知事は国の「技術的助言」に従う義務はない ―農水大臣の国会答弁を信用してはいけない-

聞くところによれば、政府与党は漁業法改正案をこの臨時国会で強行採決してでも成立させようとしているとのことです。漁業者を完全に蚊帳の外に置き、規制改革のど素人の意向のみに従って作った法案の審議に時間をかけるとボロが出てしまうためそれを回避するのが狙いでしょう。

70年ぶりの大改正と国民に対し大見えを切りながら、慎重審議を求める野党の要求も受入れず、コソコソと短時間の審議で終わらせようとする安倍内閣の姑息なやり方は信じられないことです。このような民主主義の基本的手続きを欠落した出鱈目放題の法律に漁業者は絶対に従わないことだけは断言できます。

多数決で決したので漁業者は従う義務があると言いたいのでしょうが、そうはいきません。なぜなら、例えば漁協の広域合併により、旧漁協単位で設定されている漁業権を、それを利用していない遠方の他地区旧漁協の組合員の多数により、その漁場の埋め立てのための漁業権喪失の承認を決議できますか。できません。それはその漁業権に利害関係を有する旧漁協に所属する組合員の承認がないとできないからです。

つまりこれと同様に利害関係を有する当事者である漁業者になんら承認を得ず、規制改革のど素人が国会における多数決をもって好き勝手に漁業法を改正しても、それは当然無効であるからです。いくら形式的法律論を振りかざそうが、それ以前の人間社会の常識としてそれは通じません。こんなことは子供でも分かります。

ところで、私は水産政策改革に関連した拙稿を、漁業経済学会の雑誌「漁業経済研究」に投稿済みですが、まさかこんなに早く法案が成立されてしまう可能性が生じてくるなど思いもしませんでした。これでは、それが刊行される時には「26日に届いたクリスマスケーキ」のようなものになってしまいかねません。

その投稿の内容は、都道府県の自治事務となった沿岸漁業管理における漁業法の解釈に係わる国が地方に発出する「技術的助言」に関する問題です。これは、今回の最大の改悪点と言ってよい、漁業者の生死にかかわる漁業権の優先順位の廃止と、それに代わる知事による恣意的な漁業権免許を可能とする「適切かつ有効に利用」という抽象的かつあいまいな新たな基準の解釈の通知においてもこの「技術的助言」が用いられるものとなります。

平成30年11月15日に開催された衆議院本会議での漁業法改正案に関する質疑で𠮷川農水大臣は、

「適切かつ有効に利用」について都道府県によって判断の基準が大きく異なることがないようにする観点から、国が技術的助言を定め、適切かつ有効の考え方を示していく考えであります。

と答弁しております。

しかし、そもそも技術的助言とは「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(平成11年法律第87号)」による法改正により、漁業権免許事務が都道府県の自治事務に移行したことを受けて設けられた地方自治法第245号の4に基づくものであり、知事はそれに従う義務はありません

その具体的な例として、過去に水産庁が発出した技術的助言におけるマグロ養殖業の免許形態にかかる助言については、15府県中14府県がそれと異なる形態での免許を行っています。つまり、知事が従う義務がないものをもって「知事の判断が大きく異なることのないようにする」ことはできないのですから、大臣の答弁は知事の恣意的な権限の行使を阻止する何の担保にもなりません。

また、これまでの技術的助言には、法律にその根拠がないのに、都道府県に対し規制改革の言うがままの内容を押し付け、実質的な拘束力を持つような違法な助言も見られます。

よって、法律改正の問題点を指摘するためには「技術的助言」なるものを知っていただく必要があり、国会における本件を巡る論戦を活発化させるためにも急遽以下の拙稿を掲載させていただくことにしました。なお、これは平成30年6月2日に開催された漁業経済学会第65回大会のシンポジウムにおいて報告した内容をもとにしたものです。

 

漁業権の解釈・運用の問題点-水産庁の『技術的助言』を中心に 

             佐藤力生 (三重県熊野漁協 監事)

1 はじめに
それはまさに「青天の霹靂」ともいえる報道から始まった。平成28年7月13日付け朝日新聞の連載「てんでんこ」には「特区があけた風穴。水産庁が動き、三重県は漁業権をじかに企業に与え始めた」との見出しが躍り、記事には「じかに漁業権を得られれば、法的には行使料を払う義務はない、そもそも漁協に入る必要性さえない」とあった 。(注1)

(注1)平成28年7月13日付け朝日新聞の連載「てんでんこ」の記事(抜粋)
水産庁の意をくんでまず動いたのは三重県だった。県内に八つあるマグロ養殖場のうち七つについて、14年から漁協ではなく企業に直接漁業権を渡すことにした。これまで、参入企業は、まず漁協の組合員になり、漁業権の行使料を漁協に払ってきた。じかに漁業権を得られれば、法的には行使料を払う義務はない。そもそも漁協に入る必要さえない。では、水産特区に宮城県漁協が示したような反発はなかったのか。「大きな混乱はありませんでした」県の担当課長だった水産研究所長、遠藤滉平(56)の答えは、いささか拍子抜けするものだった。(小山田研慈)

これは熊野漁協地先にある大手企業子会社のマグロ養殖場(K養魚)を取材し書かれたものであり、これを読んだ組合員は激怒し「下宿人が突然家主になった」ごとくの免許形態の変更を容認した組合役員の責任を平成29年6月の組合総会で厳しく追及した。一方、組合役員は前回(平成25年)の免許更新時において「組合管理漁業権から経営者免許漁業権への変更は技術的なことであり、何ら実質的な変更は伴わない」と三重県庁から説明を受けたことから容認したこと、現に組合とK養魚との間で交わされた約束はその後も順守されていると応じた。しかし、組合員は次回(平成30年)の免許形態に強い関心を有し、さらに一部組合員は、役員の責任を法的に追求しようとする構えも見せていることから、円滑に免許更新ができるか予断を許さない状況となっている。
この問題の根源は、漁業権免許更新に当たり水産庁が都道府県に対し5年ごとに発出する「漁場計画の樹立について」にある。これは「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(平成11年法律第87号)」による法改正により、漁業権免許事務が都道府県の自治事務に移行したことを受けて設けられた地方自治法第245号の4に基づく技術的助言といわれるもので、地方はそれに従う義務はない 。(注2)

(注2)地方自治法(昭和 22 年法律第 67 号)第 245 条の4
(技術的な助言及び勧告並びに資料の提出の要求)
各大臣(内閣府設置法第4条第3項に規定する事務を分担管理する大臣たる内閣総理大臣又は国家行政組織法第5条第1項に規定する各省大臣をいう。以下本章、次章及び第 14 章において同じ。)又は都道府県知事その他の都道府県の執行機関は、その担任する事務に関し、普通地方公共団体に対し、普通地方公共団体の事務の運営その他の事項について適切と認める技術的な助言若しくは勧告をし、又は当該助言若しくは勧告をするため若しくは普通地方公共団体の事務の適正な処理に関する情報を提供するため必要な資料の提出を求めることができる。
2 各大臣は、その担任する事務に関し、都道府県知事その他の都道府県の執行機関に対し、前項の規定による市町村に対する助言若しくは勧告又は資料の提出の求めに関し、必要な指示をすることができる。
3 普通地方公共団体の長その他の執行機関は、各大臣又は都道府県知事その他の都道府県の執行機関に対し、その担任する事務の管理及び執行について技術的な助言若しくは勧告又は必要な情報の提供を求めることができる。

ところが、マグロ養殖免許を有する全国の15府県のうち三重県のみがそれに忠実に従ったことから、この問題が起こったということもわかってきた 。(注3)

(注3)水産庁HP「くろまぐろ養殖場及びまぐろ養殖業者一覧:平成27年12月1日時点」よりwww.jfa.maff.go.jp/j/tuna/maguro…/pdf/20160330_1.pdf(平成30年7月14日)

また、この技術的助言は、漁業権管理事務が自治事務となった以降、平成14年から平成29年にかけ4回発出されているが、1回目にはなかった以下に指摘するような疑義を抱かざるを得ない漁業権の解釈・運用に係る記述が、平成19年の2回目から突如みられるようになった。それは、ちょうど日本経済調査協議会の高木委員会の提言「魚食をまもる水産業の戦略的な抜本改革を急げ」(平成19年 7 月 31 日)が発表され、それを受けた内閣府規制改革会議(当時)の「規制改革推進のための第2次答申」(平成19年12月25日)が出され、漁業権の見直し、参入規制緩和への圧力が高まった年でもあった。
すなわち、水産庁が自治事務化した漁業権管理に規制改革の意向を、法律の改正によらず地方に押し付けようとすれば、国に残された唯一の手段である技術的助言によるしかなく、これを最大限に利用したものと思われる。以下その中の疑義を抱かざるを得ない特定区画漁業権の解釈・運用の疑義・問題点を指摘したい。

2 「1漁場1行使者の場合は、経営者免許」とする技術的助言について
 表1にある技術的助言(以下「助言」)「漁場計画の樹立について(19水管第1590号 平成19年8月30日)」の「2 特定区画漁業権の免許の適格性及び優先順位」は平成14年にはなかったが、平成19年から突如現れ、現在まで引き継がれているものである。その意図は組合による漁業権管理権限を弱め、知事による経営者免許に移行させようとする宮城県水産特区においてもみられた、規制改革の意向を受けたものと思わざるを得ない。以下この助言に関する法律上及び現場実態からの疑義について述べたい。

表1 「漁場計画の樹立について(19水管第1590号 平成19年8月30日)」より

2 特定区画漁業権の免許の適格性及び優先順位
特定区画漁業権の内容たる区画漁業の免許の優先順位については、法第18条第1項に基づき、法第14条第2項及び第6項の適格性を有する組合を第一順位として免許されている。また、これらの規定における漁業者が法人であるとき、世帯数の計算方法については、法第14条第9項によることとなることに留意する必要がある。
例えば、特定区画漁業権の適格性に関する法第14条第2項の規定が適用される、いわゆる既存漁場において、組合管理漁業権として魚類小割り式養殖業を内容とする特定区画漁業権の免許を受けている組合の唯一の行使者が法人組合員であるような場合、当該法人組合員の構成員(漁業生産組合等の組合員、合名会社、合資会社及び合同会社の社員、株式会社の株主)のうち当該養殖業の従事者が、[1]存在しない、[2]存在するが誰も地元地区に世帯住所地を有さない、[3]存在して地元地区に世帯住所地を有するが誰も地元地区の組合の個人組合員ではない等の実態にある地元地区の組合については、明らかに組合管理漁業権として免許を受ける適格性はないので、法第18条第2項に従い優先順位第二位以下の申請者に免許することとなることに注意されたい。

(1)区画漁業に経営者免許を設けた趣旨に合致していないのではないか
 漁業法第7条における特定区画漁業権の定義は「入漁権の対象となる漁業」を指すだけであり、戦後漁業法の最初の解説書「漁業制度の改革: 新漁業法条文解説 水産庁経済課編 日本経済新聞社(1950年)389-390頁」では「区画漁業は、共同漁業と異なり、漁業権に基づかなければやれないから、指示で組合の漁業権を抑えても漁業権がない以上やれない。したがって員外者にやらせようと思えば、始めから組合に免許する部分と個人に免許する部分とを分けて員外者にやらせる」となっている。区画漁業権のなかに組合管理漁業権のほか経営者免許漁業権を設けた趣旨は、員外者(非組合員)の行使を念頭に置いたものである。よって、行使者が一人になればそれが組合員であっても、非組合員扱いにしなければならないという平成19年の助言から記載され始めた水産庁の新たな解釈は何を根拠としているのか不明であり、区画漁業(真珠養殖業を除く)に経営者免許を設けた趣旨に合致していないものである。

(2)昭和37年漁業法改正の経緯からみた疑義
 昭和37年の漁業法改正では、区画漁業権制度が大きく変更され、新たに「そう類養殖業」「真珠母貝養殖業」「小割り式養殖業」の区画漁業を組合管理漁業とし、従来の「ひび建て養殖業」「かき養殖業」及び第3種区画漁業権たる「貝類養殖業」とあわせて、これらを内容とする区画漁業権を「特定区画漁業権」と称することになり、また組合管理漁業権の行使関係適正化のため「漁業権行使規則」制度が設けられた。
特定区画漁業権については「沿岸漁業のなかで発展性のある漁業を内容としており、今後その適する海面には積極的に新規漁場を開発し、相対的に生産性の低い沿岸漁業者をこれらに転換吸収していくことが一つの方向と考えられる。そのため、新規漁場におけるこの種の区画漁業については、地元沿岸漁業者の大多数を含む漁業協同組合又は漁業協同組合連合会を管理主体とする場合に優先免許するよう適格性と優先順位を整備した」とある(昭和38、2、8、38水漁第774号 農林事務次官)。
このように、この改正の経緯を見ても「1漁場1行使者の場合は、経営者免許」を正当化する議論は全く見当たらない。特に、この改正においては、経営者免許漁業権であった真珠養殖業を組合管理漁業権として組合に免許すべしという関係団体からの強い要請があり、大きな政治的問題となったものの、最終的には従来のままとなった。その理由は、「真珠養殖漁業を経営している経営体の多くは地区漁業協同組合に加入している組合員であり、これらの漁民が直接漁業権を保有し、近代的な経営体として発展していくことが、沿岸漁業振興の目標でなければならないが、この場合(下線は筆者による)、漁業協同組合が真珠漁業権を保有、管理しなければならない必然性はない(注4)」としたからである 。

(注4)水産業協同組合制度史3  編集 全国漁業協同組合連合会 水産業協同組合制度史編纂委員会 発行 水産庁 昭和46年3月31日,p112.

この場合とは、組合員が地区漁協に加入している組合員であることを意味している。組合員が、地区漁協に加入しているのであれば、漁協が漁業権を保有する必然性はないと結論づけたのである。
これは、今現在においても同様であろう。つまり、同じ地先海面において養殖業を営む者は、その漁業権の形態にかかわりなく、同じ組合員としてその組合の下で一体的に海面利用等に係る利害調整を図っていくことが、ともに浜に生きる漁業者の当然の責務であると認識しているからである。逆にいえば、経営者免許漁業権者であっても組合管理漁業権下にある漁業者と何ら変わらない義務を負っているからこそ、浜の秩序が守られているのであり、行使者が一人となったことをもって、それを経営者免許にしなければならない必然性は全くないのである。にもかかわらず、参入企業の利益第一で地元組合の管理からそれを独立させたいという規制改革の意向に沿い、それにくさびを打ち込み分離させ、互いに反目させようとする助言には強い疑義を感じざるを得ない

(3)行使権者数の数で免許の形態を区分するという解釈への疑義
 表2にある平成24年の助言「漁場計画の樹立について(24水管第684号 平成24年6月8日)」の「第三 区画漁業について」の「5.漁場の区域」では組合管理漁業権の要件として「多数の漁業者が参入しやすく、参入する者を一部のものに特定させるべきでない」としているが、これは漁業法のどこをどう解釈すればこのような結論がでてくるのか不明である。

表2 漁場計画の樹立について(24水管第684号 平成24年6月8日)より

5.漁場の区域
特定区画漁業権について、一漁場に一行使者を念頭に漁場計画を樹立し、組合管理漁業権として免許しているケースがありますが、このような漁場計画は、多数の漁業者が参入しやすく、参入する者を一部の者に特定させるべきではない組合管理漁業権たる特定区画漁業権の性格からみて、適切ではありません。組合管理を念頭において漁場計画を樹立する場合は、漁場利用の態様、行使者の数、団体管理の必要性を十分勘案した上で、漁場の区域を決定してください。

例えば、複数の組合員が個別に行ってきた養殖を法人組織に一本化したり、環境負荷軽減のため1組合員のみに行使を制限する場合など、形式的には一部のものに特定することになるが、それに至る過程では組合員間のさまざまな利害調整(その者のみが漁場を利用できる見返りとして組合に特別な賦課金を支払う、その者が撤退した場合の次順位の者が漁協内部ですでに決められているなど)が行われ、その間で交わされた約束事が組合の管理下で順守されることを担保に合意に至っている。にもかかわらず助言は単に行使者数で管理主体を変更すべきとしている。しかし、そうしなければ、どういう社会的・経済的な不合理性・不利益性が生じるのかが明らかにされておらず、この解釈には疑義を抱かざるを得ない。

(4)漁業法第1条の趣旨に反するのではないかという疑義
 助言に従い経営者免許漁業権とすることは、漁業権の管理主体を組合の自主管理から知事による公的管理に移行させることを意味する。しかし、漁業法第1条には「漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調整機構の運用によって水面を総合的に利用し」とあり、これはノーベル経済学賞を受賞した米国のエリノア・オストロム教授(故人)が「コモンズ(共有資源)の悲劇」の解決手段として「利害関係者による自主的管理」が有効であるとしたことにも通じるものである。にもかかわらず、なにゆえ漁業法第1条と整合性がとれていない、むしろこれに逆行させるような助言を行うのか、根本的な疑義を抱かざるを得ない。

(5)現場における水面利用の利害調整の困難性を全く考慮しないことへの疑義
 筆者が実際に熊野においてマグロ養殖場の横を毎日通ってイセエビ漁に出かけた現場体験からしても、その養殖場が海面を占有し地元漁船漁業に及ぼしている影響は写真1、2のように非常に大きいものがあった。そもそも、マグロ養殖はその採算性からして多額の投資と広大な面積を必要とすることから、全国のマグロ養殖免許160件のうち「1漁場1行使者」が133免許と全体の83%を占めているのが実態である。(注5)

(注5)水産庁HP「くろまぐろ養殖場及びまぐろ養殖業者一覧:平成27年12月1日時点」よりwww.jfa.maff.go.jp/j/tuna/maguro…/pdf/20160330_1.pdf(平成30年7月14日)

写真1

二木島湾の中央部に設置されたマグロ養殖場(筆者撮影:2012年5月)

写真2

横から見たマグロ養殖場の様子(筆者撮影:2013年2月)

しかも、その水面は漁船漁業においても極めて漁場価値が高いことから、その水域から排除される地元漁船漁業との利害調整は困難を極める。すなわち、地元関係漁業者からすれば行使者が1人であろうが100人であろうが、それは本質的な問題ではなく、その広大な水面を占有する漁業権そのものが問題であり、それが地元組合の管理下にあるからこそ、困難な利害調整も可能となる。
 にもかかわらず、このような利害調整の困難性を全く考慮せず、単に行使者数のみで組合管理から除外せよとする助言が、平成19年から出てきた背景に何があったか。あくまで推測であるが、マグロ養殖の規模の大きさからそのほとんどが「1漁場1行使者」にならざるを得ないところに目をつけ、「養殖業者間の区割り調整が不要だから知事で管理できる」という規制改革の意向に沿って、その免許を組合管理から知事管理へ移行させるため、この助言を発するに至ったのではないかという疑いさえ抱かざるを得ない。

(6)地域との共存共栄ができる企業を選択し、その合意を担保させる手段が地元漁協からなくなることへの疑義
 参入企業が地域漁村社会と共存共栄できるか否かは、極めて重要な観点であり、地元漁協は受入に当たってCSR(企業の社会的責任)に富んだ企業を選択する必要があるが、知事管理下にある経営者免許では、宮城県水産特区に見られたように知事の一方的な政治的パフォーマンスで決定されかねない。また、組合管理漁業権であれば、参入に当たって取り交わした合意を企業が守らない場合には、漁業権行使規則に基づきその行使を差し止める権限が地元漁協にあるが、知事管理漁業権では民事訴訟により損害賠償請求を起こすしかなく、その後も漁業権が存続しかねない恐れがあり、これらの観点からも地域漁村社会と参入企業との間で混乱・紛争を起こしかねない助言には疑義がある。

3 経営者免許区画漁業権者から行使料を徴収してはならないとする技術的助言について

表3にある助言「漁場計画の樹立について(19水管第1590号 平成19年8月30日)」の「3 漁業権行使料の徴収に関する透明性の向上」も、平成19年に突如として出てきたものであり、これも参入企業に地元負担を極力払わせたくない規制改革の意向を踏まえたものと思われる。以下これに対する疑義をあげる。

表3 漁場計画の樹立について(19水管第1590号 平成19年8月30日)

3 漁業権行使料の徴収に関する透明性の向上
組合管理漁業権としての特定区画漁業権の免許を受けている組合が、漁業権の管理に要する経費に充てるために行使者たる組合員から徴収する賦課金の一種である行使料については、漁業法第8条第2項に規定する漁業権行使規則において、当該漁業を営む権利を有する者(組合員)が当該漁業を営む場合に遵守すべき事項として、漁業権管理費の負担(行使料の徴求)を定めることとしている(「漁業権行使規則等の作成について」(昭和37年11月13日付け37水漁第6242号水産庁長官通知、一部改正:平成4年8月7日付け4水振第1761号水産庁長官通知、平成14年10月31日付け14水管第2403号水産庁長官通知)。行使料の徴求は、水産業協同組合法(昭和23年法律第242号。以下「水協法」という。)第22条第1項の規定に従い定款の定めるところにより徴収することができることとされており、その額及び徴収方法については、水協法第48条第1項第4号の規定により総会の議決が必要とされている。また、漁業権の管理に要する経費とは、漁業権の管理上必要な組合の負担する経費をいい、具体的には、漁業権にかかる監視取締、漁場環境保全、資源管理、資源増殖、施設維持管理等直接漁場の管理に必要な経費のほか、管理上必要な通信費等の間接的な経費も含めて差し支えない。しかしながら、行使料は、賦課金の一種であることから、組合員がその徴収の義務に応じない場合には、当該組合員を組合から除名することができるなど厳しい制裁を行うことができることとなっている。
このため、漁業権の管理に要する経費とされる行使料の目的を歪曲した不要の経費が含まれることは厳に避けなければならない。また、行使料の算定に当たっては、例えば漁場利用の程度を反映するような算定式を用い具体的金額を明示した上で総会で決定する等透明性の確保を図ることが重要である。なお、特定区画漁業権の内容たる区画漁業が優先順位第二位以下の申請者に免許された場合、組合管理漁業権ではないので当然のことながら行使料を徴収することはできないことに留意されたい。

(1)行使料すら徴取できない企業参入には、地元漁業者が受け入れるはずもないという疑義
 これは経営者免許漁業権に係ることであるが、絶対に地元漁協及び漁業関係者が容認できない条件である。そもそも、静穏性が高く漁船漁業者にとっても漁場価値が高い広大な水面が、何らの対価も払われず無料で使用できるというもので、その水面の操業制限により損失を被っている関係漁船漁業者はもとより地元漁協に何らのメリットもなく大きな不利益性をもたらすためである。
 このことを平成28年7月の朝日新聞の報道では、経営者免許漁業権となり「じかに漁業権を得られれば、法的には行使料を払う義務はない。そもそも漁協に入る必要さえない」としている。確かに、経営者免許漁業権が法律に規定された目的は、員外者(非組合員)の養殖漁場利用のためとされているので、朝日新聞のような解釈は法律的にはありうるかもしれないが、現実として到底受け入れられるものではなく、机上の空論としかいえない。逆に言えば、これを厳格に適用すると全国で1か所も企業の参入は実現しなかったことだけは断言できよう

(2)一体をなす漁場管理を免許種類ごとに区分して行うなど非現実的であるという疑義
表3の助言では「特定区画漁業権の内容たる区画漁業が優先順位第二位以下の申請者に免許された場合、組合管理漁業権ではないので当然のことながら行使料を徴収することはできないことに留意されたい。」と強調していることに加え、組合管理漁業権の場合ですら次の4で掲げる「組合が徴収してよい経費に関する技術的助言」において行使料を何に使うかについては、漁業権管理費とし、具体的には「組合管理漁業権に係る監視・取締り、漁場環境保全、資源管理、資源増殖、施設維持管理等直接漁場の管理に必要な経費のほか、当該漁業権の管理上必要な通信費等」としている。これは次の理由からまさに「机上の空論」そのものであり、まったく不適切極まりない助言と言わざるを得ない。
一体をなす地先海面において、組合管理漁業権に係る部分の「監視・取締り、漁場環境保全、資源管理、資源増殖」と、経営者免許漁業権者が行う同じ行為をどう区分するのか。具体的事例でその非現実性を指摘したい。

図1

 二木島湾内で免許されている漁業権の配置図(熊野漁協資料より)

図1は、マグロ養殖場がある熊野漁協地先の二木島湾内(左右の幅が約3㎞)において現在免許されている漁業権の種類である。中央にある1507号、1508号は経営者免許区画漁業権であるマグロ養殖場、湾の右側奥の1067号と湾の左奥の1068号と1069号は組合管理区画漁業権であるマダイ他の養殖場、湾の入り口付近にある「定27」は経営者免許定置漁業権となっている。もちろんこの二木島湾全体に組合管理の共同漁業権が設定されている。では、仮に水産庁の言うとおりにすれば、どうなるのか。経営者免許漁業権のマグロ養殖場と、組合管理漁業権のマダイ養殖場とが隣接してあるが、組合側はK養魚に次のように言うであろう。
「組合管理漁業権に係るマダイ養殖漁家の海面はここまでですので、組合が漁場管理をやりましょう。ここから先は経営者免許漁業権者のK養魚さんがやってください。なぜなら、水産庁から、「組合管理漁業権ではないので当然のことながら行使料を徴収することはできない」と厳しいお達しがありますので、無償で組合には漁場管理を行う義務はありませんからと。」
それだけではない。漁船漁業者の間でも経営者免許の大型定置漁業者と、組合管理共同漁業権漁業者の間も同じく線引きが必要となる。さらに理屈上からは養殖漁業者と漁船漁業者の間の線引きも必要となろう。全くもって複雑極まりない空論である。
ここに例示された「監視・取締り、漁場環境保全、資源管理、資源増殖」などは、二木島湾を使用する養殖業者だけでなく、同時に漁船漁業者も一体となって取り組むべきものであり、またそうしなければその効果も上がらない。よって、その地先海面全体の管理主体として漁協がこれを担うのは必然であり、免許や許可の種類に関わりなく、海面を利用するすべての者から組合が行使料又はその他の名目でこれを徴収したとしても「当然のことながら」正当な行為であると言わざるを得ない。水産庁の技術的助言とは規制改革の意向に沿うことしか眼中になく、漁業現場の実態など全くお構いなく発出されているというのがこれで明白になっているといえよう。

4 組合が徴収してよい経費に関する技術的助言について

表4にある平成29年に発出された助言「平成29年度漁場計画の樹立について(29水管第546号 平成29年6月9日)」では「5.漁業権管理費及び漁業権管理費以外の支払金の徴収に関する透明性の向上」という独立した項目を立て、微に入り細に入った経費徴収のあり方にまで言及するようになった。

表4 平成29年度漁場計画の樹立について(29水管第546号 平成29年6月9日)より

5.漁業権管理費及び漁業権管理費以外の支払金の徴収に関する透明性の向上
組合管理漁業権の管理に要する経費(以下「漁業権管理費」という。)及び漁業権管理費以外の支払金については、関係者の相互理解が十分に図られ、地域の実情に即した漁業及び養殖業が円滑に行われるよう、以下の(1)及び(2)を踏まえ、管下の組合等に対して周知及び指導の徹底をしてください。
(1)漁業権管理費
漁業権管理費については、法第8条第2項の規定に基づき、行使規則において、「当該漁業を営む権利を有する者が当該漁業を営む場合に遵守すべき事項」として、行使者たる組合員に対し、行使料として負担を賦課することができます。
この場合、組合等は、定款の定めるところにより、組合員に負担を求めることとなり、その額及び徴収方法については、総会の議決が必要です(水産業協同組合法(昭和23年法律第242号。以下「組合法」という。)第22条第1項及び第48条第1項第4号)。
具体的な漁業権管理費には、組合管理漁業権に係る監視・取締り、漁場環境保全、資源管理、資源増殖、施設維持管理等直接漁場の管理に必要な経費のほか、当該漁業権の管理上必要な通信費等間接的な経費も含めて差し支えありませんが、内容が合理的かつ妥当なものとなるよう組合等への指導に努めてください。漁業権管理費にその目的を歪曲した不要の経費が含まれることは、厳に避けなければなりません。
行使料は、賦課金の一種であることから、組合員が支払いの義務に応じない場合には、総会の議決により、当該組合員を組合から除名することができるなど厳しい措置を採ることができます(組合法第27条第2項第2号)。
漁業権管理費の算定に当たっては、例えば、各組合員の漁場利用の程度を反映する算定式を用いて具体的金額を明示した上で総会で決定する、決定した行使料を公表する、行使規則の中に具体的な算定根拠と金額を明示するなど、各組合員の理解を得つつ、合理的かつ透明性が確保されたものとなるようにしてください。また、総会で定めた行使料の額、徴収時期及び徴収方法は組合等が公示するなど、組合員に広く周知してください。
なお、当然のことながら、組合管理漁業権ではない場合に組合等が漁業権管理費を徴収することはできません。
(2)漁業権管理費以外の支払金
公共水面を利用する漁業や養殖業においては、他の漁業等とトラブルが生じやすいものであることから、一般的に組合等の役職員が必要な調整を行って対処しています。例えば、養殖施設の設置により漁場を占有するため、他の漁業活動が制約されることから、養殖の実施に当たり、こうした他の漁業者の意見等を組合等の役職員が調整する場合があり、それには一定の経費が発生します。こうした事業に要する経費に係る負担については、受益者が応分の負担をしなければ成り立たない場合もあります。
また、漁場を持続的に利用するためには、地先水面における漁場の管理等を行う必要があり、組合等が漁場環境調査、漁場環境維持、漁場監視等の役務を行っている場合があります。具体的には、藻場造成、海岸清掃、赤潮調査、漁場巡回活動、灯浮標の設置、密漁防止の看板設置等を行う場合があり、それには一定の経費が発生します。こうした経費に係る負担についても、受益者が応分の負担をすることには合理性があります。
このため、組合等が行う調整に係る経費や、漁場の管理等を行うための役務に係る経費についての支払金は適当ですが、(ア)実施されていない役務に対する支払金を徴収すること、(イ)支払金の名目と実際の使途が異なること、(ウ)支払金の内容が合理的でないことに係るものについては、適当ではありません。

地元に1円たりとも負担金を払いたくない外部企業の利益代弁者である規制改革の意向に沿ったものと言わざるを得ず、JA改革においてもそうだったように、組合とは組合員に不当に負荷をかけている存在という思い込みが強く伺われる。このような協同組合の精神(助け合い)による組合の維持という観点が全くなく、できるだけ組合に経費を支払わせたくないというこの自己利益最優先の方針に忠実に従った組合は、経営を維持できるのかという危惧を抱かざるを得ない。
参入企業が地元漁協に負担すべき経費を大きく区分すれば、(1)組合の施設やサービスの利用に対する負担(利用料的性格)、(2)組合全体の維持に必要な経費に対する水揚げ金額に応じた負担(税金的性格)(3)排他的な水面利用により損失を被る漁船漁業者への損失補てん(補償料的性格)となっているが、この助言は(1)の負担にしか言及しておらず、これでは組合の経営に貢献する企業参入とは言えず、当該組合経営の維持をも困難にしかねない助言には、疑義を抱かざるを得ない。

5 水産庁の技術的助言に見られる違法性への疑義について

 地方分権改革により地方に権限が移譲され、漁業に係る免許が自治事務化され、地方は法律には拘束されるものの、その解釈・運用は「地方公共団体の自主性及び自立性を高め、個性豊かで活力に満ちた地域社会の実現を図るため、国と地方の役割分担を明確にし、住民に身近な行政をできる限り身近な地方公共団体において処理することが基本」となった 。(注6)

(注6)地方分権推進計画の要旨

 第1 地方分権推進の基本的考え方
地方公共団体の自主性及び自立性を高め、個性豊かで活力に満ちた地域社会の実現を図るため、国と地方の役割分担を明確にし、住民に身近な行政をできる限り身近な地方公共団体において処理することが基本。このため、地方分権推進法に定める基本方針に即しつつ、地方分権推進委員会勧告を最大限尊重して、地方分権の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るために必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講ずるもの。本計画を着実に実施するとともに、地方分権の一層の推進に向けて、今後とも積極 的に取り組む。www.soumu.go.jp/news/980618a.html(平成30年7月14日)

これにより国からの地方に対する「箸の上げ下ろし」まで過剰に介入するかような各種通達・通知が一掃され、それが技術的助言にまとめられたという経緯がある。
しかし、その後も国の課長通知などで地方を実質的に拘束するような事例が見られ、これが国会で取り上げられたことなどを背景として、総務省が国民の権利・義務に影響を及ぼすような通知・通達がないかどうか自己点検等を実施し「総務省における今後の通知・通達の取扱い(平成23年7月12日)」として公表している 。(注7)

(注7)「総務省における今後の通知・通達の取扱い(平成23年7月12日)
今後発出する通知・通達の取扱いについて
通知・通達については、関係法令等に基づき、所掌事務の範囲内で所定の手続を経て適 切に取り扱われる必要があるところ、今後発出する通知・通達の取扱いについては、下記 に留意し、一層適切な取扱いに努めるものとする。
                  記
1 国民の権利・義務に影響を及ぼす内容を記載した通知・通達の発出の防止
国民の権利・義務に影響を及ぼす内容は、法律によることが必要であるため、法律によらず、通知・通達のみをもって、国民の権利・義務に影響を及ぼすことは、それ自体が無効である。このことを踏まえ、各部局等において、通知・通達を発出しようとする場合には、このような内容を記載しないよう、一層配意すること。このため、各部局等においては、発出した通知・通達について、日常的に点検するとともに、今後発出しようとする通知・通達については、起案を担当するライン以外の職員(審査担当等)が十分チェックを行うこと。なお、官房総務課に合議することとされた文書については、同課審査担当においても 十分チェックを行うものとする。
2 技術的助言として発出しようとする通知内容の検証等
地方公共団体が行う事務に対し、地方自治法第 245 条の4第 1 項等の規定に基づき、 技術的助言として発出しようとする通知については、地方公共団体にとって必要な事項 となっているかどうかその内容を検証し、同法の趣旨を踏まえ、必要な最小限度のもの となるよう徹底を図るとともに地方公共団体の自主性及び自立性に配慮すること。 また、通知内容を検証し、情報提供と技術的助言について区別し、技術的助言として 発出する場合には、その旨を通知に明示すること。 なお、単に法令の施行について情報提供するにとどまる通知については、技術的助言 に当たらないものであること。 http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kanbo02_01000005.html (平成30年7月14日)

 

これによれば、「国民の権利・義務に影響を及ぼす内容は、法律によることが必要であるため、法律によらず、通知・通達のみをもって、国民の権利・義務に影響を及ぼすことは、それ自体が無効である。」とあり、また「技術的助言として発出しようとする通知については、地方公共団体にとって必要な事項となっているかどうかその内容を検証し、同法の趣旨を踏まえ、必要な最小限度のものとなるよう徹底を図るとともに地方公共団体の自主性及び自立性に配慮すること。」とある。
このように自治事務となった漁業権管理事務については、法律の解釈・運用は地方が独自に判断するものとなり、国が発出する「技術的助言」は、あくまで法律解釈の事務的な参考にすぎない。よって地方はこれに従う義務はないことから、三重県を除くマグロ養殖免許を有するすべての府県が、「1漁場1行使者の場合も組合管理漁業権で免許」するという水産庁の助言と異なる独自の判断をしている状況にある。
また、技術的助言とは「地方公共団体の事務に関し、地方公共団体に対する助言として、客観的に妥当性のある行為を行い又は措置を実施するように促したり、又はそれを実施するために必要な事項を示したりする通知を発することができるとされているもの」 (注8)であり、

(注8)「総務省における今後の通知・通達の取扱い(平成23年7月12日)」
2 技術的助言とは、地方自治法第245条の4第1項等の規定に基づき、地方公共団体の事務に関し、地方公共団体に対する助言として、客観的に妥当性のある行為を行い又は措置を実施するように促したり、又はそれを実施するために必要な事項を示したりする通知を発することができるとされているもの。http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kanbo02_01000005.html (平成30年7月14日)

 

法律にその規定がないのに「そののりを越えて、規範性を持つとか拘束性を持つようなものを出したとすれば、これは違法であります」となっている 。(注9)

(注9)「総務省における今後の通知・通達の取扱い(平成23年7月12日)」
今後発出する通知・通達の取扱いについて
<参考>
1 昨今の国会での質疑等の例(平成 23 年3月 10 日衆議院総務委員会)
○片山国務大臣
政府が自治体に対して出す通知、これは二〇〇〇年の地方分権改革以来、基本的には無効であります。場合によっては違法であります。あるとすれば技術的助言などであります、その範囲に限られるということ。そののりを越えて、規範性を持つとか拘束性を持つようなものを出したとすれば、これは違法であります。http://www.soumu.go.jp/menu_news/s- news/01kanbo02_01000005.html(平成30年7月14日)

よって、水産庁の助言の内容に「法律にその規定がないのに、実質上規範性を持つとか拘束性を持つようなもの」が含まれていないかチェックしてみたところ、特に以下の項目においては違法性が高いのではないかと疑義を持たざる得ない結果となった。

(1)組合が徴収してよい経費に関する技術的助言
 表4の平成29年の助言では、まさに微に入り細に入り書かれており、しかも「漁業権管理費にその目的を歪曲した不要の経費が含まれることは、厳に避けなければなりません。」としている。しかし、漁業権管理費については漁業法のどこにも具体的規定がなく、地域漁協の置かれた諸条件を無視し、一方的に「厳に避けなければなりません」としている。これこそ実質的な拘束性を持ち、地域漁協の利益を損ねるものにほかならず、規制改革の意向を踏まえたこの一方的な助言が「客観的に妥当性のある行為を行い又は措置を実施するように促す」ものとは到底言えず、違法性が高いと疑義を抱かざるを得ない。

(2)養殖業への円滑な新規参入の促進に関する技術的助言
 表5の助言「平成29年度漁場計画の樹立について(29水管第546号 平成29年6月9日)」の「6.養殖業への円滑な新規参入の促進」は、平成29年においてはじめて記載されたものであるが、そこには「企業等の新規参入が円滑に進むよう留意してください。この際、新規参入を希望する企業等のニーズと地元地区・関係地区の組合等との間の仲介・マッチングの推進に積極的に取り組むことが重要です。」と書かれている。

表5 平成29年度漁場計画の樹立について(29水管第546号 平成29年6月9日)より

6.養殖業への円滑な新規参入の促進
水産基本計画においては、魚類・貝類養殖業等への企業の参入に関して、漁業者が、必要とされる技術・ノウハウ・資本・人材を有する企業との連携を図っていくことは重要であるとされているところです。こうしたことから、地先水面を総合的かつ高度に利用するため、漁業者の利害を調整し、管理するという役割を担っている組合等と調整しながら、企業等の新規参入が円滑に進むよう留意してください。この際、新規参入を希望する企業等のニーズと地元地区・関係地区の組合等との間の仲介・マッチングの推進に積極的に取り組むことが重要です。

まさに、この部分は規制改革の意向をそのまま書き写したものとしか言えず、中立・公平であるべき行政が一部企業の利益に加担したとの一言に尽きるものであり、地方独自の判断などを完全に無視している。
 水産庁がこの助言を全国海区漁業調整委員会連合会で説明した時に、出席者から強い反発があり、弁護士でもある同連合会会長の内田会長が「この技術的助言の法的根拠は何か」と質問したと聞いたが、まさにこの部分は何一つ法的根拠がない違法な助言と言わざるを得ない。

6 おわりに
 中央省庁で起こっている森友、加計問題などをみても、幹部職員の人事権を握った官邸の意向であれば、役人は文書改ざんも嘘をつくことさえもいとわない状態になった。その官邸をバックにする規制改革推進会議も国の権限下にあることには、思いのままにやれてきた。しかし、皮肉なものであるが、かつて自らが推進した地方分権改革により自治事務化した漁業権管理が、逆に今の規制改革の触手から地方を守る壁となっている。
 地方に期待したいのは、この地方分権という盾を最大限活用し、技術的助言などに従うことなく、真に地方の立場に立った漁業権の解釈・運用に取り組んでいただきたいことである。 

(追記)
本稿は、平成30年6月2日に開催された漁業経済学会第65回大会のシンポジウムにおいて報告した内容をもとにしたものであるが、その後平成30年における漁業権の更新手続きが進められた結果、本問題が生じた原因であるK養魚の免許形態は、これまでの経営者免許漁業権から元の組合管理漁業権へ戻すことになった。これは、マグロ養殖の安定的経営においては、地域との協調体制の維持が重要なことから、組合を迂回し知事直結の経営者免許漁業権よりも組合管理漁業権の方が適切であるとK養魚と組合との間の認識が一致し、三重県もこれに応じたためである。

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