資源回復計画の結果をどう評価するか

  • 理屈はもう十分、結果を見せろ

読者のみなさんから、そろそろ「理屈はもうよい、お前はどういう成果をあげたというのか、それを示せ」との声が聞こえてくる気がしたので、今回は私が企画・立案・実行に係った資源回復計画の結果を評価してみたいとおもいます。

実は、10年前に「本音で語る資源回復計画」(p2)で、

筆者の本音が、正しいかどうかは議論によって決まるのではない。結果において実証される。筆者の本音が正しいか、間違っているか、はすべて現在進行中の資源回復計画の結果次第である

と大見得を切っていました。

まさか10年後においてこのような形で、自らそれを検証する羽目になるとは思いもせず・・・。

 

  • IQ・ITQ学者はどう評価しているか

 

資源回復計画の自己評価に進む前に、まず、IQ・ITQ学者が、どう評価しているかを先に見てみましょう。その評価は二通りあります。

 

一つ目は「無視」です。

 

水産庁の「第4回資源管理のあり方検討会」(2014年6月12日開催)に出席したIQ・ITQ推進派の参考人は以下のような発言をしました。(以下、水産庁のホームページの議事録から抜粋)

資源回復計画というのは、(中略)見たことないんです。タイトルしか。「太平洋のマサバの資源回復計画」だとかね、色々「瀬戸内海のトラフグ」だとか「サワラの計画」だとか、中身何をやっているか見たことないんですよ。

 

このように、資源回復計画の成果を完全に無視するやり方です。

 

実は私もその検討会に「IQ・ITQは不要」とする立場からの参考人として出席しており、隣に座っておりましたが、その発言には正直驚きました。

資源回復計画については、水産庁のホームページできわめて大量の情報公開がされています。にもかかわらず、これを見たことがないというのです。私は、その参考人に対し「資源回復計画に取り組んだ関係者に対し失礼である」といわざるを得ませんでした。

 どうもその参考人は、ご自身ではインターネットなど検索せず、水産庁の担当者が「資源回復計画はこうなっております。ハハハー」と、定期的にご進講申し上げなければならないような偉い人のようです。そんな偉い人なら、資源回復計画くらい勉強してその場に出てきていただきたいと思うのは、私だけでしょうか。

 

  • いったいどちらが本当なのか?

 

私が、その参考人の発言を看過できない大きな理由は別にあります。

 

その参考人は、「日本の食卓から魚が消える日」という本を2010年に出版しており、その中で「水産庁の資源回復計画という名のバラマキ」という見出しで、太平洋のマサバの資源回復計画の内容に言及し、それに対する批判を行っています。(次回その内容を紹介します)

 では、その参考人は、マスコミも大勢参加した、衆人の見守る検討会の場で、なんといったでしょうか。もう一度繰り返します。

資源回復計画というのは、(中略)見たことないんです。タイトルしか。「太平洋のマサバの資源回復計画」だとかね、色々「瀬戸内海のトラフグ」だとか「サワラの計画」だとか、中身何をやっているか見たことないんですよ。

と発言したのです。

 

「資源回復計画のタイトルしか見たことがない、中身何をやっているか見たことない」であれば、その著書で資源回復計画を批判できるわけがない。

 

ということは、あの本は「ゴースト・ライター」が書いたのでしょうか。それとも、公衆が見守る検討会の場で参考人は、嘘をついたのでしょうか。

 

いったいどちらが本当なのでしょうか? 

 

だれが書いたのか釈然としない「日本の食卓から魚が消える日」という本が、先般、2月13日付の産経新聞の産経抄で、紹介されていました。

そのコラムの内容は、お決まりの「このままでは日本の魚は絶滅する、ノルウエーに学べ」でした。規制改革会議とマスコミがタッグを組んで、「既得権益にドップリとつかり、資源を乱獲する日本の漁業者を、改革派が叩く」という、毎度のドラマ仕立てで、国民に「そう思い込ませよう」と、一方的な情報を垂れ流す意図はわかりますが、本当にこの本を引用して大丈夫でしょうか。新聞社の信用にかかわりませんか。

まさか、規制改革は文化大革命だとして、紅衛兵の「造反有理」にならった、目的のためには何でもアリではないことを、コラムを書いた新聞社の方に願わずにはおれません。

 

話が横道にそれてしまいましたが、この出来事はIQ・ITQ推進派の本性が垣間見られたものとして、貴重な事例ではないかと思い、ご紹介させていただきました。

 

それでは、IQ・ITQ学者が、資源回復計画の成果をどう評価しているかに話を戻して続けていきたいと思います。

 

二つ目は徹底的な批判です。

まー、ひどい言葉で、徹底的に攻撃し、嘲笑するやり方です。次回、その語録をまとめて、ご紹介したいと思います。

 

それでは、いよいよ資源回復計画結果の自己評価へと進みたいと思います。

 

  • 資源回復計画の結果概要

これから説明する、資源回復計画の評価は、水産庁が広域漁業調整員会へ提出した「資源回復計画の評価・総括」(平成24年3月)と、最新の資源評価票を参考にしております。詳細は水産庁のホームページをご覧ください。

                             結果の概要

①資源回復計画は平成14年から順次作成され、実行に移された。

②国が作成主体の計画は18、都道府県が作成主体の計画は48に達した。   

③国の18計画のうち、平成14年から17年までの早期の段階で開始され、国の資源評価対象種になっている10計画(18系群)を評価対象とした。

④18系群の資源変動結果は、増加10系群、横ばい3系群、減少5系群と評価した。

⑤資源量が推定されている8系群で見ると、増加率450%

 

  • 評価対象を10計画・18系群とした理由

 

私が、ここで評価の対象とした資源回復計画は、国の計画のうち、まず国の資源評価対象魚種になっていること。次に、私が資源管理推進室長として、その後境港、瀬戸内海の漁業調整事務所長として、その計画の作成又は実行に関わった10計画(国の資源評価対象では18系群)としました。

 

その理由は、開始から十分な年月がたった計画の方が、その結果の客観的評価がしやすいからです。資源は漁獲圧力を削減しても急に増えるものではなく、環境に恵まれ、より多く残った親が子を産み、その子が親になるという一定の年月を必要とします。もちろん、自分が直接かかわった計画でないと、自信をもって評価できないからでもあります。

 

また、水産庁の資源評価票における「動向」と、私のそれとは必ずしも一致しておりません。その理由は、資源評価票の動向はごく近年の資源変動に着目しておりますが、私は資源回復計画の開始時点と現在、さらにその中間を含めた動向から、ザックリと判断したからです。

 

念のため申し上げておきますが、私は資源回復計画を始めるにあたり、決して回復しそうな資源を選んだのではありません、むしろその逆で本当に深刻な状況にある資源を対象にしました。

 

  • 18系群の資源動向の結果は

増加10系群(56%)、横ばい3系群(16%)、減少5系群(28%)

と、私は判断しました。

 

内訳は以下の表のとおりです。

 

計画の名称(開始年) 対象魚種(系群) 資源動向 

1 サワラ瀬戸内海系群資源回復計画(2002年)

サワラ瀬戸内海系群

増加

2 伊勢湾・三河湾小型機船底びき網漁業対象種資源回復計画(2002年)

トラフグ伊勢・三河系群

減少

  シャコ 減少
  マアナゴ 減少

3 日本海西部アカガレイ(ズワイガニ)資源回復計画(2002年)

アカガレイ日本海系群

増加

  ズワイガニ日本海系群A海域 増加
  ズワイガニ日本海系群B海域 増加

4 太平洋北部沖合性カレイ類資源回復計画(2003年)

サメガレイ 横ばい
  ヤナギムシカレイ 増加 
  キチジ 増加
  キアンコウ 横ばい
 5 日本海北部マガレイ、ハタハタ資源回復計画(2003年) マガレイ日本海系群  減少 
  ハタハタ日本海北部系群  増加 
6 マサバ太平洋系群資源回復計画(2003年)

マサバ太平洋系群

増加
7 カタクチイワシ瀬戸内海系群(燧灘)資源回復計画(2005年) カタクチイワシ瀬戸内海系群 増加
8 日本海沖合ベニズワイガニ資源回復計画(2005年) ベニズワイガニ日本海系群 増加

9 南西諸島海域マチ類資源回復計画(2005年)

アオダイ ヒメダイ アオヒメ ハマダイ 横ばい

10 九州・山口北西海域トラフグ資源回復計画(2005年)

トラフグ日本海・東シナ海・瀬戸内海系群

減少

 

  • 資源量での定量的評価

上記の資源回復計画の対象種(系群)には、大きな資源もあれば、小さな資源もあります。よって、単純に計画の頭かずで、増えた減ったでは、経済効果の観点から過大評価または過小評価になるおそれがあります。

 

例えば、水産白書には「我が国周辺の水産資源の状況」が毎年掲載されています。そこでは、資源評価対象となっている52魚種・84系群の資源レベル(高位、中位、低位)の構成比率(%)の変化から資源が良くなった、悪くなったと評価しているように見受けられます。確かに、一般国民向けにはわかりやすいと思います。

 

しかし、100万トン級の資源量を持つ広域的な1つの系群が増えても、同時に資源量が千トンにも満たない地域的な系群が2つ減れば、数あわせで「資源が悪化」と受け止められるのも変ですね。やはり水産庁も、定性的な評価に加え、資源量による定量的な評価も公表してはどうかと思います。そうすれば資源動向の評価の客観性がより高まるのではないでしょうか。

 

そこで、絶対的な資源量がどう変化したか、それを上の表に掲げた系群のうち、資源量推定が行われているものについて評価してみましょう。なぜ、すべての系群で資源量の推定が行われていないかというと、それには多くのデータを必要とし、お金と人がかかるからです。このため、産業的なウエイトが高い系群についてしか、資源量の推定はできていません。逆に言えば、資源量の推定ができている資源は、産業上重要な系群と言ってもよいでしょう。

 

あらかじめお断りしておきますが、以下はよい結果が出たものだけを選んだのではありません。資源評価票の詳細版において資源量が推定されている系群をすべてあげています。

なお、以下の表では、トン数の欄の数字が一部において、2行につながっている珍しい(正直みっともない)ものになっていますが、これは資源が増えすぎたため1行に収まりきれなくなったのではなく、私のブログの技術が未熟なためであり、ご勘弁ください。

系群名

計画開始年資源量:A

単位:トン

最近年資源量:B

単位:トン

B/A(%)
サワラ瀬戸内海

1,253(親魚量)

3,100(親魚量) 247
トラフグ伊勢・三河

 860

  131  15
ズワイガニ日本海 15,416 22,280 145

ヤナギムシカレイ太平洋北部

   575  1,070 186

キチジ太平洋北部

4,488 7,581 169

マサバ太平洋

229,000 1,666,000 728
カタクチイワシ瀬戸内海 178,608 237,215 133
トラフグ日本海・東シナ海・瀬戸内海   956   717  75

合計

431,156 1,938,094 450

(参考:注)

ベニズワイガニ日本海

425、992 665,536  156

 (注)資源量ではなく日本のEEZ内の資源量指数

 

  • やればできた

 

正直に言って資源回復計画を開始するときには、その将来に不安がいっぱいでした。なぜなら、それまでの唯一の成功事例は、秋田のハタハタだけ、しかも3年間の全面禁漁という簡単には真似のできない厳しい規制によるものだったからです。

案じてもしかたがない、やるしかないと始めたのですが、上記の通り関係者の努力で大きな成果を出していただきました。10年前に切った大見得で恥をかかなくて済み、ほっとしたというところが本音です。

 

しかし、単に資源が回復したという以上の成果として挙げておかなければならないことがあります。

一つ目は、地域の自主的資源管理組織をフル活用し、当初3年間で2000回という会議を重ね、それを広域的な公の計画としてまとめ上げていく、日本型資源管理手法の有効性が再確認されたことです。ノーベル経済賞を受賞した学者が言ったとおりでした。

二つ目は、結果を出したことによる漁業者の「やればできる」という自信です。これは、今後資源が再び悪化した時に大いに役立つものと思います。

 

当初なかなか理解を示していただけなかった漁業者が、途中からガラリと態度が変わり、積極的になってくれた時には、本当に苦労が報われたとジーンと来たこともありました。資源回復計画にかかわった水産庁の本庁と地方事務所、それから都道府県の行政官にとっても「やればできる」という自信がついたことはもちろんです。

 

次回は、この資源回復計画に対し、IQ・ITQ推進派の学者が寄せた徹底的批判と嘲笑がどのようなものであったか、ご紹介したいと思います。乞うご期待。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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