IQ・ITQでなくても資源が回復する訳

 

  •  「論より証拠」で嘘を見破る

 

前々回の「資源回復計画の成果をどう評価するか」と、前回の「資源回復計画に対する批判と嘲笑」をお読みいただき、どのような感想を持たれたでしょうか。これまで、IQ・ITQ学者の著書やブログ等で「IQ・ITQにあらずんば、資源管理にあらず」という彼らの主張を、素直に信じてこられた人にとっては「なんじゃこれは、あいつら嘘をついていたのか」と思われたのではないでしょうか。

 

無理もないことと思います。私も昔は、規制改革会議とは、真面目な議論をして日本をよくしてくれるものと思い込んでいました。しかし、どさくさまぎれに、まともな議論もせず、欧米礼賛の偏向した資源管理の考え方が、そのまま日本漁業の改革に関する提言として出てきたときには、「こんないい加減な組織だったのか、騙された」と驚きました。

 

それ以来、規制改革会議の提言に沿って行われてきた経済改革が、どのような結果をもたらしたのかに強い関心を持つようになりました。そうして、その代表例である、タクシー業界の規制緩和がもたらした悲惨な結果(以下を参照)を見て、以前聞いていた理屈(論)と結果(証拠)が大きく異なることに気が付きました。そうして、彼らの嘘を見破るには「論より証拠」これしかないと思うようになりました。

 (「ひとりディベート」ホームページより)

タクシー規制を緩和すべきか

2001年度(規制緩和前、100%)から2008年度(規制緩和後)の変化として、タクシー台数は106%(27.4万台)に増えたが、走行1億キロ当たり事故は104%(170件)に増加した一方、運転者年収は91%(271万円)に減り、総輸送人員は87%(20.3億人)に減少し、弊害ばかりが生じている。

 

  • IQは「アキレスと亀」に似ている

 

だれでも知っている「アキレスと亀」は、パラドクスの有名な事例です。パラドクスとは、「正しそうに見える前提と妥当に見える推論から、受け入れがたい結論が得られることを指す言葉」(ウィキペディア)です。その「論」を聞くと、確かにアキレスは亀を抜けません。しかし、現実という「証拠」では軽々と亀を追い越します。IQもこれによく似ていると思います。        

 

 ① IQにしないと資源の先獲り競争(オリンピック)が起こる →正しそうに見える前提

   ②  このため、資源の乱獲や魚価の低迷を招く →妥当に見える推論

   ③ よって、IQ以外は資源管理にあらず →受け入れがたい結論

 

 

先獲り競争は日本では見たことがない

 

まず、IQの必要性の大前提である、IQにしないと資源の先獲り競争(オリンピック)が起こる、という「正しそうに見える前提」について検証してみましょう。

 

もちろん世界の漁業においては、短期間の集中漁獲で処理できないほどの魚が一度に水揚げされ、魚の鮮度を落とし、魚価を暴落させるという先獲り競争(オリンピック)の事例があったことは、一般の学者も指摘しており、それは知っています。

しかし、日本でそれが存在するのでしょうか。この「①正しそうに見える前提」さえ嘘と見破れば、②と③には続きませんので、ここはきわめて重要なポイントです。

 

私は、水産経済新聞の連載に「オリンピック制は都市伝説」とのコラムを書いたことがあります。役人時代にはもちろん、漁業現場でも血相を変えてわれ先にと先獲り競争をしている場面には、出会いませんでした。本当に、オリンピック制下の漁業は存在するのでしょうか。

 

日本には先獲り競争は存在しないと言い切っても良いのではないか、というのが私の結論です。

 

では、どうしてそうなのでしょう。長い漁業の歴史とか、村社会、和を重んじるとか、いろいろ理由を揚げることはできますが、その根本を突き詰めると、災害後に起こった以下の二つの写真の比較に象徴されると思います。この2枚の写真の下の写真こそ、世界を驚愕させた東日本大震災後の被災地での日本人の姿です。

 

              先取り競争   外国先取り競争

      ジェイニュース(Japanese-AmericanNews)ホームページより

 

                                   分かち合い

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      避難所の運営と避難者の自治(宮城県庁ホームページより)   

   

上の写真のような先取り競争の国では、その混乱を抑えるために、救援物資を役所が決めた基準で、一人一人用の袋に詰めて、しかも警察の立会いがないと秩序が保てません。

IQそのものですね。

 

しかし、IQだけでは問題が残ります、被災者には女性もおれば、乳児もいます。生理用品や粉ミルクは、どの袋に入れればよいのでしょうか。そんなこと役所がわかるはずがありません。そこで、被災者の間での交換となります。

ITQが必要となる理由がよくわかりますね。

 

それに対し、下の東日本大震災時の宮城県での避難所では、秩序ある行列の先に、救援物資の自主的管理による、きめ細やかな「分かち合い」が待っている姿が容易に想像できます。

 

外国ではIQがなければ先獲り競争が起こるが、自主管理ができる日本ではIQがなくても先獲り競争が起こらない、一目瞭然の証拠ではないでしょうか。

 

  • だまし写真

 

IQ・ITQ学者から、「これこそ先獲り競争(オリンピック)だ!」という具体的な証拠(漁業名、場所、時期など)が示されたことはありません。しかし、IQ・ITQ推進派が、そのイメージ作りとしてとして使用する「だまし写真」はあります。

 

以下に掲げた写真は、青森県むつ市のホームページに掲載されている、脇野沢タラ漁の「場とり」の風景です(画像が荒いのですが、イメージはつかめると思います)。もちろん、この写真そのものは本物ですが、これを「先獲り競争」と解釈するのが「だまし」なのです。

 

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 むつ市役所の解説文

タラ漁の「場とり」

毎年12月初旬に行われている「場とり」 は、共同の漁場における漁師間の機会均等を守るための厳正な規則です。

海上に横一線に並んだ漁船が、合図の旗が振られると、各自の漁場をめざして一斉にスタートしていきます。タラの回遊路が毎年比較的安定しているため、その場所へいかに速く到着し網を入れるかが、その年の漁獲高を決定的に左右するのです。

 

市役所が解説しているように、これは「共同の漁場における漁師間の機会均等を守るための厳正な規則」によるものであって、決して先獲りではありません。もし本当に他人に獲られる前に獲ってしまおうという先獲りなら、他人の前にバラバラに出漁するはずで、こんな横一列に漁船が並ぶ光景は見られません。逆に言えば、このような光景が見られる漁業こそ、一定のルールのもとで操業していると言えます。

 

しかし、解説には「タラの回遊路が毎年比較的安定しているため、その場所へいかに速く到着し網を入れるかが、その年の漁獲高を決定的に左右するのです」とあるじゃないか、これこそ先獲り競争ではないかという指摘があるかもしれません。しかし、この場合は、「場とり競争」であり、良い漁場と悪い漁場の当たりが個々の漁業者間で異なるだけで、全体としての漁獲圧力がそれにより増えるわけではありません。

 

さらに想定される指摘として、この写真に出てくる陸奥湾のマダラ資源の状況は過去のピーク時と比較すれば低迷しており、それこそ先獲り競争が原因、IQにすれば資源は回復するというものです。確かに、この資源は水産庁の資源回復計画の対象にもなっていましたが、IQにすればそれが解決するという指摘は全く当たりません。その理由は、二つ挙げられます。

一つ目は、平成19年から平成23年度まで実施されたマダラ陸奥湾産卵群資源回復計画によって、漁獲量は目標値(42トン)の4.6倍となる192トンに増加しましたが、IQは導入されていません。この資源変動には陸奥湾の水温が影響しているとも聞いています。直近の漁獲量が再び減少したのはそのためではないでしょうか。

 

二つ目は、日本周辺には3つの大きなマダラの系群が存在しますが、それをIQの下で漁獲している漁業はないにもかかわらず、そのすべての資源状況が「高位」にあるからです。

 

先に「先獲り競争がある」との結論を出し、現実を都合の良いように解釈し、つなぎ合わせれば、素人の方には「そうだったのか!」と、目からウロコを落とす人がいるかもしれませんが、プロの目には「この嘘つき」と映るしかないでしょう。

 

  • だまし絵

 

自主的管理の下で、資源を「分かち合い」できる日本では「先獲り競争」が起こらないことは、証拠が示しており、これ以上IQの話を続ける意味はないと思いますが、ここはいったんだまされたつもりで、次に進んでみましょう。是非紹介したいおもしろい絵がありますので。

 

それは、資源回復計画に取り組む漁業者を、ブログで嘲笑しまくった品のない学者が、その著書でIQの効能の例えとして使用している以下のような「お金つかみ取り大会」という絵です。その絵を著書からそのままコピペしては「勝手に引用するな」と怒られそうなので、それをまねて描いてみました。下手ですいません。

絵1

 

IQ・ITQ学者が、上の絵で言いたいことは、先獲り競争では、青い大きな丸でイメージされた500円玉(大きな魚)も、黄色い小さな丸でイメージされた10円玉(小さな魚)も一緒に獲っていますが、IQにすると競争が緩和され、ゆっくり青い大きな丸の500円玉(大きな魚)だけを選んで獲ることができるというものでしょう。

 

例えば、左の絵で大きな魚6尾と小さな魚30尾の合計36尾あったとします。それを6人の漁師で漁獲します。そうすると右の上の絵ように、一人当たりの漁獲は、大きな魚1尾と小さな魚5尾となりますが、IQにすると下の絵のように大きな魚6尾となるそうです。

 

なるほど。でもこの絵「???」ではないですか。

 

というのは、右の下の絵で6尾の大きな魚を獲れる漁師はいったい何人なのでしょうか。私は、どう考えても1人の漁師しかそうならず、いつの間にか漁師が1/6に減っています。残りの5人の漁師はどこに消えてしまったのでしょうか。この絵は、どう考えても「だまし絵」ではないでしょうか。

 

いやいや、元の絵にはもっと多くの大きな魚がいたというのなら、小さな魚も含めれば資源も豊富ですから、そんなに慌てる必要もなく、話し合いでそういう獲り方をすればよいだけの話ではないでしょうか。

 

ただし、そんなにうまく大きな魚だけを獲るというのは漁労技術上現実としてはむつかしいでしょう。初詣の時にある大きな賽銭箱に500円玉と10円玉が入っているとして、それを「ざる」で500円玉だけすくい取れと言われても無理なように。

 

それにしても、このだまし絵は、規制改革会議の「成長戦略」と似ていませんか。規制改革で「成長するぞ」と言われれば、国民は自分が成長すると思い込みましたが、結果はそうではなかった。あれと同じように、ここでも1人が成長し、残り5人は貧しくなってしまうのでしょうか。

 

IQ・ITQ学者が使うポンチ絵には、まだまだ突っ込みどころが満載ですが、今日はこの程度にしておきます。

 

 

  • 理念(論)先行のあやうさ

 

「アキレスと亀」の話を聞くと、多くの人は「おもしろい」とは思うでしょうが、だれもアキレスは亀を抜けないとは思わないでしょう。それは、理論がどうこうよりも、亀の速さとアキレス(短距離選手)の速さを実際に、体験しているからでしょう。

 

IQ・ITQが、漁業者からは全く相手にされないのに、マスコミや政治家のような素人の方々に受けが良いのも、漁業の実態を体験しているか、いないか、の違いではないでしょうか。

 

私が一時期、規制改革会議に期待していたのも、その基本理念である規制緩和と自由貿易促進が、多くの弊害を持つにもかかわらず、正しい前提と思い込み、かつ、その改革すべき対象がマスコミの言うままに「既得権益にどっぷりつかる産業」と思い込んでいたからです。

 

しかし、自分の身の回りにその矛先が向けられた時に、規制改革会議の行動様式が、まず問答無用の「規制改革は善、成長は善」という理念(論)があり、かつ事実(証拠)さえもその理念に都合の良いように解釈することに気が付きました。

 

これだけ論と証拠が違うにもかかわらず、今もって、規制改革会議からの反省・謝罪は一度たりとも聞いたことがありません。規制改革会議とは、パラドクスを売りとする、とんでもない危険な集団ではないでしょうか。

 

すべて現場や当事者が正しい、とまでは申しませんが、現場の状況や当事者がいうことにも、よく耳を傾け自分の頭で判断することが、規制改革会議の嘘にだまされないために必要なことではないかと思います。

 

 

 

     

 

  

       

 

 

 

 

 

1 comment for “IQ・ITQでなくても資源が回復する訳

  1. Okada Sachiko
    2017年1月5日 at 4:50 PM

    IQに関してですが、漁獲時期や場所を少しずらせば、大きい魚だけを漁獲することは可能だと思います。漁獲枠が決まっているからこそ、大きい魚をとるための努力は知恵をしぼってなされるのではないですか?

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