある組合管理の区画漁業権にいちゃもんをつける権限を新たに与えられているではありませんか。一体だれが何の目的でこの新たな規定を設けることを考えたのでしょう。私が思う疑問を以下にあげます。

(1)浜とは逆に全漁連の権限のみが拡大されたのはなぜか
  今回の改革で、漁業者や漁協においては、優先順位が廃止され、組合管理漁業権も取り上げられ、また海区漁業調整委員会では公選制を廃止されるなど、浜の自主的漁場管理の権限が大幅にはく奪・縮小され、それに伴う知事の権限拡大で企業の意のままに漁場と資源を漁民から略奪可能な体制が整備されていくことになった。ところが、なにゆえか唯一権限を拡大してもらった組織がある。それが全漁連。なぜか?

(2)全漁連がJA全中とは真逆の扱いをされたのはなぜか
  規制改革会議(当時)によりJA全中は、各単協の自主性を阻害している(組合長アンケートは真逆)との濡れ衣を着せられ、単協が地域の多様な実情に即して独自性を発揮し、自主的に地域農業の発展に取り組むことができるようにするため、
・全中が一手に引き受けてきた監査・指導権をはく奪
・全中が地域農協などから監査料の見返りなどとして集めていた負担金(年間約80億円)をはく奪
・全中の行政に意見を述べる「建議権」をはく奪
・2019年3月末までに全中を一般社団法人に転換
というようにその権限を徹底的にはく奪・縮小された。
にもかかわらず、同じく指導事業を担う全国連合会である全漁連には、今までなかった単協への介入権限を与え、単協が地域の多様な実情に即して独自性を発揮できないようにし、自主的に地域漁業の発展に取り組むことができないようにするという、JA全中の時とは真逆のことをしたのである。なぜか?

 疑問は尽きないのですが、法案に対する修正意見を提示します。

上記案文中、全漁連に新たに与えられる権限は全て削除
(理由)
この権限拡大は、JA全中とは異なり、始めから全漁連が漁業者に背を向け、率先して改革の受入を容認する方針を打ち出したことへの論功行賞である可能性が高いから。さらにこの権限を、今後とも規制改革の意向に沿った全漁連によって、企業側の利益に立った観点から単協の指導に使用されることを阻止するため。

<補足>

①全漁連への権限追加は企業の参入に反対する漁業者つぶしに使うための道具だが、宮城県知事のような県域で漁連が苦労しているときに、全漁連が今のような企業寄りの会長ではなく、漁民の味方の会長になれば、その介入権を楯に戦うこともできる。しかし、今この規定を残すのは危険すぎる。

②全漁連会長は辞任するのであろうか。JA全中の万歳会長は全中を犠牲にして准組合員制度を守ったものの、その責任をとって辞任した。全てをいきなり受入れ、何一つ押し返すことができなかった全漁連会長は、さてどうなることやら。

 

 

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