資源爆食漁業国ノルウエーは日本漁業のモデルにならない(後編)

  • 外国の優良事例の検証の困難性

 

それでは、もう一度ノルウエー漁業に話を戻しましょう。

昨年夏、講演で地方に行った時に、ある県庁の幹部の方から、以下のような話を聞きました。

 

・ノルウエー漁業は素晴らしいという学者のブログや著書に、すっかり感化される職員が出てきて困っている。

・書いている内容には、本当かなと首をかしげたくなることも多いが、なにせ外国の事なので、その裏付けをとるのが地方行政では無理、書かれ放題の状態に悔しい思いをしている。

・外国事情に詳しい国の専門家の方が、彼らの言うことの真贋を見極め、広報してもらうと大変ありがたい。

 

私も全く同じ思いです。国内のことであれば「こんな嘘書いて、また騙されるのは素人ばかり」と一瞥して終わりですが、ノルウエーなど外国漁業のことを言われると、何とも判断ができないのです。私の知識といえば、その辺の資料を拾い集めて見ている程度ですから。

 

そこで、あえて情報不足を逆手に取り、IQ・ITQ学者が地上の楽園のように言うノルウエー漁業を、まったくその逆ではないかという一つの仮説を描いてみたいと思います。

 

以下の私の仮説は、正確な現地情報さえあれば直ちに、嘘か本当かわかることであり、その真実を知っている方から見れば「嘘ばかり言うな」かもしれません。でもまー、今回だけは、IQ・ITQ学者のお株を奪って、現実を曲解し、それを基に妄想を膨らませ、嘘の結論に至るかもしれませんが、大目に見てやってください。黒沢明監督の映画「羅生門」のように、侍の死という一つの事実を、異なる3者が、自分の都合の良いようなストーリーとして展開していく、あのドラマの面白さとしてみていただければと思います。

 

  • 仮説:ノルウエーは漁業の改革に成功したのではなく、事実上崩壊しただけ

 

私も水産庁で、国際減船や国内減船を数多く行いました。

その時の経験からすると、日本の減船施策のもとでは、漁船数は下り階段のように「ガクガク」とした形で減少していきます。それは、漁業者がなんとか生き延びようと、ぎりぎりの経営努力を続けている時に、漁業環境の急激な悪化などが生じると、堰を切ったように一気にまとまって減船に向かうからです。

ああああああ

 

一方ノルウエーでは、上の赤線のようにほぼ直線的になだらかに漁船隻数が減少してきました。これは私にとって大変奇妙に見えます。そこからは、漁業者の何とか生き残りたいという強い意思が感じられないからです。

さらに、減少傾向を詳しく見ると、ノルウエーにおける漁船隻数の減少スピードが、政府による積極的な減船施策が実行された期間の前と後で、ほとんど変わらないことも、不思議でならないのです。

 

私の推論では、これは資源と漁船のバランスを考えた一定の目標数まで削減するという計画的な減船ではなく、また、仮にそのような減船計画があったとしても形式的なもので、その実態は、漁業者の自由意思に任せただけではなかということです。逆に言えば、この減船補助金の有無にかかわりなく、ノルウエーの漁船は同じスピードで減少し続けたのではないか思います。これは、北海油田で雇用された方が儲けるので、円満に漁業を撤退したということかもしれません。

例えれば、この減船補助金は、葬式の香典程度の効果しかなかったのではないでしょうか。香典が欲しくて死にたがっている人は、あまり私の知人にはいませんので。

 

つまり、ノルウエーは、IQ・ITQ推進派がいうように「過剰な漁業者の退出を促進」し、構造改革に成功したのではなく、以下のグラフに挙げたように、北海油田が急拡大し、この隣りに興った高所得の産業に漁業者を奪われ、実質上漁業が崩壊しただけではないでしょうか。

 

(いよいよ妄想を膨らませる段階に入りますが)

その証拠に、北海油田が急拡大する1980年代に入ってから、漁獲量も減少し始めており、これは資源保護のためではなく、単に獲りにいかなくなっただけ。北海油田の産出量のピーク時と漁獲量が最も低かった時がほぼ一致するのが動かぬ証拠だー。さすがにここまで漁業者が減ると、資源も回復に向かい、1隻当たりの漁獲金額が増えたのも当然のこと。

IQの導入効果などは、この大きな構造変化の中では、ほとんど無視できる程度のもの。ここまで大幅に船が減れば、さすがに個人主義のノルウエーでも、先獲り競争などは実質的に起こらない。IQがあろうが、なかろうが、漁獲量、金額とも結果的に同じだったはず。しいてIQの効果と言えば、複数漁船の漁獲量を特定漁船に集約する手法として使われ、政府による減船終了後においても自主的な隻数削減を引き続き促した程度ではないか。 の有ウエー石油図(ウィキペディア:「ノルウェーの経済」より)

 

今のノルウエー漁業を例えれば、死屍累々の焼け野原に、わずかに生き残った植物が、これ幸いと周りの栄養分を独り占めし、「俺は成長産業だ」と咲き誇っている状態です。私の仮説の結論は「ノルウエー漁業の現状は、漁業崩壊がもたらした結果オーライで、他国の手本にならない」です。

 

IQ・ITQ学者がほめるノルウエー漁業に何とかケチを付けようとする「結論ありき」でそれに合うように、データを拾い集めて嘘を言うのが、なかなかお前も、うまいなと言われそうですが、意外と当たっているかもしれませんよ。

いずれにせよ、共生(漁業者数の維持)ではなく排除(漁業者数の削減)で漁業を効率化させた、ノルウエー漁業の政策評価は、残った漁業者に聞くのではなく、漁業から去らざるを得なかった漁業者が、またその地域共同体が、その後幸せになったかどうか、すべてそこで決まるでしょうから。

 

  • 減船について

 

なお、真面目な話に戻り、資源回復のための減船施策についての私の個人的な考え方を述べてみたいと思います。

 

資源回復計画の担当者が味わえる醍醐味は、「我慢すれば、資源が増える」を、漁業者とともに実感することです。資源管理の極意とは、漁師を生かしながら、漁獲圧力を減らすという相矛盾することを、同時にどう成し遂げるかにあると思います。

 

資源管理は漁師を生かすためにあるとはいっても、資源に対し漁獲努力量が大幅に過剰な場合や、休漁に耐えるだけの経営体力が漁業者にない時には、減船という手段もとらざるを得ません。しかし、「あなたが死んだら資源が増えます」の減船策は、本当にやむを得ない最後の手段と思っています。このため、ノルウエー政府の行った資源回復の手段が、もっぱら減船のみであったとすれば、それは漁業者は少なければ少ないほどよいという、③利益を偏重した考え方なので、そうではない日本漁業の目的に照らし、あまり学ぶところはないと私は思います。

 

  • 資源爆食漁業国ノルウエー

 

IQ・ITQ学者の著書には、ノルウエー漁業が日本漁業より、いかに競争力があるかを言いたいがため、漁業構造の比較表が出てきます。その項目の一つ「漁業者当たり漁獲量」を見ると、ノルウエーは147トン、日本は25トンとなっており「日本の5倍以上あります」と強調しています。

さて、みなさんはどう受け止めますか。すごいなーと思われる人が多いのではと思います。

 

しかし、私の感想は全く逆です。「えー、ノルウエーでは日本の5倍も獲らないと漁業者一人を養っていけないのか。なんという非効率な漁業だこと」です。まさに、資源爆食漁業国といえるでしょう。

さらに例えれば、「うちの子供は、お宅の5倍もご飯を食べるのよ、すごいでしょ」と爆食を自慢しているギャル曽根のようなお母さんに見え、答えは「大変ですね食費がかかって」です。

 

私とIQ・ITQ学者とでは、漁業の目的に関する価値観が根本的に異なります。これは良し悪しの問題ではなく、何を選択するかの問題ですのでこれ以上議論を進めることはやめますが、どうしても触れておきたいことがあります。それは、「地方創生」との関係です。

 

●ノルウエーの物まねでは地方創生はできない

 

2014年11月23日付の「みなと新聞」によれば、同年11月21日に開催されたJF全国代表者集会で、石破茂地方創生担当大臣は、以下のような発言をしたとされています。

・漁獲量、漁獲高を回復しない限り日本の水産業の発展はない。このため今後は資源管理のあり方をどうするのか全漁連と話し合いたい。

・北欧諸国には資源管理に成功している国々がある。それを言うと、お前は知らない、北欧と違って日本の海は魚の種類が多く、漁船数も10倍ある。そんな簡単にできないといわれる。だが、それで諦めていいのか。

・資源管理をするにはどういうやり方が一番良いのか、どのように管理すれば漁業者の生活が安定し、所得が向上するかを考えたい。

 

この発言が事実であれば、石破大臣はIQ・ITQ学者や規制改革会議から強い影響を受けていることが容易に想像されます。しかし、日本流のやり方でも十分資源の回復ができたという事実さえ知っていただければ「だれも諦めてなどいない」ことを、簡単にご理解いただけるでしょう。

 

それより問題は、その北欧(おそらくノルウエーの事と想定)のやり方で、地方創生ができると大臣が考えていることです。本当に北欧漁業というものが、お分かりになられているのでしょうか。

 

政府のホームページで、地方創生とは

人口急減・超高齢化という我が国が直面する大きな課題に対し、政府一体となって取り組み、各地域がそれぞれの特徴を活かした自律的で持続的な社会を創生することを目指します。

 

とあります。抽象過ぎて「何をどうするのか」がよくわからないのですが、石破大臣の主張が、ノルウエーに習えということであれば、漁業の目的を、②雇用や④地域共同体よりも③利益に重点を置けということです。

これでは、「地方創生とは漁業者を減らすことなり」となりませんか。

それで「自律的で持続的な社会を創生」できるのでしょうか。

 

北欧漁業のように、可能な限り漁業者を排除し、少数の漁業者に資源を集中する「排除と富の集中」により生産性を揚げていく手法ではなく、我が国の漁業には「共生と富の均衡」を前提した、協業化・共同化により生産性を向上させていく、資源管理型漁業という手法があります。

 

人間が幸せに生きていくために必要な多様な価値観の中で、お金や効率性のみを偏重する規制改革路線こそが、地方を切り捨て衰退させた最大の要因ではないでしょうか。にもかかわらず、その地方創生に、また規制改革的手法を持ち込もうとするのでは、いつものように「1%だけ地方創生」になってしまいませんか。

さらに言えば、TPPを推進しようとする政権が、同時に掲げる政策としては矛盾を起こしています。地方創生の取り組みにより成果が生じ始めたとしても、TPP参加により一瞬にして無に帰してしまいませんか。

 

そのようなことにならないことを期待したいと思います。

 

最後に、私の言いたいことをもう一度言います。

豊かな資源に少ない人口ゆえに可能な資源爆食漁業国ともいえる「ノルウエーをモデルにしては、地方創生はできない」です。

 

氷山物語(その1)

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上の写真は、私が南極海で撮影した氷山のなかで、最もお気に入りの一枚です。

南極大陸から海に落ちたばかりの氷山は、よくあるテーブル状のものですが、私がシー・シェパードの船を追航した海域は、南緯60度前後が多かったため、この海域まで流れてくる間に、このように波に削られ、形が変化したのが多くありました。この氷山は5-6階建てのビルの高さ程度だったと記憶しています。自然の造形とはすばらしいものですね。

そろそ桜も開花してまいりましたので、夏のパソコンの涼しげな壁紙用にでもと、今後もご披露してまいりたいと思います。もちろん私自身がとった写真であり、ご自由にお使いください。

 

 

 

 

 

 

 

 

1 comment for “資源爆食漁業国ノルウエーは日本漁業のモデルにならない(後編)

  1. マリンハーベスト
    2016年1月9日 at 10:25 PM

    日本でノルウェー方式が実現できないのは、Top-downの年功序列の為です。日本が変わらない限り、なにしても崩壊!

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