トマ・ピケティ著「21世紀の資本」からITQを考える

  • いやー疲れた

今話題のトマ・ピケティ著「21世紀の資本」を正直へとへとになり読み終えました。その感動で、つい写真までとってしまいました。

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この本は、700ページもある学術書でありますが、世界でなんと150万部も売れたそうです(2月2日NHK)。

私も、拙著「コモンズの悲劇から脱皮せよ」(2013年12月 北斗書房)で「格差問題」に言及しましたが、今一番関心のあるのは、

「なぜ、資本主義は格差を拡大させるのか」

「なぜ、人間を不幸にする格差拡大を、民主主義が止められないのか」

です。

 

そういったときに、格差問題に関する画期的な本が出版され、アメリカで大ベストセラーとなっているとのことを知り、ぜひとも日本語版が出版されたら読んでみたいと思っていました。まだ、読み終えたばかりで、表面を撫でた程度の理解ですが、以下「ITQ」との関連性に触れながら、私のとりあえずの感想を述べてみたいと思います。

 

 

  ●新自由主義こそが格差拡大の元凶

下のグラフが「米国での所得格差1910-2010年」で、図左が国民所得に占める上位10分位の割合です。

 

                                                

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上位10%が国民所得の50%を保有するアメリカの所得格差を表したものですが、「勝ち組は儲け放題」の見事なまでのグラフですね。

 

アメリカでは戦争で格差が縮小した後、しばらく安定していましたが、1980年代に入ってから、急激に所得格差の拡大が始まりました。何がアメリカで起こったのでしょうか。レーガン大統領が登場し、レーガノミックスと称される市場原理を重視した新自由主義に基づく経済政策が始まったのです。それを、バブルの崩壊で自信を失った日本が「猿まね」して、今あるのが多くの国民を不幸にした規制改革会議ではないでしょうか。

 

私がいちばん問題と思うのは、2000年代においてITバブルの崩壊とリーマンショックにより2度格差が縮小していますが、そんなことにはへこたれず、再び金融危機対策のカネ余り現象を受け、株価が史上最高まで高騰し、それ以前にもまして格差が拡大し続けていることです。

別のデータ(「アメリカで1%の勝ち組が持つものは?」小野亮/安井昭彦:みずほ総合研究所)によると、金融危機後において、増えた所得のなんと93%が、上位1%の富裕層のものになったとあります。転んでもただでは起きないとかいうレベルではない、もう「強欲の極み」でもおとなしすぎる、表現する言葉が見つかりませんね。

 

このアメリカをご本尊とする規制改革会議が、漁業者にITQを迫っている、仮にこれが導入されれば、この先日本の漁業者に何が起こるのか、じっと上のグラフをご覧いただければ、だれの目にも明らかと思います。

 

  • 資源を民間資本化する「ITQ」には断固反対

 

トマ・ピケティは、格差拡大の力を「不等式:r>g」であらわしています。rは「資本年間収益率」で、gは「経済成長率」です。rがgを大幅に上回ると、資本からの所得(不労所得)のほうが労働から得る所得より圧倒的に大きくなり、働かなくても資本を持った人間の方がますます豊かになるということです。

その資本と所得の比率(資本/所得)を表したのが、下の「 ヨーロッパでの資本/所得比率1870-2010年」の グラフで、図左は民間資本の市場価格(国民所得の%)です。

 

 

                                                                   

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この比率も戦争でいったん200~300%に低下した後、再び増加し始め、1980年ごろからさらに高まり、最近は400~600%あたりまでに倍増したように見えます。

 

それでは「資本」を日本の漁業に当てはめて考えてみましょう。漁業における最大の資本は漁船でしょう。では農業における最大の資本はトラクターでしょうか。違います、農地です。漁業において、農地にあたるものは資源ですが、これは無料です。農業が産業の主流であった頃の金持ちは、多くは農地所有者でした。幸いにも漁業においては資源を貸して小作料をとる制度はありません。貧しい漁師が、遊びまわっているだけのITQ保有者に「魚の獲り賃」を払うなどの悪い制度は、日本漁業には存在せず「働かざる者食うべからず」の立派な社会なのです。

 

しかし、ITQが導入されるとどうなるでしょう。それは、無料で使える公共資本を有料の民間資本に移行させることです。とすれば、資本/所得の比率は高まり、格差は必ず拡大します。

 

実際の例として、アメリカ版ITQの「キャッチ・シェア」を揚げましょう。

ニューズウィーク日本版(2014年8月26日号)では、

・資源と漁師を守るはずの管理システムが、外国による漁業権取得を増加させている

・このままではアメリカの消費者も窮地に

・漁師は小作人になり、今より低い収益しか挙げられなくなる

・漁業界からウォール街に大金が流れる

としています。

「だからー、言わんこっちゃない」のです。

 

ITQ真理教学者が、恥じらいもなく宣伝して回っている

「魚は漁業者のものではない」→「国民共有の財産だ」→「だからITQで金持ちのものに」

の詐欺師的3段論法は、「火(格差)に油を注ぐ」だけでなく、長い日本の歴史ではぐくまれてきた海の秩序を、根底から覆す大変危険なものでもあります。

 

  • 協同組合こそが資本収益の格差を解決する手段ではないか

 

トマ・ピケティは、格差是正のために累進資本税を提案していますが、同時に、その実現の困難性も上げています。そのなかで検討課題のひとつに

「各種の社会財政政策を現代化し、新しいガバナンス形態を開発して、民間所有と公共所有の中間にある共有所有権を創るには - これはこれからの世紀の大きな課題のひとつだ -」(p603)

としています。

この「中間にある共有所有権」を読んでふとひらめいたのは、これは資本主義(民間資本が主体)と社会主義(公共資本が主体)の中間の経済体のことではないかでした。

資本は良し悪しの問題ではなく、必ず必要なものです。しかし、その資本からの受益者と、それを稼働させて得られる労働からの受益者が、いずれか一方に所属するのではなく、双方から受益する経済体なら中間的なものとならないか。それこそ協同組合組織ではないかと気が付いたわけです。

 

いくら農協が巨大な資本を積み上げても、それは組合員のものです。働かざる者は、組合に出資できない、資本を持てないのです。これなら、資本/所得の比率がいかなる場合でも、その組合員の間では、それほど大きな格差をもたらさないのではないでしょうか。

 

このように考えると、規制改革会議が農協改革の提言で、「農協は株式会社になれ」と意味不明のことを言ったのは、ここに狙いがあったのか。つまり全国の農協組織の持つ膨大な資本(中間的存在)を、民間資本化させ強欲の餌食としようとすることだったのです。JA中央会の廃止はその入り口にすぎない、狙いは郵政事業の民営化と同じ資本なのです。

 

最後に、話が少し飛躍し逆説的になりますが、規制改革会議がターゲットにする”経済分野”こそが、むしろ、格差が少なく持続性のある、これからの世紀のあるべき経済体の姿に近いのではないか、という気がしてきました。

 

 この本読むのは大変ですが、難しい数式も出てきませんので、1年かけて読む気で気楽に読んでみることをお勧めします。規制改革会議の提言など、「お菓子が欲しい」とわめき散らす、わがままな子供のへ理屈に見えてきます。

 

 

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