緊急投稿:重要「新たな資源管理に基づく資源管理目標案等」に科学的正当性はあるか?

水産庁は令和元年6月12日に新たな資源管理の実施に向け、優先的に検討を開始するマサバ太平洋系群等4魚種7系群について、資源管理目標案と漁獲シナリオ案等を公開しました。http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/sigen/190612.html

 また、水産庁は、以下のスケジュールで「資源管理方針に関する検討会」を開催する予定とのことです。

令和元年 7月22日(月曜日)~24日(水曜日) 福岡県福岡市
     8月7日(水曜日)~9日(金曜日)  東京都千代田区

 そこで、検討会までの日数も限られていることから、急遽、東京海洋大学名誉教授の櫻本和美先生に、水産庁が公開した「資源管理目標案と漁獲シナリオ案」の問題点の一部(他にも多々問題点があるとのこと)についてのご見解をこのブログに投稿していただきました。

この投稿文の最後において桜本先生は、「水産庁が公表した『新たな資源管理に基づく資源管理目標案等』には科学的正当性が全くないことが明らかとなった」と指摘されており、検討会で水産庁の提案に沿って議論が進むとなると、今後の我が国の資源管理と漁業経営に重大な影響を及ぼしかねません。検討会に参加予定の方におかれましては、ぜひその前にご一読いただければ幸いです。

 

                     2019年7月7日

   水産庁が公表した「新たな資源管理に基づく
  資源管理目標案等」に科学的正当性はあるか?
      
            東京海洋大学名誉教授 櫻本 和美
                          

 

水産庁は、6月12日新たな資源管理の実施に向け、優先的に検討を開始するマサバ太平洋系群等4魚種7系群について、資源管理目標案と漁獲シナリオ案等を公開した(水産庁HP  http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/sigen/190612.html)。

本稿の目的は、上記で提示されている資源管理目標案と漁獲シナリオ案(以下、管理シナリオ案と呼ぶことにする)の妥当性を検討することである。

上記の管理シナリオ案は、MSY理論に基づき資源の管理を実施する。MSYと管理基準値案の関係は系群ごとに管理シナリオ案の図5に示されている。本稿の図1はマサバ太平洋系群の管理シナリオ案に掲載されている図5を代表例として転載したものである。

図1の山型の曲線の頂点がMSYを示す。第1のポイントは「MSYは親魚量によって決定される」ということである。もちろん環境変動によって親魚量や漁獲量が変化することが考慮されているために、平均親魚量や平均漁獲量が使われている。すなわち、親魚量がMSYを与える水準を維持していても、環境変動によって漁獲量の値は変わる。しかし、そのときの漁獲量の10年とか15年の平均をとれば、環境変動による増減が相殺されて、図中のMSYの値になると考える。従って、環境変動があったとしても平均的に見れば、「MSYは親魚量によって決定され」、また、「平均的にはMSYを与える親魚量も1つ決まる」という考え方をしている。

このMSYを与える親魚量を目標管理基準値案とする。従って、親魚量が目標管理基準値を平均値に持つような値で10年とか15年間にわたって変動していれば、平均的には図1に示した持続的漁獲量(平均漁獲量)の最大値(MSY)が得られると考えている。

限界管理基準値はMSYの60%が得られる親魚量と定義されている。従って、「親魚量が限界管理基準値を平均値に持つような値で10年とか15年間にわたり変動していれば、その時の平均漁獲量はMSYの60%の値になる」。逆に言うと、「親魚量が目標管理基準値にある時の平均漁獲量(すなわち、MSY)は親魚量が限界管理基準値にある時の平均漁獲量の1.7倍(1.0/0.6 ≒ 1.7)になる」ということが第2のポイントである。注1)

注1) 実際には、安全係数をかけてMSYより小さい値を漁獲量とするので、計算される漁獲量は親魚量が限界管理基準値にある時の平均漁獲量の1.3-1.4倍程度になる。

MSY理論が正しければ、すなわち、図1に示された関係が正しければ、環境変動があったとしても平均親魚量が目標管理基準値にある時の平均漁獲量は、平均親魚量が限界管理基準値にある時の平均漁獲量の1.3-1.4倍程度なければならないことになる。果たして、このよう状態を満たしている系群がどれだけあるのか、過去の親魚量と漁獲量のデータ、および、シミュレーションにより得られた親魚量と漁獲量の予測値から検証する。  

 

I-1. マサバ太平洋系群

図2a にマサバ太平洋系群の管理シナリオ案に掲載されている図7(一部改変)を示した。

図2a の①で示した期間を見ると、漁獲管理規制を実施した場合の親魚量(青の太線)は、目標管理基準値(緑の点線)を上回っており、現行の漁獲圧を続けた場合の親魚量(緑の太線)は、ほぼ限界管理基準(黄色の点線)のレベルを推移している。もし、図1に示したMSY理論が正しければ、青の太線が示す漁獲量は緑の太線が示す漁獲量の1.3-1.4倍程度でなければならないはずであるが、漁獲量は、両者でほとんど変わっていない。すなわち、このような結果は図1に示したMSY理論と矛盾するものであり、MSY理論が誤っていることを示すものである。

 

I-2. マサバ対馬暖流系群

図2bにマサバ対馬暖流系群の管理シナリオ案に掲載されている図7(一部改変)を示した。

図2bの②の期間をみると、現行の漁獲圧を続けた場合の親魚量(緑の太線)はほぼ目標管理基準値(緑の点線)と一致している。これに対して、漁獲管理規制を実施した場合の親魚量(青の太線)は目標管理基準値(緑の点線)よりかなり大きくなっている。また、漁獲量は両者でほとんど変わらず、なぜ、現行の漁獲圧を続けてはいけないのか理解不能である。

また、①の期間では、親魚量は限界管理基準のレベルを推移している。線1は①の期間(2001-2007年)の平均漁獲量23.1万トンを示す。23.1万トンの漁獲を7年間続けても、親魚量は特に減少していないので、図1に示したMSY理論が正しければ、23.1万トンは持続生産量と考えられ、MSYの60%の値に相当する。すなわち、①の期間では親魚量は限界管理基準のレベルにあり、漁獲量はその時の持続生産量のレベルにあったことになるので、図1に示したMSY理論が正しければ、親魚量は増大しないはずである。しかし、②の期間を見ると、現行の漁獲圧を続けた場合の親魚量(緑の太線)は、目標管理基準値まで増大している。このような現象は図1に示したMSY理論と矛盾するものであり、MSY理論が誤っていることを示すものである。

 

II-1. ゴマサバ太平洋系群

図3a にゴマサバ太平洋系群の管理シナリオ案に掲載されている図7(一部改変)を示した。

図3aの過去の親魚量と漁獲量をみると、①の期間では親魚量は低く、限界管理基準(黄色の点線)のレベルと目標管理基準値(緑の点線)のレベルとの間を推移している。また、①の期間(1995-2005年)の平均漁獲量(13.1万トン)を線1に示した。線1に示した平均漁獲量は③の目標管理基準値が達成された2020年以降の漁獲量(青と緑の太線)よりもはるかに大きいにもかかわらず、②の期間で親魚量が急増している。しかし、このような結果は図1に示したMSY理論からは起こりえない。すなわち、このような結果は図1に示したMSY理論と矛盾するものであり、MSY理論が誤っていることを示すものである。

また、③の期間では管理を実施した場合と現行の漁獲圧を続けた場合で親魚量も漁獲量もほとんど同じで、漁獲強度を削減する必要があるとは考えられない。

 

II-2. ゴマサバ東シナ海系群

図3b にゴマサバ東シナ海系群の管理シナリオ案に掲載されている図7(一部改変)を示した。

図3b で、①の期間の親魚量は限界管理基準値を推移している。線1は①の期間(1992-2017年)の平均漁獲量5.6万トンを示す。5.6万トンの漁獲を26年間続けても、親魚量は特に減少していないので、図1に示したMSY理論が正しければ、5.6万トンは持続生産量と考えられる。②の期間では現行の漁獲圧を続けた場合(緑の太線)の漁獲量は①の期間での漁獲量(線1)よりもかなり少ないにも関わらず、現行の漁獲圧を続けた場合(緑の太線)の②の期間の親魚量が①の期間の親魚量より減少していくのはなぜか? 図1に示したMSY理論が正しければ、このような結果にはならないはずである。すなわち、このような結果は図1に示したMSY理論と矛盾するものであり、MSY理論が誤っていることを示すものである。

 

III-1. スケトウダラ太平洋系群

図4aにスケトウダラ太平洋系群の管理シナリオ案に掲載されている図7(一部改変)を示した。

図4aの①の期間では親魚量はほぼ目標管理基準値を維持している。図4aの線1は①の期間(1981-2008年)の平均漁獲量20.5万トンを示したものである。平均漁獲量は③の期間の目標管理基準値を達成したときの漁獲量(青の太線)よりかなり大きいにも関わらず、②の期間で親魚量が急増しているのは、なぜか?

③の期間で現行の漁獲圧を続けた場合の親魚量(緑の太線)が、目標管理基準値の倍以上の大きさになっているが、これは本当か?

すなわち、上記の結果はいずれも、図1に示したMSY理論と矛盾するものであり、MSY理論が誤っていることを示すものである。

 

III-2. スケトウダラ日本海北部系群

図4b にスケトウダラ日本海北部系群の管理シナリオ案に掲載されている図7(一部改変)を示した。

図4bの①の期間、漁獲管理規制を行った時の親魚量(青の太線)はかなり目標管理基準値に近いところまで回復しているが、現行の漁獲圧を続けた場合(緑の太線)の親魚量は限界管理基準値のレベルを推移している。しかし、漁獲量は両者でほとんど変っていない。もし、図1に示したMSY理論が正しければ、青の太線で示した漁獲量は緑の太線で示した漁獲量よりももっと大きく(1.3-1.4倍程度)なるはずである。すなわち、このような結果は図1に示したMSY理論と合致しておらず、MSY理論が誤っていることを示すものである。

 

IV. ホッケ道北系群

図6 にホッケ道北系群の管理シナリオ案に掲載されている図7(一部改変)を示した。

図6 の①の期間をみると、漁獲管理規制を行った時の漁獲量(青の太線)は2020年のみ現行の漁獲強度を続けた場合(緑の太線)の漁獲量より小さいが、それ以外の年は、青の太線で示した漁獲量の方が、緑の太線で示した漁獲量より常に大きいにも関わらず、青の太線で示した親魚量の方が急増している。

また、②の期間をみると、漁獲管理規制を行った時の親魚量(青の太線)は目標管理基準値を達成しているにも関わらず、その時の漁獲量が現行の漁獲強度を続けた場合の漁獲量(緑の太線)とほとんど変わっていない。

もし、図1に示したMSY理論が正しければ、上記のような図にはならないはずである。すなわち、このような結果は図1に示したMSY理論とは矛盾するものであり、MSY理論が誤っていることを示すものである。

 

以上の結果をまとめると以下のようになる。

(1) 7系群すべてに対して、過去の親魚量と漁獲量の関係およびシミュレーション結果は、図1で示したMSY理論と矛盾しており、MSY理論が誤りであることを示す結果となった。

(2) 現行の漁獲圧を継続する方が妥当と思われる系群が、マサバ対馬暖流系群とゴマサバ太平洋系群の2系群あった。

以上のことから、水産庁が公表した「新たな資源管理に基づく資源管理目標案等」には全く科学的正当性がないことが明らかとなった。

参考文献
櫻本和美 マグロ類の資源管理問題の解決に向けて ―MSY理論に代わるべき新しい資源変動理論― 水産振興605. 東京水産振興会. 2018.

 

 

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