「新たな水産資源の管理」に対する再々質問(櫻本和美名誉教授からの投稿)

 本ブログで、度々掲載させていただいた東京海洋大学名誉教授櫻本和美先生からの投稿について、その最新版を以下にご紹介させていただきます。実はすでに随分前にご投稿いただいていたのですが、あれやこれやで私の方の都合で、掲載が大変遅くなり、先生には大変ご迷惑をおかけしました。

 100年に一度の大恐慌を招きかねない「コロナ禍」により、経験したことのない魚価安の中、現場は漁業改革など到底受けいれられる状況ではありません。しかし、まさにそのどさくさ紛れを狙う火事場泥棒的やり方こそが、規制改革の得意とするところなので、「コロナ禍」の中であても、しっかりと新資源管理をフォローし反対していくことが大切ではないかと思います。

 「新たな資源管理に科学的正当性はない」と、具体的なデータをもとに徹底して国を追及されている櫻本和美先生に、改めて感謝申し上げます。

 

 

                                                                     2020.4.27

        水産庁が公表した「新たな水産資源の管理」に対する再々質問

                                                         東京海洋大学名誉教授

                                                         櫻本和美

水産庁は、2019年7月「新たな水産資源の管理について」を公表した。これに対して、同年8月に水産庁と水産研究・教育機構(以下、水研機構)に、13項目からなる質問状を郵送し、同時に、インターネット上(佐藤力生氏ブログ)にも上記質問状を公開した。それに対する水研機構からの回答が同年9月にあり、それに対する再質問を同月9月に水研機構に送信するとともに、インターネット上(同上)に公開した。それに対する回答が久しくなかったので、2020年1月に督促のメイルを送信したところ、2020年3月になってようやく、再質問に対する回答が返信されてきた。本稿は、その回答に対する再々質問状である

これら一連の質問の目的は、水産庁が公表した「新たな水産資源の管理」について、純粋に科学的な側面から議論することにある。従って、「海外でも使われているから・・・」 といった類の回答ではなく、「使用する科学的根拠は○○である」 といったダイレクトで科学的な回答を期待しているので、その点は、ご注意いただきたい。
本稿の質問状に対しては、無視することなく、また、半年以上も待たせることがないように、早急にインターネット上(水研機構HP)に回答を公開していただくよう、切にお願いする次第です(本稿の内容も佐藤力生氏のブログに掲載していただく予定です)。

【議論の目的】
水産庁が公表した「新たな水産資源の管理」の最も基本となる重要事項は、「MSYに基づく資源管理を実施する」ということである。ところで、「MSYは、再生産モデルから計算され、再生産モデルとしては、ホッケー・スティックモデルや、リッカーモデルなどが用いられている。ここで議論したいことは、「MSYに基づいて資源管理を実施すること」の妥当性についてであり、結論として以下を論証することである。

(1)ホッケー・スティックモデルなどの再生産モデルに科学的正当性はあるか。
(2)ホッケー・スティックモデルなどの再生産モデルに科学的正当性がなければ、上記再生産モデルから算出されるMSYにも科学的正当性はない。
(3)MSYに科学的正当性がなければ、MSYに基づく資源管理に意味はない。

【再々質問1】
2019年8月に郵送した質問状で、「マサバ太平洋系群の資源変動を分析する上で、レジーム・シフトを考慮すべきではないか?」という質問を行った(図1a,b参照)。

上記の質問の回答の一環として、2020年3月に開催された水産庁主催の第2回検討会において配布された資料4-2(水産庁HP)に、年代を区分した場合のMSY等の算定結果が示されており(一部を表1掲載)、以下の3つの結論が記載されていた。

3つの結論とは、以下である。

①検討会で指摘されたような年代で分けても、再生産関係のモデルの良さは向上しない(低下する) 。
②高水準期でのMSYを実現する漁獲圧は年代を区切らない場合と大差ない。     
③高水準期での目標管理基準値案は、年代を区切らない場合よりもさらに高い水準になる。

再々質問は、上記3つの結論に対する質問である。

まず、①についてであるが、モデルの良さはAICという指標を用いて判断され、一般にAICの値が小さいモデルが選択される。AICは、年代を分けない場合が131、分けた場合が133で、分けない場合の方が2小さい。しかし、その差はわずかに2であり、この結果をもって、「年代を分けた場合が採用できない根拠」とするにはかなりの無理がある。なぜなら、2019年9月に公開した再質問の表1(以下の表)でも示したが、「新たな水産資源の管理」で用いられる再生産モデルは、マサバ2系群、ゴマサバ2系群の計4系群すべてにおいて、AICの値を無視して恣意的に選択されているからである。

例えば、ゴマサバ太平洋系群では、AICが最小のモデルを用いず、6つの再生産モデルの候補のうち、AICが3番目に小さいモデルを採用している。その時のAICの差は6.5もある。同様に、マサバ対馬暖流系群でも、検討した6つの再生産モデルの候補のうち、AICが最小のリッカーモデルを用いずに、AICが一番大きいホッケー・スティックモデルを採用している。その時のAICの差は5.85である。再生産モデル選択の場合には、AICの値に関わらず、ホッケー・スティックモデルを採用しているのに、なぜ、高水準期と低水準期を分ける場合には、わずか2のAICの差にこだわらなければならないのか、理解不能である。
                     
② 「高水準期でのMSYを実現する漁獲圧は年代を区切らない場合と大差ない」ということであるが、なぜ、高水準期と年代を区切らない場合の比較を行うのか? 質問の趣旨は、高水準期と低水準期で資源変動のレベルが大きく異なるのに、両者を区別せずに一括してMSY等を推定し、管理を行ってもいいのか、という「問い」である。上記の回答は、質問の趣旨を意図的にずらす、いわゆる「ごはん論法」にも思えるが・・・。   

③ なぜ、「目標管理基準値が年代を区切らない場合よりもさらに高い水準になる」といけないのか? ①で述べたこととも関連するが、AICが最小のリッカーモデルを用いずに、AICが大きいホッケー・スティックモデルを採用する理由は、「リッカーモデルを用いるとMSYの推定値が極めて大きく非現実的な値になってしまうのに対して、ホッケー・スティックモデルを採用すると、MSYの推定値はそれほど大きな値にならず、都合のいい値が得られるから」ということのようである。

それでは、AICによってモデルを選択しているのではなく、推定されたMSYの値が都合がいいかどうかによってモデルを選択していることになり、極めて恣意的・非科学的であるといわざるを得ない。このような非科学的なことをせざるを得ないということは、「AIC最小の再生産モデルからMSYを推定し、推定されたMSYに基づいて資源管理を実施するというロジック自体が、既に破綻している」ということを示す何よりの証拠ではないか?

【再々質問2】 ホッケー・スティックモデルを用いて過去の資源変動の再現は可能か?

この質問は、2019年8月の第1回「資源管理方針に関する検討会」で参加者から出た要望内容であるが、これまで水研センターからの回答はされていないようである。

この問題については、2019年8月に、「ゴマサバ東シナ海系群の試算結果について」というタイトルで既に、佐藤力生氏のブログ(以下単に「ブログ」)に掲載させていただいている。しかし、これについては、質問という形で分析結果を水研センターに送信しなかったためか、どこからも回答がないので、改めて質問することとした。

図2は、ゴマサバ東シナ海系群について、ホッケー・スティックモデルを用いて過去の資源変動の再現を行ったものである。図2を見る限り、再現は不可能であると判断される。詳細は、上記のブログ記事をご参照下さい。

 

【再々質問3】 ホッケー・スティックモデルを用いた場合は、漁獲量規制の効果が過小評価されるのではないか?

この質問についても、2019年8月に、「ゴマサバ東シナ海系群の試算結果について」というタイトルで既に、ブログに掲載させていただいている。

ゴマサバ東シナ海系群の場合、親魚量が観測されている親魚量の最大値を超えると、加入量が一定値になるというホッケー・スティックモデルが仮定されている(図3)。従って、折れ点以上に親魚量がいくら増大しても、加入量は一定値となってしまうので、当然のことながら、漁獲量規制の効果は過小評価されてしまうことになる。

もちろん、親魚量が観測された親魚量の最大値より大きくなった場合に、加入量がどのようなパターンを示すかは、実際のところ不明であり、何らかの仮定を置かざるを得ないのは事実である。

しかし、このような場合は、図3に示したように、2つの両極端なケース(ホッケー・スティックモデルを仮定した場合と比例モデルを仮定した場合)を想定して試算し、両者を比較検討するというのが、「真の科学的態度」と言えるのではないか。一方の極端なケースであるホッケー・スティックモデルのみを仮定して議論を進めるというのは、「真の科学的態度」とは言えないのではないか。

シミュレーションの結果を図4a, b に示した。

 

図4a はホッケー・スティックモデルを仮定し、2003年から FMSY を用いて管理を実施した場合のシミュレーションの結果である。この結果は、水産経済新聞の2019年8月5日に掲載されたものと同じである。FMSY はMSYを達成する漁獲係数を示す。2015年から2017年の実際の漁獲係数の平均値をさらに23%削減した値をFMSY として用いている。2015年から2017年の実際の漁獲係数はかなり小さい値であったので、その23%削減した値はさらに小さい値になっていることをつけ加えておきたい(詳細は、ブログを参照していただきたい)。

図4b は比例モデルを仮定し(実際の再生産成功率を使って)2003年から管理を実施した場合のシミュレーションの結果である。使用したFの値として、2015年から2017年の実際の漁獲係数の平均値を5%削減した値を用いている。従って、FMSY よりはかなり大きな値を用いていることになる。

しかし、図4bの結果は、加入量も、親魚量も、漁獲量も、図4aで示したシミュレーションの結果よりもかなり大きくなっていることがわかる。これらの結果は、ホッケー・スティックモデルを用いた場合、厳しい漁獲規制を行っているにも関わらす、漁獲量規制の効果が過小評価される可能性が高いことを示している。

もちろん、比例モデルの方が正しいとも言えないが、少なくとも現時点では、ホッケー・スティックモデルを用いた場合と比例モデルを持いた場合の両方を試算し、その結果を比較・検討すべきである。ホッケー・スティックモデルのみを仮定するという偏った仮定のもとで議論を進めるというのは、決して行ってはならないことである。 (詳細は、ブログを参照していただきたい。)。

【再々質問4】 ゴマサバ太平洋系群に対して、現状の漁獲圧で操業した時の親魚量の将来値が2019年版と2020版で大きく異なる。なぜ結果が異なるのか?単なる計算間違いか? 

図5左上の図の赤い矢印で示した青の太線は、ゴマサバ太平洋系群に対して、現状の漁獲圧で操業した時の親魚量の将来値(2020年度版)である(下記水研機構のHP参照)。上記矢印で示した太線は目標管理基準値より、明らかに低い値になっている。
(https://www.fra.affrc.go.jp/shigen_hyoka/SCmeeting/2019-1/)

図5右上の図の赤い矢印で示した緑の太線は、上記と同じものであるが、2019年版に掲載されていたものである。2019年版では、上記矢印の緑の太線は漁獲規制を行った場合(右の図の青の太線)とほとんど同じで、目標管理基準値を超えている。

しかし、どちらも現状の漁獲圧で操業した時のシミュレーションであるから、結果は、両者で変わらないはずであるが、なぜ、このような相違が生じたのか? その説明が記載されていない。

ゴマサバ太平洋系群の将来親魚量のシミュレーション結果(図5b)については、2019年8月に郵送した質問3-1 においても、「2020年以降、管理を実施した場合と現行の漁獲圧を続けた場合で親魚量も漁獲量もほとんど同じで、現行の漁獲強度を削減する必要があるとは考えられない」 という質問を行っていたが、水研センターからその質問に対する回答はなかった。

なぜ、2019年版と2020年版で結果が異なっているのか、その説明がないばかりか、2020年版では、何事もなかったかのように結果だけが掲載されているということになる。これは、極めて不誠実な態度だと思うのだが・・・。

これまでの質問とその回答、検討会で出席者から出された質問のうち本稿に関連するもの、再々質問等について、分かりやすいように、ポイントを整理して表2に示した。回答欄の記載事項で私の誤解等があればご指摘いただきたい。

 

表 2  水産庁が公表した「新たな水産資源の管理」に対する以前の質問とその回答、および、今回の新しい質問(再々質問)

 

 

【4】 結論
以上の議論から、以下の結論が導かれる(再質問で示したものと同様であるが・・・)。

(1) 再生産関係として、ホッケー・スティックモデルを用いることに科学的正当性はない。
(2) 科学的正当性のないホッケー・スティックモデルから推定されたMSYに科学的正当性はない。
(3) 科学的正当性のないMSYをベースに実施される資源管理に科学的正当性はない。
(4) MSYをベースとする資源管理に代わる管理方式を検討すべきである。

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