これのどこが「成長産業化」なのか ―新資源管理で既存漁業は「衰退産業化」へまっしぐらー

 水産政策改革の最大のキャッチフレーズといえば「水産資源の適切な管理と水産業の成長産業化を両立」でした。そうして水産庁は、新たな資源管理とこれまでの資源管理との違いを以下の図で説明していました。

なるほど。今までのBlimitではなくBmsyを達成目標に掲げると、資源がグーンと増え資源の更なる有効利用を図る。だから漁業の成長産業化なのだ! と思い込まされたのでありました。特に欧米出羽守に弱い日本人にはイチコロです。

しかし、水産庁が令和元年6月12日に新たな資源管理の実施に向け、優先的に検討を開始するマサバ太平洋系群等4魚種7系群について、資源管理目標案と漁獲シナリオ案等(以下、「新管理案」という)を公開しました(http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/sigen/190612.html)が、それを見て「完全に騙された!これのどこが成長産業化か!」と思われた漁業関係者が多いのではないでしょうか。

実は上の図には資源の線はあっても漁獲量の線がありませんでした。だれもが資源量が増えれば当然漁獲量も増えると思い込んでいたのでした。今思えば典型的な詐欺師の手口に騙されたのでした。

これまで私は一貫して「水産政策改革での新資源管理は、資源管理を装いながら、その真の目的は、公共資本である資源を私的資本化し、企業のためのマネーゲームの対象とすること」と主張してきましたが、それがいよいよあらわになってきました。

新管理案の中身は、邪魔な既存漁業者をできるだけ減らし、増えた資源はあとで「参入企業がITQで独り占めにして自分だけ成長産業化」と、まさに規制改革の思惑に忠実に沿った「資源の増大化と既存漁業の衰退産業化を両立」させる酷い内容となっています。

 

1 「資源は増大しても漁業は衰退」を目指す典型的事例

水産庁が公表した新管理案(資源管理目標案と漁獲シナリオ案)において、特に漁獲量の減少による漁業の衰退の最も酷い事例であるスケトウダラ日本海系群を以下に引用します。

1980年代から1990年代の中ごろまで、親魚量はおよそ30万トン前後で、漁獲量は10万トンから20万トンの間にありましたが、親魚量は元に戻って、2050年になっても漁獲量は3万トンにしかなりません。資源が増えても将来の漁獲量が過去の1/5程度にしかならない新管理案を見せられて「これが水産業の成長産業化」などと思う漁業者がいるでしょうか。これが新資源管理が打ち出した「資源の有効利用を図る」ことだそうです。あきれ果てて言う言葉もありません。冗談もほどほどにしてほしいものです。

漁業法改訂前では、

と説明しておきながら、漁業法改訂後には真逆の以下の図を出す。いかにも安倍内閣らしいやり方ですね。

2 過去最大の資源量にある漁業すら衰退産業化させる事例

マサバ太平洋系群に関する以下の図(水産庁HP:平成30(2018)年度マサバ太平洋系群の資源評価より引用)をご覧ください。

 資源量は過去最高で500万トンを超えています。さらに、注目すべきはその漁獲割合がなんと11%であり、他のサバ類3系群のおよそ40%と比較し著しく低くなっており、まさに文句のつけようのない高い資源レベルでかつ過少漁獲ともいえる漁獲圧の状況下にあると思います。

 ところが、このマサバ太平洋系群に関する新管理案が以下の図なのです。

1970年代の親魚量は、目標管理基準(緑色の破線)である154万トンに近いレベルにあり、その1970年代の10年間の漁獲量(57万トン~120万トン)の平均値82万トンに対する新管理案における漁獲上限となるMSY(37万トン)の比率は45%(37万トン/82万トン=0.45)であり、さらにピーク時と比較すると30%(37万トン/120万トン=0.3)と著しく低くなっています。

1970年代よりも多い将来の親魚量から得られる漁獲量が、当時の平均的漁獲量の45%と半分以下にどうしてなるのでしょうか。過去のF値が高すぎたとでも言いたいのでしょうが、それなら10年間にもわたりなぜ漁獲量が高いレベルで維持されたのでしょうか。

なぜこんな低い漁獲量をMSYとするのか。それは新管理案が「資源の増大化と漁業の衰退産業化を両立」させたいからです。

 

<どんな漁業でも衰退産業にできる新管理案>

このマサバ太平洋系群の資源回復計画を企画・立案し、その実行の1年目にも係わった私にとって絶対に容認できないことがあります。正直なところ「俺にケンカを売っているのかこの野郎!」と言いたいほどです。それが、以下の神戸プロット(チャート)です。

なんと、過去の資源管理の全てが、レッドゾーンに位置づけられています。過去最高の資源量を達成し、かつ現在の漁獲率が11%と著しく低く、今回の新管理案の対象となった4魚種7系群の中でも最良の資源状況にあるこの資源だけが、なぜか、唯一過去のすべての年次がレッドゾーンにある最劣等生なのです。

 もう一度言いたい「俺にケンカを売っているのかこの野郎!」と。

そもそもこの神戸プロットとは、東京海洋大学名誉教授の桜本和美先生がこのブログへの投稿におけるゴマサバ太平洋系群に関する箇所で、

ICCATのクロマグロでは、再生産関係が不明であるとの理由から、2017年からクロマグロ資源に対してMSYの推定をやめ、神戸プロットの使用もやめている。なぜ、水産庁は、時代に逆行するかのように、このような無相関なデータにホッケー・スティックモデルをあてはめて、MSYを推定しようとするのか、その科学的正当性について説明をお願いしたい。

と質問しているように、再生産関係がMSYモデルにあてはまらないマサバ太平洋系群にも神戸プロットは欠陥品そのものであります。

この「神戸プロット」の見方を簡単に説明します。このグラフは「田」の字のように4つの区画で区切られており、MSYを実現するための親魚量の水準(SBmsy)と現在の水準(SB)との比(SB/SBmsy)をX軸にとり、MSYを実現する漁獲係数(Fmsy)と現在の漁獲係数(F)の比(F/Fmsy)をY軸にとって、現在の資源の状況と漁獲の強度を評価しようとするもので、左上の区画にあると赤(資源が悪い上に漁獲強度も高い)、右下の区画にあると緑(資源が良くまた漁獲強度も低い)というものです。

そこで、優等生のはずがすべてレッドゾーンに位置づけられた上の図の異常さ(デタラメさ)を、より身近なことに置き換えて説明したいと思います。資源管理の現状を表す神戸プロットは、会社経営の診断表にも似ています。会社経営の診断には大きく二つの指標があり、資本(ストック)と、収益(フロー)です。資本に該当するのが資源量(ストック)で、収益に該当するのが資源の増・減(フロー)と考えてもよいでしょう。

銀行が会社にお金を貸すときには「債務者区分」という基準に基づき判断します。その区分は①正常先、②要注意先、③破綻懸念先、④実質破綻先、⑤破綻先の5つです。

ア 神戸プロットでは、資本(SB)が十分あり、収益(F/Fmsy:漁獲強度が1以下で資源が増大傾向)も黒字の場合は、緑の領域となるので①正常先に該当するでしょう。
イ 資本が基準を上回っているものの、収益が赤字の場合は右上の黄色の領域で②要注意先となるでしょう。
ウ 資本は基準を下回っているが、収益が黒字の場合は左下の黄色の領域で、これも②要注意先となるでしょう。
エ 資本が基準を下回り、収益も赤字の場合は、まさに赤の領域に位置づけられ、③破綻懸念先となるでしょう。

ところで、④実質破綻先、⑤破綻先はないのかと言うご質問があろうかと思いますが、新管理案の対象資源においては該当しないと言えるでしょう。ただし新管理案の案がとれ、これがそのまま実施されると漁業経営において④と⑤に該当する漁業者が急増するのは間違いないでしょう。上のスケトウダラ日本海系群の将来の漁獲量が、かっての1/5にしかならない図を見せられた銀行は、「これのどこが成長産業化か」と即刻新規融資を停止し貸しはがしに走るのは確実ですから

話を元に戻します。

マサバ太平洋系群の2017年の資源量は過去最大の510万トン。2歳以上の親魚量は1970年代と同程度ですが、漁獲割合は11%と1970年代の半分以下と非常に低いレベルにあり、これは一般的な資源管理においての漁枠割合が30~40%と比較しむしろ過少利用の状態とも言えます。これは、経営診断的に言えば「投下資本利益率(ROI)」が低く好ましいものではありませんが、新資源管理にはそのような概念がなく、給料(漁獲量)を減らしやたら内部留保(親魚量)を積み上げて、自己満足しているバカな社長のようです。

つまり、今のマサバ太平洋系群の資源管理の現状を、会社経営になぞらえると資本(ストック)は過去最高で、利益(フロー)も経費率(漁獲割合)が非常に低いことから超優良企業と言えるのではないかと思います。それなのに、驚くべきことに経営コンサルタントはこう言い放ったのです。

「御社はストックとフローの両面でマイナス領域にあるので破綻懸念先企業としてレッドゾーンに区分しました。よって御社はもっと人件費を削減する必要があり、従業員をクビにしなさい」と。

社長は怒り狂い「この無能野郎!バカにしやがって」と叩き出すに決まっています。

つい先般の日刊水産経済新聞(令和元年8月9日)に、夏期特集「北海道の水産2019」として、「MSY導入に待った!」という記事が掲載されていました。そこにはホッケ道北系群に関するものですが、この経営コンサルタントのような「高い資源管理目標設定はいいことだ、だから漁獲量をどんどん減らすべき」という新管理案に対する現場漁業者からの疑問「果たしてそこまで漁獲量を戻す必要があるのか。魚価や流通のことを考えても、もっと現実的な数字でもいいのでは」が掲載されていました。

まったくその通りですが、現実を考えては既存漁業を衰退させられないから、あえて社会受けのする高い目標を掲げるという偽善者ぶってそうしているのでしょう。

<既存漁業の衰退産業化は非現実的なMSYから始まる>

 優良事例ともいえるマサバ太平洋系群の資源管理がすべてレッドゾーンに位置づけられたのはなぜでしょうか。それは新管理案でMSYを達成するために必要となる親魚量(目標管理基準値)を非現実的ともいえる高いレベルに設定し、その一方でMSY(漁獲量)そのものは低く抑えることで「資源の増大と漁業の衰退を両立」できるようにしたいからです。

いくら優良な企業でも「さらに自己資本を2倍に増やせ」しかも「経費率を1/2に抑えよ」と非現実的な高い経営目標を与えられ、それを達成できるかできないかに経営判断基準を設けられれば、誰が社長でもレッドゾーンとなるのは当たり前です。

はじめてこの神戸プロットを見たときに、この作成者は気は確かかと思いました。そうしてこれには何か意図がある。過去の資源管理を批判しておきたいがため、その優等生を徹底的に叩くという悪意すら感じてしまいました。優良会社の乗っ取りを目論む悪徳株主の手口です。

 この目標管理基準値(親魚量1540千トン)は過去一度も無かったような高いレベルですが、どのようにして決められたのでしょうか。水産庁のHPで公表された資料を読むと「近年の卓越年級群の発生により過去最大親魚量は更新される予測となっている」だから、過去最高の1400千トンを上回る1540千トンとしています。では仮に、近年においてたまたま低いRPSが続いていれば、これは低くなったというのでしょうか。つまりMSYの達成のための親魚量などは環境次第でどうにでもなるということでしょうか。であれば、そもそもMSY理論の根底をなす密度効果よりも環境で資源は変動するということになり、完全に矛盾しており、訳が分かりません。

これはいつも私が指摘している「たまたま環境に恵まれ高いRPSが連続し発生した時にしか達成されない高いレベルのもの」であり、そのような例外的な現象を中長期的な管理目標にするのは間違っていると思います。

更なる疑問は、以下の表です。

真ん中の欄の「目標管理基準値」を上回る確率(管理目標に「確率」を導入する根本的な疑問については、別の機会に指摘したいと思いますが)において、β値を0.1にしても91%の確率でしか達成できないという「目標管理基準値」とは本当に人間が利用を目的とする資源の管理目標となり得るのかという点です。

そもそも「β値を0.1」というのは2017年の漁獲割合11%からすると漁獲割合を1.1%まで削減することになるのではないでしょうか。これは実質上禁漁してもなお91%の確率でしか「目標管理基準値」を上回らないということです。そんな非常識な高い親魚量をマサバ太平洋系群の管理目標にするようではもう漁業の世界の話しではなく、カルト的環境保護団体の世界のような気がします。

上でも紹介した日刊水産経済新聞の「MSY導入に待った!」という記事に北海道機船連の原口聖二常務の意見が掲載されていました。そこで原口常務は、資源が上昇傾向にありながらTACが据え置かれた日本とロシアのスケトウダラ資源の利用に関する考え方とを比較し、「魚があっても人間が利用しなければ、それは資源とは呼べない」「せっかく上向いてきた資源を合理的に利用して、地域産業を発展させることが国家の利益につながることを国に強く訴えていきたい」としています。全く同感です。

しかし、新管理案は国家利益のためでなく、規制改革による参入企業の利益のためのものであり、その目的は「資源の増大と既存漁業の衰退の両立」ですから簡単にはその訴えは通らないと思います。しかし、敵は中央では無敵でも現場に引きずり込んで白兵戦で臨めばまだ勝機はあると思います。

そうしないと、ここにあげた二つの系群だけでなくこれら以外の新管理案の対象となる各資源も、外国のEEZや公海にまたがった資源であり、外国漁船はこの馬鹿げた新資源管理による日本漁業の衰退産業化を大歓迎し「どんどん衰退しください、増えた資源は私たちがおいしくいただきますから」となるのは目に見えています。強欲企業のために規制改革が押し付けてきた新資源管理とは、国家利益をも損なうどうしようもない国賊政策です。

がんばれ北海道! MSYに負けるな北海道!

では、最後に暑気払いを兼ねビールでも飲みながら
参議院選挙で話題となった「N〇Kをぶっ潰す!」にならい
皆さん大きな声でご一緒に、せーのー
「MSYをぶっ潰す!」
「成長産業化の嘘をぶっ潰す!」

 

 

1 comment for “これのどこが「成長産業化」なのか ―新資源管理で既存漁業は「衰退産業化」へまっしぐらー

  1. 大野耕太郎
    2019年10月28日 at 3:07 PM

    食品トレーサビリティシステム標準化推進協議会の事務局 大野耕太郎です。BSE以来、農水省や経産省、民間穀物大手、大学、中国政府等に対して、食品トレーサビリティの設計や構築に携わってきました。ここ数年グローバル化が顕著となりグローバルサプライチェーンの仕組みを観察し続けておりますが、生産・流通・市場における相互運用について多くの疑問を感じております。今回、食品のトレーサビリティというテーマで連載している関係、水産物トレーサビリティとグローバリズムを切り口にしようと思い、佐藤力也様の資源管理のあり方検討会第4回会議 (平成2 6年6月 1 2 日)IQ、 ITQについて
    ―共同体による自主的資源管理を特徴とする我が国漁業において両制度の導入は不要―
    を読ませて頂き、腑に落ちるところが多々ありました。実は水産庁の委託事業で食品需給センターが水産物トレーサビリティシステムガイドラインを作成し、SIMPをトリガーに要件定義をしておりますが、実効性があるとは思えず、利益相反の意図(宮城の水産特区との連携)も感じておりました。とはいえ今後、健全な社会インフラとして食の健全な流通システムのための思索を続けていきたいと考えております。今後とも宜しくお願い致します。

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