NHKからの誠意なき回答

なかなか、返事がないなー、無視されたのだろうかと思い始めたころです。玄関に不在時郵便配達票が入っていました。その手紙はNHKからの書留らしく、わざわざ書留とはご丁寧にもと思い、早速翌日に車で中央郵便局まで出かけました。運悪く配達員が持って出ていたらしく、受け取れませんでした。そこで、さらにその翌日に時間を決めて再配達してもらうことにしました。

わざわざ、書留で送ってくれるということは、NHKも真剣に検討したのだろう、A4の封筒にどっさりと資料が入っているのではないか、などと期待していました。ところが、玄関先で郵便配達員の方から受け取ったのは、ごく普通の小さな封筒でそれも軽々としている。途中経過報告で、もう少し待ってくれというのだろうかと思いつつ、開けてびっくり。たった一枚、しかも半分は空白。「なんじゃこれは―」と思わずその場にへたり込みそうになりました。

ということで、何とか元気を取り戻し、今度はNHK会長に手紙を差し上げることにしましたので、皆さまにもお知らせしたいと思います。

 

日本放送協会 会長 籾井勝人 様

                                      佐藤力生

 

     「クローズアップ現代」番組制作責任者への指導等について(お願い)

 

 平成27年4月15日に、NHKの番組「クローズアップ現代」で「食卓の魚高騰! 海の資源をどう守る」をテーマとする放送が行われ、私は、漁業現場に身をおく一人として、同番組を強い関心をもって拝見しました。

 しかし、同番組が主張した内容の根拠等に疑問を感じたことから、平成27年5月19日付で20項目の質問を同番組にさし上げ、平成27年6月9日付で回答をいただきました(別紙1)。しかしながら、14問には回答がなく、残りの回答内容も抽象的な内容にとどまっていました。

 特に私が問題にしていることは、

・「魚の高騰は資源の減少が要因」としていながら、その根拠を示せない。

・「アジ、サバの資源は軒並み減少」としていながら、その根拠を示せない。

・「早い者勝ちの漁獲競争に歯止めがかけられていません」としていながら、その事例を示せない。

など、番組の主張の骨格に係る部分において虚偽があると判断せざるを得ないからです(別紙2)。

 なぜこのような内容の番組が制作されたのでしょうか。これは私の推測ですが、放送題材を他のメディアやSNSなどおける露出度の高い事例から安直に拾い上げ、事実関係を検証しないままでその趣旨に沿った、すなわちドラマ化されたシナリオをあらかじめ用意し、都合の良さそうな事実を事後的につなぎ合わせたためではないかと思います(別紙3)。

 NHKは、企業からのCM等の収益により成り立っている民間放送と違います。むしろ逆累進性を持った受信料、すなわち一部の富裕層ではなく、圧倒的多数の中間層以下の国民の負担によって支えられている公共放送です。

 では、同番組が主張した「個別割り当ての導入を日本でも進めるべき」は、どちらの立場からの主張でしょうか。それは、この20年間にわたり、日本における格差拡大をもたらした、市場原理主義に基づく経済政策推進の司令塔ともいえる「規制改革会議」からの提言なのです。

 規制改革会議は、日本漁業の伝統である海と資源を漁業者が共有しその富を分かち合う「共有・共生」の秩序を、海と資源を個人ごとに分割権利化し、市場取引の対象とすべきと提言しております。これは、無料で使える公共資本を、有料の民間資本に移行させることであり、トマ・ピケティが指摘しているように、より一層格差を拡大することを意味します。

 なぜ、圧倒的多数の中間層以下の国民負担によって支えられているNHKが、一部の富裕層の利益に資するような番組を放送するのでしょうか。これは公共放送としてのNHKの自殺行為に等しいと思います。

 つきましては、籾井勝人会長に以下の2つのことをお願いしたいと思います。

①番組の公正性を検証する権限を有するしかるべき部署において、当番組の内容及びその制作経緯を検証すること。

②その検証結果を踏まえ、改めて客観的事実に基づいた資源管理に関する番組を制作し放送すること。

 今回こそは、誠意あるご回答をお願い申し上げます。

 

別紙1

NHK「クローズアップ現代」への質問と回答

 質問(平成27年5月19日)  回答(平成27年6月9日)
 1 魚価が上昇してきている要因を「漁獲量の減少」としたのはどのような根拠からでしょうか。

回答無し

 2 2014年国内漁業生産量(速報値)は前年とほぼ同じであり、過去において日本の漁獲量は大きく減少してきたが同時に魚価も低下したなどの事実からすると、現在生じている魚価の上昇要因を「漁獲量の減少」と決めつけることは、ガイドライン2-①のア「正確であるためには事実を正しく把握することが欠かせない」及びガイドライン2-②のオ「事実と意見は明確に区別されるべきである」に合致していないのではないかとの疑念を抱かざるを得ませんが、いかがお考えでしょうか。(注:ガイドラインとは、「放送ガイドライン2011」のこと。以下同じ) 回答無し
 3 流通関係に詳しい人の意見では「最近の魚価の上昇は、円安による輸入水産物の価格の上昇が最も大きな要因」とのことでしたが「食卓の魚高騰!」と感嘆符まで着いた見出しを揚げて視聴者の関心を誘いながら、円安の影響ついて貴番組で全く触れられていないのは、どういう理由からでしょうか。 回答無し
 4「円安による影響」に全く触れないのは、ガイドライン2-②のア「幅広い視点から情報を提供する」に合致していないのではないかとの疑念を抱かざるを得ませんが、いかがお考えでしょうか。 回答無し
5 「日本の魚が大きく減っています」と判断した根拠はなんでしょうか。  漁業資源が長期に渡って減少している実態は、農水省の「漁業・養殖生産統計」や「水産白書」に記載されており、また4年前に農林水産省が漁業者に対し行ったアンケート調査においても87.9%が「資源の減少を実感している」と回答しています。
 6 日本の漁業生産量が大きく減った要因は、マイワシ資源が自然変動による減少期を迎えたためであり、その要因は、温暖化でも乱獲でもありません。またその他の資源も一時は減少しましたが、その後回復策が講じられ、水産白書にもあるように資源は全般的に回復傾向にあります。これらは広く知られている基本的な事実です。にもかかわらず、これらのことに全く触れられていない理由は何でしょうか。  (漁業資源が長期に渡って減少している)その要因は、水産白書には「水温上昇などの環境変動全般」や「人間による漁獲の影響」などがあげられており、いずれも番組のスタジオでキャスターが紹介しております。
 

7 貴番組において日本における資源回復状況に一切触れていないのは、ガイドライン2-①のア「事実を正しく把握する」に反するのみならず、「魚は手の届かない存在になってしまうのでしょうか」という表現は、事実に反しいたずらに視聴者の不安をあおるものであり、ガイドラン2-①のウ「番組のねらいを強調するあまり事実をわい曲してはならない」にも合致しかねないものと受け止められますが、いかがお考えでしょうか。

 回答無し
 

8 アジ、サバの資源を「軒並み減少しています」とした根拠は何でしょうか。

 回答無し
 

9 資源量の推移のグラフに掲載されたスケソウダラ(日本海北部系群)はスケトウダラ4系群のうちのひとつですが、これのみを選択した基準はなにでしょうか。

 回答無し
10 水産庁による資源評価では、マアジ2系群はいずれも「中位・横ばい」、マサバ2系群は「低位・増加」と「低位・減少」、ゴマサバ2系群は「高位・横ばい」と「中位・増加」で、通算するとアジやサバ6系群中「減少」は1系群のみです。この事実に基づけば「軒並み減少」との記述は、ガイドライン2-①のア「事実を正しく把握する」に反するのみならず、ガイドラン2-①のウ「番組のねらいを強調するあまり事実をわい曲してはならない」にも合致しかねないものと受け止められますが、いかがお考えでしょうか。 回答無し

11 グラフにあるスケソウダラ(日本海北部系群)は、4系群のうち最も資源が悪化している系群ですが、これのみを取り上げることは、ガイドライン2-①のア「事実を正しく把握する」に反するのではないかと受け止められますが、いかがお考えでしょうか。さらに、補足しておきたいことがあります。このグラフのマサバは対馬暖流系群があげられていますが、もう一つの太平洋系群では資源回復措置により資源量が、その取り組みの開始時点の700%を超える増加率を示し、日本周辺資源としては最大の195万トンに達しております。しかし、この事実に触れず、減少する対馬暖流系のマサバのみをグラフにあげたのは、貴番組の編集方針において、事実とは反しても資源悪化を強調し「軒並み減少している」としたいねらいがあったために、意図的にそうしたのではないかと、強く疑義を感じざるを得ません。

回答無し

12 「早い者勝ちの漁獲競争に歯止めがかけられていません」と判断した根拠となる日本における具体的事例(漁業種類、魚種、漁場、漁期など)をご教示願います。これまで、日本でその様な具体的事例が指摘された事例を承知しておらず、ぜひお聞きしたいための質問です。

回答無し

13 上記の記述は「漁獲量を制限すれば漁獲競争が是正できる」と受け止められますが、漁獲量を制限すればどうして漁獲競争がなくなるのかをご教示願います。魚は限られた漁場と漁期に集中することが多く、あとでゆっくり獲ろうとしても魚が分散してしまうことから、結局漁獲競争はなくならなかったとの外国の事例もありますので、ぜひお聞きしたいための質問です。

回答無し

14 上記の記述は、日本の資源管理のあり方を巡る議論で、「日本では漁業者の話し合いにより漁獲競争は抑制されている」と主張する者との間で、意見が対立しております。にもかかわらず、貴番組ではそのことに全く触れておりません。これは、ガイドライン2-②のイ「 意見が対立する問題を取り扱う場合には、原則として個々のニュースや番組の中で双方の意見を伝える。仮に双方の意見を紹介できないときでも、異なる意見があることを伝え、同一のシリーズ内で紹介するなど、放送全体で公平性を確保するように努める」に合致していないと考えざるを得ませんが、いかがお考えでしょうか。

直接的回答無し

(抽象的回答として)資源管理については、さまざまな議論があることをふまえ、国内外で実施されている様々な漁獲規制を取り上げ、立場の異なる方の意見を紹介しています。また、一部の魚種では漁協などが自主的に資源管理を行い、資源の回復に一定の成果を上げてきたことについても、番組のスタジオでキャスターが紹介しております。

15 「僅か7魚種」の「僅か」の記述は、漁獲量上限を定める魚種が多い方がより望ましい資源管理手法と、貴番組では判断したと受け止められますが、その根拠はなんですか。

回答無し

16 日本における資源管理のあり方の議論の中では、その国々の漁業や資源の特徴に応じ、漁獲量規制か、あるいは漁獲努力量規制か、が選択されるべきであり、加入変動の大きい魚種には漁獲量制限による資源管理手法はふさわしくないとの意見がありますが、貴番組ではそのことについて全く触れておりません。これは、ガイドライン2-②のイ「異なる意見があることを伝える。放送全体で公平性を確保するように努める」に合致していないと考えざるを得ませんが、いかがお考えでしょうか。

直接的回答無し

抽象的回答としては、上記質問14の回答が該当。

 17 「しかもその上限は、実際の漁獲量を大きく上回っています」としていますが、なぜ国が定める漁獲量の上限が、実際の漁獲量を上回ってはいけないのかご教示願います。国が定める漁獲量の上限は、資源管理を目的としており、その漁獲量の消化率を上げることを目的としておりません。よって、実際の漁獲量が漁獲量の上限を上回れば資源管理上問題となりますが、それを下回って何の問題があるのか、ぜひお聞きしたいための質問です。

回答無し 

 18 勝川氏は、外国の漁獲規制(正確に言うと個別割当:IQ)を日本に導入すべきと一貫して主張されており、日本の資源管理のあり方に関する意見の対立における一方を代表する一人といえます。これはガイドライン2-②のウ「番組ではさまざまな意見や見方を反映できるように出演者は幅広く選ぶ」及びガイドライン4-①イ「番組のジャンルを問わず、構成や演出など、全般にわたって幅広く目配りするとともに、題材や出演者の選び方に偏りがないように注意する」に合致していないと考えざるを得ませんが、いかがお考えでしょうか。

直接的回答なし

抽象的回答としては、上記質問14が該当

 19 貴番組が題材に取上げた新潟県におけるアマエビのような、船ごとの漁獲規制の試みは、すでに全国各地に前例があります。よって「日本でも始めたところがあります」の記述では、視聴者に「それまで日本には前例がなかった」と誤解されかねません。これはガイドライン2-①ア「NHKのニュースや番組は正確でなければならない。正確であるためには事実を正しく把握することが欠かせない」に合致していないと考えざるを得ませんが、いかがお考えでしょうか。

 回答無し

 20 貴番組において、新潟県におけるアマエビの事例を取り上げた目的は「船ごとの漁獲規制」と「籠の網目拡大」による資源管理効果の事例を視聴者に示すことと受け止められます。であれば、同じ日本海の事例である「ベニズワイガニ籠漁業」での資源管理の方が、実施年次がより長い、船ごとの漁獲規制に全船が参加、その違反には公的罰則が課せられてより厳格、網目拡大により漁獲物が大型化、アマエビと異なり資源が増加している、などからよりふさわしい題材といえます。にもかかわらずこの優良な題材を取り上げず、アマエビを取り上げたのは、ゲストの勝川氏がこれにかかわっているからだとすれば、ガイドライン4-①イ「番組のジャンルを問わず、構成や演出など、全般にわたって幅広く目配りするとともに、題材や出演者の選び方に偏りがないように注意する」に合致していないと考えざるを得ませんが、いかがお考えでしょうか。

スタジオ出演者は、取材対象の選定にかかわっておらず、番組では様々な意見があることを幅広く伝えています。

 

別紙2

 NHKからの回答に対する私の受け止め方

1 「無回答という回答」は自らの誤りを認めたことを意味する

質問20項目のうち、無回答は14項目(70%)にも及んでおります。

私は、質問内容を

①番組で主張されたことの根拠

②番組での主張と異なる考え方があることに言及されなかった理由

の2種類に分け、かつガイドラインに照らし適切なものかどうかなど、より具体的にすることにより、回答しやすい工夫をしました。いずれも、番組制作者であれば容易にお答えいただけるレベルのものです。

 にもかかわらず、質問の70%が無回答でした。質問に答えられないということは、番組の主張に根拠がなかったことを実質上認めたことになります。しかも、無回答にかかる質問は以下の2で言うように番組の主張の骨格をなすもので枝葉末節のものではありません。これは、NHKという公共放送の信頼性の根本にかかわることです。

失礼ですが、この回答文からは、質問に対し真摯に回答しようとする態度が全く感じられませんでしたが、それ以上に、自ら作成した番組の内容に対する自信というものも全く伝わってきませんでした。それはなぜでしょうか。おそらく、番組の骨格をなす主張について裏付けをとらないままに放送してしまったからでしょう。今回の質問を受け裏付けの確認をした結果、信用していた取材先の主張に根拠がなかった、つまり「騙された」ことに初めて気が付いたかもしれません。このあたりに「無回答という回答」でNHKが自らの信用を貶めざるを得なかった理由があるのではないかと思います。

 

2 無回答は番組の主張の骨格にあたる部分が多い

 私の質問は20項目に及んでいますが、その内容は大きく分けると以下の6つになります。

①魚の高騰と資源変動との関係(質問1~4)

②全般的な資源変動(質問5~7)

③個別魚種の資源変動(質問8~11)

④漁獲競争の有無(質問12)

⑤異なる資源管理の考え方(質問13~17)

⑥出演者や題材の選び方(質問18~20)

これに対し、まったく回答のなかったのは、①、③、④の部分で、以下のように番組の主張の骨格に対する質問です。

 

  番組の主張の骨格  左記に対応した無回答質問
 魚が高騰しているのは資源減少が原因

①魚の高騰と資源変動との関係(質問1~4)      

③個別魚種の資源変動(質問8~11)

 資源減少は漁獲競争が原因 ④漁獲競争の有無(質問12) 
よって、個別割り当て制度を導入せよ  ⑤異なる資源管理の考え方(質問13~17) 

 

いったいこれはどう判断すればよいのでしょうか。

 

3 回答があった項目についても、抽象的で論点を意図的にずらしている

質問に対する回答があった項目においても、それは抽象的な内容にとどまり、質問に具体的に答えず、論点を意図的にずらしています。なぜ、私がそう判断したか、以下に一つ一つの検証結果を示します。

 質問5 「日本の魚が大きく減っています」と判断した根拠はなんでしょうか。

(回答)漁業資源が長期に渡って減少している実態は、農水省の「漁業・養殖生産統計」や「水産白書」に記載されており、また4年前に農林水産省が漁業者に対し行ったアンケート調査においても87.9%が「資源の減少を実感している」と回答しています。

 

<質問のすり替え>

質問では、「大きく減った」が、回答では「長期に渡って減少」に「すり替え」られています。なぜでしょうか。それは以下の水産白書(平成25年度)p85にある「漁業生産量の推移」のグラフを見れば一目瞭然です。

 

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日本の漁業生産量は、マイワシ資源の減少を受け平成に入ったころから平成12年ごろまでに大きく減少し、その後はなだらかに減少を続けてきました。「大きく減った」のはすでに10年以上前までに起こったことであり、その後は「なだらかに減少し、平成24年は増加に転じた(平成25の速報値も前年とほぼ同じ)」の状況にあります。

つまり、直近で見ると「大きく減っていない」むしろ「下げ止まった」のです。ゆえにその根拠を問われ答えに窮し、時間をさかのぼらせ「漁業資源が長期に渡って減少している」と勝手に質問をすり替えたのです。

では、なぜ番組は、初めから「漁業資源が長期に渡って減少している」としなかったのでしょうか。それは、番組のシナリオで「魚が高騰の原因は資源減少」としている以上、「漁業資源が長期に渡って減少」では、最近の「魚が高騰」の原因にならないからです。つまり、

過去に起こったことを、あたかも今起こっているがごときに見せかけ、因果関係のない「魚の高騰」と「資源状況」を結びつけるために、「現在、日本の魚が大きく減っています」という嘘が必要だったのです。この嘘のシナリオは、NHKの誰かが書いたか、又は持ち込まれたのかはわかりませんが、皮肉にもこのすり替え回答が、自ら嘘を暴露してしまったということでしょう。これについては、別紙3「NHKの回答から浮かび上がるドラマ化されたシナリオ」でさらに詳しくのべたいと思います。

<アンケートは意識調査に過ぎない>

なお、この回答では、平成22年度水産白書にもある「水産資源の状況と資源減少の要因(漁業者の意識)」のアンケート結果「漁業者の87.9%は「資源は減少している」と感じています」を引用していますが、これは「魚が大きく減少」の根拠にはなりません。これは、あくまで現状の資源に対する漁業者の「意識」を表すものです。

例えるならば、納税者に「あなたの税金は高いですか安いですか」とアンケートするようなものです。当然、高率で「高い」との回答が帰ってきます。なぜなら、このようなアンケートには本人の願望という心理的要素が影響してくるからです。漁業者に、大漁の時に「ずいぶん多く獲れましたね」と聞けば、ほぼ間違いなく「いやー昔はもっと獲れた」という回答が返ってきます。もちろんその昔とは、去年かもしれないし、30年前、いやもしかしたら40年、50年前のことかもしれない。資源には自然変動が避けられないので、良い時もあれば悪い時もある。だから、漁業者にとっては、ほとんどの魚種で「昔はもっと獲れた」となります。

このように、漁業者にとっての資源状況とは、その資源が最も多く獲れた時の記憶・体感を基準に判断するのです。よって、いつこのようなアンケートを行っても、結果はほぼ同じになるのです。よって、アンケート結果で今の資源状態に言及すること自体に意味がないのです。

皆さんの周りに、このデータを根拠に「ほら!日本の資源はこんなに悪い」という人がいれば、「そんなデータを使うと笑われますよ」とご注意いただければと思います。ついでに言えば、「昔はもっと獲れたのにとか、そのような話をよく聞く」などという学者も同じです。

 

 質問6 日本の漁業生産量が大きく減った要因は、マイワシ資源が自然変動による減少期を迎えたためであり、その要因は、温暖化でも乱獲でもありません。またその他の資源も一時は減少しましたが、その後回復策が講じられ、水産白書にもあるように資源は全般的に回復傾向にあります。これらは広く知られている基本的な事実です。にもかかわらず、これらのことに全く触れられていない理由は何でしょうか。

回答(漁業資源が長期に渡って減少している)その要因は、水産白書には「水温上昇などの環境変動全般」や「人間による漁獲の影響」などがあげられており、いずれも番組のスタジオでキャスターが紹介しております。

 

質問5と同じく質問に対する回答が時間的にずれています。また部分的に無回答も含まれています。

私の質問は、簡単です。「日本の魚が大きく減った」のは過去のこと、今は大きく減っていない、むしろ増えつつある。よって、このことを認めずなぜ「大きく減った」というのか、です。しかし、回答はご覧のとおり、そのことに全く答えていません。そのかわり、質問で触れたマイワシの減少原因ではない、最近の要因をただ書いているだけです。質問者を馬鹿にしているのでしょうか。

質問14 上記の記述は、日本の資源管理のあり方を巡る議論で、「日本では漁業者の話し合いにより漁獲競争は抑制されている」と主張する者との間で、意見が対立しております。にもかかわらず、貴番組ではそのことに全く触れておりません。これは、ガイドライン2-②のイ「 意見が対立する問題を取り扱う場合には、原則として個々のニュースや番組の中で双方の意見を伝える。仮に双方の意見を紹介できないときでも、異なる意見があることを伝え、同一のシリーズ内で紹介するなど、放送全体で公平性を確保するように努める」に合致していないと考えざるを得ませんが、いかがお考えでしょうか。

(回答)

直接的回答無し

(抽象的回答として)資源管理については、さまざまな議論があることをふまえ、国内外で実施されている様々な漁獲規制を取り上げ、立場の異なる方の意見を紹介しています。また、一部の魚種では漁協などが自主的に資源管理を行い、資源の回復に一定の成果を上げてきたことについても、番組のスタジオでキャスターが紹介しております。

 

 

この回答は私の質問に直接答えていません

私の質問は、番組が主張する「日本には漁獲量を制限する規制が少なく、早い者勝ちの漁獲競争に歯止めがかけられていません」に対し、それを否定する「漁獲競争は抑制されている」という主張がなぜ取り上げられていないのかを聞いています。この場合の答えは、「その主張は知らなかった」か「その主張は…の理由から取り上げなかった」のいずれしかありません。

しかし、ご覧のようにまったくこのことに答えていません。無回答では、NHKも「漁獲競争は抑制されている」という事実を認めざるを得なかったと受け止めるしかありません。

 

次に、抽象的な回答の内容にある「立場の異なる方の意見を紹介しています」を検証します。

まず、番組の開始から終わりまでの内容を、ゲストの勝川氏の主張に沿った部分(A)とそれと異なる主張の部分(B)に大まかに分けてみました。なお、事実を伝えているのみのナレーションであっても、その紹介する事例が、勝川氏やその主張に近い方々が、自らの主張の根拠として使う事例である場合は、Aとしました。以下がその一覧です。

 

開始からの経過時間(分・秒)   登場人物とナレーションを含む内容等  主張区分(A又はB)と時間
00:00~01:42  (魚高騰、漁獲量減少) A 1分42秒 
01:42~03:42  (漁獲量大幅減少、世界では漁獲量規制が成果、日本での漁業による自主規制) 

A 2分00秒

ごく一部にB 

03:42~05:52  卸売業者、漁業者(魚高騰、資源減少、早い者勝ち、漁獲量規制が少ない)  A 2分10秒
05:52~07:10 まき網漁業者(獲るものがなければ小さな魚を獲る)  B 1分18秒
07:10~11:23  壱岐漁業者、東京大学教授(産卵期のマグロ問題)  A 4分13秒 
11:23~12:16  まき網組合長(夏にはマグロ以外獲るものがない)  B 0分53秒 
12:16~16:40  ゲスト勝川氏(漁獲量減少、規制がなく先獲り)  A 4分24秒 
16:40~22:02  外国人科学者、アマエビ漁業者(大西洋クロマグロ、新潟県アマビ)  A 5分22秒 
22:02~26:05  ゲスト勝川氏(アマエビは良い、サバはよくない)  A 4分03秒 
合計時間  

A 23分54秒

B 2分11秒

 

あくまで私の主観による区分ですが、どうみてもAがBに対し時間帯として圧倒的に多いことは間違いありません。また、Aサイドの登場人物には学者がいるが、Bサイドには漁業者のみで、日本漁業の特徴である自主的資源管理の優位性を主張する学者は全く登場しません。

このように番組の構成は、定量的及び定性的のいずれの観点からも勝川氏の主張に近い部分(A)に著しく偏重していると判断せざるを得ません。(これは、質問の16,18についても同じです)

にもかかわらず、回答では「立場の異なる方の意見を紹介しています」と自らの正当性を主張されています。このように極めてわずかな時間でも紹介すれば、それで番組の公平性が保たれるとでもいうのでしょうか。NHK自らが定めている「放送ガイドライン2011」には何と書いているでしょう。

「幅広い視点から情報を提供」

「放送全体で公平性を確保」

「出演者は幅広く選ぶ」

「題材や出演者の選び方に偏りがないように注意する」

と書いてあります。自ら決めたことを自ら破っている番組制作責任者に猛省を求めたいと思います

 

<自主的資源管理の説明内容に虚偽あり>

番組としても、異なる資源管理手法について配慮したのでしょうか、上記の01:42~03:42の時間帯において自主的資源管理についてナレーターが概要以下のように説明しております

 

日本でもイカナゴやホタテなど、地域が限定された海産物については漁協などが自主的管理を行い、一定の成果を上げてきた実績を持っているが、資源管理に向けた合意形成が難しく、資源が減り続けているのが回遊魚の中でも、マグロやサバ、ホッケと言った食卓になじみのある魚である。

 

残念ですが、この説明の後半には大きな虚偽があります。

その理由を具体的に申し上げます。太平洋岸において大きく南北回遊するマサバをもっとも多く、広い海域において漁獲するまき網漁船が所属する漁業団体があります。そこでは国から割り当てられたマサバの漁獲量を、団体内での話し合いにより船別に分配しています。しかも漁獲状況に応じ頻繁にその配分を見直しており、これは漁協による自主的資源管理以上に、高度で緻密な自主的資源管理といえます。回遊魚だからと言って合意形成が困難というのは、現場の状況に疎い資源学者の思い込みです。せっかく資源の自主的管理を取り上げていただいたのに、このような虚偽を世に広められたのは残念でなりません。

 

質問20 貴番組において、新潟県におけるアマエビの事例を取り上げた目的は「船ごとの漁獲規制」と「籠の網目拡大」による資源管理効果の事例を視聴者に示すことと受け止められます。であれば、同じ日本海の事例である「ベニズワイガニ籠漁業」での資源管理の方が、実施年次がより長い、船ごとの漁獲規制に全船が参加、その違反には公的罰則が課せられてより厳格、網目拡大により漁獲物が大型化、アマエビと異なり資源が増加している、などからよりふさわしい題材といえます。にもかかわらずこの優良な題材を取り上げず、アマエビを取り上げたのは、ゲストの勝川氏がこれにかかわっているからだとすれば、ガイドライン4-①イ「番組のジャンルを問わず、構成や演出など、全般にわたって幅広く目配りするとともに、題材や出演者の選び方に偏りがないように注意する」に合致していないと考えざるを得ませんが、いかがお考えでしょうか。

(回答)

スタジオ出演者は、取材対象の選定にかかわっておらず、番組では様々な意見があることを幅広く伝えています。 

 

これも、私の質問と回答がずれています。仮に題材をゲストの勝川氏が推薦しても、最終的にそれを用いるかどうかは当然番組側に決定権があることは承知しております。お聞きしたかったのは、なぜ新潟県のアマエビが、他に優良な事例(日本海ベニズワイガニ籠漁業)があるのに、それを差し置いてこれを題材として選定されたのかという点です。そのことについては、回答がありません

なお、「番組では様々な意見があることを幅広く伝えています」は、上で指摘した通り定量的、定性的な両面からしても事実と合致しておりません。

 

<新潟県のアマエビは優良事例とは言えない>

日本海のアマエビは、水産庁の資源評価では「減少傾向」にあります。そのため過去の実績を基に算出された新潟県における漁船ごとの個別割当量については、消化しきれていないと聞きます。にもかかわらず、個別割り当てに参加した漁船に限り、夏場の操業禁止期間を解除し、資源圧力を従来より2か月間も高めております。これでは、資源保護というより乱獲を促進しているのではないかと指摘されかねません。よって、個別割り当て量を、資源減少に合わせ、日ごろ他人に厳しく求めているように、これまでの半分などに削減すれば別ですが、今のようなままだと「NHKは乱獲促進を優良事例として紹介するのかと」との批判がありうることへの注意を促したいと思います。

 

 

別紙3

NHKの回答から浮かび上がるドラマ化されたシナリオ

 

1 事実に基づかいない報道番組がどうしてできたのか

『クローズアップ現代』はドラマではありません。あくまで事実に基づく報道番組です。公共放送が不特定多数の国民に対し報道した「食卓の魚高騰! 海の資源をどう守る」の番組内容に「おかしい点があるのではないか」という質問があれば、NHKは当然これにこたえる義務があります。刑事事件の容疑者のように「黙秘権」が認められるわけがありません。

よって、質問に答えられないことは、「自らの非を認めた」ことになります。そこで、「自らの非を認めた」個所を明確化し、私が思う正しい事実をくわえて文章として連ねると以下のような内容となります。

 

・「魚高騰の原因は資源減少(1つ目の嘘)」は事実ではなく、円安が原因。

・「現在、魚が大きく減少している(2つ目の嘘)」は事実ではなく、現在、漁獲量は下げ止まり、資源は回復に向かっている。

・また、「魚は手の届かない存在になってしまうのでしょうか(3つ目の嘘)」「アジ、サバの資源は軒並み減少しています(4つ目の嘘)」も事実ではない。

・「早い者勝ちの漁獲競争に歯止めがかけられていません(5つ目の嘘)」は事実ではなく、日本においてその事例はない。

・また、「漁獲量を制限すれば漁獲競争が是正できる(6つ目の嘘)」「日本には漁獲量を制限する規制が少ないことが資源減少要因(7つ目の嘘)」も、その根拠はない。

 

このように、番組の表題「食卓の魚高騰! 海の資源をどう守る」からして嘘であり、少なくとも7つの嘘が満載されているこの番組において、疑いのない事実とは何だったのでしょうか。私は、「魚の高騰」と「ホッケ・マグロ資源の減少」だけだったと思います。では、この事実だけで番組を作れば良かったと思いますが、どうしてこのような、「少しの事実に多くの嘘をまぶす」番組に仕上がったのでしょうか。ここが謎です。

これから先は、あくまで私の推論ですがその謎を解くカギとして、番組の導入部分にある「魚の高騰」に着目しました。番組が、この2年間に生じ始めた魚価の上昇に着目し素直に取材を進めたとすれば、必ず「円安」に行き着くと思います。さらに、日本の漁獲量は一昨年に増加に転じ、昨年もほぼ同じ水準を維持していますので、その要因を資源(漁獲量)に結びつけることはあり得ないと思います。にもかかわらず、番組では円安に一切言及しておらず、資源減少がその原因としています。ここは、だれが考えても理解できないところです。そこで私の結論は、

 番組には、日本に個別割り当て制度を導入すべきとするシナリオが先にあり、その補強材料として視聴者の関心をひきやすい「魚の高騰」を利用した。

 

です。この番組を「魚の高騰」から入るから「どうしてNHKはこんな嘘をいうのだろうか」と疑問に思うのですが、逆に結論からさかのぼれば「なるほど、NHKは嘘を承知で『魚の高騰』を利用したのか」と納得がいくのです。

 

2 先にあったドラマ化されたシナリオ

シー・シェパードのポール・ワトソンは、その著書でメディア操作のコツを語っており、「メディアは、事実、数字、統計値、科学的報告書に関心をもたない。彼らはドラマ、ストーリーを望む」としており、また、「自分の目的に沿わない質問は無視せよ。言いたいことだけを述べよ」とも言っております。

残念ではありますが、今回の番組の内容及びそれへの質問への回答は、ポール・ワトソンによって、見透かされたメディアの悪しき体質に見事に符合しております。

既得権益にどっぷりつかった農業や漁業を、改革派がたたくというドラマで読者や視聴者の関心を引こうとする傾向が最近のメディアに多く見受けられます。今回の番組の企画は,自ら発案したものなのか、それとも持ち込まれたものかは、わかりません。しかし、明確にいえることは、事実に基づいてその問題の本質を追及するのではなく、題材を他のメディアやSNSなどおける露出度の高い事例から安直に拾い上げ、その趣旨に沿った「ドラマ」が先にあって、それに都合の良さそうな事実をつなぎ合わせたからこそ、このような番組が出来上がったということです。

放送ガイドラインにある、

「NHKのニュースや番組は正確でなければならない。正確であるためには事実を正しく把握することが欠かせない」

「番組のねらいを強調するあまり事実をわい曲してはならない」

を遵守しておれば、7つもの嘘が満載された番組は決して存在しなかったと思います。

この番組の内容は、国民の信頼から成り立っている公共放送としてのNHKに期待される正しい報道とは程遠いものではないかと思います。

 

 

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