大きいことはいいことか(前編)

 外国と違い、漁業者による資源の自主的管理のできる日本では、先獲り競争は存在しません。よって、IQはもちろんITQも不要なので、IQにすればこんなに良くなるという推進派の「押し売り」は、早々に玄関先からお引き取り頂きたいと思います。

 

しかし、彼らがIQを導入したいがためによく使う「小型魚漁獲」の問題は存在します。

 

これは、先獲り競争があろうがなかろうが、例えこの世に漁業者が一人になったとしても、漁獲対象となる魚群の年齢組成と漁具の選択制との関係から必ずついて回る問題です。そこで、今回は、かつて高度経済成長時代を反映したヒットCM「大きいことはいいことだ」のように、さかなは大きくして獲るのが本当に良いことなのかを、価格変動、関連産業、資源の公平分配の3点から考えてみたいと思います。

 

1 価格変動の側面から

 

  • いくらなんでも84倍はないでしょう

 

そもそも、この問題は「小型魚の不合理漁獲」として、TACが日本に導入される前から、資源管理型漁業の推進の中で「加入資源管理型」という類型のなかで、小型魚の再放流や漁具改良などの取り組みが行われてきました。

 

よって、より高く売れるように、逆に言えば消費者ニーズに合った形での漁獲を行うことは大切です。しかし、IQ・ITQ推進派が、その著書やブログなどで、小型魚漁獲を批難するために、小さい時に獲るのと大きくして獲るのとでは、こんなにも儲けが違いますよ、だから小さい時に獲る日本の漁師は損をしておりますよ、という例示があまりにも「子供だまし」で、度が過ぎているので注意を喚起しておきたいと思います。

 

その代表として、今後その名を明示すると申し上げた、勝川俊雄准教授の著書とブログから引用してみましょう。

 

まず、以下のようなイメージの絵があります。

小さい魚

そして、こんなに損をしているという比較が3魚種について挙げられていますので、以下に一括します。

 

 魚種名  項目  小さい魚を獲ると  大きい魚を獲ると
マグロ(注1)  年齢   

漁獲数    

体重

漁獲量  

単価    

生産金額 

 ヨコワ(1歳)

162万尾

3㎏

4856トン

550円/㎏

27億円

 マグロ(7歳)

47万尾

97㎏

4万5590トン

5000円/㎏

2280億円

ブリ(注2)

 

年齢    

漁獲尾数  

体重

漁獲量   

単価    

生産金額  

 0歳

3662万尾

1.08㎏

4万トン

100円/㎏

40億円

 3歳

1489万尾

8.99㎏

13万トン

1500円/㎏

2000億円

マサバ(注3)

 

年齢

漁獲尾数  

体重    

漁獲量   

単価    

生産金額 

 0歳

4067万尾

150g

6101トン

17円/㎏

1億円

 2歳

 1828万尾

 500g

 9138トン

 250円/㎏

 22.8億円

注1:「漁業という日本の問題(2012年)」p86より引用

注2:「漁業という日本の問題」p43より引用

注3:「勝川俊雄公式サイト2009-12-25 」より引用

 

すごいですね。

マグロでは2280億円÷27億円=84倍にも生産金額が増えます。ブリでは50倍、サバで23倍。まさに、笑いが止まりません。でも、この表おかしくありませんか。大きな魚の価格をその漁獲量が増加したにもかかわらず、現状の高価格がそのまま維持される、と仮定しているようです。つい笑ってしまいますね。その笑いの意味は全然違いますが。

 

 もちろん、価格変動は、増加する大きな魚が市場に占める商品特性、シェア及び競合商品との代替性など、多くの要素が複雑に絡んでくるでしょうから、だれも正確に予想できないと思います。しかし、私にはこの84倍は「獲らぬ狸の皮算用」ならぬ「獲れぬマグロのトロ勘定」に思えます

 

  • 2割が2倍に」の経験則から見ると

「2割が2倍に」とは、わずか2割の供給変動でも価格には2倍と増幅して変動をもたらすというものです。ずいぶん前にきいたもので、おそらく市場関係者の経験則のようなものであったかと思います。それを聞くまでの私は、需要が一定とすると、量(Q)と価格(P)との関係で、Qが2割増えればPは2割程度下がると思っていたので、市場価格変動の不可解さを感じたものです。

 

(ブリとマダイでは)

 

では、その事例として、供給過剰で価格の低迷を招いている養殖魚対策としての水産庁の「養殖生産数量ガイドライン」作成のために開催された「養殖魚需給検討会」に提出された資料(水産庁栽培養殖課 平成27年2月6日)から、そのQとPの関係を見てみましょう。ブリ単価

マダイ単価

この資料の中では以下のような説明書きがありました。カッコ内は私による補足です。

 ・ブリでは平成24年の生産量は15万7千トンとなり、供給過剰により価格の暴落(600円/㎏近くまで)を招いた。平成26年の生産量は13万3千トン近くまで減少し、価格が上昇(1200円/㎏を上回る)した。

 

・マダイでは、平成24年、25年の生産量は近年で最も少ない5万7千 トン程度にとどまり、価格は高い水準(1000円/㎏を超える)で推移した。平成26年の生産量は6万1千トン近辺に増加していると見られ、価格が下がってきている。(私が個人的に聞き取ったところでは、600円/㎏台にまで下落)

これによれば、ブリでは平成24年の生産量より平成26年のそれは、13.3万トン÷15.7万トン=0.87と、Qはわずか13%程度の減少ですが、Pは約2倍に上昇しています。

また、マダイでは平成24年、25年の生産量より平成26年のそれは、6.1万トン÷5.7万トン=1.07と、Qはわずか7%の増加ですが、Pは約6割に低下となっています。

いずれも、「2割2倍」以上の変動をしているようにうかがえます

 

(ウナギでは)

 

これは、完全に天然魚に種苗を依存することから、種苗の獲れ方次第で生産量がきわめて大きな変動をする代表例と言えます。水産庁のホームページにある「ウナギ稚魚の池入れ量と価格動向の推移」及び「活鰻平均池揚げ相場の推移」の図を見てみましょう。鰻1

 鰻2

 

この資料には、稚魚の池入れ量と価格の関係についての説明はありませんので、以下は私の解釈です。

 

 ・平成21年の池入れ量が30トン近くと多かったため、平成21年の需要期の夏(土用の丑)が過ぎた後に、活漫相場の急激な低下が始まっています。(グラフからの読み取りで正確ではありませんが)平成19、20年の池入れ量の平均がおよそ23トン、平成21年を29トンとすれば、Qは25%増加した結果、価格が2400円から1600円あたりまで、およそPが30%以上低下しているように見えます。

・平成22年になり以前の価格まで回復しますが、平成23年の夏ころから急激に価格が上昇しています。これぞ、正真正銘の「うなぎ上り」というやつでしょうか。これは社会的にも広く知れ渡った2年連続してのシラスウナギの大不漁が要因でしょう。この活漫相場のグラフは、途中で切れていますが、一時期5000円/㎏を越えたとも聞いております。不思議に思うのは、平成23年の池入れ量は、輸入を含めると前年を少し上まわっているのに、この異常価格は理解できません。一番相場が安い平成21年の池入れ量29トンと平成24年の暫定値を16トンとすると、ざっとQが半減し、Pが3倍になったといえましょう。

 

ウナギの場合、「2割2倍」程は変動していないようですが、量より価格の変動率の方が大きいことは確かのようです。

 

このグラフを見て私には感慨深いものがあります。それは、平成4年から7年まで宮崎県で養鰻業に深くかかわったからです。その時の問題は、シラスウナギがらみの暴力団問題もありましたが、同時に中国からの大量輸入による魚価安もあり、一時期1000円/㎏を切ったこともありました。私にとって、この5000円/㎏は、ただ唖然とするばかりです。本当に魚の価格とは、さっぱりわかりません。

 

それ以上に驚くことがあります。私が宮崎県庁にいた頃は、県下養鰻業の生産額は40億円を切り減少の一途でした。普通に考えれば、その時よりシラスウナギが獲れない今のほうが、さらに衰退しているはずなのに、逆に生産金額が80億円と倍増しているとのこと。「少ないことはいいことだ」なのでしょうか。これもさっぱりわかりません。

 

  • 「海のゴミ」が1000円/㎏に、「魚の王様」がそれ以下に

 

漁業現場に出て、さかなの価格の変化でなにより驚いたのは、伊勢エビ刺し網にかかるウマヅラハギでした。型が良いと市場でなんと1000円/㎏近い値段がつくのです。もともとおいしい魚ではありますが、私が水産庁に入庁したころ、相模湾の定置網に入る魚の半分がこれで占められ、20円/㎏でしか売れず、定置網の方に「海のゴミ」とまでいわれていたものです。どうしてこんなに高くなったかと市場の人に聞けば、「獲れなくなったから」とたった一言。

 

一方、その逆はマダイ。養殖の餌に柑橘系のものなど入れるなど、いろいろと工夫し肉質も格段に向上しています。にもかかわらず、600円/㎏台というその安さではあまりにもかわいそう。マダイは「魚の王様」で、私の中のイメージでは3000円/㎏程度の高級魚でした。その「魚の大様」が、かつての「海のゴミ」より安いとは・・・

 

生産量の増減のみが価格の変動要因ではないでしょうが、「多いことはいいことだ」とはどうもいかないようです。

 

  • 資源回復≠漁業回復

 

以下のグラフは、資源回復の最優等生といっても良い秋田県のハタハタの漁獲量、魚価、水揚金額の推移です。

ハタハタ1

これを見た時、私は、日本漁業が取り組むべき課題は、資源(Q)から魚価(P)に完全に移行したと思いました。

 

特にショックを受けたのは右側のグラフです。これは、QとPの積である水揚金額の推移ですが、資源が増えても所得は減る一方なのです。秋田県の関係者が、ハタハタ回復に懸命に取り組んだあの努力を思うと、あまりにもかわいそうではありませんか。というより、私自身にとっても資源回復計画で成果を上げたとしても、それが漁業者の所得を向上するとは限らない「資源回復≠漁業回復」では、何のための資源回復であったのかと、悲しくもなります。

 

これでは、「資源栄えて漁業滅ぶ」です。

 

そろそろ行政も漁業団体も、あいさつ文の常套句である「漁業を取り巻く環境は、資源の悪化・・・」を考え直す時期が来ていると思います。そうしないと資源問題が前面に出過ぎて、日本漁業がより優先的に取り組むべき課題の本質が、見えてこないような気がするからです。

このデータを見る限り、危機に瀕しているのは資源ではなく漁業です。しかし、これに警鐘を鳴らすマスコミは見たことがありません。「漁業が危ない」には、読者は「あーそー」で終わり。「資源が危ない」には、「乱獲けしからん!」と読者の関心を引き付け、売り上げが伸びるからでしょうか。行政だけはそのような世間受けにおもねることなく、本質を見失わないように願うばかりです。

 

これは、IQ・ITQ推進派も同じです。

彼らとタッグを組んでいる規制改革大賛成のJR東海の広報雑誌「ウエッジ」は、2014年8月号で「魚を獲り尽くす日本人」という嘘をデカデカと表紙に掲げ、そのサブタイトルで「資源管理で漁業は成長産業になる」とし、資源さえ回復すれば「みんなハッピー」になるとしております。

しかし、現実はそんなに甘いものではありません。

 

規制改革会議のいう「成長産業」とは、いつもその頭に(自分だけ)が隠されており、資源管理を名目にした「漁業者減らし」で、ノルウエー漁業のように少数者による資源の独り占めによる「(自分だけ)成長産業になる」を狙っているのでしょう。

 

  • では、84倍はいったい何倍が正解か

 

話を冒頭にもどし、マグロで大型魚が増えることでその生産金額がどうなるか推定してみましょう。

上に挙げた事例からして、今の価格がそのまま維持されることはなく低下する、これだけは言えるでしょう。

 

しかし、それで終わっては面白くないので、仮に2割2倍の経験則を当てはめたらどうなるのか、試算したものを以下に示します。この試算価格156円/㎏で計算すると生産金額は2.6倍となります。84倍はあまりに非常識な気がしますが、この2.6倍では少し低い気がします。正解はどの辺にあるか専門家に聞いてみたいところです。

 魚種  現在供給量  増加供給量  増加比率  現在の価格  2割2倍試算価格
 

マグロ

天然1万トン

養殖1.5万トン

計2.5万トン

天然4.6万トン  2.84  5000円/㎏ 増加比率は1.2の約5乗

5000円/㎏×(0.5)5

=156円/㎏

 

いずれにせよ、84倍に増えますよという話は、高配当で素人をだます投資詐欺のようなものです。ご近所にそのようなパンフレットを持って、儲け話の勧誘をする大学の先生が現れたら、くれぐれもご注意いただきたいと思います。

資源管理の本質は、漁獲量が多いだけではなく、また漁獲サイズが大きいだけではなく、需要に応じた量とサイズの魚を、可能な限り安定して供給できるようにすることでないかと思います。そこをわきまえていれば、資源詐欺に引っかかることはないでしょう。

 

 以下中編に続く・・・

 

               氷山物語その2IMG_0183

この写真は珍しいものです。といっても氷山が珍しいのではなく右の上に青空が写っているところがです。というのは、南極海はほぼ毎日、曇りか大しけで、めったに青空が覗くことがないからです。写真をとるのはなんといっても光の強い時がベストです。曇りだと氷山がのっぺりして立体感が出ません。青空と真っ白な氷山の色のコントラストに、心が洗われる気がしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

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