新資源管理に関する質問その5(櫻本和美名誉教授からの投稿)

 本ブログで累次掲載しています東京海洋大学名誉教授櫻本和美先生からの水産庁・水研機構への質問のその5を、ご投稿をいただきましたので掲載させていただきます。

 前回の質問(2020年7月9日付)はマイワシに限定したものでしたが、その後2020年7月20日付でそれ以前の質問とマイワシに関する回答が一括してありました。水研機構からの回答(2020年7月20日付)

 そこで、今回の質問その5はマイワシを除くそれ以前の質問に対する直近までの回答を踏まえたものとなっています。

 今回の投稿を拝見しますと、無回答の項目に対する回答を促すとともに、さすがに櫻本先生も質問とかみ合わない水研からの回答にしびれが切れられたのでしょうか、「水掛け論を繰り返すだけの項目については質問を終了する」とされています。また、本文と各論(表1)とに区分し以下の本文では、水研からの回答のどこに問題があるのかを改めてポイントを絞りわかりやすく整理されています。

 私から見ますと、水研からの回答は、なにか安倍総理の国会質疑における信号機無視話法(論点のすり替えで誤魔化す等)のような気がしますが、そのご判断は読者の皆様にお任せいたします。

 櫻本先生にはいつもご投稿いただき改めて感謝申し上げます。

 

 

                                                     2020年8月4日

   水産庁・水産研究教育機構への公開質問状(その5) 

                                            東京海洋大学名誉教授

                                             櫻本 和美  

 

水産庁が公表した「新たな水産資源の管理について」に対して、2019年8月1日以降、計4回の質問状をインターネット上に公開し、それに対して水産研究教育機構(以下、水研機構)からご回答をいただきました。議論はかみ合わず、建設的な議論が行われているとはとても思えませんが、これまでの質問と回答を整理し、総括を行いました。これを第5回目の公開質問状とします。なお、これまでの質問に対する回答は、(A)質問の趣旨とご回答がかみ合わない、(B)質問に対してのご回答がない、の2つに分類できると認識しています。このうち(A)については、これまでの経緯を見る限り、回答に期待することはできないので、これ以上水掛け論を繰り返すだけですから、(A)に関しての質問は終了にしたいと思います。また、(B)の「回答がない」に加え、今回の「新たな質問」へのご回答を引き続きよろしくお願い致します。

 

これまでの質問内容については以下の5項目に整理し、質問と回答の経緯がわかるように、時系列的に表1に示しました。

表1

  • MSYの定義に関する質問
  • 環境変動の取り込みに関する質問
  • ホッケースティックモデルの妥当性に関する質問
  • 実際の資源変動がMSY理論と合致していないことに関する質問
  • その他の質問

 

の5項目です。また、表1の右端の「分類」の欄には、質問に対する回答内容を、以下の5つに分類し、そのいずれに該当するかを示しました。

①問題点のはぐらかし

②自分たちが設定した規則のみを説明し、その規則の妥当性は議論しない

③ロジックが矛盾している

④意味が不明

⑤無回答

 

表1を総括して結論述べると、ほとんどの回答が、回答できないものは質問を無視、回答があったものについては、質問の意図とは異なる回答をするか、「我々は○○というルールを設定し、そのルールに基づき計算した」ということを述べているだけで、そのルールが科学的に妥当なものであるかどうかの説明は一切しない、あるいは、回答が矛盾している、または、意味が不明というものばかりでした。

 

特に、上記の代表的なものとして、質問3の「ホッケースティックモデルの妥当性に関する質問」とその回答を例に挙げ、少し詳しく説明します。

 

質問3

「シュワルスキーらが調べた224系群の再生産関係では84%で、子の量は親の量によって説明できず(子は親と無相関か負の相関を持つ)、環境変動の影響の方がはるかに大きいことを示している。このようなデータからMSYを推定する科学的根拠は何か?」

 

という質問に対して、その回答は

 

「親魚量に対して加入量が一定の場合や、親魚量の増加に伴い加入量も増加するデータしか得られていないような場合等には、MSYの算定が困難になります。「令和元(2019)年度 漁獲管理規則およびABC算定のための基本指針」では、このような問題への統一的な解決策として、ホッケー・スティック型の再生産関係(HS)を適用することを提案しています。実際には、HSの折れ点が親魚量の観測値の範囲内に収まるように制約をつけており、これにより現実的な管理基準値を得ることが可能となります(Ichinokawa et al. 2017 ICES. JMS 74: 1277-1287)」

 

というものでした。統一的な解決策って、いったい何ですか?

 

 

「MSYの算定が困難な時は、その統一的な解決策として、ホッケー・スティック型の再生産関係(HS)を適用することを提案しています。」

 

この回答は一体何を述べているのでしょうか?「MSYの算定が困難な時」それは、データに最も合うと判断されたリッカーモデルやBHモデルを使うと、非現実的に大きなMSYが計算されてしまう、という場合のことを指しています。しかし、ホッケー・スティックモデルを適用すれば、現実的と思われる大きさのMSYを計算することができる。だから、ホッケー・スティックモデルを適用することが解決策になる、と言っているわけです。ホッケー・スティックモデルだと、強制的にある親魚量以上は加入量を一定と仮定してしまうので、MSYの値が過大にならないのは当然です。逆の言い方をすると、MSYの値が過大にならないように、強制的にある親魚量以上の加入量を一定と仮定してしまっている訳です。

 

これはもう、「何が何でもMSYを推定する」、「妥当と思われるMSYを推定するためにはホッケー・スティックモデルを使うしかない」と言っているわけですから、ホッケー・スティックモデルがデータに最も合致した最適なモデルであるとかいう話とは全然違う話をしているわけです(科学的な正当性など、もうどうでもいいということです)。

 

上記のような人為的な操作をしなければMSYが推定できないという状況こそ、まさに「MSY理論が誤っている」ことを明確に示しているということになると思います。データからみて妥当だと判断されるリッカーモデルやBHモデルなどの再生産モデルからは、妥当と思われるMSYが計算できない。強制的にある親魚量以上は加入量を一定にしてしまうという人為的なテクニックを使わないと、まともなMSYは計算できないわけですからね。しかも、シュワルスキーらの結果から、このような人為的な操作をしなければ、まともなMSYが計算できない系群が全体の8割以上あるということですから・・・。もうこの事実から、MSY理論が誤っていること以外の結論を導くことは困難だと思います。私などは、もともと密度効果を前提としたMSYなど存在ないと考えていますから、そうなるのはあたりまえだと思っていますが・・・。

 

繰り返しになりますが、これはもう、「何が何でもMSYを推定したい」。「MSYを推定するためなら科学的な正当性などどうでもいい」と言っているのと同じですから、「MSYの算定が困難な時は、その解決策としてホッケー・スティック型の再生産関係(HS)を適用することを提案しています」ということになる訳です。例え話でいうと、発熱があり、新型コロナウイルスが心配で病院に行ったら、「当病院ではPCR検査ができないので、陽性か陰性かは判断できません。しかし、政府から発熱外来患者に対しては陽性か陰性かを判定して報告せよと言われているので、当病院では、その解決策としてサイコロを振って1の目が出たら、陽性と判定することを提案しています。そうすれば、必ず、陽性か陰性かの判定を下すことが可能になりますから」と言っているのと同じです。新型コロナウイルスの場合とMSYの場合が異なる点は、新型コロナウイルスの場合は感染者は必ずいますが、MSYの場合は、実際はMSYなど存在しないという決定的な違いはありますが・・・。

 

上記の回答はさらに続きます。「実際には、HSの折れ点が親魚量の観測値の範囲内に収まるように制約をつけており、これにより現実的な管理基準値を得ることが可能となります。これも先ほどと全く同じことを言っているだけですね。「HSの折れ点を親魚量の観測値より大きなところにすれば、大きなMSYが計算されてしまうので、現実的な大きさの管理基準値を得るためには、折れ点が親魚量の観測値の範囲内に収まるようにしなければなりません」と言っていることと同じです。「データもないのに、そのような制約をつけてもいいという科学的根拠はいったいどこにあるのでしょうか?」ということです。何が何でもとにかくMSYが推定したい(手段を選ばず、何が何でも陽性か陰性かを判定したい)、と言っているのと同じですね。換言すると、現実的なMSYの値が計算できるようにするための解決策として自分たちは、そういうルールにしました(サイコロを振って決めることにしました)と言っているだけで、全く科学的根拠を説明していることにはなりません。

 

ホッケー・スティックモデルの妥当性に関しては、この回答が繰り返し出てきますが、すべて同じで、ロジックは完全に崩れていると思います。

 

結論として、科学的正当性を示すことができないホッケー・スティックモデルを仮定し、それから、作為的・人為的に推定したMSYを使って資源の管理を行うことに、科学的な正当性は全くないと判断されます。

 

なお、マイワシに関する質問(2020年7月9日付)に対し、2020年7月20日付でご回答いただきましたが、それについては、別途再質問を予定していますので、その際はよろしくご回答のほどお願いいたします。

 

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