新漁業法運用条例の制定で放射能汚染水の海洋放出を 阻止しよう~福島の海の環境と魚を守るため~

令和元年11月23日から26日にかけフランシスコ・ローマ教皇が来日し、長崎爆心地公園と広島平和公園を訪れスピーチを行いました。また、東京都内では東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所(以下「1F」)の爆発事故からの避難者との集いにも参加されました。教皇は1Fを旧約聖書にある「バベルの塔」になぞらえたことから、教皇にとって核兵器や原発は「神を冒涜する人間の驕り」であり、それを人々に諭すにおいて最もふさわしい場所が、日本ではなかったろうかと受け止められました。外国人には、日本人ほど核による悲惨な体験をした国民はいないというように見られていると感じました。

 確かに、原爆を2発投下され、チェルノブイリに次ぐ深刻な原発事故も経験したというトリプルで核による悲惨な目にあったのは世界では日本だけです。だからと言って日本が、核兵器廃絶や原発利用停止に向けた行動を世界の先頭に立って行っているわけでもありません。おそらく教皇はその点において内心日本に対し歯がゆい思いをしたのではないでしょうか。なぜドイツができて日本ができないのかと。それが帰りの飛行機の中での記者会見で、教皇が原発はひとたび事故となれば重大な被害を引き起こすとして「完全に安全が保証されるまでは利用すべきではない」と明言したことに表れているような気がしました。

 私は、今回の漁業法改訂の表向きのスローガンは「企業の参入で漁業を成長産業に」ですが、経済界の真の狙いは海洋・海面の多様な産業的利用において障害となる漁業という存在を弱体化または排除することにあるように思えます。その当面の産業的利用においては、エネルギーや資源などが掲げられています。

(いきなりですが、海上風力発電に関する私個人としての意見)
安倍総理のおひざ元の下関市安岡沖をはじめ全国各地で洋上風力発電計画が進んでいるようで、また同地では漁業者による差し止め請求訴訟が起こされています。この事例はあまりにも現場の漁業者を無視した一方的かつ強権的なやり方で、どんな漁業者でも反対するのが当然という特殊な事例ではないかと思います。
そういう事例もありますが、あえて私の率直な意見を言わせていただければ、原発を廃止するという国の方針決定の下(海上風力発電完成に合わせ、その発電量分の稼働原発を停止する方式)で、地元漁業者との利害調整を前提として、それを推進することには大賛成です。その理由は、風力発電と原発の被害発生時における原状復帰の可逆性と不可逆性という決定的違いがあるからです。

教皇も指摘されたように原発は、いったん事故があると漁業をはじめ周辺環境に深刻な悪影響を長期的に及ぼします。原子炉格納容器の底に落ちた溶融核燃料(デブリ)の完全撤去は技術的に大変むつかしく、チェルノブイリ原発事故ではデブリの取り出しをあきらめたとのことです。また取り出した放射線量が極めて高いデブリの保管場所の確保も困難を極めます。少なくとも事故発生時に生まれたばかりの赤ちゃんの寿命の尽きるときまでには元に戻すことはできません。おそらくもっと長い年月が必要となるでしょう。よって原発を廃止させることは、いくら年月がかかろうが日本の漁業者が子や孫はもちろん、未来の漁業者のためにどうしても達成しなければならない悲願ではないかと思います。

一方、風力発電の場合は、例えば低周波音による想定以上の健康被害が起これば、その構造物を撤去することで元の状況に戻すことが可能です。もちろんそれ以前に漁業や養殖に用いる海面の縮小等の影響が生じることは避けられません。しかし、以下のようなやり方をすれば、そのマイナスと上回るメリットを得ることができると思います。

まず、関係漁業者への補償の仕方を変える必要があります。これまでの漁業補償はその時に影響を受ける漁業者への金銭による一時的な支払いによるものでした。しかし、埋め立てなどと違い風力発電の場合は、その周辺水域での漁業・養殖業が継続されるでしょう。よって、補償は一時的なものではなく、その施設が存続する限り、新規参入も含むその影響を受け続ける漁業者に継続的に行われるべきと思います。

次に補償の手段を変えることです。それは金銭ではなく、風力発電が生み出す電力を漁船の動力源として補償金の代わりに供給させることです。漁業者側において老朽化したエンジンから順次電動に切り替える必要がありますが、長期航海する漁船には無理でも、毎日帰航する沿岸漁船は停泊中に充電できることから十分実現可能と思います。現場で漁船が燃油を補給しているところをみると、この燃料代が無料になればどれだけ経営が楽になるかと思います。四面海なる日本において漁船の燃油代がいらなくなる、それができれば確実に日本漁業の経営は安定します。(漁船規模や漁業種類により異なるが燃料代/漁労収入の比率は10~20%:水産工学研究所)

さらにより広範な視点から見ても以下の2点の大きなメリットがあります。
食料安全保障です。産油国やタンカーによる輸送ルート海域での国際情勢の悪化により、石油価格の急騰や場合にあっては輸入が止まるということも想定しなければなりません。その時に、自前のエネルギーを日本漁船の動力源にできることは、戦時下においても国民への動物蛋白食料の供給ができることを意味します。そんなに魚がいるのかと疑問に思われる方が多いと思いますが、食べられてもだれも買ってくれないから獲れても海に戻したり、そもそも獲りにいかない魚は海にごまんといます。

温暖化対策です。日本の漁業者が今最も身近に感じ、恐れていることはなんでしょうか。それは間違いなく海水温の上昇が漁業に与えている悪影響です。まさに漁業者こそがCO2排出削減のための先頭に立たねばならず、それが風力発電の漁船利用でしょう。これができれば16歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリさんから「How dare you(よくもそんなことを・・・)」とトランプ大統領のように叱られることもなくなります。

以上やり方次第で良いことずくめではないでしょうか

そうなればよいなーという私の夢物語は脇に置いといて、現実の悪夢について話をしたいと思います。その悪夢とは今のままでは、時間がたてば必ず現実となる悪夢です。それは以前から気になって仕方がない、1Fからの放射能汚染水の海洋放出です。それは多核種除去設備 (ALPS)では除去が困難なトリチウム(3重水素)と呼ばれるもので、陽子1つと中性子2つから構成される核種であり、半減期12.32年で3Heへとβ崩壊する放射性同位体です。詳しくは、福島県原子力発電所の廃炉に関する安全確保県民会議(令和元年度第5回廃炉安全確保県民会議https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/genan01/genan543.html
に提出された「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する検討状況について 令和元年11月 廃炉・汚染水対策チーム 事務局」という資料https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/osensuitaisakuteam/2019/11/index.html
をお読みいただければと思います。

 例えばそこにある

という資料を読むと、「生物への影響は心配する必要はない」と解釈するしかありません。

これを根拠にしたのでしょうか、令和元年9月10日に原田義昭環境大臣(当時)が、閣議後の会見で「海洋放出しか方法がないというのが私の印象だ」「思い切って放出して希釈すると、こういうことも、いろいろ選択肢を考えるとほかに、あまり選択肢がないなと思う」と述べました。

さらにこの発言に呼応したこの如く、日本維新の会の松井一郎代表(大阪市長)は9月17日、1Fで増え続ける有害放射性物質除去後の処理水に関し、「科学が風評に負けてはだめだ」と述べ、環境被害が生じないという国の確認を条件に、大阪湾での海洋放出に応じる考えを示した、とのことです。

さらにこれに加えて、維新の橋下徹元代表はその後、ツイッターで海洋放出について「大阪湾だと兵庫や和歌山からクレームが来るというなら、(大阪の)道頓堀や中之島へ」と発信。小泉進次郎環境大臣氏には「これまでのようにポエムを語るだけでは大臣の仕事は務まらない。吉村洋文大阪府知事と小泉氏のタッグで解決策を捻り出して欲しい」と注文をつけた、との報道もありました。

この一連の発言はたまたまではないでしょう。必ず近く力づくでも海洋放出しようとする方針がすでに固まっており、その地ならしを示し合わせてやったと考えざるを得ません。(と書いているそばから12月23日付の共同通信社配信の「処理水処分、海洋と大気放出が軸 政府小委に3案、近く取りまとめ」という記事がネットに掲載されました。)

それにしても、こんな勝手なことを言わせて、大阪府民は本当に大丈夫でしょうか。一部の専門家のブログhttps://hbol.jp/202985には、

・従前、「生物への影響はほとんど無い」という事で合意を得られているとしてきた一般向けの説明は厳密には成立しておらず、低線量被曝による長期影響やOBT(有機結合型トリチウム)の生物濃縮、とくにOBTの生物への影響については、いまだに未解明。
・「トリチウム水」=「処理水」とされてきたものの80%前後が、告示濃度を大幅に超えるトリチウム以外の核種(生物濃縮性が強く、半減期が極めて長いために事実上減衰しないヨウ素129)が混ざった「ALPS不完全処理水」であって、国際的常識、慣例、法規制において環境放出できないもの

などの警告があり、素人の私には本当に大丈夫なのか、そうではないのか、まったく判断ができませんが、東電の説明資料を素直に信用することはできません。

なぜかというと、それは1Fが最初の水素爆発を起こした瞬間を、たまたま私はテレビで実況中継的に見ていた経験があるからです。その時「まさか今の爆発で放射能が放出されたのではないよね、そんなはずがあるわけないよね」と何度も自分に言い聞かせた覚えがあります。なぜなら、それまでテレビのCMで、原子炉は「5重の壁」があるから放射性物質が外部に出ることはないと、繰り返し安全性が謳われ、絶対安心と思い込んでいたからです。また、チェルノブイリ原発事故の際には「日本の原子炉はアメリカ型で、事故を起こしたソビエト型とは構造が異なり、同様の事故は起きない」と聞かされていたからです。

しかし、水素爆発でその5重の壁からいとも簡単に放射能が外部に出てきたのです。それ以来原子力関係者の発言は基本的に信用しないことにしています。次に騙された場合に悪いのは騙された方です。懲りずにまた信じてしまった方が悪いのです。ただし、それは関係者が明らかな「嘘」を言っていたからということではなく、原子力発電所という自然界にはないまさに神の領域にある「ラベルの塔」を厳格に管理制御するだけの能力を人類はまだ身に着けていないと思うからです。

そんな危ないものをなぜ導入したのかは、発電コストの安さということでしたが、事故被害対策や廃炉にかかる巨額な経費を見るとそれもどうも怪しくなってきています。また、「CO2を排出せず環境にやさしい」というのも、つづいて「その代わり放射能が放出されることが度々あり、原発で生まれる高レベル放射性廃棄物の最終処分場も決まっていません」では到底環境にやさしいとは言えません。

さらに今回の事故から武力攻撃に対する脆弱さという原発の致命的な欠陥が明らかになってきたと思います。今回の事故で1Fの1号機は、冷却電源喪失により地震発生後5時間で燃料が露出し15時間ほどで炉心溶融したとされています。とすれば仮にテロリストが事前によく下調べをして、原発施設を急襲し、原子炉の冷却電源を破壊し、その復旧を半日程度阻止すれば、原子炉本体を破壊しなくても原発事故を引き起こせることになるからです。

自衛隊が出動しすぐに鎮圧したくても、ついでに冷却電源装置まで破壊しかねない荒っぽいやり方はできません。広い原発敷地構内に潜んだテロリストが携帯式のロケットランチャーや狙撃銃で狙ってくる可能性があるなか、冷却電源の復旧作業に携わる人の安全確保ができるでしょうか。そのような状況の中では、到底短時間で復旧できるとは思えません。水力や火力発電所が狙われても停電が起こるだけで、後でいくらでも時間をかけて復旧できますが原発はそうは行きません。

 話がずいぶん恐ろしい方向にそれましたので、再び現実性を伴う悪夢のトリチウム放出の話に戻ります。資源エネルギー庁によると、

2019年3月末の時点で、原発構内にはおよそ117万トンの水があり、そのうち処理水は100万トンを超えた。タンク内の水の大部分は浄化処理済みの水。処理水は2022~2024年には137万トンに達する見込みで、タンクの設置場所も、そこまでは確保。ただ、それ以上になると、敷地面積が限界を超える。

とのことです。つまり、早ければあと2年で満杯になるのです。

実は今回初めて知ったのですが、チェルノブイリやスリーマイル島の原発事故においては、このトリチウム放出問題はなかったそうです。確かに、これらの事故後の写真をみても、タンク群はありません。なぜ今回これが問題になるかというと、1Fは地下水の流れ込みを阻止できず、溶けて固まった核燃料(デブリ)が常に地下水にさらされている状態で、それをタンクに保管するしかないからだそうです。その量は1日あたり約540m3(2014年5月) であったが、サブドレンによる汲み上げや凍土壁の効果などによって、約170m3(2018年度平均)まで低減してきたとのことです。

しかし、廃炉完了目標が事故から30~40年後とされており、最長期間の40年後とは2011年+40年=2051年になります。すでに建設しているタンクが満杯になる最短年の2022年以降の流入量は、2051年-2022年=29年分となりその総量は、
170トン/日×365日×29年≒180万トン
となります。すでに完成しているタンクの量が135万トンですので、
180万トン÷135万トン=1,3
となり、これまで建設したタンクの約1,3倍を増設する必要があり、合計すると315万トンになりますが、この建設は決して非現実的ではない思えます。なぜなら、全国各地に建設されている石油備蓄基地で、例えば1か所だけで640万kL(苫小牧東部国家石油備蓄基地)、570万kL(むつ小川原国家石油備蓄基地)などの設備容量があります。この規模であれば十分余裕をもって保管できます。以下の写真で上の1Fのタンク群と下の石油備蓄基地のタンクとを比較してみましょう。

出典:多核種除去設備等処理水の取扱いに関する検討状況について
(令和元年11月 廃炉・汚染水対策チーム 事務局)

       秋田国家石油備蓄基地のタンク
出典:秋田県男鹿市公認観光情報サイト「男鹿なび」

これではマッチ箱の一戸建て住宅(上)と大型マンション(下)との違いですね。こんな小さな1戸建てでは多くの住民は住めません。1Fのタンクは、慌てて作ったマッチ箱1戸建てのようなものなので、これをマンションに建て替えればいくらでも保管できることはだれの目にも明らかです。とにかく絶対に海洋放出しないという方針を決める必要がありそれは決し不可能ではないとおもいます。はじめに海洋放出ありきから始める検討会など「ふざけるな!」としか言えません。

しかし仮に現場でのマンション・タンクの建設が難航しても、「科学が風評に負けてはだめだ」を信条とする大阪で受け入れてもらえるようなので、大阪万博会場の跡地にでもタンクを設置させてもらいタンカーで運んでもよいかと思います。なお、海洋放出推進論者の維新の橋下徹元代表の言う「大阪湾だと兵庫や和歌山からクレームが来るというなら、(大阪の)道頓堀や中之島へでも放出」は、さすが吉本興業の地元の大阪だけに大変面白いアイデアです。でもそれを本当に実現できるのでしょうか。まず、道頓堀に放出しても大阪湾に流れていきますので、兵庫や和歌山からクレームが来ないようにするためには、大阪湾の海水が両県海域に流れていかないようなバカでかいオイルフェンスのようなものが必要となります。

また、タンク内のトリチウム水は環境基準値以下の濃度にまで希釈しないと放出できません。その希釈率は1000倍(https://synodos.jp/fukushima_report/22644)ということですので、すでにタンク内にある100万トンだけでも希釈するとその1000倍となり10億トンとなります。最終的なトン数はその3.2倍ですので、総量は32億トンとなります。一体その希釈用の水はどこからどのように道頓堀に運んでくるのでしょうか。道頓堀に何年かけて放出するのかわかりませんが、道頓堀はいつも洪水状態ですごい光景になり新名所になりそうな気がします。それから薄めればよいというわけでもなくトリチウムの放出総量規制もあり、そんな狭いところに集中放出して大丈夫でしょうか。この問題をお笑いで茶化すのは著しく不謹慎と思います。

「科学が風評に負けてはだめだ」はその通りだと思います。福島県の漁業者の現状を思うと徹底した検査で汚染がないことを確認して出荷しても、消費者がイメージをもって福島県産を忌避している現実は否定できないと思います。しかし、この場合の「風評問題」を今から起きるトリチウム放出に当てはめることは根本的に間違っていると思います。なぜなら、放射性物質が未検出という現実における健康被害の恐れと、未経験のトリチウムの大量放出における健康被害の恐れとは全く違うからです。既存の正常運転中の原発からのトリチウム放出と、デブリに直接さらされ出てきたトリチウムとではその放射線総量において大きな違いがあります。

もともと原発に関する「科学」に信頼性はありません。まさに今回の原発事故は「科学が風評に負けた」から生じたといえるでしょう。「原子炉は『5重の壁』があっても放射性物質が外部に出ることがあり得るという科学」がテレビCMによる「だから放射性物質が外部に出ることはないので安全という風評」に負けてしまったからです。これと同じ理屈で「既存の正常に稼働中の原発からのトリチウムの放出でこれまでは問題がなくても、未知の大量放出により健康被害が起こることがあり得るという科学」が、かつての東電のテレビCMに代わる政治家達の宣伝文句「海洋放出は安全だーという風評」に負けつつあるといえると言えます。

風評については一口に良い悪いと言い切れないむつかしい問題があると思います。これは消費者による万が一というリスクへの自己防衛であり、別に食べるものがあればいくら安全というデータを示されても、別の産地のものを買うのはどうしようもないことだと思います。例の「遺伝子組み換えでない」表示も自然界に存在しない神の領域に立ち入った「バベルの塔の食品」からの自己防衛でしょう。

自然界にある食物は少なくとも何万年、何十万年という単位での生態系での食物連鎖における数えきれないほどの世代交代を繰り返してきた実験を経て、食用としての安全性が確認されたものです。しかし、遺伝子組み替え作物などは企業が金儲けのために短期間で人為的に作ったものであり、安全性に関する試験など自然界にあるものにかかった年月と比較すればと全く数秒程度の年月しか経っていません。アメリカが日本に押し付けている遺伝子組み換え成長ホルモンが使用された乳製品などの安全性などは、IFの安全性と同じです。

だから企業は化けの皮が剥がれる前に利益を上げようと、消費者が自己防衛のために求める「遺伝子組み換えではない」表示をも表示させないように日本政府に圧力をかけ、消費者から自己防衛する権利すら奪おうとしているのです。そのうち日本の消費者もチェルノブイリ原発事故後のモスクワ市民(注:私が体験した当時の様子は最後に参考として記載します。)のように、汚染に関する情報が得られない、汚染食品を忌避しようにも代替食品がないという悲惨な状況に置かれてしまいかねません。

ローマ教皇は東京ドームでの説教で以下のように言っています。
「何でも生産でき、すべてを支配でき、すべてを操れると思い込む熱狂が、どれほど心を抑圧し、縛りつけることでしょう。」
「主は、食料や衣服といった必需品が大切でないとおっしゃっているのではありません。それよりも、わたしたちの日々の選択について振り返るよう招いておられるのです。」
「世俗の姿勢はこの世での己の利益や利潤のみを追い求めます。利己主義は個人の幸せを主張しますが、実は、巧妙にわたしたちを不幸にし、奴隷にします。そのうえ、真に調和のある人間的な社会の発展をはばむのです。」

これらの教皇の言葉を全体として解釈すると、

核や遺伝子組み換えといった最先端の科学の進歩がまさに神の領域に立ち入り全てを操れるという熱狂を招き、これが世俗の利益や利潤と組み合わされると、人間を不幸にし、奴隷にしてしまう。そのことが人間的な社会の発展をはばむ。

ということではないでしょうか。

いよいよ憲政史上任期が最長となった最強かつ最凶の安倍政権による放射能汚染水の海洋放出が強行されようとしています。いったんこれを認めるといつになるかわからないデブリの除去が終わるまで何十年とだらだらと海洋放出が続きます。これさえ認めさせてしまえば廃炉作業も、のんびりやればよいと緊張感がなくなるでしょう。チェルノブイリ原発のように「デブリの撤去は技術的にむつかしいのでもうやーめた」となるかもしれません。そうなると永遠に海洋放出が続くことになります。

こんなことは言いたくありませんが、海洋放出の決定は福島の漁業の終焉を意味するでしょう。その決定のニュースは世界に伝わり、世界からの日本の水産物に対する評価も「日本産の魚というだけで危ないという風評」により完全に失われるでしょう。特に韓国政府は1Fからの放射性物質を含んだ汚染水の処理方法について、国際原子力機関(IAEA)に書簡を送り、「深刻な憂慮」を伝えているだけに強烈な反発を見せるでしょう。その時に、「水産物輸出の拡大による日本漁業の成長産業化」という政府のお題目は、単なる漁業法改正のための見せかけだったことがわかります。

その時になって原発を所管する経済産業省からの出向者により牛耳られた安倍内閣官邸による漁業法改正の真の目的がどこにあったかわかります。表向きは企業の参入促進による漁業の成長産業化でしたが、産業界にとってはそんなことよりももっと切実な問題があったのです。それが1Fの放射能汚染水保管タンクの限界によるその海洋放出であり、それに反対する沿岸漁業者の権利をはく奪するための法改正だったのです。産業界にとっては日本の海は食料の生産や地域の雇用確保などよりも核のゴミ捨て場としての利用価値の方が高いということです。

私はこれまで何度もこのブログで新漁業法の改悪条項を実質上無効化する都道府県条例の制定の必要性を訴えてきましたが、一般国民にすれば「企業が参入してよくなるのなら、それはそれでよいじゃないの」という程度の軽い受け止め方だったかもしれません。しかし、新漁業法の真の目的が日本の海を核のゴミ捨て場にするためのものであったとすればどうでしょうか。消費者の受け止め方も全く違ってくるでしょう。

漁業法における漁業権漁業は「妨害排除請求権」という強い権利を有しています。その権利の根本にあるのが憲法29条の財産権です。よって、海洋放出により実質上生きていく術(すべ)を失う福島県下の沿岸漁業者が海洋放出への差し止め請求を起こしたら、放出を強行できません。だから、次の免許更新で既存の漁業者からその漁業権を取り上げ、財界の意のままに操れる企業に漁業権を免許できるようにしたのが新漁業法です。

よって、福島県こそが既存の漁業者が引き続き漁業権免許の優先順位第1位になるための新漁業法運用条例の制定が最も求められている県域といえるのではないでしょうか。なんとしてでも、条例の制定により海洋放出を阻止し、福島の海ひいては日本の海の環境と魚を守っていかねばならないと思います。

(参考)チェルノブイリ原発事故の時の悲惨なモスクワ市民
 チェルノブイリ原発(以下「チ原発」)事故は、1986年4月26日に起こりました。私は家族を連れてその1年前にモスクワの日本大使館勤務のために赴任していました。チ原発事故の3日前くらいだったと記憶しておりますが、2回の中断をはさみ延べ100日間に及んだ日ソ漁業交渉(当時)がようやく終わったばかりで、運よく交渉団は帰国していました。長い漁業交渉の疲れをいやすため、交渉終了の10日後(事故の1週間後)に家族を連れてモスクワからウクライナの首都キエフ(チ原発の南約100キロ)に自分の車で旅行する計画を立て、外交ルールに従いソ連外務省に旅行計画を通告しておきました。

 ところがその出発の2-3日前くらいだったと思います。大使館の総括参事官に呼ばれて「君は近くキエフに旅行することになっているがやめた方がよい。よくわからないが日本からの連絡によれば原発事故が起こったらしいから」と言われました。
 テレビで爆発の現場が中継された日本の1Fとはわけが違い、ソ連政府は事故を公表していませんでした。西側諸国が異常に気付いたのは、事故発生から2日が経過したあとで、スウェーデンの原子力発電所で、職員の靴から高線量の放射性物質が検出されたことが発覚のきっかけとなったのでした。

 モスクワの大使館員らもネットなどない時代ですから、事故のことなど知らず、大使館内では「何かが起きたらしい」程度でいつもと変わりはありませんでした。しかし、これは大変なことになったと感じ始めたのは、館員の家に日本の親や親族から「いつ帰ってくるのか」という国際電話が頻繁にかかってくるようになったからです。正直に言って「これは大変だ」と分かるだけの情報が手に入ったのは日本から送られてきた新聞を見てからのことでした。地元にいる人間が一番情報に疎いという日本にもあったパターンでした。

それにしても、仮に事故が1週間遅れていれば原発の近くを私は家族と通行していたことになり危うく被ばくするところでした。その時に思ったことは国土の広いソ連ゆえのありがたさでした。チ原発とモスクワは直線距離で約700キロ(東京と広島くらいの距離)離れていましたから、モスクワから避難しなければならないまでの影響がなかったのです。しかし、仮に日本で原発銀座といわれている若狭湾の原発でチ原発と同じくらい(1Fの約10倍)の放射能放出事故が起これば京都、大阪、神戸、名古屋は完全に避難しなければならないことは間違いないでしょう。国土が狭くかつ自然災害が多い日本では絶対原発はやめた方が良いと身をもってその時に思いました。

限られた情報下においてモスクワに住む日本人がやったことは、自己防衛のためできる限り安全な外国産の食品を食べるということでした。モスクワの食料事情はもともと劣悪であったので、地元で手に入らない食品は、隣国のフィンランドなどから定期的に注文して手に入れていました。まず、水はほとんど「エビアン」という西側のペットボトルを飲んでいましたが、牛乳は地元のものでした。そこで、小さなお子さんのいる家庭には日本とモスクワとの定期運航をしていた日本航空のご厚意により、日本の牛乳を輸送してもらいました。ずいぶん高い牛乳になったと思います。

大使館には科学技術庁(当時)からの出向者もおり、日本から送ってもらった食品の放射線計測装置で、モスクワ市内の食料品店で売っているものを次々と買い込み計測を始めました。事故後すぐには問題のある食品はなかったのですが、秋ごろから紅茶(ロシアでは「チャイ」と呼ばれよくロシア人が頻繁に飲む生活必需品)から基準値をはるかに上回る放射線が計測されました。「こんなもの飲んで大丈夫なのか。どうしてソ連政府はこの事実を公表し、その販売を停止させないのか」という疑問がわきました。でも仮にそうするとどうなったのでしようか。日本のように多くのメーカーの紅茶があるわけではなく、売っているのはソ連産の1種類で(インド産も一時あったがすぐなくなった)モスクワ市民には食品の選択肢はなかったのです。飲むか飲まないかの選択肢だけなのです。ロシア人がチャイを飲まないということは考えられません。結局ソ連政府は「知らせない」ことでやりすごすしかなかったのでしょう。

そのことは知り合いのロシア人にも話すことはできませんでしたが、「(知らされないとはいえ)危険でも飲まざるを得ない」悲惨な状況下に置かれたモスクワ市民を見て本当に気の毒な感じがしました。でも日本においても今のように原発や遺伝子組み換え食品の持つ危険性に対し、企業利益優先型の甘い政策を続けていると、近い将来日本人も「知らされない」「選べない」という同じ立場に立たされることになるかもしれません。それだけは絶対に避けなければならないと思います。

(追記)

この原稿をアップした後、以下のような報道がネットにありました。これを見ると放射能による人体への影響は、長い年月を経て初めて分かってくるものだと改めて思いました。

「あとを引く福島第一原発事故。一方で、世界は16歳の少女によって変わり始めた~2019年の原発・環境ニュース5選」2019年12月31日

https://www.excite.co.jp/news/article/Harbor_business_209870/?p=2

 

◆チェルノブイリ原発事故後の乳がんの増加|International Journal of Epidemiology via Oxford academic

被ばくのがん影響の調査には長い年月が掛かるため、「チェルノブイリ後のがん影響は甲状腺がんだけだった」と結論するのは時期尚早。チェルノブイリ原発事故はまだ終わっていない。

 

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