天(お客)に唾するJR東海の広報誌『ウエッジ』(後編)

坊主憎けりゃ袈裟まで憎い

 

あらためて、以下に月刊誌『ウエッジ』から漁業攻撃記事のみを抜粋します。

 

 2012年3月号「特集こんなに儲かる漁業補償」 カネのために掲げた“反原発”

2013年2月号 カニ密漁を防ぐ日露協定の抜け穴

2013年8月号「特集ウナギの次はマグロが消える」クロマグロ一網打尽 ウナギ乱獲

2014年8月号「特集魚を獲り尽くす日本人」

2015年5月号 絶滅危惧のクロマグロ 産卵場の漁獲規制を急げ

2015年8月号「特集ウナギ密漁、変わらぬ業界・・」 暴力団が暗躍する・・

2015年9月号 マグロ急減で漁業者衝突 動かぬ水産庁の不可思議

同社のホームページでは、2007年1月号から20015年10月号までの、合計106ヶ月分の記事の見出しが掲載されています。しかし、始めからの63ヶ月分には、漁業関係記事が全く見当たりません。もともとJR東海は漁業に関心がないのです。

 

ところが、原発事故を境に立て続けに漁業攻撃記事を掲載するようになりました。この他、WEBマガジン「WEDGE Infinity」でもその頃から漁業攻撃記事が始まります。日本で出版されているあらゆる雑誌の中で、最も日本漁業に敵意をむき出しにしている雑誌と断言しても良いでしょう。JR東海という公共交通機関がお客に向かってなぜそんなことをする。これはどう考えても明らかに異常です。

 

昔よくあった、金のありそうな企業の周辺を嗅ぎまわりスキャンダル記事を書いては、企業に高い料金でのミニ新聞の購入をせびる手合いに一見似ていますが、もちろん大金持ちのJR東海の目的は別にあります。電力を大量に使うJR東海が、電力会社のお役に立とうとしているのか、恩を売ろうと思っているのかはわかりません。その意図は別にしても結果として国民の漁業に対するイメージダウンを、あらゆるネタを使い徹底的にやろうとしているのだけは間違いありません。というのは、あまりにも記事の内容が、あちこちにはねて脈絡がないからです。

 

まったく漁業に関心がなかったのに、突如始まった漁業関連記事の2回目がなぜ「カニ密漁を防ぐ日露協定の抜け穴」なのでしょうか。手当たり次第にケチをつけるための題材を探し始めたことが「ありあり」です。シラスウナギの大不漁で当時たまたま社会的関心を呼んでいたのがウナギです。シラスウナギは河川で採捕され、海岸に位置する原発とは関係ありません。ウナギがそのとばっちりを食らったといえるでしょう。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」ということでしょうか。

 

『ウエッジ』の記事は、あまりにも漁業者を悪くとらえています。性格の悪い人間は他人も自分と同じと思い込むのでしょうか。自分がそうだからといって、漁業者もみんな強欲で強いものに媚びるキツネ人間と思われては困ります。そこで、上記の記事のうち、

「特集こんなに儲かる漁業補償 カネのために掲げた“反原発”」と

「特集ウナギ密漁、変わらぬ業界・・暴力団が暗躍」

の2つの記事について、漁業者、養鰻業者の名誉のために以下のとおり反論しておきたいと思います。

 

なぜ、紀伊半島には原発が一基もないのか

 

 関西圏、中京圏という二つの大都市に近いにもかかわらず、なぜか紀伊半島には原発が一基もありません。私が熊野に移り住み、はじめて漁協の本所がある遊木浦(ゆきうら)に行ったとき、港の手前に青地に赤で「原発絶対反対」という随分古ぼけてはいましたが大きな看板が目に入りました。その時に「そういえば、紀伊半島には原発が一基もない」ことに気が付きました。しかし、調べてみると和歌山、三重の両県には関西電力と中部電力による合計9ヶ所もの建設計画があったのです。

 

ではJR東海さんに質問します。

「カネのために掲げた“反原発”」が本当であれば、最後まで一基たりとも建設を認めなかった紀伊半島の漁業者は、カネに困っていなかったからでしょうか。実態はむしろ逆で、この海域は急深なため沖合を回遊してくる魚を狙う程度で決して水揚げも多くありません。多くの漁村では過疎化も進んでいます。ではなぜカネの誘惑に負けず最後まで反対を続けたのか

その理由は「カネでしか世の中を見ないあなたとは違う」からです。

毅然と反対運動をしてきた住民、なかでも漁協の組合員がしっかりと反対をしたことが原発を阻止したとの評価もありました。それを象徴している、「わかやま新報」和歌山支局記者の記事から以下を引用させていただきます。

 

賛否で割れた漁協が、海で遭難した仲間の捜索で協力したことがあったと教えてくれた。遺体は一週間後に見つかった。「漁師はな、『板子一枚下地獄』と言うんや。そんな所で働くもんは皆仲良くせなあかん。町長、お前にこの気持ちが分かるか」。この言葉で町長は誘致推進を取りやめたという。

 

 

 

 「白いダイヤと黒い河」という読み物

 

ウナギの記事には「密輸」「ロンダリング」「暴力団」「暗躍」という凄い単語が並んでいます。これだけ見れば、てっきり「覚せい剤の密売組織」のことかと誰もが思うでしょう。しかし、そのあとに来るのが「ウナギビジネス」なのです。何とかして漁業を貶めたい、ダーティーなイメージを読者に植え付けたいとする意図が丸見えです。

 

確かに、かつて暴力団に実質上牛耳られていた地域がありました。それは私が県庁に出向していた頃(平成4年~7年)の宮崎県です。しかし、シラスウナギを横流しされ、存亡の危機に至った養鰻業者はついに立ち上がり、警察、海上保安部、県庁とともに正常化に取り組んだのです。素人が暴力団に対峙するときの恐怖感は、実際に経験したことのある人間にしかわからないでしょう。業界はそれを乗り越え確実に変わったのです。有力政治家など強いものにはすぐ尻尾を巻くJR東海に「変わらぬ業界」などといわれるゆえんはありません。

 

その時に何があったのか。それを一人の女性記者が「読み物」としてまとめたのが「白いダイヤと黒い河」です。この素材は当時の私の記録です。これは、かつて題名を「白いダイヤと黒い流通」として水産系雑誌に連載されましたが、読者から大変な反響があったことから、あらためて当時の関係者に事実関係を精査してもらい、内容にとどまらず題名も含め書き改めたものです。

 

なぜ、「記録」といわずあえて「読み物」というのか。それは無味乾燥な私の記録が、その女性記者のおかげで、臨場感にあふれスリル満点の「読み物」として生まれ変わったからです。特に後半はハラハラ・ドキドキの連続です。これを読んだNHKの番組「プロジェクトX」から女性記者に問い合わせがあったほどです。(結局実現しなかったのはやはり×××が絡んでいたからではないかと推察しています)

 

この読み物で、現場における資源管理や漁業秩序を守るとはどういうことか、漁業経営を維持するとはどういうことか、の厳しい現実をご理解いただけると思います。ここに登場する宮崎方式は一つの成功事例ですが、これを全国一律に広めることは適切ではありません。それは、シラスウナギ一つを事例にとっても、全国各地で事情が異なるからです。

 

規制改革会議の手先となって、格差拡大につながる市場原理主義を日本漁業に持ち込みたい勢力は、政治家やメディアを巧妙に利用し、素人受けする「日本の資源管理方法はダメ、IQで漁業を成長産業に」などを世に広めています。漁業を取り巻く、自然・社会・経済環境が大きく異なるにもかかわらず、外国の物まねを現場に押し付けようとしています。世界から高く評価されている共同体管理という日本漁業の伝統を破壊するこの行為は、漁業関係者の強い反発を招き、漁業秩序を乱れさせ、日本漁業を確実に衰退に向かわせます。

 

JR東海の真の目的は、原発の邪魔となる日本漁業を潰すことです。だから東京海洋大学准教授勝川俊雄氏らの投稿を頻繁に掲載しているのです。一見ご立派そうなこという彼らを「衣で鎧を隠す」又は「霊感商法」に例えれば、その実態が理解しやすいと思います。「改革派」という仮面をかぶり、裏で日本漁業潰しを進めるこれら勢力こそが、形相と中身が同じで、ある意味裏表がない暴力団以上に、国民にとって危険な存在であることが、この読み物から感じ取っていただけると思います。

 

 

漁業攻撃の背景にリニアの影が

 

それにしても、全国6つのJRのうちJR東海だけが、漁業攻撃に必死なのか不思議だ、なにかJR東海だけに特別な事情があるのではないかと思いつつ、ネットを検索していて目に飛び込んだのが「リニアモーターカーの稼働には原発3~5基分の電力が必要」という見出しでした。その記事の一部を以下に引用します。

 2012年6月5日 週プレNEWS

 

「リニアモーターカーの稼働には原発3~5基分の電力が必要」

 

2027年、東京~名古屋間が開通予定のリニアモーターカー。だが、日本人の価値観が変化していくなか、新たな問題も浮上している。

建設費約9兆円をかけた日本史上最大の鉄道事業、それが、JR東海が2014年10月に着工するリニアモーターカー「リニア中央新幹線(以下、リニア)」だ。しかし、最近になって計画に反対する声が挙がっている。その原因は「電力」。

 

リニアは、超伝導磁石で車体を浮上させ“飛ぶ”新幹線。電気抵抗がゼロの技術にもかかわらず、消費電力は東海道新幹線の約3倍である。昨年の原発事故以降、節電の必要性が浸透しているなか、この事実はあまりアナウンスされていない。山梨県立大学の伊藤洋学長は、乗客ひとりを運ぶエネルギーをもとに「リニアには原発3~5基分の電力が必要」とまで推計する。

 

もちろん、JR東海がリニアのために原発を稼働させるべきと公に明言したことはない。だが、リニアと原発の関係は否定できない。というのは、山梨県のリニア実験線の主な電力供給元は東京電力・柏崎刈羽原発(新潟県)だからだ(昨年秋から、実験線の延伸工事のため走行実験は休止中)。

 

そして、原発とリニアの関連性を裏付けるかのような発言も飛び出している。昨年5月14日、静岡県の浜岡原発が運転停止したわずか10日後に産経新聞に掲載された、JR東海・K(原文は実名)会長の「原発継続しか活路はない」と題した談話だ。以下はその要約。

 

「原発を止めれば電力供給の不安定化と電力単価の高騰を招き、日本経済の致命傷となる。原子力の利用には、リスクを承知の上で、それを克服・制御する国民的覚悟が必要。政府は原発をすべて速やかに稼働させるべきだ。この一点に国の存亡がかかっている」

 

この発言について、リニア建設に反対するJR東海労働組合書記長の小林光昭書記長は、「会社はリニアのために原発を稼働させたいのです」と推測する。 

 

この記事を要約すれば、「リニアのために原発のリスクを国民は覚悟せよ」と受け取れます。あの福島の惨劇を目にしながら、再び起こり得る原発事故をも覚悟せよと公言するJR東海にとって、日本漁業の崩壊などどうでもよいことなのでしょうか。リニア開業を抱えたJR東海の漁業攻撃にかける執念は、半端なものではないと痛感させられた記事でした。

 

(以下余談です)

 

私は、夢のリニアについては、(漁業者を含め国民に迷惑をかけない前提で)是非とも成功してほしい、寿命のあるうちに一度でよいから乗ってみたい、が本音です。しかし、今回いろいろ調べている中で、本当に採算が取れるのか心配になってきました。

輸送能力は新幹線の半分以下、一人当たり電気代が新幹線の3倍、ほとんどトンネル、1時間早く名古屋に着きたいお客がどれだけいるか、日本の人口が減少し経済成長は見込めない、・・・などを考えると、全機が退役した超音速旅客機「コンコルド」の二の舞にならなければと心配になってきます。

飛行機は飛ばねばそれで終わりですが、建設工事に使った莫大な借金が残っているリニアは明日から運休しますとはいかないでしょう。また巨額の赤字を抱えた昔の国鉄に逆戻りなのでしょうか。内部からも「(リニアは)絶対にペイしない」という声があるそうなので、電気代を安くせよ→原発再稼働せよ→邪魔な漁業を潰せ、の連鎖は強まることがあっても弱まりそうもないですね。あー憂鬱になります。

 

JR東海の株主と職員に訴えたいこと

 

2006年に完全民営化を果たしたJR東海には、国の監督権限が及びません。しかも、K氏は経済界の中でも最も安倍首相に近いブレーンの一人といわれています。外部から何を言われようが、意に介することはないでしょう。また、メジャーな新聞・雑誌も、JRの気に入らない記事を書くと、駅構内での販売や電車内での中づり広告などを拒否され、経営の痛手になるのでしょうか、腰が引けています。

 

とすれば、残された手段は、株式会社であるJR東海の経営方針と役員選任の決定権限を持つ株主とその会社を支える職員に訴えるしかありません。

 

農業者、漁業者、建設業者、医者、原発事故被災者などに、手当たり次第に喧嘩を吹っ掛ける広報誌『ウエッジ』が、本当に株主や職員の利益となっているのでしょうか。この方々は、新幹線を利用していただく「お客様」ではないでしょうか。

 

また、『ウエッジ』の記事により生じかねない、もっと深刻な問題があるのではないかと、老婆心ながら申し上げます。先般、新幹線内において焼身自殺がありました。本人が死亡したのでその本当の動機はわかりませんが、その一つに「生活苦」があがっていました。さらに、一部のマスコミではこれを「自爆テロ」とも称しています。

 

広報誌『ウエッジ』は、国民の間で意見が鋭く対立する政治的問題にも積極的に発言をしています。しかし、反格差社会、反原発などの運動を行う者の中には、過激な思想を持つ者がいるかもしれません。万が一にも、その者がJR東海を標的にすれば、新幹線16両編成の乗客1000名以上の命を危険にさらすことになりかねません。公共交通機関として、そのようなことを惹起しかねない行為は、絶対に避けなければならないことではないでしょうか。

 

「天(お客)に唾するものは、自分に災いを招く」

 

JR東海の株主と職員の皆様が、K氏による「天に唾する危険な行為」にウエッジ(くさび)を打ち込むため、適切な行動を一刻も早く起こされんことを、新幹線を利用する一国民としてお願い申しあげます。

1 comment for “天(お客)に唾するJR東海の広報誌『ウエッジ』(後編)

  1. D'z
    2015年10月22日 at 9:29 PM

    はじめまして。大学で水産資源を専攻した者です。
    私もWedgeの漁業特集については疑念を持ってその経過を見ておりました。
    奇しくも先日、紀伊半島と東京海洋大を訪れる機会があり、こちらのページへとたどり着きました。私も異状な特集に対しては反論をしたいと思います。

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