水産庁は、令和2年8月8日付の「資源管理基本方針案についての意見・情報の募集について」において「資源管理基本方針(案)」を公表しました。締め切り日は9月6日。
正直に言って改正漁業法における新資源管理の中身にはもううんざりです。というのは、このブログでご紹介してきました東京海洋大学名誉教授櫻本和美先生と水産庁・水研機構との間での「新資源管理」に関するやりとりの経緯を見ていても、パブリックコメントへの回答も同じように「はぐらかし」「意味不明」「無回答」であろうと容易に想定され、何の期待もできないからです。
特に桜本先生から「科学的正当性のないMSYをベースに実施される資源管理に科学的正当性はない。」と明確に否定され、専門家である水研の研究者さえその指摘にまともな回答ができないという新資源管理のでたらめさがますます鮮明になってきました。桜本先生は国の水産政策審議会の会長職にあった方です。その資源管理学者からこれは明らかに間違っているといわれているにもかかわらず、今回の資源管理基本方針案(以下「方針」)の中身は、これまで国が説明してきた内容と全く同じです。中身を変えずに国はそれを強行しようとするのです。
これは、偉い先生がそう言っているからだけでなく、私自身も間違いなく新資源管理は現場における資源変動に適応していないので、失敗に終わると思います。私は学者ではありませんが、水産庁で6年半にわたり資源管理に携わり、資源回復計画ではマサバ太平洋系群や瀬戸内海のサワラなどでそれなりの成果もあげてきました。また、退職後8年間は漁業の現場にいて、特に最近の5年間は毎日市場にいて漁船の水揚を見ています。机の上で判断している行政官や研究者には感じられない、水温などの環境変化に大きく影響を受ける資源の変動の実態を見て、人間が机の上で考えたMSY理論に基づく数量管理などでは、資源は絶対管理できないと体で感じているからです。人間ができることはその変動にいかに適応していくかです。管理すべきは資源ではなく環境に悪影響を与える人間の方です。
今回の方針は現場に混乱を起こすだけで、必ず失敗すると思います。しかし、何度言っても国は聞く耳を持ちません。まともな国の行政官や研究者なら必ずわかるはずです。しかし、新たな資源管理とは漁業者から要望したものではなく、規制改革推進会議という内閣直属の組織からの指示なのでそれが間違っていようが逆らえないのです。規制改革は企業利益のためTACとIQ制度を拡大し、将来のITQ制度へとつなぎ、魚という共有資源を漁業者から取り上げ、私物化しようとしているのです。その魂胆を「適切な資源管理と水産業の成長産業化の両立」というきれいごとで覆い隠しているのです。
今の国の姿をわかりやすく例えますと、人間に化けたつもりの狸が「そこの狸さん!後ろから大きなしっぽが見えているよ!」と何度人間から注意され笑われても、「いえ、私は人間です」と言い張っているような滑稽さと哀れみを感じます。そのような方針に何かふさわしい名称を考えたいと思います。「嘘の上塗り基本方針」がよさそうです。しかしその意味は「嘘がばれそうになった時、さらなる嘘で隠そうとすること」なので、どうもしっくりきません。なぜなら、「さらなる嘘で隠そうとする」ことさえ国はしないからです。
それよりも、「毒を食らわば皿まで方針(略して「毒皿方針」)」と称した方がフィットするかと。なぜならその意味が「一度悪いことをしてしまったのならば、徹底的に悪事を行い、悪に徹しよう」だからです。もう規制改革からの命令で漁業法が大改悪された以上、MSYの嘘が暴(あば)かれようが、少ないTACで漁業が衰退しようが、知ったことではない、と開き直って悪に徹しているようにしか思えないからです。
このような確信犯的な方針に対し、新たにコメントすることは正直言って空(むな)しい限りです。しかし、放っておくと「嘘も100回言えば真実」になりかねません。ちょうど良いことに、長かった安倍政権もようやく終焉を迎えました。漁業法改悪の元凶であった規制改革の後ろ盾の安倍長期政権が終わったのです。今が反撃のチャンスです。うんざりしようとも、何度でも新資源管理に対しその誤りを指摘し、反対の意思を表していく必要があります。
ということで、漁業関係者から方針へのコメントの提出において参考になればと、方針におけるその代表的な問題点を指摘し、それへのコメント案を示しておきたいと思います。資源や漁業の特性は一律ではありません。地域ごとに異なります。よって、全国各地の漁業者が身近に感じている資源管理の状況に当てはめ、それぞれの現場の実態をもとにしたコメントを提出していただければ幸いです。
なお、以下のコメント案作成にあたっての考え方を簡単に述べておきたいと思います。
すでに法律は成立しております。よって、法律で決まったことを否定したり、変更せよというコメントを出しても、「それは法律で決まったことです。変更できません。」という回答しか返ってきません。よってコメントでは法律で決まったことの今後の実施過程に着目し、そこに注文を付けそれを方針に書き込ませるというやり方となります。
例えば法第8条第1項では「漁獲可能量による管理を行うことを基本としつつ」とありますが、個々の魚種ごとにそれを当てはめ実施していく場合には、その前提となっている科学的根拠等が備わっていなければいくら法律で決まっているといっても、その対象にはなりえないというわけです。それでも強行してくるなら司法の場に出て「法律の趣旨に反する非科学的な運用はやめよ」と訴えるだけです。法律は否定しようがありませんが、その運用における非科学性、違法性に着目してそれを阻止するのです。
今回の新資源管理は、現場の実態をもとに積み上げた資源管理施策ではなく、「こういうやり方でやれ!」という、資源管理のど素人の規制改革からの一方的な命令に従っただけで、その施策を実施するうえで必要となる前提条件については、考慮していません。動機が不純なのに、さも立派なお題目として「科学的根拠に基づく漁獲可能量による資源管理」という嘘を言うのです。よって「ではその科学的根拠をお聞かせください」と詰問されるとドツボにはまってしまうのです。
よってその前提条件が備わっていない場合にあっては、その点を徹底的に指摘し、力ずくの押し付けに事実をもって抵抗していくのです。これにより国のたくらみを「(嘘の)笛吹けど踊らず」の状態に持っていきたい、そういうのが以下のコメントの狙いです。手の内を明かしてしまいましたが、別におかしなことを言っているのではありません。当たり前のことを淡々と国に要求していくだけです。
1 方針p2-3について 漁業生産量の減少については、様々な要因が考えられるが、適切な資源管理を行い、水産資源を維持できていれば、その減少を防止・緩和できたと考えられるものが多い。 |
・一見もっともらしいことを書いていますが、では「適切な資源管理を行い、水産資源を維持できていれば、その減少を防止・緩和できた」と考えられる魚種は何でしょうか。具体的に示されたことがあるのでしょうか。一度もありません。
・例えば、TAC対象魚種のサンマ、スルメイカの過去の漁獲量は、ABC(生物学的許容漁獲量)を一度も上回っていないのに、近年の資源が激減しました。ではこれに対し、どういう適切な資源管理を行っていれば「その減少を防止・緩和できた」というのでしょうか。
・さらに放流魚であるサケマスについてはどのような管理を行えば「その減少を防止・緩和できた」というのでしょうか。これらはどう考えても環境変動により引き起こされた資源の減少と思います。
・もちろん、急に漁船数が増えたとか、以前よりも操業回数が増えたとか、漁獲努力量の増加が原因で資源が減少したことが、データで示されたなら漁業者も理解できます。しかし、そのデータを示さず、親がいてもなぜか加入が少なくなるという環境変化による減少なのに「適切な資源管理が行われなかった」という漁業者原因説にすり替えるとすれば、到底受け入れられる方針ではありません。環境要因による資源量の減少対策は資源管理の問題ではなく、漁業経営対策の問題です。
・今回の漁業改革においてみられる共通点として、その改革を必要とする理由を、「資源管理は大切」という人々の感情に訴える抽象的な表現にとどめるだけで、具体的な裏付けデータが提示されないことです。例の漁業権免許の優先順位の廃止においても、その法律改正の根拠となるそれが問題となっているという「立法事実」が1件も存在しないにもかかわらず、抽象的に「‥のおそれがある」で法律改正(改悪)を強行したのも同じ手口です。
・なぜこの方針でも「考えられる」とだけで、そのデータを示さないのでしようか。それは、そのような実態がない中で、資源の減少をすべて漁業者の責任として今後のTACを削減したいからと思わざるをえません。TAC対象魚種の比率を8割まで増加しようとする目標は、なんの根拠もない結論ありきの方針です。
よって上記カッコ内の1に対するコメントとしては以下が適切ではないかと考えられます。
(上記1に対するコメント案) 国が新たな資源管理方策を適用しようとする魚種については、その減少した要因が漁獲努力量の増加によるものであり、環境変動による再生産成功率の減少等ではないことが具体的データにより関係漁業者に提示され、その理解を得た上で導入することとされたい。
なお、資源減少の主要因が環境変化によるものである場合の対策は、新資源管理施策によっても効果が期待されないので、漁業経営対策の拡充により対応されるようにされたい。 |
2 方針p3について 近年の漁獲に係る技術革新により、船舶の隻数、トン数等当たりの漁獲能力が増加し、船舶の隻数、トン数等の制限による管理の手法が限界を迎えつつあり、むしろ、漁獲量そのものの制限に転換しなければ水産資源の持続的な利用の確保が十分になし得ない状況となった。 |
(技術革新について)
・ここにおいても一見もっともらしい素人受けする記述がありますが、では「技術革新により漁獲能力管理手法が限界を迎えつつある」とする漁業種類と対象魚種についての具体的データが示されたことがあるのでしょうか。一度も提示されたことがありません。これも思い込みだけでなんの根拠もないのです。
・そもそも、漁獲能力とは、単一の漁船の能力だけを見ては判断できません。その資源を漁獲するすべての漁船の能力の総和です。近年の日本の漁船隻数は平成5年からの20年間で半減しています。また、漁業経営の悪化により残存漁船の老朽化が進みその漁獲能力も劣化しています。
・よって、国に対しそのような事実があるというのなら、技術革新による漁獲能力の増大とその一方における漁獲能力の減少との差を明らかにするデータを提示させる義務を負わせる必要があります。
・なお、現場の常識で考えて最新漁船と既存の漁船を比較し、前者の漁獲量が倍増するなどはまずありえません。魚は畑の大根とは違い広い海原を泳ぎ回っており、魚群との遭遇率は探査機器の性能よりも探査に当たる漁船数や、偶然の方に大きく左右されます。現に伊勢湾のサワラ流し網漁業では、少し離れただけの隣の船が200尾で自分の船が20尾というようなことがざらにあります。また一般論として、漁労機器の性能が高まっても漁船の乗組員数、魚層の大きさ、鮮度保持などの面から積載量が限られ、それ以前の2倍以上も連日漁獲するなどは、作業の面から無理だからです。
・むしろ個々の漁船の技術革新以上に漁船の総漁獲能力全体は減少しているのが現場の感覚であり、国がこの技術革新を理由に新たな資源管理方策を適用しようとするのなら、対象漁業及び魚種における総体としての漁獲能力の変化に関するデータを提示する義務が国にあると思います。そうでない限り単なる観念上の「技術革新により漁獲能力管理手法が限界を迎えつつある」とする方針を漁業者は受け入れることができません。
(漁獲量そのものの制限に転換について)
・仮に技術革新により全体の漁獲能力が増大したとしましょう。ではなぜそれが、直ちに「漁獲量そのものの制限に転換しなければ水産資源の持続的な利用の確保が十分になし得ない」のでしょうか。論理が飛躍しています。もちろんこれも単なる「思い込み」であり根拠がありません。
・漁船の漁獲能力の向上そのものは決して悪いことではありません。その使い方次第で資源に与える影響を十分調整できます。今私が今いる答志支所では、土曜日と火曜日の完全週休2日制に移行しました。夏季のバッチ船曳網漁業においてはなんと週休3日です。漁獲能力の向上のおかげで漁獲量を減らすことなく休日を増やすことができました。これにより若い後継者が定着し、島外からの嫁さんも多く来るようになりました。もちろん、これは漁獲能力の向上が資源管理に悪影響を与えないための方策でもあります。
・このように、漁獲能力の抑制には漁期制限、隻数制限、漁場制限、漁具制限など多くの手法があり、その中から地元漁民が最もふさわしいと思う手法を導入すればよいのです。もちろん漁獲量規制も対象資源の特性や地域の社会経済的状況に合わせ、地元漁業者がそれを望めば導入することは否定しません。言われる前からその方式を取り入れているところもあります。
・そもそも資源管理とは漁獲率(間引き率:F値)の調整ですので、それを努力量規制でやろうが漁獲量規制でやろうが、効果としては同じであり手法による効果に差があるわけがないからです。
・にもかかわらず、方針が根本的に間違っているのは、いきなり漁獲量制限しかないと結論付けることです。よって、どうしても国が漁獲量制限を押し付けるなら、そのほかの手法によっては資源管理ができないという地域の現実を踏まえた客観的証拠を提示する義務を負わせ、漁業者に納得してもらう必要があります。
・単に漁業法が変わったのでそうするは理由になりません。法律のどこを読んでも「漁獲量制限以外は適用してはならない」と書いていません。そんな非科学的なことを法律に書くはずがありません。現に資源回復計画の成功事例であるマサバやサワラでは、休漁などの漁獲努力量制限で回復しています。
・さらにホッケ道北系群についてTAC拡大の最優先候補として国は力ずくで北海道に押し付けようとしていますが、関係漁業者による漁獲努力量制限の効果で、資源は回復に向かっています。だから、漁獲量制限でなければだめだという理由が説明できずに、国は困っているようです。もう安倍内閣も終わったのですから、悪の根源の規制改革に従う必要もないかと思います。
よって上記カッコ内2の文章に対するコメントとしては以下が適切ではないかと考えられます。
(上記2に対するコメント案) 国は新資源管理方策の対象とする漁業と魚種において、「漁獲に係る技術革新により、漁獲能力の制限による管理の手法が限界を迎えつつある」とする具体的データを示し、関係漁業者の理解を求めることとされたい。
また、上記の漁業と魚種において、漁獲能力が増大していることが具体的データで客観的に立証された場合にあっても、「漁獲量そのものの制限に転換しなければ水産資源の持続的な利用の確保が十分になし得ない」とする根拠である、漁期制限、隻数制限、漁場制限、漁具制限などの手法を用いては漁獲能力の削減ができない理由を明らかにし、漁業者の理解を求めることとされたい。 |
3 方針p3-7について ・資源管理は、水産資源ごとに、最新の科学的知見を踏まえて実施された資源評価に基づき資源管理の目標を設定し、当該資源管理の目標の達成を目指し漁獲可能量による管理を行い、最大持続生産量を実現できる資源量の水準を維持し、又は回復させることを基本とする。
・資源管理の目標として、法第12条第1項第1号の目標管理基準値及び同項第2号の限界管理基準値又は同条第2項の資源水準を維持し、若しくは回復させるべき目標となる資源水準の値を定め資源管理の目標は、漁獲可能量を定めることにより実現を目指す資源水準の値を対外的に明らかにするものであり、透明性及び客観的な根拠をもって資源管理を行うために特に重要である。 |
この部分は今回の方針の最大の問題点であります。その理由は以下の2点です。
問題点1:漁獲量が大幅に減らされること
これまでもTAC制度での資源管理目標はありました。それは、以下の図のように、最低限の親魚資源量水準(Blimit)への回復でしたが、新資源管理においては、MSYを達成する水準へと変更されました。それだけを見ると資源が増えて漁業者が困ることはないように見えます。
しかし、目標を高く掲げることにより資源は増えますが、漁獲量は逆にこれまでより減らされることになります。ところが、上の図は狡猾にも漁獲量を示さず資源量のみで、あたかも漁獲量も同様に増えるがごとき錯覚を与えています。しかし、以下のスケトウダラ日本海系群の図を見れば一目瞭然です。
なぜこんなことになるのかは、目標を高く設定すれば、その分漁獲量を減らさないと達成できないからです。つまり新資源管理は「資源の増大と漁業の衰退を両立させる」のが目的であるからです。ではなぜこんな新方式を導入しようとするのでしょうか。それは規制改革の狙いが海の資源をまずTACの対象として、次に個別に割当て(IQ制度)させ、さらにそれを譲渡可能にする(ITQ制度)にあるからです。これにより海の資源を現在の共有資本から私的資本に移行させ、その売買で企業が儲ける(その時には漁業者は小作人になる)ことができる。これはすでに外国にある制度に移行することが最終目的であるためです。それには新資源管理方式により「資源を増やし漁業者を減らす」ことが彼らに最も都合がよいからです。
問題点2 MSY理論は現実の資源変動に適用できないこと
これは東京海洋大学名誉教授の櫻本和美先生が「科学的正当性のないMSYをベースに実施される資源管理に科学的正当性はない」と厳しく指摘している点です。わかりやすく言えば、MSYは天動説のような嘘の理論です。昔科学者は、星は地球を中心として回っている天動説(親が増えると子が増える、人間が資源を管理できる)を唱えてきましたが、望遠鏡の発達による観測でガリレオは、地球が星の周りをまわっている地動説(親が増えても子は増えないか逆に減る、環境が資源を変動させている)を発見したわけです。
TAC制度が開始された当時にはそこまで研究が進んでいなかったのですが、最近の外国の研究者により、224系群の再生産関係を調べたところ、その84%で、子の量は親の量によって説明できず(子は親と無相関か負の相関を持つ)、環境変動の影響の方がはるかに大きいことがわかりました。これによりMSY理論の科学的根拠に適応する魚種はほとんどないことが明らかになったのです。
さらに、以下の図をご覧ください。これは桜本先生ご自身が明らかにされた一つの事例ですが、資源の加入変動は親魚量よりも、太平洋10年規模振動指数(PDO)、北極振動指数(AO)という環境要因をもとにするとうまく再現できたのです。MSY理論ではこの資源の加入変動を説明できません。資源の変動は主として環境変動によって決定されると考えてもよい根拠となるデータだと思います。
以上の二つの研究成果を見ても、TAC制度の基礎となってきたMSY理論が実は間違っていたというのは正直漁業関係者にとって衝撃的なことと思います。しかし、なるほどという裏付けが身近にあります。現に日本のTAC対象魚種の7魚種(最近対象となったばかりのクロマグロを除く)のうち減少しているのが5魚種ですが、サンマや、スルメイカなどは獲り過ぎというよりも明らかに環境変化によるものと考えた方がよいでしょう。一方、増加したのはマサバとマイワシの2魚種しかありませんが、これは漁獲量を規制したというよりも、主たる要因は再生産成功率が環境変化により上昇し、マサバの場合はそれに加え小型魚保護のための休漁を行ったという要因によるもので、TACによる数量管理の効果ではありません。これらを見てもわかるように、MSY理論に基づく数量管理こそが世界のスタンダードなどと言っている研究者は、現実に目を向けず、今だに天動説を信じる宗教家と同じであり、科学者とはいえません。
MSY理論が誤っているために、どのような不都合が漁業者に生じるのでしょうか? それは、MSY理論が誤っているために、実際の再生産関係のデーからは、非現実的に大きなMSYしか計算できないという問題が生じています。そこで、国は、ホッケースチィックモデルという、一定の親魚量以上になると加入量が増えないという再生産モデルを用いて、強制的に妥当と思われる(妥当というのは、過大になりすぎないというだけの意味しかありませんが)MSYを計算しています。しかし、一定の親魚量以上になると加入量が増えないという再生産モデルを用いているので、いくら資源が増えても、漁獲量は増えないという構造になるため、新資源管理を受け入れると、漁業は衰退産業化するしかありません。
以上説明が長くなりましたが、上記3に対するコメント案は以下の通りです。
(3 方針p3-7に対するコメント案) 最大持続生産量を実現することができる水準に資源水準を維持し、又は回復させることを基本とする漁獲可能量管理を用いる場合においては、その資源管理の科学的根拠となる親子関係が密度効果により成立することが科学的に立証されていることを透明性及び客観的な根拠をもってデータにより示し、関係漁業者の理解を求めることとされたい。
また、その資源管理の科学的根拠をもとに採用した管理モデルにより過去の資源変動が再現できることを透明性及び客観的な根拠をもって具体的に示されたい。
なお、対象資源に親子関係が見られない魚種、管理モデルによる過去の資源変動の再現ができない魚種、その変動が漁獲よりも環境による影響を大きく受けておりその科学的な資源変動予想が困難な魚種については、漁獲可能量管理によらず、資源変動があっても目標とする漁獲割合に調整が可能な漁獲努力量管理を用いることされたい。 |
4 方針p7-8 について ア 漁獲割当てによる管理 漁獲量の合計が管理区分ごとの数量の上限に達した時点で行政庁が採捕を停止させる方式では、先獲り競争による過剰な漁獲及び漁業時期の著しい短期化による経営の不安定化を招くおそれがある。
このため、資源管理の実効性を確保し、計画的な漁獲による漁業経営の改善等に資する漁獲割当てによる管理を漁獲量の管理の基本とする。漁獲割当ては、それぞれの管理区分において、特定水産資源を採捕する者に対して、船舶等ごとに、管理区分ごとの数量の範囲内で特定水産資源を採捕をすることができる数量を割り当てることにより行うものである。
|
これはいわゆるIQ制度の押し付けです。資源管理上の観点からは、同じ100トンであれば、それを漁業者ごとに分割しない場合と、した場合において何ら資源管理効果に変わりがありません。しかし、国はこのIQをTAC対象となった漁業においては管理の基本とするとしています。もちろんその目的は、将来のITQ制度への移行への魂胆からです。よって、これについては反対していく必要があります。
そこで問題となるのはIQでないと「先獲り競争による過剰な漁獲及び漁業時期の著しい短期化による経営の不安定化を招くおそれがある」としている点ですが、これも完全なるフィクション(作り話)です。これまで規制改革の議論において、先獲り競争している地域、漁業種類などが具体的に指摘されたことは一度もありません。外国ではあり得ても日本において「先獲り競争」をしているバカな漁師はいないのです。
よって、「先獲り競争のおそれ」がなければ、国はIQを強制できません。このため漁業者側がそれを証明していく必要があります。例えば私が経験した熊野と今の答志島においては、先獲り競争は全くありません。なぜなら、出漁の可否、操業開始時間・終了時間、使用する漁具数制限、漁場の輪番使用など、関係漁業者が平等に資源にアクセスするための厳しい規則にもとづき操業が行われているため「先獲り」しようがないのです。
しかし彼らもそこを十分承知のうえで、それでもIQを押し付けるために先獲り競争が生じている事実ではなくて「…を招くおそれがある」としているところが狡猾な点です。いくら説明しても彼らは「イーや、おそれがある」と強弁してIQを押し付けてくるのは目に見えています。よって、その恣意的な判断をさせないように、「おそれがあるのかないのか」を誰が、どういう基準に基づき判断するのかを事前に明確にさせ、関係漁業者の理解を求めることを方針に事を盛り込むよう要求することが必要となります。
(4 方針p7-8 について ア 漁獲割当てによる管理に対するコメント案) 漁獲割当てによる管理の必要性が求められる「先獲り競争による過剰な漁獲及び漁業時期の著しい短期化による経営の不安定化を招くおそれがある」場合について、誰が、どういう基準に基づき「おそれがある」と判断するのかを明示し、関係漁業者の理解を得るようにされたい。 |
5 方針p13について 第5 特定水産資源ごとの漁獲可能量の都道府県及び大臣管理区分への配分の基準 1 特定水産資源ごとの漁獲可能量の都道府県及び大臣管理区分への配分の基準 特定水産資源ごとの漁獲可能量の都道府県及び大臣管理区分への配分の基準は、漁獲実績を基礎とし、当該特定水産資源を漁獲対象とする漁業の実態その他の事情を勘案して定めることとする。 |
ここでは、都道府県(沿岸漁業)と大臣管理漁業(沖合漁業)との間でのTACの配分方針を規定しています。これの点に関しては今回の漁業法改正において重要な変更がありました。それは、旧TAC法にあった「漁業の経営その他の事情を勘案して定めるものとする」という規定を削除したことです。これは国連海洋法第61条の「TACを決定するにあたり、経済上の関連要因(沿岸漁業社会の経済上のニーズ)を勘案」に違反するものです。
また、クロマグロに関しては国際的取り決めの根拠となっているWCPFC条約第5条(h)において締約国は資源の保存管理において「零細漁業者及び自給のための漁業者の利益を考慮に入れること」となっています。
さらに、FAOの持続的漁業の行動規範や国連の持続的開発目標(SGDs 14.b)では、小規模・伝統的漁業者への特別な配慮の必要性が定められています。
にもかかわらず、これまで国はこれらの国際条約を全く勘案・考慮せず実績のみに基づいて機械的に配分しています。
よって、この国際法違反を正すために、沿岸漁業への特別配慮義務を定めた国際条約の該当条項を方針に明記させるとともに、具体的にどう勘案し配分したのかを、そのTACを審議する水産基本政策審議会において報告させる義務を負わせる必要があると思います。
以上を踏まえたコメント案は以下となります。
(5 方針p13について に対するコメント案) 「特定水産資源ごとの漁獲可能量の都道府県及び大臣管理区分への配分の基準は、漁獲実績を基礎とし、当該特定水産資源を漁獲対象とする漁業の実態その他の事情を勘案して定めることとする。」においては、各種国際条約に規定された沿岸漁業や零細漁業者の利益への考慮義務が明記されていないところ、上記下線部に以下の下線部を追加されたい。
「当該特定水産資源を漁獲対象とする漁業の実態、国連海洋法条約第61条に規定された沿岸漁業社会の経済上のニーズ、WCPFC条約第5条(h)に規定された零細漁業者の利益、FAOの持続的漁業の行動規範や国連の持続的開発目標(SGDs 14.b)に規定された小規模・伝統的漁業者への特別な配慮、その他の事情」
なお、国はTACの審議にあたる水産政策審議会において、これらの国際条約に規定された零細漁業者の利益をどのように勘案・考慮したのかを、TACを定める審議ごとに数値により提示するようにされたい。 |
6 方針p32について (別紙2)特定水産資源の資源管理方針(別紙2-1)くろまぐろ(小型魚) 4 都道府県別漁獲可能量及び大臣管理漁獲可能量の超過分について 前管理年度で都道府県別漁獲可能量又は大臣管理漁獲可能量を超過した場合には、前管理年度終了後1月以内に超過量を確定し、当該管理年度の漁獲可能量を前管理年度における超過量を差し引いた量に変更する。この場合において、原則として一括で超過量の全量を一括で差し引くこととし、一括で差し引くことができない場合には翌管理年度以降に分割で差し引くこととする。 |
これはTACを超過した場合に、次年度以降のTACからその超過分を差し引くということです。しかし、ここで大きな疑問が生じます。例えば、クロマグロ資源管理に関し、大型定置網漁業で大幅な漁獲量の超過がありました。しかし、定置網漁業の漁法では、漁船漁業のように積極的に魚群を追いかけることができず、漁獲圧力は一定であることから、このTAC超過は漁獲圧力を高めた結果ではなく、これは想定以上の加入があったためと思われます。
ということは、TACの前提となった予測資源量(加入量)を、間違って実際より低く推定してしまった国にその責任があり、仮に国が正しい資源量推定を行っていれば、当然TACも増えていたことから、超過漁獲が生じなかったことも十分考えられます。
にもかかわらず、この方針ではその超過分を直ちに翌年のTACから差し引くこととしており、これでは国の間違いの責任を漁業者の損失に転嫁することになり、民法上の不法行為に該当しかねません。よって国は、データが集積され資源量推定精度がより高まった後年度において、正しい資源量をもとに再計算されたTACをもとにした超過分をそれ以降のTACから差し引く方式にするべきだと思われます。
なお、大型マグロについても同様の記述が方針p46にありますが、ここも同様に以下の修正コメントが必要となります。
(6 方針p32について に対するコメント案) TACの超過漁獲は、国が予測資源量(加入量)を、間違って実際より低く推定してしまったことにより生じることも排除されない。よって、その超過分を直ちに翌年のTACから差し引くのではなく、データが集積され資源量推定精度がより高まった後年度において、その正しい加入資源量により再計算されたTACを超過した分を、それ以降のTACから差し引く方式に変更されたい。 |
以上コメント案でした。ご参考になれば幸いです。
おっしゃるとおりですね。クロマグロの資源管理に象徴されるように資源管理は重要ですが,漁業者がいてこその資源の意味があるわけで,毎年毎年,漁業者が高齢化等により減少している昨今,一番重要な政策は資源管理ではなく,後継者のいる経営体を如何に円滑に世代交代させるかです。
漁獲する者がいなくなれば,クロマグロもマダイも資源が減少しようが大して重要なことではなくなりますから。国民に良質な動物性たんぱく質を供給するという大義名分を忘れず,食糧需給率の向上という初心に帰ってもらいたいですが無理でしょうね。