国のガイドライン(技術的助言)に地方は従う義務はない -真の地方分権の確立を目指そうー(前編)

令和2年6月30日付で、国から都道府県に対し「改正漁業法に基づく海面利用制度の運用について」という通知文書が発出されました。

https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/kaikaku/attach/pdf/suisankaikaku-25.pdf

それは、改正漁業法における漁業権漁業の管理事務(自治事務)に関する国のガイドラインであり、その通知文書の冒頭部分に「地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項の規定に基づく技術的助言として、別添『海面利用制度等に関するガイドライン』を制定」と書かれているように、この文書をわかりやすくいえば、国の余計な「おせっかい」です。なぜ「おせっかい」なのか、それはその文書が「技術的助言」だからです。

 

しかし、いまだにこの「おせっかい」文書の性質についてしっかりと勉強せず、相変わらず2000年の地方分権改革以前の「国が命令し地方が従う」時代の国への隷属根性が抜けきっていない県庁や漁業団体の職員がいるようです。よって、真面目にこの文書に従い漁業権漁業の管理を行うなど地方分権の理念に反するとんでもない間違いであることを、改めて認識していただくために「技術的助言」とはなにかについて説明したいと思います。

 

1 技術的助言とはなにか

 

すでにこのブログ2018年11月28日付「知事は国の『技術的助言』に従う義務はない ―農水大臣の国会答弁を信用してはいけない-」http://shigenkanri.jp/?p=2094でも紹介しましたが、その中から「自治事務に関する技術的助言」の法的位置づけを説明している部分を、改めて以下に抜粋します。

1 地方公共団体の自主性及び自立性を高め、個性豊かで活力に満ちた地域社会の実現を図るため、国と地方の役割分担を明確にし、住民に身近な行政をできる限り身近な地方公共団体において処理することが基本。(地方分権推進計画第1地方分権推進の基本的考え方より)

 

2 地方分権改革により地方に権限が移譲され、漁業に係る免許が自治事務化され、地方は法律には拘束されるものの、その解釈・運用は地方公共団体において処理することが基本」となった 。

 

3 地方公共団体が行う事務に対し、地方自治法第 245 条の4第 1 項等の規定に基づき、 技術的助言として発出しようとする通知については、地方公共団体にとって必要な事項となっているかどうかその内容を検証し、同法の趣旨を踏まえ、必要な最小限度のものとなるよう徹底を図るとともに地方公共団体の自主性及び自立性に配慮すること。(総務省における今後の通知・通達の取扱い:平成23年7月12日より)

 

4 国民の権利・義務に影響を及ぼす内容は、法律によることが必要であるため、法律によらず、通知・通達のみをもって、国民の権利・義務に影響を及ぼすことは、それ自体が無効。(総務省における今後の通知・通達の取扱い:平成23年7月12日より)

 

5 政府が自治体に対して出す通知、これは2000年の地方分権改革以来、基本的には無効であります。場合によっては違法であります。あるとすれば技術的助言などであります、その範囲に限られるということ。そののりを越えて、規範性を持つとか拘束性を持つようなものを出したとすれば、これは違法であります。(平成 23 年3月 10 日 衆議院総務委員会での片山国務大臣発言より)

とされています。よって、知事は国の技術的助言に従う義務はありません。これに従わない県があっても国は何もできません。なぜなら「規範性を持つとか拘束性を持つようなものは違法」だからです。現に過去の技術的助言に従わなかった県が多くありましたが、何も言われていません。仮に訴訟にでもなれば、国が法律違反で絶対負けるからです。

 

しかも、今回の漁業法改正は、当ブログ「安倍長期政権とは一体なんだったのか(後編)」において言及したように「規制改革の、規制改革による規制改革のための法律改正」、「民主主義制度の手続きを完全に欠落したこの改悪漁業法に従う義務は法的にも道義的にも全くない」という戦後まれにみる大悪法です。

 

 これに加え、国は地方にその法的義務もないのに、技術的助言を違法に利用し、天下の大悪法を現場に押し付けようとしているのです。地方分権により地方が判断すべき微に入り細に入った領域まで国は土足で踏み込み、企業のために難癖をつけて漁師の海を取り上げようとしているのです。このような違法な文書に素直に従おうとする者が地方にいるとは思いませんが、仮にそのような者がいれば、その行為は漁業者から企業が海を盗む行為に加担する、まさに「海泥棒に追い銭」そのものです。今こそ地方分権により地方に与えられた権限を盾に、地方が漁業者を守るための漁業権漁業の解釈・運用を行っていただきたいと思います。

 

2 技術的助言がなくても地方は困らない

 

繰り返しになりますが、上記1括弧内の2にあるように「地方分権改革により地方に権限が移譲され、漁業に係る免許が自治事務化され、地方は法律には拘束されるものの、その解釈・運用は地方公共団体において処理することが基本」となっています。

 

地方は、法律には従わなければなりませんが、自治事務においては、その法律の解釈・運用の権限は地方にあります。よって、技術的助言とは、法律の解釈・運用に当たって「こんな考え方もありますよ、ご参考になれば幸いです」というレベルの情報提供でしかありません。

 

地方が望んでもいなかったのに、国がその権限を放したくなくて「技術的」などの言葉でごまかして無理やり残した経緯がある「おせっかい」文書です。なお、「技術的」とは、「恣意的ともいえるような判断又は意思を含まない意である」とされています。あとで詳しく述べますが、国は第2回目、4回目及び5回目の技術的助言において「恣意的な判断や意思」を満載した違法な文書を通知しています。いつまでたっても地方は国に従うべきだという旧弊が抜けきっていないのです。よって、地方は国が示す技術的助言がなくても全く困ることはありません

 

地方分権改革推進法や地方自治法には、地方行政の推進に当たって守るべき理念が規定されています。それに基づき堂々と法律を解釈・運用すればよいのです。国の「おせっかい」文書はそのままゴミ箱にポイで全然かまいません。国と地方は対等の関係になったのに、それでも、国の「おせっかい」文書を後生大事にする県庁の職員がいたとすればその動機は何でしょうか。

 

それは単純に「楽(らく)」だからだと思います。抽象的な法律の規定をどう具体的に現場に当てはめて漁業者の権利を守っていくかを「あれこれ考えるより国の言うことに従っている方が仕事が楽」だからです。例えば、今回の改正漁業法の具体化において漁業者から種々の要望があっても、「国がこうしろと言っていますのでできません」と回答すれば済みます。私も過去、国の技術的助言を盾にした県庁から実際にそうされた経験がありました。法律ではどこにもそんな規定はないのに、しかも他県ではそんなことを守っていないのに、技術的助言の一言一句通りに従わなければならないと頑なに主張する県庁職員がいてトラブルとなり本当に困ったことがあります。

 

そういう意味で県庁の職員にとっては国の「おせっかい」文書は自分の頭を使う必要がなく手抜きができて有り難いと思います。よって、万一そのような職員に遭遇したら、「手抜きはやめろ!自分の頭で考えよ!技術的助言を根拠に強制するなら訴えるぞ!」と漁業者はその職員を厳しく糾弾する必要があります。

 

このように技術的助言は「百害あって一利なし」とも言えますが、残念ながら「百害あって一利あり」もあり得ます。どういう時に「一利あり」なのでしょうか。それは漁業者の大反対を押し切って水産特区制度を強行した村井嘉浩宮城県知事のような企業大好き過激派知事がいた場合です。どうにでも解釈可能なあいまいな法律の規定をこれ幸いと悪用し、技術的助言も無視できることを知っていて、極端な企業優遇のための法律の解釈・運用を行う場合においては、「国の技術的助言でもそこまでやるのは適切でないと言っています」と牽制できますから。技術的助言とはこのように、その知事の立場がどうあるかにおいて毒にも薬にもなるという2面性を有しているといえます。

 

ただし、もともと技術的助言に知事は従う義務がないのですから、このような場合でも「屁のつっぱり」程度の効果しかありません。ではどうすればよいのでしょうか。このように露骨に企業参入のために漁業者潰しを行おうとする知事に対してはこのブログ2019年2月5日付の「地方分権の基本理念に基づく改訂漁業法の運用条例の制定に向けて」で述べたように県条例の制定により知事の裁量権を縛っておく必要があります。地方がやる気になれば、ほとんどの改悪事項を条例で無効にできると思います。

 

このように地方が改悪漁業法に対峙するに最も有効な手法は条例の制定ですが、そこまではなかなか難しいという地方においても、少なくとも悪法を現場に押し付ける技術的助言には従わなくてもよいことが制度上認められているのですから、最低でもそうすることが地方の地元漁民のために行政を行う義務を課せられた地方自治体の使命ではないかと思います。

 

3 過去の技術的助言に見る中身の違法化について

 

2000年に地方分権一括法が施行され、漁業に係る免許が自治事務化された以降、技術的助言は、2002年(平成14年)、2007年(平成19年)、2012年(平成24年)、2017年(平成29年)と漁業権免許の切り替えの5年ごとに4回発出されてきました。今回の2020年:令和2年の5回目は漁業法改正に伴うものです。ところが、1回目(2002年)と2回目(2007年)とでその中身を見ると大きく異なっています。

 

(1)1回目(2002年)漁場計画の樹立について(第1回平成14年)

 項目ごとの内容を要約すると以下のようになっています。

(冒頭通知文)

・漁業権の免許の次期一斉切り替えに当たり、漁業法第11条の規定に基づく漁場計画の樹立について留意すべき点を、下記のとおり通知するので、参照されたい

第一 全般的事項

1.漁場計画の立て方

(1)基本方針

・当該漁業の免許をしても漁業調整その他公益に支障を及ぼさないと認められるときは、必ず定めなければならない。

・漁場計画は、より合理的より高度な漁業上の総合利用を図るために定めるもの。

・漁業権漁業であっても、許可漁業等とすべきかどうか慎重に検討。

新たに漁場計画を樹立する場合には、他漁業との調整問題発生を防止するため必ず協議を経て行うこと

(2)委員会との関係

・漁業秩序は漁業関係者自身の意志によって維持されるべき。

海区漁業調整委員会との緊密な連絡のもとに漁場計画を樹立すること。

(3)スケジュール

2.法第11条の解釈運用について

(1)漁業権免許の必要性

・漁場の条件が漁業権漁業を営むのに適当である場合には、漁業調整その他公益に支障を及ぼさない限り漁場計画を立てなければならない

(2)公益上の支障について

・公益上の理由が存在するというだけで、具体的にどの程度支障となるのかという検証を行うことなく、安易に漁場計画を樹立しないことは避けなければならない。

・全く漁場計画を樹立しないことは、当該公益にとって必要不可欠な場合に限定し、いたずらに漁業関係者に不安をもたらすようなことは避けなければならない

(3)他の法令と漁場計画との関係について

3.制限又は条件

(1)制限又は条件を付すことの適否

・漁業権に付けた制限又は条件に違反は、最高罰則が適用されるものであるから、その運用に当たっては十分慎重に検討。

(2)制限又は条件の内容

・埋立工事を予想して漁業被害に対する補償要求をしてはならない旨の制限又は条件等は、付けることができない。

・共同漁業権について、行使者を特定しているようなものは、制限又は条件でなく漁業権行使規則で規定。

4.免許後の漁業権の変更について

5.法第13条第1項第4号の運用について

6.都道府県漁業調整規則との関係

7.漁場計画の公示について

 

第二 共同漁業について

(略)

第三 区画漁業について

1.総論

区画漁業水面は独占排他されるものであるから、漁場計画の樹立に当たっては、地区の漁業関係者全体の生業に注意し、特に共同漁業との関係を慎重に考慮しなければならない

2.漁業種類の定め方

(1)一漁業権一漁業種類の原則について

(2)公示の方法

3.漁業時期

4.地元地区

5.漁場環境保全等のための措置

・持続的養殖生産確保法の趣旨を踏まえ、漁場改善計画の内容との適合が図られるよう、漁業権行使規則の作成

6.試験操業について

7.増殖との関係

 

第四 定置漁業について

1.定置漁業の性格

2.漁場の区域

3.漁業時期

4.地元地区

5.資源管理の取組について

6.法人以外の社団の法人化

原文は相当の分量があることから、上記には全体の構成と、かつ重要と思われる部分の一部だけを引用しましたが、国がこの技術的助言で強調したのは漁業法第11条の漁場計画の樹立に関することで以下の2点です。

(他産業との調整)

・海面利用をめぐる他産業との関係において、「公益性」を拡大解釈して消極的な対応をするのではなく、積極的に漁場計画を樹立せよとしています。これは海面利用をめぐり他産業を優先する知事がいることを念頭に置いたものといえます。

(漁場調整に重点)

・極めて現場に密着した問題を踏まえ、安易な漁場計画を樹立するのではなく、十分漁業調整を図るように促しているものといえます。

 

 なお、2回目との違いで特に注目すべき点を指摘しておきます。それは第1回目の技術的助言の通知文の冒頭で「漁業権の免許の次期一斉切り替えに当たり、漁業法第11条の規定に基づく漁場計画の樹立について留意すべき点を、下記のとおり通知するので、参照されたい。」としていることです。あくまで技術的助言の位置づけを踏まえ「参照(照らし合わせて、参考にすること)」と明示し、自治事務に関する法律の解釈運用は地方が行うという地方分権の精神を尊重していることです。第1回目は地方にとって役に立つためにという法律に定められた本来の趣旨にのっとった正しい技術的助言であったといえます。

 

(2)2回目(2007年)漁場計画の樹立について(第2回平成19年)

 

1回目と2回目の間に不幸な出来事が起こりました。それは、日本経済調査協議会の高木委員会の提言「魚食をまもる水産業の戦略的な抜本改革を急げ」(2007年 7 月 31 日)が発表され、それを受けた内閣府規制改革会議(当時)の「規制改革推進のための第2次答申」(2007年12月25日)が出され漁業権の見直し、参入規制緩和への圧力が高まったことです。その結果、規制改革の答申に従い違法だらけの技術的助言と変貌したのです。

 

 2回目の技術的助言において変更・追加された部分のみを抜粋要約すると以下の括弧内のようになっています。

なお、1回目とどう変更が生じ、その何が違法なのかについてその下に記述しました。

 

(通知文冒頭)

法第11条の規定に基く漁場計画の樹立については、「漁場計画の樹立について」(第1回技術的助言2002年)を基本として下記に留意しつつ、遺憾のないよう措置されたい

(変更点)

・1回目は「参照」との表現でしたが、2回目は「遺憾のないよう措置されたい」に変更しています。「措置(事態に応じて必要な手続きをとること)」は明らかに「参照(照らし合わせて、参考にすること)」よりも地方を拘束する強い表現です。

・その上に「遺憾のないよう」という命令口調の言葉も使っています。地方分権改革以降は自治事務に関しては国と地方の上下関係はありません。国が地方を見下している悪しき証拠といえます。

この表現は上で説明した平成 23 年3月 10 日衆議院総務委員会での片山国務大臣発言における「規範性を持つとか拘束性を持つようなものを出したとすれば、これは違法」に抵触するもので第2回技術的助言は冒頭文からして地方分権に反した違法な文書です。

 なお、2回目以降の技術的助言においても一貫してみられるこの表現(用語)の使用の違法性について参考となる文献の該当部分を以下に引用しておきます。

 

(自治総研通巻397号 2011年11月号より)

技術的助言の中には、国から自治体への行政サービスとして情報を提供しているものもあり、提供する情報には制限がない状況にある。重要なことは内容よりも文章表現であり、あくまで自治体の自主的な判断を前提にしたものでなければならない。この点に関し、景観法運用指針(平成16年12月17日付け農林水産事務次官・国土交通事務次官・環境事務次官通知)は、「①~べきである。~べきでない。②~ことが望ましい。~ことは望ましくない。③~ことが(も)考えられる。」の3つの表現を意図的に区分して用いている。これらのうち、①は処理基準で用いるべきもので、「技術的」助言で用いる表現としては不適当である。

 

1 基本的考え方

 ①水産基本計画(平成19年3月20日閣議決定)において、沿岸漁業について、漁業生産の維持増大を図るため、資源の回復・管理を推進し、新規就業・新規参入の促進を図るほか、「養殖業について、過密養殖が行われている漁場と利用度の低い漁場が混在し漁業権の利用度合いにアンバランスが生じている場合があることや沖合域が養殖漁場として未利用であることに対応して、より広域を対象とした漁場の総合的かつ効率的な利用を図るための具体的な方策について検討する。」とされている。

②中略

③これらのことを踏まえ、沖合域を含めての次期漁場計画の樹立に当たっては、従来にも増して漁業関係者の要望及び沖合域を含めての漁場条件の調査を徹底して行い、水面の総合利用を図り漁業生産力を発展させるという観点から、適正かつ合理的な漁場計画を策定するよう努める必要がある

(変更点)

変更点は、1回目には全く記述のなかった水産基本計画が突然第2回目において引用されたことです。では水産基本法計画は1回目の時には存在しなかったのでしょうか。そうではありません。既に水産基本計画は、2001年に制定された水産基本法に基づき、2002年3月26日に公表されていますので、第1回目技術的助言が発出された2002年8月6日には存在していました。

 

・ではどうして1回目には引用しなかった水産基本計画が2回目では引用されたのでしょうか。それは言うまでもなく、規制改革からの圧力で、水産基本計画に書き加えられた利用度の低い漁場や沖合域を企業の新規参入用に利用させたいという意図が働いたためです。

 

・水産庁は、規制改革の提言を踏まえた水産基本計画(平成19年3月20日閣議決定)内容を、技術的助言を悪用し法的根拠もないのに地方に押し付けようとしたのです。なお、この平成19年の水産基本計画は第一次安倍政権下で閣議決定されていますので、さもありなんです。

 

・次に、水産基本計画を技術的助言の内容として引用することが適切なものかどうかです。私は極めて不適切だと思います。なぜなら、この技術的助言とは漁場計画の樹立の根拠となる漁業法第11条の規定の解釈・運用についての参考となるものであり、水産基本計画は水産基本法に基づくものであり、漁業法とは別の法律です。よって、水産基本計画を地方に知らしめる必要があれば、それは別の通知文で行うべきであり、漁業法に関連した技術的助言に含めるべきものではないと思うからです。その証拠に第1回目の技術的助言には「水産基本計画」という用語は一言も使用されていません

 

・一方、技術的助言に「水産基本計画」を引用して何が悪いのだという反論もあろうかと思います。「水産基本計画」とは我が国の水産に関する施策についての基本理念を定めたものですから、当然地方もそれに従うべきだとしてです。確かに国が担う全国一律で行うべき業務分野ではそうかもしれませんが、ここで重要な視点は、漁業権漁業管理事務は、自治事務であるということです。

 

・国は「水産基本計画」で、養殖業に企業を新規参入させようとする統一的な政策性を地方に押し付けたいのでしょう。しかしそのような国の政策性と地域における政策性が整合しない場合が少なくないことから、そのやり方が間違っているとして、地方分権改革で自治事務が設けられたのです。その自治事務に関する参考文書でしかない技術的助言において、地方とは関係のない閣議で一方的に決定された「水産基本計画」を地方に押し付けようとすること、まさにそのような国の行為が否定された地方分権改革に、完全に逆行する違法な行為といえます。

 

・さらに付け加えると、この地方分権の精神を尊重しなければないことは、水産基本法そのものにも第5条で以下のように明確に記載されています。

 

(地方公共団体の責務)

第五条 地方公共団体は基本理念にのっとり、水産に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の自然的経済的社会的諸条件に応じた施策を策定、及び実施する責務を有する。

 

これを、自治事務である漁業権管理業務に当てはめてわかりやすく補足すれば、

 

地方は、水産基本計画にのっとるものの、(漁業権管理事務は自治事務であるという)国と地方との役割分担を踏まえ、(国の言うがままに従うのではなく、)地方は地方の自然的経済的社会的諸条件に応じた施策を策定し実施する責任を負っている。

 

となります。ということで、この水産基本法第5条を踏まえ、上記カッコ内の③の技術的助言「沖合域を含めての漁場条件の調査を徹底して行い・・・漁場計画を策定するよう努める必要がある。」の妥当性を考えてみましょう。

 

・もういわずもがなですが、地方の責務である分野に対し、「調査を徹底して行い」「努める必要がある」と命令している文章は、水産基本法第5条に規定された地方公共団体の責務にも適合しない違法な文章となっているのは明らかです。このように安倍内閣は第一次政権の時から、技術的助言を悪用しお得意の違法なことをやっていたのです。

 

2 特定区画漁業権の免許の適格性及び優先順位

・組合管理漁業権として魚類小割り式養殖業を内容とする特定区画漁業権の免許を受けている組合の唯一の行使者が法人組合員であるような場合、(中略)明らかに組合管理漁業権として免許を受ける適格性はないので、法第18条第2項に従い優先順位第二位以下の申請者に免許することとなることに注意されたい

 

・この件については、このブログ「知事は国の「技術的助言」に従う義務はない ―農水大臣の国会答弁を信用してはいけない-」(2018年11月23日付)で詳しく述べましたが、これも違法です。なぜかというと、「適格性はない」「免許することとなる」と、あたかもそれが規範であるとして地方を拘束しているからです。衆議院総務委員会での片山国務大臣発言「規範性を持つとか拘束性を持つようなものを出したとすれば、これは違法」に該当するからです。

 

・国は一体何が言いたいのでしょうか。要するにクロマグロ養殖場の規模が大きく1漁場1経営体がほとんどであることに目を付け、優先順位第1位の組合管理漁業権ではなく、第2位の個別経営体漁業権として免許せよとしていることです。つまり企業による養殖業を組合管理漁業権から外すのが狙いです。

 

・では、そのような規定は漁業法のどこに書かれているのでしょうか。どこにもありません水産庁の担当者が勝手にそう言っている(ほざいている)だけです。「イヤーここにある」というなら改正前の漁業法の何条何項に書いてあるのか具体的に示してほしいです。

 

・思い出してください。そもそも技術的助言の「技術的」とはどういう意味だったでしょうか。そうです「恣意的ともいえるような判断又は意思を含まない意である」という意味です。

 

・よって、この技術的助言には露骨な「恣意的な判断」が含まれていることは明白です。こんなでたらめな技術的助言をよくも発出したものです。規制改革の言うことには違法な行為をしてでも従うのはモリカケ問題と同じで、安倍政権下にある堕落役人に見られる共通項です。

 

・なお、この客観的根拠もないのに担当者が勝手にそう決めつけた恣意的な判断を地方に押し付けるやり方は、ちょうどいま議論になっている新資源管理問題においても見受けられますので参考までに付言します。東京海洋大学名誉教授の櫻本和美先生が、MSY理論に適応しない変動をする資源に対し、水研がホッケー・スティック型モデルを無理やり当てはめようとするのを

 

「我々(水研)は○○というルールを設定し、そのルールに基づき計算した」ということを述べているだけで、そのルールが科学的に妥当なものであるかどうかの説明は一切ありませんでした。

 

と、このブログへの投稿において批判していますが、その構図と全く同じです。規制改革からの指示であれば、法的にも科学的にもその根拠を説明せずに平気で嘘をつくのは安倍政権を支える国の役人だけでなく研究者も同じだということです。

 

・なお、上記2の違法な技術的助言にマグロ養殖免許を有する全国の15府県のうち三重県を除く14府県が従わなかった(無視した)ことは誠に適切な対応だったといえます。今後もこのように国の違法な技術的助言には、地方分権の理念にのっとって地方は絶対従わないことが必要となってきます。

 

3 漁業権行使料の徴収に関する透明性の向上

 ・漁業法第8条第2項に規定する漁業権行使規則では、組合員が遵守すべき事項を定めることになっており、それは水産業協同組合法に基づき、総会において議決することになっている。

・また、水産庁長官通知「漁業権行使規則等の作成について」により、漁業権行使規則において漁業権管理費の負担(行使料の徴求)を定めることとしている。

・漁業権の管理に要する経費とは、漁業権の管理上必要な組合の負担する経費をいい、具体的には、漁業権にかかる監視取締、漁場環境保全、資源管理、資源増殖、施設維持管理等直接漁場の管理に必要な経費のほか、管理上必要な通信費等の間接的な経費も含めて差し支えない

・しかしながら、漁業権の管理に要する経費とされる行使料の目的を歪曲した不要の経費が含まれることは厳に避けなければならない

・また、行使料の算定に当たっては、例えば漁場利用の程度を反映するような算定式を用い具体的金額を明示した上で総会で決定する等透明性の確保を図ることが重要である。

・特定区画漁業権の内容たる区画漁業が優先順位第二位以下の申請者に免許された場合、組合管理漁業権ではないので当然のことながら行使料を徴収することはできないことに留意されたい。

 

・地元に1円たりとも負担金を払いたくない企業の利益代弁者である規制改革の意向に沿ったものであり、これも技術的助言ののりを著しく逸脱した違法なものといえます。なぜかというと、技術的助言は法律の解釈・運用の一つの例を示すに過ぎません。よって、この場合地方が守らればならないないことは、漁業法第8条第2項に基づく漁業権行使規則において組合員が遵守する事項を定めよ、また、その行使規則は水産業協同組合法に基づく組合総会で議決せよ、という手続きだけであり、その行使規則の中身については、法律は全く規定していません。それは地方が判断すればよいことです。

 

・よって、すでにこの段階で上記の技術的助言の違法性が明白になってきます。行使料はこうあるべきとか法律に定めは全くありません。水産庁長官通知というものが出てきますが、これを引用すること自体が違法です。地方分権改革で国は地方に余計な口出しするなという趣旨で自治事務が定められ、それまでの長官通知などの各種文書の発出が禁止され、技術的助言に一本化されたのです。以下の国会答弁によれば、水産庁長官通知そのものが基本的に無効であり、場合によっては違法となります。

 

片山国務大臣国会答弁(平成 23 年3月 10 日)

政府が自治体に対して出す通知、これは二〇〇〇年の地方分権改革以来、基本的には無効であります。場合によっては違法であります。あるとすれば技術的助言などであります、その範囲に限られるということ。

 

・仮に文末が「・・ということも考えられます」の表現であれば一つの参考を示しているので、ぎりぎりセーフかもしれません。しかし、それぞれの文末が「・・・も含めて差し支えない」「・・・厳に避けなければならない」「・・・を図ることが重要」「・・・徴収することはできない」の表現は完全に技術的助言のルール違反であることはもう何度も説明しました。単に水産庁の担当者が、規制改革にへつらいなんの法的根拠もなく、偉そうに拘束性のある文書を勝手に「おべんちゃら」で書いているだけのことであり完全に違法です。

 

(3)3回目(2012年)漁場計画の樹立について(第3回平成24年)

・3回目の技術的助言の内容はかなりの長文ですが、その内容は実務的なものばかりであり、第2回目にあった規制改革の意向を高圧的に押し付ける違法な内容が全くなくなり、漁業者にとってはほぼ第1回目と同様な適切な内容に戻りました。不思議ですね。なぜでしょうか。

・その理由は、2009年9月に民主党政権に移行した後、2010年3月末に「規制改革会議」が廃止されたからです。(^^)/

改悪された漁業法を元に戻すには再度の政権交代が必要ということを強く示唆していますね。

 

(4)4回目(2017年)漁場計画の樹立について(第4回平成29年)

 

・2012年末、衆議院議員総選挙で自民党が大勝し第2次安倍政権となり、またしてもあの「規制改革会議」が2013年1月に復活しました。(*’ω’*)

さて、では4回目の技術的助言はどうなったのでしょうか。お察しのとおりです。第2回目と同じく規制改革の意向を踏まえた違法性満載の技術的助言に戻りました

 

・では何が復活したかは第2回目にあった

①1漁場1行使者の区画漁業権の場合は、(企業を組合の管理下に置かないために)特定区画漁業権として組合に免許するのではなく、経営者に直接免許とすること。

②(企業の負担となる)漁業権行使料は極力とるな。

です。

・さらに4回目において新規に追加されたものがあります。それは

③漁業権行使料以外の支払い金についても、(企業の負担になるので)使途を限定した最小限とすること。

④企業の新規参入を促進すること。

 

・以上①~④は法律のどこにも明示されていないことであり、技術的助言としては規範性を有し地方を拘束する表現であることから、当然ながら違法です。特に悪質なのが④ですのでその内容をいかに少し詳しく説明します。

 

6.養殖業への円滑な新規参入の促進

(要約)

水産基本計画において漁業者が企業との連携を図っていくことは重要とされている。

・地先水面を総合的かつ高度に利用するため、組合等と調整しながら、企業等の新規参入が円滑に進むよう留意

・この際、新規参入企業等のニーズと地元地組合等との間の仲介・マッチングに積極的に取り組むことが重要

 

まさに、この部分は法律のどこにもそのような規定はなく、規制改革の意向をそのまま汲んだ水産基本計画を引用し、中立・公平であるべき地方行政が一部企業の利益に加担せよとの一言に尽きるものであり、地方独自の判断などを完全に無視していることから、技術的助言としては違法です。

 

以上、安倍政権下において発出された第2回、第4回の技術的助言がいかに違法なものであったかを振り返りましたが、後編では、漁業法の改正後の初の技術的助言が、さらにその違法性をどう高めたかについて検証していきたいと思います。

 

以下後編に続きます。

 

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