やはり元凶は輸入水産物だったのか(後編)

  • 1985年(昭和60年)が日本漁業の衰退への転換点になったのではないか

私にとっても記憶に残る年となった1985年は、日本漁業を衰退させた要因が生じ始めた年でもあったと思います。その一つ目の要因は、この年から始まった急激な円高の進行です。

同じ価格で競争していたところ、突然相手が半値に価格を下げてくれば勝負になりません。以下の水産物輸入のグラフ(水産白書(平成22年度)より)を見ても、昭和60年(1985年)あたりから輸入が急増しているように見えます。輸入金額でみると、昭和60年(1985年)の1兆1160億円が、平成9年(1997年)には1兆9456億円(ピーク時)とその後8200億円分も増えた、逆に言えば国内市場を奪われたのですから、日本漁業にとって、市場という名の海を奪われたと同じ大きな痛手となったことは言うまでもありません。

 

 

輸入量

 

2つ目の衰退要因は、マイワシ資源が衰退期を迎えたことにより、国内漁業生産量が1988年(昭和63年)の1278万トンをピークに減少し始めたことです。

3つ目の要因は、1991年(平成3年)に始まったバブルの崩壊です。これ以降我が国経済は「失われた20年」などと称されるデフレ不況に見舞われ、魚価の低迷にあえぐことになりました。

以上のように、1985-91年の6年の間に出現してきた3大要因(輸入水産物増加、資源減少、消費低迷)のうち何が一番日本漁業を苦しめたのでしょうか。魚種によって事情も異なりますので簡単にいえないでしょう。しかし私は、すでに資源ではない、消費低迷でもない、やはり元凶は輸入水産物ではなかったのかと思います。その理由は以下のように消去法で言えばそれしかないからです。

 

(資源ではないという理由)

本ブログの「大きいことはいいことか(前編)平成27年4月9日」で紹介した秋田のハタハタのように資源が回復するにつれ魚価が低迷し、漁業収入は減少したことに象徴されているように、日本漁業が取り組むべき課題は、すでに資源から魚価に完全に移行したと考えるため。また、現実としても主要魚種であるマサバやマイワシ資源をはじめ多くの魚種が資源回復傾向にあるため。

(消費ではないという理由) 

アベノミクスにより、輸出産業を中心とした好業績の企業では、賃金の上昇がみられるものの、日銀の量的緩和策によるインフレ目標は、消費税増税分を考慮すると達成できておらず、平成26年において消費が回復してきたとは言えないため。

 

以上のように考えますと、やはり平成26年における漁業関係団体における業績の回復は、輸入水産物を巡る状況変化がもたらしたと考えても良いのではないでしょうか。

 

  • 魚価の改善は資源管理の追い風となる

漁師はなぜ多くの魚を獲りたがるのでしょうか。その理由は、獲れば獲るほど儲かるから、あるいは、経営が苦しく多く獲らないと倒産するから、のいずれかでしょう。バブル崩壊後は、ほとんど後者がその動機であったと思います。仮に、魚価の上昇が続くとなれば、それは漁業経営の改善だけでなく、資源管理にも大きな追い風となります。なぜそうなのかを説明します。

毎度のパターンですが、あなたを一人の漁師として質問をしたいと思います。

(質問)あなたに、漁獲量が2倍、魚価が2倍、コストが半分、そのどれが一つをプレゼントしたいと思います。あなたは、どれを選択しますか。

正解は、魚価が2倍です。(時々「親の仇と魚は出会った時にとれ、それが漁師だ」と知ったかぶりに素人相手に話をしている人がいますが、もうそんな漁師はいませんので、ご安心ください)

なぜそうなるかを簡単なモデルで説明したいと思います。なお、このモデルのような少ない水揚げでは漁師はやっていけませんし、経費比率も仮定です。あくまでわかりやすい例えとしてご覧ください。

(基本モデル)

漁獲量100㎏×魚価100円/㌔-コスト5000円=儲け5000円          

コストの内訳は固定経費50%、変動経費50%(ただし、市場手数料は除外)

<漁獲量を2倍にすると>

漁獲量200㎏×魚価100円/㌔-コスト7500円=儲け12500円

<魚価を2倍にすると>

漁獲量100㎏×魚価200円/㌔-コスト5000円=儲け15000円 

<コストを半分にすると>  

漁獲量100㎏×魚価100円/㌔-コスト2500円=儲け7500円 

 

 

となるからです。簡単に言えば、魚価の向上分はコストを必要とせず加算されることから、儲けに大きく貢献するのです。

 

それでは、資源保護のために漁獲量を半減すると、儲けはどうなるでしょう。

漁獲量50㎏×魚価100円/㌔-コスト3750円=儲け1250円

つまり、漁獲量が半減しても固定経費がそのまま変わらないことから、儲けは半分ではなく、1/4の1250円に減るのです。

 

では、もっとも現実的かつ深刻な試算をしてみましょう。魚価が半分に下落し、経営が苦しくなった漁業者が、今まで通りの儲けを維持するには、どの程度漁獲量を増やさなければならないでしょうか。なんと以下のように、変動経費がコストに加算されるので、3倍獲らないと儲けを維持できないのです。

漁獲量300㎏×魚価50円/㌔-コスト10000円=儲け5000円  

このように、魚価の低迷こそが資源への漁獲圧力を高め、資源悪化を招く最大の要因になるのです。

私は常々思うことがあります。規制改革会議に資源悪化を批判する資格はない、むしろ彼らこそ資源悪化の元凶であると。

彼らが、貿易の自由化を推進し貿易黒字を積み重ねた結果、円高をもたらし、加えて輸入制限の撤廃を進めたことで、輸入水産物の競争力を高めたのである。さらに国内においては規制緩和による競争激化でデフレ不況を招き、消費をも低迷させた。これらこそ魚価を低迷させた元凶と言わずして、なんと言おう。

日本の漁業者は魚価の低迷の中で、さらに漁獲量を削減し資源回復に取り組んできたのですから、いかにそれが大変だったか想像できると思います。

以下、甘いかもしれませんが、魚価が上昇してきた時の、資源管理を想定してみましょう。たとえば、ある資源が減少し漁獲量の半減が必要となりました。ところがそれが魚価に影響を与え、75%上がったとするとどうなるでしょう。上記のモデルでは、その値上がり分の魚価75円/㌔×50㎏=3750円がコストを伴わず加算され、儲けは5000円になります。魚価が2倍にならずとも、痛みを伴わず漁獲量の半減が可能になるのです。

もう一つ魚価の向上による別の観点からの資源管理への効果を補足します。それは、漁獲対象魚種の拡大につながるという効果です。以下事例をあげて説明しましょう。

私が、宮崎県庁に出向したころ職員の方と居酒屋で一杯やった時の話です。お通しに「キサゴ(小さな巻貝で、中身を爪楊枝でつまみ出して食べる)」が出てきました。久しぶりだったので、「いやー懐かしー」と私が話したところ、職員の方が「以前は宮崎の小型底引き網漁業者も獲っていましたが、これは韓国からの輸入物と思います」とのこと。どうして獲らなくなったのかと聞くと「値段が安くなり、このためにわざわざ漁具を付け替え獲るまでの儲けがなくなったからです。資源管理に良くないのですが。少しの間でもこの操業をしてくれると、その間に日頃獲っている魚の保護になるのですが・・・」

これは多様な魚種を漁獲する日本漁業ならではの発想による資源管理ではないでしょうか。MSYやABCなど特定魚種でしか資源管理を語れない方々では、考えが及ばない次元での資源管理手法です。魚価が向上すれば、採算にあう魚種が増えてきます。そうすると魚種・漁法が多様化し、特定魚種への資源圧力を分散できるようになり、資源管理に大きな効果が生じてきます

これらが「魚価の改善は資源管理の追い風となる」という理由であり、以下の図の「負のスパイラル」を逆回転させるきっかけになるものと期待したと思います。

負のスパイラル

 

  • 猿払村は第一次産業の星

前編冒頭の北海道漁連の好業績のところで「ホタテが伸びをけん引」とありました。その代表的な生産地「猿払村」のことは以前から聞いていましたが、最近「年収ガイド:年収・収入に関する総合情報サイト」で以下の表を見て驚きました。これは、平成26年総務省発表の資料より全国1741市区町村の所得を算出し作成されたものです。

順位 市町村名 都道府県名 平均所得
1位 港区 東京都 1266万7019円
2位 千代田区 東京都 898万8291円
3位 渋谷区 東京都 756万5684円
4位 芦屋市 兵庫県 631万7423円
5位 猿払村 北海道 626万5300円
6位 目黒区 東京都 615万8887円
7位 文京区 東京都 593万1226円
8位 中央区 東京都 580万7646円
9位 世田谷区 東京都 536万4445円
10位 軽井沢町 長野県 513万7764円

すごいですねー。猿払村はなんと全国第5位です。上位10位のうち東京の区が7つ占めており、ここは投資家や大企業の役員など大金持ちが住むところ。芦屋市は、関西の大金持ちが住むところ。最後の軽井沢町も、これまた大金持ちが引退後住む豪華別荘地帯です。

そう決めつけてはいけませんが、猿払村以外の市町村に住む方たちの所得は、おそらく資本所得(不労所得)がほとんどでしょう。それに対し猿払村は、額に汗し、手にホタテし、稼いだ労働所得です。それで第5位に食い込むなど、本当に立派なものです。トマ・ピケティも涙を流して喜ぶこと間違いありません。

 

では、下位の10位も見てみましょう。

 

順位 市町村名 都道府県名 平均所得
1732位 今帰仁村 沖縄県 208万4043円
1733位 藤里町 秋田県 207万4353円
1734位 国頭村 沖縄県 206万6333円
1735位 大豊町 高知県 206万2321円
1736位 大宜味村 沖縄県 204万5615円
1737位 九戸村 岩手県 202万8842円
1738位 東成瀬村 秋田県 201万1522円
1739位 上砂川町 北海道 200万148円
1740位 山江村 熊本県 198万9503円
1741位 球磨村 熊本県 193万8974円

 

行ったことがないところばかりなので、ネットで少し調べた限りでは、田舎であることは間違いなく、過疎化と高齢化が進んでいるようです。主な産業といえば農業、林業、建設業のようで、高度経済成長の陰て衰退した地方を象徴した市町村かもしれません。しかし、役場のホームページを見る限りでは「金はなくとも自然がある」と頑張っている感じがしました。

政府の進める「地方創生」なる施策で、これらの地方が豊かになることはあるのでしょうか。どうも期待薄です。というのは、先般の安倍総理の訪米により、また一歩TPPへの参加に近づいてきた感があるからです。全漁連の試算では、

水産物の関税がゼロになり、なおかつ牛・豚肉の関税が20%下がったと仮定した時、水産物への影響は4600億円に上る。これは日本の漁業生産額約1兆4000億円の約3分の1に当たる

とのことです。

せっかく上昇してきた魚価もこれでまた逆戻りでしょうかTPPに参加してアメリカでの自動車部品の輸入関税が2.5%引き下げられても、一体日本にどの程度の得があるのでしょうか。これまでの円安で自動車業界は実質30%の関税が引き下げられたのと同等の恩恵を得ています。2.5%など為替変動で軽く吹っ飛び、何の意味もありません。にもかかわらずコメの輸入拡大まで譲歩するとは・・・。ますます地方は衰退するばかりで、どこまで地方をいじめれば気が済むのでしょうか。ほとほと悲しくなってきます。

政府の進めている「地方創生」と「TPP参加」は決して両立しません。自動車のブレーキとアクセルを同時に踏み続ければ自動車が壊れるように、顔は西(国内)に向いて、体は東(アメリカ)に走っては日本がおかしくなります。いつものようにお金でごまかそうとしても、国債発行も限界に近づいており、いつ財政破綻しておかしくない日本でそんな金がいつまで続くかわかりません。このようなことをしていて、本当にこの国は大丈夫でしょうか。これでは、地方「そうせい」ではなく、地方は「どうせい」というのでしょうか。

嘆いたところで、どうなるというわけでもありません。猿払村もホタテがなければ下位争いの方に食い込んできても不思議ではなかったでしょう。かつて衰退の一途であった猿払村が、ホタテ漁業に取り組むまでの苦労話は、何度聞いても「聞くも涙、語るも涙」です。第一次産業は、猿払村を希望の星として、他人に頼らず自ら頑張っていくしかないのかと思います。

 

氷山物語その5

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このナタのような形をした氷山は、なかなか立派で農林水産省の建物(8階)と同じか、それ以上あったと思います。水面下にはこの見える部分の7倍もの容積が隠れているのですから、実に大きなものです。この氷山の面白いところは、表面の形状が3種類あるところです。まずケーキの土台にあたるところの表面は、明らかに波で洗われたためか柔らかく見えます。刃物で切ったような右側は、おそらく大陸から海に滑り落ちるときに割れた跡ではないでしょうか。手前上の部分は、もともとこの氷山が大陸にあった時の上側ではないかと思ったのですが、画像を拡大すると雪が積み重なった層が見えますので、やはり側面です。でもなぜ右の側面と形状が違うのかわかりません。後で氷山の専門家からこのブログに「嘘ばかり書くな」という投稿があった場合は、ご勘弁ください。別に、悪気があるわけではありませんので。

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