緊急投稿その2:重要「資源管理方針に関する検討会」における質問の事前通知について

新たな資源管理の実施に向けた「資源管理方針に関する検討会」の開催に当たり、先般、東京海洋大学名誉教授 櫻本和美先生からの投稿があり、当ブログ(7月7日付け)で公開させていただきましたが、今回その2回目として以下の「資源管理方針に関する検討会における質問の事前通知について」の投稿が寄せられました。

その内容を私なりに解釈しますと、新資源管理の基本中の基本となるMSY理論の誤りを、根本論から、かつ具体的に糺すものであり、水産庁からの真摯な回答が待たれるところであります。ぜひとも関係者の皆様方にもお読みいただき、我が国の資源管理が間違った方向にいかないよいうに、ご参考にしていただければ幸いに存じます。

 

 

                                                                      2019年8月1日
水産庁増殖推進部漁場資源課
沿岸資源班 船本様

国立研究開発法人水産研究・教育機構研究推進部
神山様

水産庁資源管理部管理調整課
資源管理推進室 赤塚様

   資源管理方針に関する検討会における質問の事前通知について

                東京海洋大学名誉教授 櫻本 和美

水産庁は、令和元年7月「新たな水産資源の管理について」を公表し、優先的に検討を開始するマサバ太平洋系群等4魚種7系群について、資源管理目標案と漁獲シナリオ案等を公開されました。

上記に関し、水産庁は7月に福岡で説明会を開催され、東京でも、8月に説明会を開催する予定とのことで、私も参加申し込みをいたしました。しかし、説明会で個々人が質問する時間は極めて限られていることを鑑み、あらかじめ質問を提出することと致しました。つきましては以下の質問に対する会場でのご回答は、口頭説明のみでは時間もかかることから速やかな進行のため、質問に対するご回答内容を記した文書も合わせて、ご回答いただきたくお願い申しあげます。

質問1の趣旨: 新しいMSYと古典的なMSYは同じものではないか?

水産庁は、「新たな水産資源の管理について(水産庁HP)」の6ページ目で、新しいMSYを以下のように説明しています。6ページ目の説明を図1に転載し、以下、「MSYの新定義」として引用します。

図 1 「新たな水産資源の管理について」の6ページ目を転載

「MSYの新定義」では、古典的なMSY理論を次のように説明しています。
【説明A】「回復量が最大になる資源量で、増加した分を漁獲すれば、最大の漁獲が続けられる、というのが古典的MSY理論」。

そして、新しいMSYを以下のように説明しています。
【説明B】「現実には海洋環境の変化に仔稚魚の生存率や成長などは大きく影響を受ける。近年は、新たな統計手法やコンピュータ技術の発展により、このような変化する要因なども考慮し、現在の環境下における「MSY」が計算できるようになり、欧米では実際の管理で効果を発揮」

【説明A】では、「こうすればMSYが達成できます」ということが書いてあるのに対し、【説明B】では、「このような方法で新しいMSYが計算できます」ということが書いてあって、記述されている内容が異なります。つまり、【説明B】では、「計算したMSYを使って、MSYをどのように達成するのか」ということが記載されていません。

【説明A】にならって、「どのようにMSYを達成するのか」ということを記述すると、

「【説明B】で計算したMSYが達成できる資源量で、【説明B】で計算したMSYを漁獲すれば、最大の漁獲が続けられる」という内容になります。

そのことを示した図が、上の図1の「MSYの新定義」の左下の図になります(図1の左下の図)。念のため、古典的なMSY理論を図2に示しました。図2には、図1の説明文もそのまま転記し、その説明に従って、古典的なMSY理論の図にも記号(A, B 等)を付け加えました。図1と図2を見比べて下さい。古典的なMSY理論と「MSYの新定義」の左下の図のいったいどこが違うのでしょうか? 全く、同じではありませんか?

質問1-1 古典的なMSY理論と「MSYの新定義」によるMSY理論の相違を説明して下さい。もし、相違が明確に説明できなければ、新しいMSYは古典的なMSY理論とは異なるという水産庁の説明は誤りということになります。既に、多くの批判がある古典的なMSY理論を用いるために、「新たな水産資源の管理」で使用するMSYは古典的なMSY理論とは異なるかのように、意図的に誤った説明をしているということではないでしょうか? 上記に対する明確な回答をお願いします。

質問1-2 また、上記の説明では「現在の環境下における「MSY」が計算できる」とあるが、「現在の環境下」とは、例えば、マサバ太平洋系群の場合は、1970年から2017年までの48年間を指すのか?「現在の環境下」と考えるには、48年間は長すぎないか? この間、3回のレジームシフト(1976/77、1989/90、1998/99)が起きたことが知られているが、レジームシフトに関係なく、1つの「MSY」、1つの「MSYを達成する親魚量」のみを推定して、「環境変動に対応した・・・」と言えるのか?

図3aには、マサバ太平洋系群の加入量と親魚量の時系列(対数変換した値)、再生産成功率とレジームシフトを示した。

縦の赤線はレジームシフトが生起した年を示し、緑のバーはレジームシフトの期間を示す。また、ピンクの線は、3年移動平均を示す。3年移動平均とは、1年前と当年と1年後の3年間の平均を当年の値として、時系列をプロットしたものである。変動の大きな時系列をとり扱うときに、変動の傾向を大局的に見るために、しばしば時系列分析で用いられる方法である。

図3aを見ると、第1のレジーム(1977―1989)では加入量、親魚量とも減少傾向を示しているが、第2のレジーム(1990―1998)で加入量は増加に転じ、安定した加入水準となっている。その影響で親魚量も下げ止まっている。さらに、第3のレジーム(1999―)に入ると、加入量はさらに増加し、親魚量も増加していることがわかる。また、図3bを見ると、第1のレジームに比べ、第2、第3レジームの再生産成功率はかなり高かったことがわかる。

質問1-3 水産庁は「上記の第1のレジーム(1977―1989)での加入量と親魚量の減少は乱獲によるものであり、第2のレジーム(1990―1998)で加入量は増加に転じ、親魚量が下げ止まったこと、また、第3レジーム(1999―)に入り、加入量はさらに増加し、親魚量も増加したのは、管理(TAC制度)が成功したからである」とお考えになっているのでしょうか? ちなみに、TAC制度が始まったのは1997年からです。 

また、「現在の環境下における「MSY」が計算できる」とあるが、ジームシフト等の環境変動の影響は、どのように反映されているのか?説明をお願いしたい。

質問2の趣旨: 再生産モデルからMSYは推定されるが、再生産関係は生物学的にも統計学的にも信頼できるものであるという根拠、および、再生産関係としてホッケー・スティックモデルが妥当であるという科学的根拠をお示し下さい。

質問2-1 シュワルスキーら1)は、224にもおよぶ系群の再生産関係を調べ、「85%の系群で、子の数は親の量によっては決まらず、環境による影響の方がはるか大きい」ことを示した。シュワルスキーら1)が示した再生産関係は、85%以上で図4、図5に代表されるようなパターンを示し、親魚量と加入量が無相関となるか、負の相関(親魚量が増大すればするほど、加入量は減少する)を示すかの2パターンとなることを示した。そのようなデータを使って、MSYを推定することに意味があるのか、説明をお願いしたい。

質問2-2 ゴマサバ太平洋系群の再生産関係に回帰直線をあてはめると、傾きは0.018となり、X軸にほぼ並行な直線になる(図6)。つまり、加入量と親魚量は無相関という結果が得られる。シュワルスキーら1)が示した図4と同じケースとなる。加入量と親魚量が無相関であるデータからMSYを推定することに科学的正当性はあるか、説明をお願いしたい。

ちなみにICCATのクロマグロでは、再生産関係が不明であるとの理由から、2017年からクロマグロ資源に対してMSYの推定をやめ、神戸プロットの使用もやめている。なぜ、水産庁は、時代に逆行するかのように、このような無相関なデータにホッケー・スティックモデルをあてはめて、MSYを推定しようとするのか、その科学的正当性について説明をお願いしたい。

質問2-3 ゴマサバ東シナ海系群に対しても再生産関係として、ホッケー・スティックモデルがあてはめられている。この場合は、観測された親魚量の最大値8万5千トンで折れ曲がるホッケー・スティックモデルがあてはめられている(図7)。

従って、折れ曲がっている点より大きな再生生産関係を示すデータはない。もし、図中の赤線で示したような、この点で折り曲げずに、直線をそのまま引き延ばしたモデル(比例モデルという)を考えると(図7の青い線+赤い線)、統計的には、この比例モデルの方が、ホッケー・スティックモデルより、より良いモデルと判断されるはずです。なぜなら、上記ホッケー・スティックモデルと比例モデルの2つのモデルで、計算値と観測値の差を二乗して合計した値(偏差二乗和という)は、図中の青い線と観測値の差から計算されるので、どちらのモデルでも同じ値になる。しかし、モデルに使用するパラメータ数は比例モデルが1つ、ホッケー・スティックモデルが2つだから、比例モデルの方が使用するパラメータ数は1つ少ない。当てはまりが同じなら(偏差二乗和の値が同じなら)、より簡単なモデルの方がモデルの評価得点が高く、いいモデルだと判断されるので、ゴマサバ東シナ海系群の再生産関係として最適なモデルは比例モデルということになる。

しかし、比例モデルを採用すると、MSYが計算できないので、MSYを計算するために、より良いモデルを捨て、ホッケー・スティックモデルを採用したと考えられる。MSYを計算するために、ここまで作為的なことを行うということになると、もう八百長のレベルではないかと考えます。比例モデルではなく、ホッケー・スティックモデルを採用する科学的正当性について説明をお願いします。

 

質問2-4 同様のことが、スケトウダラ日本海北部系群の再生産関係についても言えます。観測された親魚量の最大値である34万1千トンで折れ曲がるホッケー・スティックモデルがあてはめられています(図8)。折れ曲がっている点より大きな再生生産関係のデータはないので、この点で折り曲げずに、直線を引き延ばしたモデル(比例モデル)を考えると(図8の青い線+赤い線)、統計的には、この比例モデルの方が、ホッケー・スティックモデルより、より良いモデルと判断されるはずです。しかし、比例モデルではなく、ホッケー・スティックモデルを採用する科学的正当性について説明をお願いしたします。

質問2-5 図9はスケトウダラ太平洋系群の再生産関係を示したものです。赤の線は回帰直線を示します。親魚量が増大すればするほど、加入量は減少することがわかります。シュワルスキーら1)が示した再生産関係の図5と同じケースになります。スケトウダラ日本海北部系群の再生産関係の回帰直線の傾きはプラスで、スケトウダラ太平洋系群の再生産関係の回帰直線の傾きと真逆になっています(図8)。

北海道の太平洋側と、日本海側ということで、緯度的にも経度的にも類似した海域の同種のスケトウダラ資源であるにも関わらず、なぜ、全く正反対の再生産関係を示すのか、そのメカニズムの説明をお願いしたい。もし説明できないということであれば、再生産関係(再生産のメカニズム)は不明ということになりますが、再生産関係(再生産のメカニズム)が不明にもかかわらず、図9の青の線で示したような、全くデータに当てはまらないホッケー・スティックモデルをあてはめて、MSYを推定することの科学的正当性についての説明を願いします。

質問2-6 図10は、図3で示した加入量と親魚量の3年移動平均(ピンクの線)を用いて、生産関係を図示したものである。加入量と親魚量の3年移動平均を用いて再生産関係を図示した理由は、その方が、再生産関係の全体の変化の様子がよくわかるからである。

図10を見ると、マサバ太平洋系群の再生産関係は大きく2つの部分に分けることが可能で、増加していく時代(図中Aで示した)と減少していく時代(図中Bで示した)に分けられる。図中Aで示した年代では、親魚量が増加していくにも関わらず、加入量は増えつづけ、図中Bで示した年代では、親魚量が減少しているにも関わらず、加入量は減りつづけていることかわる。

リッカーモデルは親魚量が過大になると加入量は減少し、ホッケー・スティックモデルは親魚量がある値以上に大きくなると、加入量は一定値になるというモデルである。しかし、上記のような再生産関係の軌跡はリッカーモデルやホッケー・スティックモデルでは全く説明できず、リッカーモデルやホッケー・スティックモデルが誤りである(架空のものである)ことを示していると考えられるが、それに対する見解をお聞かせ下さい。

質問2-7 3年移動平均をとってゴマサバ太平洋系群の再生産関係を図示すると(図11)、スケトウダラ太平洋系群同様、親魚量の増大に伴って加入量も増大する時期と、親魚量の減少に伴って加入量も減少する時期の2つに分けられることがわかる。また、スケトウダラ日本海北部系群の3年移動平均をとって再生産関係を図示すると(図12)、親魚量の減少に伴って一方的に加入量が減少していくことがわかる。

上記のよう再生産関係の軌跡はホッケー・スティックモデルでは全く説明できないにも関わらず、このようなデータにホッケー・スティックモデルをあてはめてMSYを推定することの科学的正当性についてご説明をお願いします。

質問3の趣旨: 水産庁が公開した資源管理目標案と漁獲シナリオ案等(水産庁HP)に記載されている過去の親魚量と漁獲量の時系列、および、シミュレーションによる親魚量と漁獲量の時系列はMSY理論が誤りであることを示しているのでないか?

図13にマサバ対馬暖流系群の上記シナリオ案に掲載されている図7(一部改変)を示した。図13の②の期間をみると、現行の漁獲圧を続けた場合の親魚量(緑の太線)は、ほぼ目標管理基準値(緑の点線)と一致している。これに対して、漁獲管理規制を実施した場合の親魚量(青の太線)は、目標管理基準値(緑の点線)よりかなり大きくなっている。また、漁獲量は両者でほとんど変わらず、なぜ、現行の漁獲圧を続けてはいけないのか理解不能である。

また、①の期間では、親魚量は限界管理基準のレベルを推移している。線1は①の期間(2001-2007年)の平均漁獲量23.1万トンを示す。23.1万トンの漁獲を7年間続けても、親魚量は特に減少していないので、図1に示したMSY理論が正しければ、23.1万トンは持続生産量(回復量)と考えられ、回復量だけ漁獲しているので、親魚量は増大しないはずである。しかし、②の期間を見ると、現行の漁獲圧を続けた場合の親魚量(緑の太線)は、目標管理基準値まで増大している。このような現象は図1に示したMSY理論と矛盾するものであり、MSY理論が誤っていることを示すものである。

質問3-1 マサバ対馬暖流系群の過去の親魚量と漁獲量の時系列、および、シミュレーションによる親魚量と漁獲量の時系列はMSY理論が誤りであることを示していると思われるが、それに対して、水産庁はどのようにお考えですか?

 

図14 にゴマサバ太平洋系群の管理シナリオ案に掲載されている図7(一部改変)を示した。図14の過去の親魚量と漁獲量をみると、①の期間では親魚量は低く、限界管理基準(黄色の点線)のレベルと目標管理基準値(緑の点線)のレベルとの間を推移している。また、①の期間(1995-2005年)の平均漁獲量(13.1万トン)を線1に示した。線1に示した平均漁獲量は③の目標管理基準値が達成された2020年以降の漁獲量(青と緑の太線)よりもはるかに大きいにもかかわらず、②の期間で親魚量が急増している。しかし、このような結果は図1に示したMSY理論からは起こりえない。すなわち、このような結果は図1に示したMSY理論と矛盾するものであり、MSY理論が誤っていることを示すものである。

また、③の期間では管理を実施した場合と現行の漁獲圧を続けた場合で親魚量も漁獲量もほとんど同じで、現行の漁獲強度を削減する必要があるとは考えられない。

質問3-2 ゴマサバ太平洋系群の過去の親魚量と漁獲量の時系列、および、シミュレーションによる親魚量と漁獲量の時系列はMSY理論が誤りであることを示していると思われるが、これに対して、水産庁はどのようにお考えですか?

 

図15 にゴマサバ東シナ海系群の管理シナリオ案に掲載されている図7(一部改変)を示した。

図15 で、①の期間の親魚量は限界管理基準値を推移している。線1は①の期間(1992-2017年)の平均漁獲量5.6万トンを示す。5.6万トンの漁獲を26年間続けても、親魚量は特に減少していないので、図1に示したMSY理論が正しければ、5.6万トンは持続生産量(回復量)と考えられる。②の期間では現行の漁獲圧を続けた場合(緑の太線)の漁獲量は①の期間での平均漁獲量(線1)よりもかなり少ないにも関わらず、現行の漁獲圧を続けた場合(緑の太線)の②の期間の親魚量が①の期間の親魚量より減少していくのはなぜか? 図1に示したMSY理論が正しければ、このような結果にはならないはずである。すなわち、このような結果は図1に示したMSY理論と矛盾するものであり、MSY理論が誤っていることを示すものである。

質問3-3 ゴマサバ東シナ海系群の過去の親魚量と漁獲量の時系列、および、シミュレーションによる親魚量と漁獲量の時系列はMSY理論が誤りであることを示していると思われるが、これに対して、水産庁はどのようにお考えですか?

 

図16にスケトウダラ太平洋系群の管理シナリオ案に掲載されている図7(一部改変)を示した。図16の①の期間では親魚量はほぼ目標管理基準値を維持している。図16の線1は①の期間(1981-2008年)の平均漁獲量20.5万トンを示したものである。平均漁獲量は③の期間の目標管理基準値を達成したときの漁獲量(青の太線)よりかなり大きいにも関わらず、②の期間で親魚量が急増しているのは、なぜか?

③の期間で現行の漁獲圧を続けた場合の親魚量(緑の太線)が、目標管理基準値の倍以上の大きさになっているが、これは本当か?

すなわち、上記の結果はいずれも、図1に示したMSY理論と矛盾するものであり、MSY理論が誤っていることを示すものである。

質問3-4 スケトウダラ太平洋系群の過去の親魚量と漁獲量の時系列、および、シミュレーションによる親魚量と漁獲量の時系列はMSY理論が誤りであることを示していると思われるが、それに対して、水産庁はどのようにお考えですか?

文献
1) Szuwalski et al. Examining common assumptions about recruitment: a meta-analysis of recruitment dynamics for worldwide marine fisheries. Fish and Fisheries 16 (2015)

 

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