守られなければ意味がない

  • 資源管理は現場でやるものだ!

 資源管理とは、『踊る大捜査線』の名言「事件は現場で起きているんだ」と同じです。ブログやツイッターの中に魚が泳いでいるのではありません。「では、お前もこんなところで、資源管理を語るな!」となり、自己矛盾を起こしていますが、相手もやっていることなのでご勘弁を。

それでは、前々回に引き続き質問形式から始めましょう。

(質問)あなたは一人の漁師です。魚の獲るのを半分にするための方法を仲間と議論しています。そこで、「何を決めても守られなければ意味がない」との意見が出ました。では以下の5つの方法を守られやすいと思う順番に挙げてみてください。

①操業期間を半分にする(漁期制限)

②操業隻数を半分にする(隻数制限)

③操業海域を半分にする(漁場制限)

④漁具の数を半分にする(漁具制限)

⑤漁獲量を半分にする(漁獲量制限)

(ヒント)

まず、それぞれのルールに従った操業をイメージし、次にあなたがそれに違反をしようとする漁師の気持ちになって、取締りはもちろん、周りの漁師の目もどうごまかせばよいかを、あれこれ考えてみることです。そんなに難しい問題ではないと思います。

 

 

(答)

この順番のとおりです。

 

私は、水産庁の本庁と地方事務所で、また出向先の宮崎県庁において、取締りの仕事を多く経験しました。机の上から指揮するだけでなく、自ら取締船に漁業監督官として乗船し、また釧路港で北転船の水揚げ量の立合検査も行い、宮崎県では暴力団による発砲予告の中、シラスウナギの密漁の取り締まりも現場で行いました。自慢できることではありませんが、違反の手口には詳しい方と思います。

 

●違反の手口入門講座

それでは、現場経験を踏まえ、なぜそういう順番になるのかを、取り締まる側のみならず、違反しようとする側の視点も含め、説明したいと思います。どちらの立場になるかわかりませんが、将来役に立つことがあるかも。

 

①操業期間を半分にする(漁期制限)

 2か月あった漁期が1か月に短縮されたとします。休漁期間中、船は港につないでいないとなりません。違反しようとするなら、夜陰に紛れてこっそりと出漁するしかないでしょう。しかし、エンジン音は消せない。港に隣接する家々には仲間の漁師が住んでいる。(私も実際に漁村に住みその能力に驚きましたが、漁師の皆さんは家の中にいても、遠くから聞こえてくるエンジン音を聞いただけで、誰の船かすべて特定できます)

夜が明けてくれば、「○○丸がいない」とすぐわかってしまう。漁業監督官が来ても一目瞭然。もうこうなれば、全く別の港から別の船を仕立てて違反するしか手はありません。しかし、そこまでして・・・。

このように、みんな休んでいる時に、自分だけ漁に出ることは実質上不可能なので、一番守られやすい制限といえます。私が、資源回復計画で「休漁」を最も重要な漁獲圧力削減手段に使ったのも、これが理由の一つです。

 

②操業隻数を半分にする(隻数制限)

10隻の船がいて、同時操業隻数を5隻に制限し、2隻でペアーを組み一日交代の輪番制で出漁するとしましょう。運動会でのタッチリレーのようなものです。しかし、出漁日でないからといって一日中港に停泊しているわけにはいきません。漁獲してきた魚を市場に運んだり、明日の出漁に備え、燃油や氷を積み込むためにその施設がある隣の港へと出入りする必要があります。

なら、その途中で違反操業してこようかとう出来心が起こっても不思議ではありません。もちろん沖で「アレー、船が1隻多い」となるかもしれませんが、操業中は自分のことで忙しく、周りの船の隻数をいちいちカウントする漁師はまずいません。もちろん取締船のレーダー圏内にいるときは、気を付けなければなりませんが、取締船から見て一体どの船が操業できない船か直ちに判断するのはできないはずです。

ということで、その気になれば少しくらいなら違反できる可能性がある制限といえましょう。 

 

③操業海域を半分にする(漁場制限)

漁業紛争とは、「漁場争い」と言い換えても良いくらいですので、資源管理のみならず、漁業調整の側面からしても海のルールの中で一番多いのがこの制限でしょう。そのため、最も多いのもこの違反ですが、それには、もともと守られにくいという側面もあるからと思います。

その理由は、漁法によって事情が違いますが、例えば、漁船と漁具が分離する刺し網や籠漁業のような漁法では、投網(籠)・揚網(籠)時のみ、違反海域に立ち入るだけで、外から見える違反の状態が長時間継続しません。

さらに、うかつにも操業に気をとられ取締船に気が付かず近づいてこられた時には、違反者はどうするでしょうか。まず直ちに漁具を切断します。その上で、ただ航行していたとか、潮流に流されだけとか言い訳をします。「その魚はどうした」と詰問されても、正しい海域で獲ったものと答えるのです。

また、漁船と漁具が一体となり操業するまき網や底引き網漁業においても、前者では魚を集める火船だけを違反海域に入れ、そっと魚を外側に引き出し、そこで網船がまく方法があると聞きます。後者では周りに取締船がいないときを見計らい、突然現れる可能性も考え、それまでの時間を想定し、違反海域に網を入れ一気に外側に向け網を曳いていく、などです。

このように、漁場規制は違反しやすい制限といえるでしょう。

 

なお、漁場規制で資源管理を行っていることが多い日本海の底引き網漁業の名誉のために申し上げておきますが、この場合は保護礁の設置とセットで行われることが多く、これを入れた水域では漁具が絡まり操業できないので、通年というか半永久的な確実なる漁場(保護水域)制限となります。

 

④漁具の数を半分にする(漁具制限)

対象となるのは、複数の漁具を使用する刺し網、籠、延縄、釣りなどの漁業となります。まず外観からは、どれだけの数の漁具を積んでいるかわかりませんので、その確認には立ち入り検査が必要となります。しかし、漁具が荒天や大型船にひっかけられるなどの事故で流出した場合に備え、予備の漁具を積んでいることもあるので、立ち入り検査を受けた時には、そう言い訳をします。

 

刺し網、籠、延縄は、一旦海に敷設してしまえば、全部でどのくらいの漁具が入っているかは、海の上からは誰にもわかりません。漁具に船名標識を付けるという規則になっていても、それを外して使用すれば、仮に取締船に引き揚げられても、それは私の漁具ではありませんと、言い逃れをします。

このように、漁具数の制限もかなり違反しやすい制限といえるでしょう。

 

⑤漁獲量を半分にする(漁獲量制限)

 結論から言えば、「ごまかそうとすれば、いくらでもできる」のが漁獲量制限です。その手口が余りにも多いことから、次の項目を立てて説明したいと思います。

 

  • 漁獲量のごまかし方の3つの区分

 

私の経験をもとにし、その手口を(1)時間的手口 (2)空間的手口、(3)技術的手口に3区分して説明しましょう。もちろんこれはたまたま知り得た手口であり、実際にはもっと多くの手口が存在すると思います。しかも、それは日々巧妙化し、取締りとそれを逃れようとする者の「いたちごっこ」となるでしょう。

 

(1)時間的手口

①不在時水揚げ

監督官が、漁獲量制限が守られているかをチェックするのは、水揚げに立ち会うことが基本となります。しかし、監督官が、24時間365日いることは無理です。となれば監督官の動向を逐一報告する監視役(用もなさそうなのにいつも同じ車が人が乗った状態で止まっているようなときは大体がそれ)を雇い、その情報により不在時を狙って水揚げする手口です。

 

②複数回水揚げ

監督官がいる時に全く水揚げしないとなると監督官から不審に思われます。また、毎日の水揚となると、不在時だけを狙っては操業の支障になり、鮮度も落ちます。そこで、漁獲物の一部を全部ですと称して監督官のいる時にあげ、残りを監督官がトイレ休憩や食事などで一時不在となった時に水揚げする手口です。なお、ある程度の大きさの船になるといわゆる「隠し魚層」を作り、上から見ただけでは簡単にわからないようにしていることもあります。

 

③複数船同時水揚げ

これは仲間との連携プレーが必要となります。市場のセリ時間が近づいてきたころを見計らい、複数の船が同時に入港し一斉に水揚げを始めます。監督官は一人又は少人数ですので同じ船の水揚を始まりから終わりまで立ち合いすることができず、それぞれの船の部分的立ち合いにならざるを得ません。その間隙を利用しごまかす手口です。

監督官がチェックするまで、「勝手に揚げるな、待っておれ」という方法もありますが、そうすると漁船の行列ができます。当然、その魚は当日のセリに間に合わず、翌日回しとなり二束三文ですから、漁業経営にとって深刻な問題となります。日々そのような状況では漁業そのものが成り立たなくなります。

なお、先般の中国のサンゴ密漁大船団も、集団で行動することで、限られた取締船につかまるリスクを減らすという作戦だったのかもしれません。

 

④おとり船水揚げ

監督官も公務員であり、検査ノルマもあるでしょう。そこで、必ず漁獲量を守る(操業日誌と水揚げ量が一致する)おとり船を仲間から順繰りに選びます。そして、その船を監督官の出勤時間も考慮し、最も立ち合いそうな時間帯と岸壁に入港させ、検査を受けさせるわけです。他の船は、その間に監督官のチェックを受けず水揚げする手口です。なお、おとり船に偏りが生じたような場合には、その減収分を仲間の船で補てんすることが必要となります。

 

(2)空間的手口

①沖での積み替え

港に入る前に、沖でほかの船に漁獲物を積み替える手口です。そう簡単なものではありませんが、小型船ならむつかしいことではありません。もともと沿岸漁船では、「沖売り」と称し、直接漁場に運搬船で買い付けにきた仲買人に魚を売る地域もあるぐらいですから。

 

②不在漁港水揚げ

日本には約3000の漁港があります。監督官が不在の港において漁獲物の全部又は一部を揚げる手口で簡単なことです。取り締まる方は、水揚げ港を特定することでそれを防ぎますが、特定すれば守られるというわけでもありません。

さらに、漁場との距離や市場間の競争の維持という観点から、どうしても複数の漁港を指定することになります。実際にあったことですが、ある船をどうも怪しいと睨んでいました。そこでA港に入るとの報告が来たので、監督官を向かわせました。ところが、直前になり「魚の値段がこちらの方が高い」との理由でB港に変更され、立ち合いができないということもありました。それはフェイント作戦であったと思います。

 

③不在岸壁水揚げ

漁港といってもその規模はさまざまです。よって大きな港で、監督官から見えない死角になった岸壁で、水揚げする手口です。ある時、離れた岸壁で水揚げしているらしき船があるという情報を得て、すぐに監督官が駆けつけましたが、その時はもう魚を積んでいない船が、ただ停泊しているだけでした。

 

(3)技術的手口

①氷の量でごまかす

魚は鮮度保持のため、水氷と一緒になって揚がってきます。計量時に、水は網や籠からだいたい流れ落ちますが、氷は分離できません。魚と氷を分けるなど手間はかかるし、鮮度も落ちます。よって、計量した重さから、見た目の氷の量を過去の経験値で引き算し、魚だけの重量を推定します。そこで、「自分の船は鮮度保持に気を使っているので、氷の量が多い」として、魚の重さを氷の重さと称し実際より少なく申告する手口です。一度に大きなごまかしはできませんが、塵も積もれば山となるです。

なお、トラックに直接積み込むような場合は、トラックごと計量することになりますが、なんとその計量機を不正操作していたということもありました。

 

②魚種の付け替え

漁業種類によって異なりますが、いろいろな魚種が混じって水揚げされるのが普通です。よって、選別時において、漁獲量制限をかけられた魚種、またはその割当量が少ない魚種を、そうではない魚種に付け替える手口です。

さすがに監督官の目の前で、「このサバのように見える魚はイワシです」とはいえませんので、監督官が見ていない時の手口となります。

また、国内では未だその違反事例は、聞いたことはありませんが、TAC対象魚種が多いほど優れた資源管理と思い込み、つい「微笑」してしまう資源学者のいる国では、少ない漁獲量割当の魚種(通常「微小クオーター」といわれる)の漁獲がその限度に達すると、同時に獲れるほかのTAC対象魚種が余っていても、操業停止となりますので、それを避けるため、その微小クオーターの魚種を沖で投棄してくる違反も発生してます。

このほか、値段の安い小さい魚を捨て、大きな魚だけを持ち帰ることもあります。

 

以上、漁獲量制限がいかに守られにくいかを、漁獲努力量制限と比較しご説明しました。

あまり大きな声で言えることではありませんが、かつての北洋漁業など漁船ごとの個別漁獲割当制度のもとにあった漁業において起こったことから判断すれば、漁獲量制限を取り締まりで守らせようとするのは、一時的・局所的には可能かもしれませんが、多くの漁船が周年にわたり操業する国内漁業では、到底無理と言わざるを得ないでしょう。

EUでTAC管理が失敗した理由に「違反の発生」があげられていたのも納得がいきますね。

守られない制限では意味がないのです。

 

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