緊急投稿その3:重要「ゴマサバ東シナ海系群に対する水産庁の試算結果について」

東京海洋大学名誉教授櫻本和美先生から、新資源管理に対する極めて興味深い投稿が寄せられました。それは令和元年7月22日~24日に福岡市で開催された「資源管理方針に関する検討会」で、水産庁が急遽会場で発表したシュミレーションについての評価です。その発表は、会場で資料配布はされず、スクリーンに投影されただけのようですが、なぜか後日、日刊水産経済新聞にその要約が掲載されたというものです。

それは新資源管理を過去にさかのぼってゴマサバ東シナ海系群で実施していたら「ほら、こんなに素晴らしい結果となっていたでしょう」というもので、おそらく新資源管理に対する疑義が多い中、それへの対抗策として急遽用意したものではないかと推測されます。

映画ではありませんが、先にオチを言うと興味が半減してしまうので、あえて投稿の中身に触れませんが(表現としてふさわしくないかもしれませんが)「大変面白い」の一言です。特に最後の方はなんといってよいやら・・・。水産庁に感想を聞きたい。

 

  ゴマサバ東シナ海系群に対する水産庁の試算結果について

                    東京海洋大学名誉教授
                    櫻本 和美

水産庁は新しい資源管理の方法をゴマサバ東シナ海系群に対して適用した場合の試算結果を公表した(図1参照、水産経済新聞、2019年8月5日より)。本稿の目的は、上記試算結果の妥当性を検討することである。

図1 水産経済新聞 2019年8月5日 より

結論から言うと、本検討結果は以下の3点に集約される。
(1) 水産庁が示した試算結果に科学的正当性があるとは言えない。
(2) ホッケー・スティック・モデルは漁獲量削減の効果を過小評価する。
(3) 設定されたMSYやBMSY(目標管理基準値)に科学的正当性があるとは言えない。

1.加入量を計算する2つの再生産モデル
第一の方法は、「加入量はホッケー・スティック・モデル(HSモデル)によって決定される」とする考え方である。言葉を変えて言えば、「親魚量がある水準(B1と記すことにする)までは、加入量は親魚量に比例して増大するが、親魚量がB1を超えると極めて強い密度効果(注1)が働き、加入量は親魚量に関係なく一定値になる」という考え方である。
本稿では、HSモデルだけを使う場合と、HSモデルと再生産成功率(RPS)を併用する場合の2つに分けて検討した(なぜ2つの場合を検討したか、その理由は後述する)。ここで、再生産成功率(RPS)とは、親魚量1キログラム当たりに生産される0歳魚尾数を示し(注2)、「再生産成功率(RPS)= 加入量 ÷ 親魚量」で計算される。

注1 「密度効果」とは、密度が増大することによるマイナスの効果をいう。親魚量が少ない時は、親魚量の増大とともに加入量も増大するが、親魚量が増えすぎると(密度が高くなりすぎると)、餌や最適な生息場所、産卵場所等の競合等が生じ、結果として、加入量が頭打ちになったり、減少してしまう現象。

注2 「加入量」は0歳魚尾数で、正確には、「加入尾数」であるが、一般的に「加入量」という用語を用いる。

第二の方法は、再生産成功率(RPS)は環境によって決まり、加入量はRPSによって決まるとする考え方である。すなわち、環境条件が決まればRPSが決まり、「加入量 = 再生産成功率(RPS)× 親魚量」で決定されるという考え方である。従って、加入量変動に密度効果の影響を全く想定しておらず、これまでの再生産関係の考え方と、全く異なる考え方をしていることになる。従来の再生産関係は、HSモデルはもちろん、リッカーモデルや、べバートン・ホルトモデル等々も、すべて密度効果を大前提としているので、全く異なる前提で加入量変動をとらえていることになる。密度効果を前提としないので、MSYもBMSY(MSYを与える親魚量)も存在しない。本稿では、「新しい再生産モデル」と呼ぶことにする。

シミュレーションは以下の5項目について行った。
1. HSモデルによって過去の資源変動の再現は可能か?
2. HSモデルを用いた管理効果の予測
3. HSモデルとRPSを併用した管理効果の予測
4. 「新しい再生産モデル」によって過去の資源変動の再現は可能か?
5. 「新しい再生産モデル」を用いた管理効果の予測

シミュレーションの詳細については、後述することとし、結果のみを先に示すことにする。

2. HSモデルによって過去の資源変動の再現は可能か?
ゴマサバ東シナ海系群では再生産関係として、HSモデルが用いられている。HSモデルが妥当であるか否かを検討するために、HSモデルを用いて、過去の加入量や親魚量、漁獲量等の変動が再現できるかを検討した。

結論から先に言うと、HSモデルを用いてゴマサバ東シナ海系群の過去の加入量や親魚量、漁獲量等の変動を再現することはできないことがわかった。詳細を以下に説明する。

図2上段左はゴマサバ東シナ海系群の再生産関係を示したものである。縦軸が加入量(R)、横軸が親魚量である。*印は、各年の親子関係を示す。*印につけた数字は年を示す。赤の線はホッケー・スティック・モデル(HSモデル)を示す。HSモデルは親魚量の増大に伴い、加入量は直線的に増大するが、ある親魚量(青の縦線で示す)で折れ曲がり、x軸に平行な直線になる(この折れ曲がる親魚量をB1と表記する)。

図2上段右は加入量を示したものである。黒が実際の加入量を、赤が、HSモデルを用いて計算した加入量である。93年と98年に加入量が極めて高い年があるが、図2上段左の図を見ればわかるように、HSモデルから計算される93年と98年の加入量はかなり小さいので(HSモデルの線上の赤丸で示したが、特に、93年は半分以下)、その影響で、加入量の再現値(赤の線)は、実際の加入量の値よりかなり過小に計算される。

図2下段左は親魚量を示したものである。黒が実際の値、赤が計算した値である。緑の線はBMSY(MSYを与える親魚量、目標管理基準値)を示す。青の線は図2上段左の図(再生産関係を示した図)の青の線と同じ、すなわち、HSモデルが折れ曲がる親魚量(B1)を示す。

図2下段左の親魚量で、黒い線の方は1993年の高い加入量の影響で、親魚量も増加に転じ、その後、1998年まで比較的高い加入量が続くので(図2上段右の図)、その影響で、親魚量は1999年まで増加する。しかし、HSモデルでは、赤い直線に従って加入量が決定されるので、2000年ぐらいまで加入量は低い状態が続き(図2上段右の図)、その影響で親魚量も低いまま推移していることがわかる。

結論として、ゴマサバ東シナ海系群に対しては、HSモデルを用いて、過去の加入量や親魚量、漁獲量等の変動を再現することはできないことがわかった。

3. HSモデルを用いた管理効果の予測
 図3は2003年から新管理方式を適用していたと仮定した場合、すなわち、2003年からFMSY (MSYを達成する漁獲係数)で操業したと仮定した場合のシミュレーション結果を示す。

結論から言うと、HSモデルを用いた場合の管理効果の予測結果は、水産庁が発表したシミュレーション結果とは異なる結果となった。水産庁が公表したシミュレーション結果は、どのような設定の下で実施したのか、その詳細な記述はなく不明であるが、すくなくとも、HSモデルを用いて予測した結果ではないことは確かな様である。以下に、詳細な説明を行う。

FMSY は2015年から2017年の年齢別の漁獲係数の平均値を計算し、その77%をFMSY としたものである。具体的な数字をあげると、2015年から2017年の年齢別の漁獲係数の平均値は、0歳魚0.43、1歳魚0.61、2歳魚0.88、3歳魚以上0.88となる。さらに、これらのFの値を23%(= 100 – 77)削減したものをFMSY とする。

図3上段右の加入量の変動、図3下段左の親魚量の変動を見ると、Fを大幅に削減したことにより、加入量、親魚量ともに、一気に増大し、親魚量は2007年には、B1(青の線)を超える。親魚量がB1(青の線)を超えると加入量は一定値になるので(図3上段右)、親魚量(図3下段左)はほぼBMSY(MSYを与える親魚量、目標管理基準値)水準となり、漁獲量(図3下段右)もMSY水準を達成している。「めでたし、めでたし」ということであるが、なぜか、この図は水産庁が発表したシミュレーション結果とは異なる。

4. HSモデルとRPSを併用した管理効果の予測
結論から言うと、HSモデルとRPSを併用した場合の管理効果の予測結果と、水産庁が発表したシミュレーション結果が一致する。以下に、詳細な説明を行う。

図4は、HSモデルとRPSを併用して管理効果を予測したものである。すなわち、親魚量がB1(青の線)の親魚量より小さい時は、再生産成功率(RPS)を用い、「加入量=RPS×親魚量」で計算する。親魚量がB1(青の線)の親魚量より大きい時は、「加入量=RPS×B1」で計算する。このようにして計算した加入量を図4上段右、親魚量を図4下段左、漁獲量を図4下段右にそれぞれ示した。親魚量(図4下段左)はBMSY(MSYを与える親魚量、目標管理基準値)を超え、漁獲量(図4下段右)もMSY水準を超えている。これらの結果は、水産庁が発表したシミュレーション結果と一致したので、水産庁が発表したシミュレーションはHSモデルとRPSを併用した場合の予測結果であると考えられる。

5. 「新しい再生産モデル」によって、過去の資源変動を再現することは可能か?

図5は「加入量 = 再生産成功率(RPS)× 親魚量」により計算したものである。

この場合は、加入量(図5上段右)、親魚量(図5下段左)、漁獲量(図5下段右)は、実際の値(黒の線)と再現値(赤の星印)が完全に一致する。すなわち、資源変動を表すメカニズムとして、「新しい再生産モデル」は、極めて妥当なものであるということがわかる。

6. 「新しい再生産モデル」を用いた管理効果の予測
次に、「新しい再生産モデル」を用いて管理効果を予測した結果について述べる。結論から先に述べると、(1)HSモデルを用いると、漁獲係数削減の効果が過小評価される。(2)FMSY (23%削減)より小さな削減率(5%削減)の漁獲係数Fを用いた場合でも、MSYの2倍程度、BMSY(MSYを与える親魚量、目標管理基準値)の1.5倍以上の親魚量の達成が可能である。(3)上記の結果は、提案されているMSYやBMSYに科学的正当性がないことを示している。以下に、詳細な説明を行う。

本シミュレーションでは、FMSY は使用せず、FMSY より大きな漁獲係数の値を用いた場合の結果を示す。繰り返しになるが、FMSY は2015年から2017年の年齢別の漁獲係数の平均値を計算し、その平均値を23%削減したFの値を用いている。しかし、ここで用いたFの値は、上記平均値の23%減(FMSY)ではなく、それよりは削減率がかなり小さい5%減とした漁獲係数を用いた。上記平均値の5%減とした漁獲係数Fがどの程度の大きさになるかを示したものが、図6である。

図6の黒線は実際の年齢別の漁獲係数Fを示す。特に、0歳魚、1歳魚の漁獲係数で顕著であるが、最後の3年間(2015年から2017年)のFの値は比較的小さいので、その平均値の5%削減したFの値(赤の線)も、全期間からみるとかなり小さい(特に、0歳魚、1歳魚の漁獲係数で大きな削減になっている)ことがわかる。

2015年から2017年のFの値の平均値を5%削減したF(図6の赤で示したFのこと)を用いてシミュレーションした結果を図7に示した。

図7を見ると、2015年から2017年のFの値の平均値を5%削減しただけで、漁獲量はMSYの2倍程度に、また、親魚量もBMSY(MSYを与える親魚量、目標管理基準値)の1.5倍以上に増大することがわかる。提案されているMSYやBMSYは、あくまで、ホッケー・スティック・モデルを前提として導きだされたものであるが、ホッケー・スティック・モデル自体に科学的正当性があるとはとても思えないので、それから導き出されたMSYやBMSYに科学的正当性があるとも思えない。

7.「わからないことは、わからない」というのが真の科学的態度である!
本稿では2つの再生産モデルを使って、資源管理の効果を評価した。一つは再生産関係として、ホッケー・スティック・モデル(HSモデル)を用いたもの、他の1つは、再生産成功率(RPS)を用いて、加入量を再現するという「新しい再生産モデル」を用いたものである。

過去のデータの再現状況を見る限り、HSモデルはゴマサバ東シナ海系群の資源変動を記述するモデルとして妥当ではないことが明らかとなった。「新しい再生産モデル」は、過去の資源変動を完璧に再現できるので、「新しい再生産モデル」の方が、加入量変動を表すモデルとして、はるかに妥当なものであることがわかった。

管理効果の予測については、過去の再現もまともにできないHSモデルの結果を信じるのか、過去の再現が完璧にできる「新しい再生産モデル」の結果を信じるのか、ということであるから、結論は明白であろう。ただし、いずれの場合も、管理を実施した結果、親魚量が過去に実現したことのない大きな値まで増大するので、実際のところ、再生産成功率(RPS)をそのまま使い続けてもいいのかどうかは不明である。そこは、もはや未知の世界であり、「どうなるかはわからない」というのが、真実である。

未知の世界の話にも関わらず、また、それに関する情報(データ)が全くないにも関わらず、親魚量がB1以上になると、突然急ハンドルを切るように、加入量がフラットになってしまうと考えるよりは、それまでの状態がしばらくは続くと考える方がはるかに合理的であろう。何の科学的根拠もなく、図2の上段左の図に示したHSモデルのように、親魚量がB1以上になると、加入量が突然フラットになってしまうという前提で議論をしてしまうというのは、決して行ってはならない暴挙と言える。なぜなら、本稿のシミュレーションでも示したように、HSモデルを仮定することの影響があまりにも大きすぎるからである。どんなに大きな漁獲量の削減を行っても、その効果は限定的であり、不必要で、より強度の漁獲量の削減を強いる可能性が極めて高い。少なくとも、上記の両方のモデルを用いた結果を算出し、議論するという態度が最低限必要な科学的態度というものであろう。

8. 責任は誰がとるのか? 補償はどうするのか?
 将来のことは誰にも分らないのは事実である。しかし、10年もすれば、どちらの主張がより妥当であったのかが、明白になるだろう。もし、不必要に過大な漁獲量の削減を科していたことが明らかになったとき、そして、それが原因で多くの漁業者が、その時既に廃業に追い込まれてしまっていることが明かに見なったときに、果たして、水産庁はどのような責任をとり、どのような補償を漁業者にするつもりなのだろうか? 水産教育研究機構の研究者は、「我々は、ただ水産庁に言われたことを計算しただけです」と言って逃げを打つであろうから、責任を問われる心配はないかも知れないが・・・。10年後全国各地でまき起こる訴訟の嵐の対応に水産庁は忙殺されることになるだろ。太平洋クロマグロでの管理の大失敗から、なぜ学ぼうとしないのか、不思議である。

付録 
シミュレーションに必要なデータ
再生産成功率(RPS)、加入量(R)、親魚量(SSB)、 漁獲量、年齢別漁獲係数(F)、年齢別体重、年齢別成熟率、自然然死亡係数(M)等は資源評価表の値を用いる。

シミュレーションの手順(図8)

① データが使用可能な最初の年(1992年)の年齢別資源尾数を初期値として与える。

② 1992年の0歳の資源尾数から、1年間に自然的要因で死亡した0歳の魚の数、1年間に漁獲された0歳の魚の数を引くことにより、1993年の1歳の資源尾数が計算できる。1992年の1歳、2歳から、1993年の2歳、3歳を計算する方法についても、同様の手順で計算可能である。

③ 年齢別成熟率がわかっているので、成熟している魚の数を計算する。また、年齢別体重も既知であるので、1992年の親魚量が計算できる。

④ 「新しい再生産モデル」を用いる場合は1992年の親魚量に再生産成功率を掛けると1993年の加入量(0歳魚の資源尾数)が計算できる。

HSモデルを用いる場合は、親魚量<B1 の時は、加入量= a × 親魚量
親魚量>B1 の時は、加入量= a × B1 ( a はHSモデルの直線の傾き)

⑤ 同じ手順を使用可能な最後の年(2017年 )まで繰り返す。

年齢別漁獲尾数は漁獲係数Fが決まると、年齢別資源尾数から計算できる。年齢別漁獲尾数に年齢別体重をかけて合計したものが、漁獲量になる。

1 comment for “緊急投稿その3:重要「ゴマサバ東シナ海系群に対する水産庁の試算結果について」

  1. 2019年9月7日 at 7:23 PM

    先生のブログを斜め読みさせて貰いましたが、
    クジラの記述がありませんでした。
    私は、小泉内閣の時にクジラ漁から予算を削減した事は英断だったと考えていましたが、今沿岸に限り再開されました。
    海を見ていて、確かに近海のクジラは多くなりました。
    このクジラ漁の再開は、「資源確保」「資源の保全」の意味もあるのかなとも考えましたが、それについては一切報道はありません。海獣は漁業資源を食っているのは明らかですが、どうしたもんなんでしょうかね。

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