「新たな水産資源の管理(マイワシ)」に対する質問(櫻本和美名誉教授からの投稿)

先般、5月31日付けの当ブログで、東京海洋大学名誉教授櫻本和美先生からの「マサバ、ゴマサバに関する水産庁の新資源管理に対する質問」を掲載させていただいたところですが、その後、2020年5月29日付けで、水産庁からマイワシ、マアジの資源評価が公表され、このうちのマイワシについて、櫻本先生からの新たな質問をご投稿いただきましたので、以下に掲載します。

私は、今回のマイワシに関する櫻本先生の質問の内容を読んで正直驚きました。

桜本先生は以下の質問のなかで、

43年間のうち4年間生じたに過ぎない超低RPS水準を仮定して将来予測を行い、TACの試算を行ったもので、誤った試算である

と指摘されています。

これまで、私は水産庁が新資源管理で「資源の増大と漁業の衰退」を両立させようと狙っていると何度も指摘してまいりました。ここにおいても、水産庁は「通常加入期」と称しながら「超低加入期」のRPS値を使用するという、こんな恣意的な方式でマイワシのTACを極端に少なく決めようとしているのです。あまりにもひどいとしか言えません。「何が通常期か ふざけるな!」と怒りが湧いてきます。

櫻本先生に教えてもらわないとつい騙されるところでした。

7月21日から東京会場、7月30日から福岡会場で開催予定の水産庁の「資源管理方針検討会」へ参加される方におかれましては、ぜひじっくりとお読みいただき、ご参考にしていただければと思います。

櫻本先生いつもありがとうございます。

 

 

 

                        2020年7月9日

      水産庁・水研機構への公開質問状(その4) 

                       東京海洋大学名誉教授

                       櫻本 和美  

 

2020年5月29日、水産庁はマイワシ、マアジの最大持続生産量(MSY)を示した資源評価結果を公表しています。上記のうち、マイワシ太平洋系群の資源評価結果が全く不適切な仮定に基づいて計算されたものであり、明らかに誤りであることを以下に示しました。

 

本稿は上記指摘に対するご回答をいただくことを目的に、公開質問状として水産研究・教育機構(以下、水研機構)にメイルをお送りするものです(同時に、インターネット上に公開する予定です)。インターネット上にご回答いただけますようよろしくお願い申し上げます。マイワシ対馬暖流系群についても、資源評価結果の誤りは明白であると思いますが、間違いを指摘するロジックは全く同じですので、割愛します。

 

図1は、2020年5月29日に公開されたマイワシ太平洋系群の2ページ目に記載されている再生産関係(図4)を転記したものです。図1には2つのホッケースティックモデルが示され、赤線で示したホッケースティックモデルを通常加入期、青線で示したホッケースティックモデルを高加入期とし、将来予測値は通常加入期の再生産関係に基づき計算すること、高加入期への移行については、今後の加入状況により検討すること、等が記されています。

 

 

しかし、上記の記述には以下の3つの問題があります。

 

問題1 図1の赤線で示したホッケースティックモデルを通常加入期と呼ぶことは妥当か?

 

問題2 図1の赤線で示したホッケースティックモデルを用いて、将来の予測値を計算することは正しいか?

 

問題3 再生産関係を通常加入期と高加入期に分け、いずれに対してもホッケースティックモデルを仮定しているが、ホッケースティックモデルを仮定することに科学的正当性はあるか?

 

上記の3点とも極めて重大な問題ですが、今回の資源評価結果の誤りは主に問題1と2によるものです。なぜなら、図1の青線で示されたホッケースティックモデルは、今回の資源評価には使われていないからです。ただし、今後、どのように資源評価を行うか、という議論の時には、当然、問題3も重要な論点になります。

 

まず、最初に、図1の赤線で示したホッケースティックモデルを通常加入期と呼ぶことが妥当であるか否かを議論します。

 

図2はマイワシ太平洋系群の再生産成功率(RPS)の経年変化を示したものです。再生産成功率は加入尾数を親魚量で割った値で、親魚量1㎏あたりの加入尾数で表されます。図2のRPSの値は対数変換した値を示します。Y軸の3のあたりにX軸に平行な黒い線が引いてあるのはRPS(対数値)の全期間(1976年から2018年までの43年間)の平均(2.99)を示します。X軸に平行な2本の赤で示した破線はRPS(対数値)の95%信頼区間を示します。

 

図2では、1976年から2018年までの43年間を①、②、③の3つの期間に分けています。図2を見ると、②の期間(1988年から1991年までの4年間)のRPSの値が異常に低く、95%信頼区間の外側にあることがわかります。すなわち、上記4年間のRPSの値は異常値(異常に低かった)と見なせることがわかります。②の期間の対数をとらないRPSの平均値は1.38尾/kgでした。

 

1976年から1987年までの12年間(①の期間)の対数をとらないRPSの平均値は32.2尾/kgで、③の期間(1992年から2018年までの27年間)の対数をとらないRPSの平均値は31.8尾/kg となり、ほぼ同じ値です。すなわち、①と③の2つの期間で、どちらかの期間の方が、RPSが高いとか低いとかいうような傾向的な変化は認められない、ということがわかります。また、③の期間については、2000年の中旬以降、RPSの値は平均よりかなり高いことがわかります。これに対して、②の期間のRPSの平均値は1.38尾/kgですから、①や②の期間のRPSの平均値の20分の1以下(4.3%)という極めて低い値であることがわかります。

 

上記のことから、②の期間(1988年から1991年までの4年間)を除いた①と③の期間を、通常加入期、②の期間を超低加入期と定義すべきであることがわかります。

 

図3の赤で示した実線は、②の期関のRPSの平均値(1.38尾/kg)を用い、43年間の親魚量に対する加入量を以下の式から計算したものです。

 

   加入量 = 1.38尾/kg × 親魚量(㎏に換算)   (1)

 

実際の再生産関係(図3の黒丸)の平均値は552億尾で、(1)式を用いて計算した加入量の平均値は40億尾ですから、約14倍(13.8倍)の差があります。また、図1の赤で示したホッケースティックモデルと加入レベルが極めて近いことがわかります。図1赤のホッケースティックモデルはごく小さい親魚量を除けば、ほとんどの親魚量に対してx軸に平行ですが、図3に示した赤の実線は、親魚量の増大に伴い増大している点が異なります。しかし、加入量の水準自体は両者であまり大きな差はありません。

 

図1と図3からわかる重要なことは、上記(1)式で計算した加入量(図3の赤で示した実線)と図1の赤で示したホッケースティックモデルの加入量水準がほとんど同じだということです。すなわち、水産庁が言うところの「将来予測値を通常加入期の再生産関係に基づき計算する」ということは、「図3の赤で示した実線を使って将来予測値を計算する」ということとほぼ同じだということです。すなわち、水産庁が言う「将来予測値を通常加入期の再生産関係に基づき計算する」とは、「異常に低いRPSを仮定した時の再生産関係を使って将来予測を行う」という意味になります。

 

従って、図1の赤で示したホッケースティックモデルを通常加入期と呼ぶことは誤りであり、図1の赤で示したホッケースティックモデルを使って将来予測を行うということは、43年間のうち、たった4年間生じただけの異常に低いRPSの値を、全期間に適用して将来予測を行うということとほぼ同じことになりますから、明らかに誤った設定のもとに計算されているということがわかると思います。

 

図4は、図3を拡大して、親魚量が極めて小さい時の親魚量と加入量の様子を示したものです。図4の赤で示した実線は図3の赤で示した実線と同じで、上記(1)式で計算した加入量です。2010年から実際の親魚量と加入量の値も示しました。2010年から2014年までは、親魚量が極めて低いため、加入量も極めて低く、(1)式で計算した赤い実線とあまり変わらないように見えますが、実際の加入量が赤の実線で示した加入量の何倍になっているかをみると、16倍から73倍になっていることがわかります(表1の★印)。また、2015年以降は、加入量の値自体も、(1)式で計算した赤の実線よりかなり高くなっており、1976年や1977年の水準に近づいていることがわかります。

 

すなわち、親魚量が極めて低い水準の時も、図1の赤で示したホッケースティックモデルは使うべきではないことを、図4は示しています。

 

 

【質問1】以上のことから、「図1の赤線で示したホッケースティックモデルを通常加入期と呼ぶことは誤りであり、将来予測値を赤線で示したホッケースティックモデルに基づき計算すことは誤りであると思いますが、これに対する見解をお聞かせ下さい。

 

 

今回のTACの計算では用いられていませんが、次に、問題3の「高加入期の再生産関係としてホッケースティックモデルを仮定することに科学的抵当性はあるか?」について検討することにします。

 

上記で議論したように、43年間のうち、1988年から1991年までの4年間のRPSの値が異常に低く、再生産関係は1988年から1991年までの4年間とそれ以外の39年間の期間で別々に分析を行う必要があることがわかりました。

 

図5はマイワシ太平洋系群の再生産関係を示しています。ただし、加入量も親魚量も対数変換しています。図3は1988年から1991年までの4年間の超低加入期を赤で示し、それ以外の通常加入期を黒丸で示しています。

 

黒で示した通常加入期に回帰直線をあてはめると、回帰直線の傾きは0.96となり、その95%信頼区間は(0.85、1.08)ですから、回帰直線の傾きは、統計的には1とみなしてもよいことがわかります。両対数をとった時の回帰直線の傾きが1ということは、もとの再生産関係は「加入量=定数×親魚量」で表されることになります。

 

同様に、図6はマイワシ太平洋系群の再生産成功率と親魚量の関係を示します。ただし、再生産成功率も親魚量も対数変換しています。図6はRPSが極めて小さい1988年から1991年までの4年間を赤で示し、それ以外の通常加入期を黒丸で示しています。

 

黒で示した点に回帰直線をあてはめると、回帰直線の傾きは-0.0396となり、その95%信頼区間は(-0.154、0.0752)ですから、回帰直線の傾きは、統計的には0とみなしてもよいことがわかります。回帰直線の傾きが0ということは、再生産成功率は親魚量とは無相関であり、密度効果は検出されないということを意味します。

 

【質問2】以上の結果は、再生産関係として密度効果を仮定したホッケースティックモデルをあてはめる科学的正当性がないことを示しており、科学的正当性がないホッケースティックモデルを用いて推定したMSYにも科学的正当性がない、ことを示していることになりますが、これに対する見解をお聞かせ下さい。

 

【質問3】上記で示したように、再生産成功率(RPS)は親魚量とは無相関であり、ホッケースティックモデルを用いて将来予測を行うことに科学的正当性はありません。再生産成功率(RPS)は環境によって決定されると考えられますが(後述)、残念ながら将来の環境状態は予測できません。そこで、これまでの43年間の再生産成功率(RPS)をリサンプリングする(ランダムに選んでくる)という方法で将来予測を行い、TACの値について議論するという方法を採用すべきだと思いますが、そのような方法に変更する予定はありますか? もし、ないとすれば、その理由をご回答ください。

 

再生産成功率(RPS)が環境によって決定されると考えられることについて以下で説明します。

 

図7は、マイワシ太平洋系群の再生産成功率(RPS)を環境要因のみを使って再現した結果を示しています。太い実線が再現値、細い実線が観測値です。環境要因としては、太平洋10年規模振動指数(PDO)、北極振動指数(AO)を用いています。使用した太平洋10年規模振動指数(PDO)、北極振動指数(AO)は表2に示しています。細かい点はともかくとして、大きな再生産成功率(RPS)の変動はよく再現されていると言えます。特に、1989年、1990年のRPSの大きな落ち込みも、しっかりと再現されています。図7に示した結果からRPSは環境変動によって決定されると考えてもいいでしょう。

 

 

図8はマサバ太平洋系群のRPSの変動を、マイワシ太平洋系群と同様に、太平洋10年規模振動指数(PDO)、北極振動指数(AO)のみを用いて再現したものです。使用した太平洋10年規模振動指数(PDO)、北極振動指数(AO)は表2に示しています。同じく、図9はゴマサバ東シナ海系群のRPSの変動を、マイワシ太平洋系群と同様に、太平洋10年規模振動指数(PDO)、北極振動指数(AO)のみを用いて再現したものです。使用した太平洋10年規模振動指数(PDO)、北極振動指数(AO)は同じく表2に示しました。

 

【質問4】以上みてきたように、2020年5月29日公表の資源評価結果が、43年間のうち4年間生じたに過ぎない超低RPS水準を仮定して将来予測を行い、TACの試算を行ったもので、誤った試算であることは明らかです。しかし、それでも計算方法を変更しないということであれば、誤りであることが判明した場合に、水産庁、水研機構、研究者はどのような形で責任を取られるおつもりかについてご回答下さい。

 

2020年5月29日に水産庁が公表した資源評価結果が正しいか否かは、3~5年もすれば、すぐに明らかになると思います。上記で縷々述べたように、43分の4程度の確率で超低RPS水準が発生する可能性はもちろんありますが、図3、図4を見ればわかるように、実際の加入量は水産庁が通常加入期(実は、超過小加入期)として計算した加入量の、平均で約14倍もあるわけですから、3~5年もすれば、その相違が明瞭な形となって明らかになるでしょう。

 

もし、3~5年年後にマイワシの資源量が膨大に増大していることが明らかとなった時、不必要に過小なTACを強いられたために被った漁業関係者の経済的損失に対して、水産庁、水研機構、研究者は当然その責任を追及されることになると思います。 

 

以上の議論をまとめると、誤った再生産モデルを用いて将来予測を行うよりも、過去43年間のRPSをリサンプリングしながら、将来予測を行い、TACを検討する方が、はるかに科学的・現実的であり、そのような計算方法に変更すべきであるということであり、それをご理解いただくことが、本質問状をお送りする主な目的でもあります。ご回答をお待ちしております。また、2020年4月27日に水研機構にお送りした「水産庁が公表した「新たな水産資源の管理」に対する再々質問」に対するご回答の方もよろしくお願い致します。

 

 

参考文献

 

櫻本和美.緊急投稿:重要「新たな資源管理に基づく資源管理目標案等」に科学的正当性はあるか?本音で語る資源管理 2019年7月7日. http://shigenkanri.jp/?p=2224

櫻本和美. 緊急投稿その3:重要「ゴマサバ東シナ海系群に対する水産庁の試算結果について」.本音で語る資源管理 2019年8月22日. http://shigenkanri.jp/?p=2338

櫻本和美.  水産庁が公表した「資源管理方針に関する質問への回答と再質問」. 本音で語る資源管理 2019年9月1日 http://shigenkanri.jp/?p=2372

櫻本和美.  水産庁が公表した「新たな水産資源の管理」に対する再々質問. 本音で語る資源管理 2020年5月31日. http://shigenkanri.jp/?p=2496

 

 

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